【動画あり】歴史的な名演出による『神々の黄昏』開幕、新国立劇場でワーグナーの「ニーベルングの指環」が遂に完結!

2017.10.1
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楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ


【動画】新国立劇場 楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロより


オペラ史上もっともスペクタクルな作品であるワーグナーの四部作「ニーベルングの指環(リング)」。新国立劇場が取り組んで来たこの「リング」の上演が遂に、四作目の『神々の黄昏』で完結する。10月1日(日)の初日に先立っておこなわれたゲネプロの模様をここでお伝えしよう。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

見逃せない貴重な上演。リング・サイクルの完結編『神々の黄昏』!

新国立劇場オペラ芸術監督である指揮者の飯守泰次郎はワーグナー演奏の第一人者として広く知られている。その飯守の元、劇場が一丸となって新制作した新国立劇場のシーズン・オープニング演目がこの『神々の黄昏』だ。総合芸術としてのオペラ(「楽劇」と呼ばれる)を作り出したワーグナーに相応しい、ストーリー、音楽、舞台が一体となった傑作である。正味4時間40分、二回の休憩を挟むと上演時間は約6時間と巨大さでも群を抜き、「神々の世界の終焉」「愛による救済」などの壮大なテーマに挑んでいるワーグナーの楽劇は、その現代性ゆえに近年ますます人気が高まっている。演奏の難しさ、規模の大きさなどから上演が少ないだけに、今回のリング・サイクルの完結編『神々の黄昏』は見逃す事が出来ない貴重な機会だ。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

歴史的な名演出、ゲッツ・フリードリヒの「リング」

新国立劇場は過去に二回「リング」を上演して来た。三回目の全曲上演にあたる今回のシリーズの特徴は、ワーグナー演出の最高峰と言われるゲッツ・フリードリヒ(1930-2000)の舞台プロダクションである。フリードリヒは旧東ドイツ出身の演出家で、特に「リング」演出で著名であった。ベルリン・ドイツ・オペラの総監督を長年務め、この劇場で彼が演出した「リング」(巨大なトンネルを使った舞台美術が特徴で「トンネル・リング」と呼ばれている)は1987年の同歌劇場の来日公演で、日本初の「リング」一挙上演として披露された。ベルリンでも33年もの間上演されてきた歴史的な名演出だが、それをさらに進化させたのが彼が晩年にフィンランド国立歌劇場のために演出した、今回新国立劇場で上演されている「リング」のプロダクションなのである。

この『神々の黄昏』の特徴は、まずその舞台美術の美しさだ。劇場の舞台機構を使いこなした奥行きのあるスペースは黒を基調とし、象徴的なデザインを持つ。主人公ジークフリートとブリュンヒルデが別れを告げる岩山の場面の神々しさは、悪への信仰を持つハーゲンが代表する不気味な世界、そしてギービヒ家の世俗的な富の世界などと対比される。衣裳も時代を超えた洗練されたラインを持ち、黒、グレー、白などが中心の登場人物達の中で、ジーンズの青を使った衣裳のジークフリートは自由さで際立つ。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

これまでの神話や英雄伝説を中心にした三作と比べて、人間社会の卑俗な争いを描いている『神々の黄昏』は、登場人物達の演技もよりリアルである。ジークフリートとブリュンヒルデの至高の愛は、武者修行の旅に出たジークフリートが記憶を失う惚れ薬を飲まされた事で簡単に崩壊してしまい、その後に展開するのは、自分勝手な欲望に満ちた人々の惨劇だ。ギービヒ家のグンターとグートルーネの兄妹は禁断の愛の香りをさせながらも、それぞれブリュンヒルデとジークフリートを伴侶に得ようとする。その二人を操るハーゲンは毒々しさを隠そうともしない。そしてブリュンヒルデは神々の長ヴォータンの娘としての彼女から、ジークフリートの裏切りをやすやすと信じてしまうただの嫉妬深い女へと転落し、そして彼の死がもたらされてからは、愛による自己犠牲で救済を成し遂げる女性へと再び変貌を遂げる。フリードリヒの演出はこれらの要素を的確に視覚化し、『神々の黄昏』のスケールの大きなドラマを見事に描いていた。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

