舞台『危険な関係』主役の玉木宏が大阪で会見 「ヴァルモンは、ある意味危険な人物」
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玉木宏 [撮影]吉永美和子
「4年ぶりの舞台は、変化しないように、変化を楽しもうと思います」
2013年に『ホテル マジェスティック〜戦場カメラマン澤田教一 その人生と愛〜』で初舞台を踏んだ人気俳優・玉木宏。実在の戦場カメラマンという、カメラ好きの玉木自身と重なるようなキャラを演じた前回とは打ってかわり、次回出演作『危険な関係』では、“ゲーム”で女性を籠絡するプレイボーイ・ヴァルモン子爵を演じる。鈴木京香や野々すみ花などの華やかな女優たちがそろった上、イギリスで最も注目される演出家の一人、リチャード・トワイマンが日本の舞台を初めて演出することも話題となっている本作。10月8日の東京公演開幕を控える中、玉木が大阪で記者会見を行い、ヴァルモン子爵という役柄や、非常に繊細に進められているという稽古の様子について語ってくれた。
『危険な関係』メインビジュアル
■ヴァルモンはカメレオンのように変化できる、ある意味危険な人物。
--舞台出演は久々となりますね。
「舞台をやりたい」という気持ちはありましたが、長期撮影の朝ドラ出演などもあり、たまたま4年も空いてしまいました。前作とは全然違う内容で、また本当に違うものをお見せできる時間になるのではないかと思っています。通常よりも稽古期間が長く持たれていますが、それぐらいこの本はすごく繊細で、複雑な心理戦の会話劇なんです。(稽古の)前半戦は、登場人物全員の解釈が違わないよう、そのすり合わせに時間を取っていた気がしています。
--今回の戯曲を読んでみた感じはいかがでしょうか?
本来の英語のニュアンスに近い形で翻訳されていて、すごく一言一言が丁寧に書かれていると感じるので、原作に近い形の舞台になるのではないかと思います。僕が演じるヴァルモンは、頭の回転が速くて非常に言葉が巧みで、普段使わないような言葉も出て来るような人物。僕自身まだヴァルモンをコントロールできていなくて、正直大変です(笑)。今は彼独特の言い回しに苦労していますが、この言葉を自由に操れるようになったら、きっとその先には気持ちよさが出てくると思っています。
--ヴァルモンを演じるキーワード、みたいなものはありますか?
まだ探っている所ではあるけれど、彼は「この状況ではこういう人間を演じよう」と、カメレオンのように変化できる人だと思うんです。そういう多面性が、ある意味危険な人物……本当は何を考えているかわからなくて、この人を敵に回すと怖いという感じを表すのではないかと。そういうことも踏まえながら、形を作っていきたいなと思っています。
--先ほど稽古のほとんどが、解釈のすり合わせに当てられたとおっしゃってましたが、その作業を通じてどんな発見がありましたか?
本当に台詞の一行一行「これはどういう意味だと思いますか?」と解釈していったんですが、それを通して「一つの言葉に、そんなに意味が含まれているんだ」ということに気付かされました。ダブルミーニングだったり、時にはトリプルミーニングだったり。あとちょっとした単語が、実は相手をいじめるような卑猥な言葉だったり(笑)。ストレートにとらえても理解できるんですけど、何回も観に来てくださったら、きっと何か新たな発見ができると思います。それぐらい奥が深い戯曲だからこそ、いろんな時代のいろんな場所で、作品化されてきたのではないかと感じています。
玉木宏 [撮影]吉永美和子
■生でお客さんに芝居を見せることは、メンタルが鍛えられます。
--演出のリチャード・トワイマンさんは、実は玉木さんと同い年だそうですね。
彼は同い年とはいえ、本国ではすごく活躍されている方で、この作品に対してすごく愛情を持っていらっしゃいます。だから作品の解釈を皆で統一することに、時間をすごく費やしたわけで。それぐらい繊細な作品だと当初からずっと言っていたし、彼自身もすごく繊細な方。日本語は当然わかってはいないけれども、台詞を発している中でちょっと曖昧な部分あったら「今、それをどういう意味で言いましたか?」と、どうしても心で伝わってしまう所があったりしますね。あと彼は「(物語の)設定は18世紀のパリだけど、ここは2017年の東京です」とよく言っていて、それをどうするのかがとても難しいです。
--確かに「それどういう世界?」ってなりますよね。
台詞では「パリが……」とか「馬車が……」とか言っていますからね(笑)。ト書きでも「(あいさつで)手の甲にキスをする」と書いてあっても「それを止めて、日本風のお辞儀を取り入れたい」とおっしゃったり。それは本当、まだ探っている状態ですね。稽古も(会見日から)あと一ヶ月ありますし、ここからちゃんと形にしていかないといけないなと思います。
--となると、衣裳やセットも18世紀そのままという風にはならないんでしょうか?
