浦井健治「“劇団ペールギュント”という船旅をしているようです」舞台『ペール・ギュント』製作発表会見
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2017年12月6日(水)から東京で、12月30日(土)から兵庫にて、ヘンリック・イプセンの名作『ペール・ギュント』が上演される。本作は、日韓文化交流企画であり、世田谷パブリックシアターと兵庫県立芸術文化センターのコラボ作の要素をも持ち、さらに世田谷パブリックシアター開場20周年を記念する公演となる。タイトルロールのペール・ギュントを演じる浦井健治を含め日韓20名のキャストが出演し、平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開・閉会式の総合演出を務めるヤン ジョンウンが演出を務める作品だ。
10月24日(火)、本作の製作発表が都内にて催され、浦井、ヤンのほか、趣里、浅野雅博、キム デジン、ユン ダギョン、マルシアが登壇した。
本作は、主人公ペールが、真の自分をどこまでも追い求める、壮大かつ奇想天外な「自分探し」の物語。ヤンはすでに韓国で『ペール・ギュント』を上演し、高い評価を得ているが、今回の日本版は、日本のスタッフ、役者とアイディアを出し合って作る、これまでの韓国版とは異なる新しい『ペール・ギュント』となる。
ヤンは、冒頭の挨拶で「今回、日韓文化交流企画の公演をやらせていただくことになりましたが、実際にはアジアの周辺国の情勢はあまりよろしくない」と本音を口にした。「でも、こうやっていろんな国の人が集まり、何かを作っていくのは演劇だからこそ成し遂げられることなのではないでしょうか」と語りかけた。「この作品を通してペール自身が自分を探す旅ですが、我々現代人が抱えている混乱とか何かを見失っている所から自分を見つけにいく、そんな作品を作っていけたらなと思っています」と穏やかな口調で思いを述べていた。
ヤン・ジョンウン
そして浦井の魅力についてヤンは、「遊び心もあるし、スマートだし、よく空気をつかむ人であり、直感的な人であり、即興的な人、心で経験する人かなと。私が考えているペール・ギュントはまさにそういう人物だと思ったんです。浦井さんはペールのドッペルゲンガーです(笑)」と個性的な表現で浦井を評価すると、その言葉に浦井が笑顔を浮かべていた。
ヤン・ジョンウン、浦井健治
本格的な稽古が始まってから一週間が経ったと語るヤンとキャストたち。稽古では本読みと同時に自分の心の奥底を思いっきり解放する作業が行われているようだ。
浦井は稽古場の様子について「とにかくエネルギーに満ちています。常に皆が笑顔で、自分の辛い思い出とか人生でいちばん大変だったことなどを、惜しげもなく、ときには涙ながらに披露する……そんなオープンマインドな稽古場になっています。マルシアさんは必ず『愛してるよ、みんな!』と言ってくれるし。そんな家族のような“劇団ペールギュント”という船旅をしているようです。この船旅が新大陸なのか理想郷なのか、どこかの陸地に着く頃が千秋楽になると思いますが、お客様に国も飛び越え、イプセンが描いた『人間とは何か』『自分探しにおけるいちばん大切なものは何か』など、様々なメッセージがお客様一人ひとりにきっと届くと思います」と気合を入れていた。
浦井健治
趣里は、ペールの恋人ソールヴェイなどを演じる。昨年の夏に行われたヤンのワークショップに参加したことに触れ、「自分に向き合って相手を見つめて共有するという実感を持てました。ワークショップの後も自分の中にワークショップのことがあて、出演できたらいいなと思っていました。今日この日を迎えられて嬉しく思っています」と笑顔。「稽古が始まって一週間、本当に濃密で1分1秒が身体に刻まれている感じがします。言語は異なりますが、そんなことを感じさせないくらい非常に充実した時間を過ごしています。お客さんともこの気持ちを共有したいです」と語っていた。
趣里
浅野は、ソールヴェイの父親などを演じる。「同じ舞台上に日本語と韓国語を話す人が同時に出てきます。稽古場に入る前は言葉の壁があるのでは?と感じていたのですが、稽古の段階でそれは杞憂に終わりました。僕らのほかに14人の個性豊かな俳優がいて音楽も稽古場から生音で入っていて、その音を感じながら演出を受けているという非常に贅沢な現場となっています」と稽古場の様子を説明し「ヤンさんはニコニコしてますが、心の中にマグマのような熱いものがふつふつを煮えている人だと思います」と語ると、その言葉にヤンが照れ笑いしていた。「客席に行ってこの舞台を観たいです。演出家卓からこの舞台を観たいなと思う作品はそうそうないです」と本作が名作になるだろう、と予感させていた。