グールド、ラング、マイヤーなど一流歌手が集結したキャスト

今回の上演は世界でも一流のワーグナー歌手が集結しているキャストも話題だ。新国立劇場の「リング」全作に出演し、圧倒的な歌唱で公演の要となっているジークフリート役のステファン・グールドはゲネプロでも輝かしい声で客席を満たした。ブリュンヒルデ役を歌うペトラ・ラングはウィーン国立歌劇場などの来日公演でも知られているが、新国立劇場へもこれまで『ローエングリン』で出演している。ゲネプロは本番に向けて声量をセーブしての歌唱であったが、卓越した演技力、豊かな音楽性などにはやはり魅了される。悪役ハーゲンを歌うペーゼンドルファーもこのリング・サイクルには欠かせない存在で、朗々としたバスの声が立派の一言。兄グンターのアントン・ケレミチェフは端正、妹のグートルーネの安藤赴美子は可憐。三人のノルンたちとラインの乙女達を歌う日本人キャストも充分な仕上がりを聴かせた。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

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楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

通常『神々の黄昏』の中で少し地味な印象を与えるのが、呪いのかかった指環を手放すようにブリュンヒルデを説得する為にワルキューレの一人ヴァルトラウテが岩山を訪れる場面だ。しかし今回は、日本でも抜群の知名度を誇る名歌手ヴァルトラウト・マイヤーがこの役を歌う。マイヤーの表現力によって、この布石がドラマの中でいかに重要な意味をもつかがはっきりと分かる素晴らしい場面となっていたのは驚きだった。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

「リング」の他の三作と違い、『神々の黄昏』には合唱が参加しているのも大きな魅力だ。新国立劇場合唱団は力強い歌声と的確な演技で存在感を示した。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

今回の演奏は読売日本交響楽団。新国立劇場のピットに入るのは初めてである。飯守のタクトのもと、ボリュームのある流麗なサウンドを聴かせた。『神々の黄昏』の間奏曲、特に第3幕中にある「ジークフリートの葬送行進曲」は、緊張感のある強烈なサウンドで最後のクライマックス「ブリュンヒルデの自己犠牲」の場面へと導く役割を果たした。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

ワーグナーの音楽は「愛による救済」のテーマを奏でこの壮大な物語は終わりを告げる。そして、今回の演出の最後に示されるメッセージをどう受け止めるかは、このオペラを観る人に託されているのだ。

楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』ゲネプロ

取材・文=井内美香  舞台写真撮影=安藤光夫

公演情報
新国立劇場 開場20周年記念 2017/2018シーズン
楽劇「ニーベルングの指環」第3日『神々の黄昏』[新制作]/リヒャルト・ワーグナー 
序幕付全3幕/ドイツ語上演/字幕付

 
■会場:新国立劇場 オペラパレス (東京都)
■日時:
2017年10月 1日(日)14:00
2017年10月 4日(水)16:00
2017年10月 7日(土)14:00
2017年10月11日(水)14:00
2017年10月14日(土)14:00
2017年10月17日(火)16:00

 
■指揮:飯守泰次郎 
■演出:ゲッツ・フリードリヒ 
■キャスト:
ステファン・グールド/ペトラ・ラング/島村武男/アントン・ケレミチェフ/アルベルト・ペーゼンドルファー/安藤赴美子/ヴァルトラウト・マイヤー/増田のり子/加納悦子/田村由貴絵/竹本節子/池田香織/橋爪ゆか 
■合唱:新国立劇場合唱団 
■管弦楽:読売日本交響楽団 
※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる場合がございますが、出演者・曲目変更などのために払い戻しはいたしませんのであらかじめご了承願います
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/gotterdammerung/

 
  • イープラス
  • 読売日本交響楽団
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