これはようやく最近明らかになったことなんですけど、多分彼が日本に来ていろんな物を見たり、この作品を日本でやる意味などを含めた結果、ちょっと和テイストを入れたいようなんです。衣裳に関しては、完全な和ということはないんですが、現代的な感じになっています。セットも非常にシンプルで……障子や襖などの引き戸を取り入れて、スライドして開いていくようなものをイメージしているようです。ただそれをまだ言葉でしか聞いていないので、想像の中でやるしかない(笑)。ストーリーの根本は(オリジナルの)戯曲に近いものだとしても、空間に関しては、皆の想像を超えるようなものになるのではないかと思います。
--トワイマンさんはこの作品を通して、何を見せたいと思ってますか?
作品の内容はちょっとすごい世界ですが、根底にある人の気持ちというものは理解できるんです。人に意地悪する部分とか、誰かを本当に愛する気持ちとか。きっと彼はそういう所を伝えたいんだと思うし、僕らもそれを理解してやれたらと思っています。僕の気持ちとしては、彼が日本で初めてやる公演を、共に最高のものにしたいですね。もちろんお客さんに見ていただくために舞台はあるんですが、彼自身にも喜んでもらえる時間になるといいなと思っています。
--4年前に舞台に初めて出演して、印象に残っていることや、あるいは映像では得られなかった経験などは何かありましたか?
ずっと「舞台をやりたい」と思っていたのは、生でお客さんにお芝居を見せることが鍛えられる環境だという、すごくシンプルな理由です。一度公演が始まってしまったら、ちゃんと自分たちでゴールまで持っていかなければいけないという意味で、メンタルはすごく鍛えられました。特に前回は演出家の方が「細かな部分まで(稽古で)作ってきたことを、絶対変えてほしくない」とおっしゃっていたので、会場ごとにお客さんの反応が違っても、僕らは同じものを提供しなければいけないという難しさがありました。どうしてもお客さんの反応が、芝居をしながらでも僕の耳に入ってくるものなので。流されないというのは、すごく重要な部分でした。
玉木宏 [撮影]吉永美和子
--今回はその難しさを、楽しみにしているんでしょうか。
そうですねえ。特に今回は、本当にいろんな解釈の仕方ができる作品なので、やっていくうちにまた新たなものが見えそうな気がしますし。変化しないように、変化を楽しもうと思います(笑)。
--では最後に、何かメッセージを。
この作品を観たことがない方は、多少知識を入れてからご覧になった方が、きっともっと楽しめるとは思います。もともとこの作品を知っている方なら「その言葉が、いかなる状況で発せられるのか」ということを楽しんでいただける気がします。上品な所は本当に上品に映ると思いますが、下品さもある意味残っているとは思うので、そういう愛憎劇というか……キャッチコピーにもありますけど「背徳の恋愛ゲーム」が。本来こういうことはなかなかしないことだけど、それを作品の中で十分楽しんでいただけるんじゃないかと思います。ぜひこれは舞台で、生のものを見ていただければと思っています。
取材・文=吉永美和子
■日程:2017年10月8日(日)~31日(火)
■会場:Bunkamura シアターコクーン
■日程:2017年11月9日(木)~14日(火)
■会場:森ノ宮ピロティホール
■作:クリストファー・ハンプトン
■翻訳:広田敦郎
■美術・衣裳:ジョン・ボウサー
■演出:リチャード・トワイマン
■出演:玉木宏、鈴木京香、野々すみ花、千葉雄大、青山美郷、佐藤永典、土井ケイト、冨岡弘、黒田こらん/新橋耐子、高橋惠子
■公演特設サイト:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/17_dangerous/