浅野雅博
キムは、ペールが旅の途中で出会う見知らぬ乗客ほかを演じる。「ヤンさんによる『ペール・ギュント』に出るのはこれが4回目。その初舞台は2016年の新国立劇場での公演でした。その後、オーストラリア、韓国でやらせていただきました」とコメント。「稽古自体は楽しいのですが、集中力がものすごく必要なので、エネルギーもすごく使っています。一昨日宿泊先に戻る前に同じく韓国の役者たちで“松屋”に寄ったんです。みんな肉を食べていました。肉が心から欲しくなるくらい疲れていたんです(笑)」と日本での生活を垣間見せていた。
キム・デジン
ユンは、トロールの国にいる緑衣の女役ほかを演じる。ユンの家族は仕事や勉強など何かしら日本と関わりを持ってきたと語る。「私が成長する過程で日本の漫画、映画、音楽、ドラマ……そういったすべてが私に影響を与えていました。だから、私の好きだった日本の音楽やドラマに接しながらあの人たちと仕事をしてみたいと願っており、今回その夢が叶いました。ここにいることが幸せです」と嬉しそう。「言葉が通じなくてもお互い心で感じあえることが、これほどまでにも自分を豊かにしてくれるんだ、と実感しています。私が芸術活動をしてきたのはもしかしたらこういうことに出会うためだったのかもしれない」と運命の導きを感じているようだった。
ユン・ダギョン
ペールを大きな愛で包む母・オーセなどを演じるのはマルシア。意外にもミュージカルでない演劇に出演するのはこれが初めてとなる。「ワークショップと稽古で毎日8時間、本当にキツイです。筋肉痛です。でもそれがペール・ギュントの世界なので、細胞が生きていることを確認しています」と正直に語るとキャストたちが思わず笑いだす。
マルシア
「ワークショップも今までやったことがないので、最初すごく恥ずかしかったんですが、ヤンさんの指示のもと、素になって自分の中にある自分を出す作業をしています。その作業が今、ものすごく気持ちよくなってきちゃって!稽古が始まってたった一週間なのに、これ、本番にはどうなってしまうんだろうと思うくらい最高の作品です」と手ごたえを感じていた。また、自身も娘を持つ母親ということについて「今回は、男の子の母親役。やったことがないので想像を膨らませています。ましてやこんなかわいい子がねえ…」と浦井の頬をなでると、浦井が子どものようにくったくのない笑顔を浮かべ、さらに会場を沸かせていた。
「息子がこんなにかわいいの!」とマルシアが浦井の頬をナデナデ
韓国人キャストから見た日本人キャストの印象、逆に日本人キャストからみた韓国人キャストの印象について質問が飛ぶと、キムは「想像以上に皆さんが心を開いてくださったのでそれに驚きました。そのおかげでうまく進められていると思います」。続けてユンも「皆さん、とても柔らかくて繊細ですごく深みがある方々だと思います。と共にその内面にすごいパワーを持っている人たちだと感じています」とコメント。
一方、浦井は「愛にあふれ、エネルギーに満ちています。あと、興味(好奇心)旺盛で純粋だなって思います。数日前に韓国人キャストの男性陣がメイド喫茶に行ってみたそうで、(店から戻ってきてから)『ラブラブキュン♪』(浦井が両手で胸の前にハートを作るポーズ)ってずっと言ってまして(笑)。『(メイドたちは)かわいかった?』と聞いたら『そうでもない』って。それを聞いて素直だなって思いました」と暴露。すると、キムとユン、ヤンまでもが机に突っ伏したり天を仰いだりしながら大笑いする一幕となった。
浦井健治
会見では常に誰かが笑っており、長年の友人、それ以上の家族のような関係がすでに作られているような、“劇団ペール・ギュント”の旅に期待したい。
趣里、ユン・ダギョン、マルシア、浦井健治
取材・文・撮影=こむらさき
■原作:ヘンリック・イプセン
■上演台本・演出:ヤン ジョンウン
■出演:
浦井健治
趣里、万里紗、莉奈、梅村綾子、辻田暁、岡崎さつき
浅野雅博、石橋徹郎、碓井将大、古河耕史、いわいのふ健、今津雅晴、チョウ ヨンホ
キム デジン、イ ファジョン、キム ボムジン、ソ ドンオ
ユン ダギョン、マルシア
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201712peergynt.html
■日程:2017/12/6(水)~2017/12/24(日)
■会場:世田谷パブリックシアター (東京都)
■日程:2017/12/30(土)~2017/12/31(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)