「一度ぶっこわして挑戦」中村獅童、串田和美登壇のNEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶レポート
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9月30日より、NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』が全国の映画館で公開。東京・東劇では初日舞台挨拶が開催され、歌舞伎俳優の中村獅童と、舞台に続きシネマ版でも監督を務めた串田和美が登壇した。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』は、2016年6月に上演された舞台版「コクーン歌舞伎『四谷怪談』」を撮影・編集し映像作品に仕上げたもの。キャストの中村獅童、中村勘九郎、中村七之助、そして中村扇雀がビジネススーツ姿で写るポスターは、舞台版公開時もシネマ版の公開においても話題を呼んだ。
串田は、舞台版で演出・美術を手がけ、シネマ版では監督を務めた。大胆なフレーミングが舞台の客席では追うことのできなかった目線を、さらに表現手段としての編集・映像演出が、記録映像として撮られる劇場中継とは一線を画す世界を立ち上らせる。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』舞台挨拶 中村獅童、串田和美
否定ではなく掘り下げる
「コクーン歌舞伎」は、1994年に十八世中村勘三郎が「渋谷の街に歌舞伎を」のスローガンのもと旗揚げしたシリーズであり、串田和美は第2弾より演出として参加。「今を生きる現代劇としての歌舞伎」のあり方を模索してきた。クーン歌舞伎『四谷怪談』では、ステージの作り方に始まり、黒子が黒いスーツ姿であったり、江戸の町人の中に何の説明もなく現代のファッションの人間が混ざったりと現代の感覚による演出が見どころだ。
古典歌舞伎への新たなアプローチに対し「出演する歌舞伎役者たちの中にも葛藤はあると思う」と獅童はいう。
「時代を切り拓いていこうとした勘三郎お兄さんにとっては常に闘いだったと思います。古典歌舞伎には決まりごとがあります。古典歌舞伎ってなんだろう、じゃあ新しいって何だろうと、古典歌舞伎を否定するのではなくて掘り下げていくことで、古典歌舞伎の中から新しい時代に生かされる発見をしたり、培ったりするものがあります」
色悪ではない新しい伊右衛門
本作で獅童が演じたのは、初役となる民谷伊右衛門。
「伊右衛門は古典歌舞伎で演じるならば『色悪』というジャンルの役です。悪役だけれどどこか格好良い二枚目の役柄なのですが、今回は『格好良い伊右衛門でなくてもいいんじゃない?』と串田監督に言っていただいたんです。舞台稽古では4、5日かけて本読みをし、その中で(色悪という前提を)一度ぶっこわして色々な伊右衛門の演じ方に挑戦しました。大変勉強になりました」
そして出来上がったのが、迷いや煮え切らないところのある、気弱な感じの伊右衛門だ。
「串田監督の想像している世界観に一歩でも近づけるよう頭を柔らかくして、稽古場にいったら、とにかくやる。何かを言われたら素直にやる。これは勘三郎兄さんの教育でもあるのですが、『考えつかなくても動物的にやる。考えるのは家でいいから』という言葉が僕の中にすごく残っていました」。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 中村獅童
獅童のコメントを受け、串田は次のように話した。
「先輩方が作ってきた古典歌舞伎の役を、少しでも変えようとすることにはものすごい勇気がいるはず。歌舞伎俳優の方々にとって、僕には想像できないくらいのプレッシャーがあるはずなんです。それを獅童さんが一緒にやって、新しい伊右衛門を作ってくれたことはすごくうれしかった」
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 串田和美
さぞ緊張感みなぎる稽古場であったのだろうと思いきや、獅童の口から、出演者でありバレエダンサーの首藤康之(小汐田又之丞役)に教わった柔軟体操をキャスト全員でやっていたというほっこりエピソードが披露された。
「歌舞伎役者ってあまり柔軟体操をやらないんですよね。首藤さんには普段やらないような体操をいっぱい教えていただきました。役者全員で時間を決めて集まって、朝の準備体操をしているとだんだん体もほぐれて雰囲気も良くなって…。歌舞伎の稽古場じゃ絶対ありえない光景でした!」
獅童、勘九郎、七之助、そして扇雀が並んで体操をする姿を想像したのか、場内のあちこちからクスクス笑いが起こっていた。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 中村獅童
シネマ版としての新たな魅力
シネマ歌舞伎『四谷怪談』の魅力を訊ねられた獅童は、次のようにコメント。
「色彩美と映像の美しさ。それとともに、映像ではこまかい仕草や表情も観ていただけます。『今日は収録が入るよ』と言われると、絶対に意識しないようにと思っていても、役者はどうしてもどこか意識をしてしまいハプニングが起こるものなんです。けれども串田監督は、8台ものカメラで『こんなところにもカメラがあったの?』と後から僕らも驚くような、隠し撮りのような撮影をしてくださいました。おかげで、変に意識することなくいつも通りの感覚で演じることができました」
串田は映像の編集作業にあたっていた時をふり返り「獅童さんのアップを観るたびに何度も『いいなあ』『いいなあ』と思いました。舞台だとジロジロ見るわけにもいきませんが、映像だとこんな距離で観られますからね!」と、実際に獅童に近づいてみせ一同の笑いを誘った。
本編においてアップが印象的に使われていたのは、お岩(扇雀)が、ただれた顔でおはぐろを直し、髪をとくシーンだ。顔の半分は美しく、残る半分はおぞましいほどに醜く崩れている。複数台のカメラが凄まじい怒りと悲しみの表情を捉え、スクリーンには美醜両側の顔が交互にアップで映し出される。おどろおどろしい場面にも関わらず、扇雀の横顔の美しさに思わず息をのんだ。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 中村獅童、串田和美
串田によれば、本作の幻想的で混沌とした雰囲気は「伊右衛門がボーっとみているひとつの夢とか回想か何か」をイメージしているのだそう。舞台をシネマ版にしたことで、その点を「さらによく表現できた」という。
「舞台を作る人間は『この作品は残らない物だ』ということに淋しさと同時に誇りをもって作品を作っています。シネマ歌舞伎は、その気持ちをちょっと裏切るようなところがあると思うんです。だからこそ映像にするなら、襟を正してちゃんとやろうという姿勢で取り組みました。観る皆さんには、自由にみて、自由に感想を持っていただきたい」
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 串田和美
元気なので、いいですよ
この日の初日舞台挨拶は、当初、一般の方の撮影が禁止されていた。しかし、イベントの途中でふと獅童が「いいですよ?皆さんもいっぱい撮ってください。僕も元気になったので」と声をかけ撮影を解禁。客席に視線を向けながら「アナログ人間だったんですが、インスタをはじめてみたんです。そういうの認めないと思っていたんですが、時代がね」と獅童は苦笑いしつつも「アナログの精神は大切に、役者人生を突き進んでいきたい」と意気込みをみせた。肺腺がんの術後の経過を心配していたファンの方々には、完全復帰宣言ともとれるうれしい一幕。
舞台とは異なる魅力を放ち、通常の劇場中継とは一線を画すNEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』。東劇ほか全国の映画館で9月30日より公開中。
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』初日舞台挨拶 中村獅童、串田和美
取材・文・撮影=塚田史香
NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』特別予告