金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第3回「プログレ”布教”奮闘記~中学校編~ジョン・ウェットンこそサイコダヨ」
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金属恵比須ワンマン・ライヴ「戦国恵比須」より高木大地5態 (撮影:飯盛 大)
去る2017年10月14日、我がプログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」がワンマン・ライヴを行なった。おかげさまで
そこで、僭越ながら金属恵比須の性年代別属性分析をしてみた(出典:Facebook金属恵比須公式ページより)。
まず、性別の分析。男性が73%と圧倒的に多数という結果に。
続いて、性別・年代別を見てみよう。45歳から54歳までの男性が26%のトップとなった。1963年~1972年生まれの男性である。いわゆる「70年代ブリティッシュ・ロック」をリアル・タイムでは経験していないものの、その第2陣(U.K.やレインボーなど)がリアル・タイムの世代である。
さて、第3回目となるこの連載は、「青少年のためのプログレ入門」である。金属恵比須の青少年のファン層は男女合わせてもわずかに4%。この年代の方々にどうやったらプログレを聞いていただけるようになるかを考えなければならない。
……ということで、前回までをさらっておこう。
小学校5年でプログレに目覚めた私は、クラスメイトに啓蒙すべく、クラスのお楽しみ会のBGMに使用したり、ガキ大将を洗脳しようとしたりと躍起になったものの、いずれも失敗に終わった。
次に考えた策は、「マスメディア」の利用である。といっても、小学6年生にとっての「マスメディア」とは、テレビでもラジオでもなく、「お昼の放送」である。給食中に12:40から13:00までの20分間に、全校生徒がリクエストした曲を流していく、あのシステムである。
しかし、全校生徒がリクエストするのは、音楽の授業で習った合唱曲だったり、校歌だったりと1曲が2分に満たないものばかり。友人である放送委員は、いかにその時間を埋めるかに苦心していた。
そこで私が彼に助け舟を出した。「20分間を埋められるCD持ってるよ」と。
ランドセルから取り出したのは、イエス『リレイヤー』である。1974年発表のイエスの異色作で、1曲目「錯乱の扉」は20分を超す大曲である。私は迷わず「錯乱の扉」を勧めた。CDの再生時間を押せば、あとはナレーションも入れずに済み、気兼ねなく給食を食べることができる。放送委員と私の利害は一致した。
その日はちょうど小学1年生との給食交流会。まだ鼻が垂れていそうな小さな男の子と給食を食べなければいけない。さてその1年生、音楽なんか聞いてもいない。しかしエンディングにさしかかり、「Soon, oh soon」という歌が流れたとき、ハナタレ小僧がふと放送に気づいた。
「すーん、お~す~ん……ヘンなうたー!」
けなし始めたのである。交流会という名目もあり怒るに怒れなかった。
めげずに色々なものをかけた。ディープ・パープル、E,L&P、ピンク・フロイドなど。いくら変な歌だと言われても、相変わらずやる気のない放送委員は放送するCDを欲しがった。毎日リクエストの集計をするのが面倒臭かったからだった。
いくらかけても反応なし。やはり小学生には響かない。そう思い始めたころ、校庭で遊んでいるときに、1人の先生が私に話しかけてきた。当時小学2年の担任で、今まで一度も話したことのない先生だった。若白髪の目立つ笑顔がやさしい先生だった。
「ピンク・フロイドかけたのきみ? いい趣味してるね~」
その日はフロイド「光を求めて」をかけていた。
以上、小学校ではプログレを啓蒙することはできなかったが、「マスメディア」を利用することにより、大人には気に入られるということがわかった。もしや先生からの支援ももらえれば、そこから子供たちに広がるかもしれない。そういう期待も持つようになった。
こうして中学に入学することとなる。
同じ「マスメディア」方法を取り入れようとしたのだが、小学校とは打って変わって放送委員会は花形部署。なかなか入れないし、それ以上に先輩の権力が強く、1年生にはリクエストの余地がなかった。昼の放送では来る日も来る日もユニコーンかボウイ(もちろんデヴィッド・ボウイではない)ばかりが流れていた。
入学して一息ついたころ、担任による家庭訪問が始まった。若いけれどもちょっとオタク臭そうな男の担任だった。母親と私と先生がリビングで並ぶ。唐突にこう聞いてきた。
「高木君は、キング・クリムゾンは聞かないの?」
え? あの、「家庭訪問」ってそんなもん? 勉強のことなどを聞かれるものだとばかり思っていた。しどろもどろに答えた。
「あの、キング・クリムゾンは……。僕はどちらかというと、イエスや、E,L&Pの方が好きです。だから、グレッグ・レイクは好きです」
キング・クリムゾンからE,L&Pに移籍した人物名を挙げてその場を取り繕おうとした。
「そうかー。先生は『アイランド』が好きなんだ。今度聞いてみて」
もはやプログレ居酒屋での初対面の人との会話である。そこで母親が話に割り込む。
「キング・クリムゾンは父が好きなものでして」
母さん、乗るな。
陸上部に入部した。
入部直後、運よく東京都大会の出場することができた。そのとき、都大会に出場できたのは私だけで、顧問の先生の車で会場まで送ってもらった。20代後半の溌溂とした男の先生だった。カーステレオからはカッコいいオルガンの音が飛び出してきた。
「先生、これなんですか?」
「お、知らないのか? ドアーズの『ハートに火をつけて』だよ」
大会直後、カセットテープにダビングしてもらった。先生は代わりに『リレイヤー』をダビングしてくれとせがんできた。「問題作」ゆえ避けて通ってきたアルバムだったらしい。
この先生はその後、運動会を仕切ったりもし、競技中の選曲も任せてくれた。但し、ひとつだけ論争になった曲があった。
E,L&P「ホウダウン」をかけたいと私が提案したときのこと。先生は、絶対にライヴ盤(『レディース・アンド・ジェントルメン』)がいいと言ってきた。
私は音が悪いし演奏が荒いからスタジオ盤にすべきだと反対した。
すると先生は、スタジオ盤はタルいし疾走感がないと反論してきた。ということで私が折れ、ライヴ盤を流すこととなった。当日、先生が配線を間違え、ライン入力に入れるものをヘッドフォン入力に入れてしまい、インダストリアル・ミュージックのようなノイズ状態となり、何の曲かわからなかったけれども。
いずれにせよ、先生を取り込んで「マスメディア」を支配していくというのは軌道に乗りつつあった。
さて、その先生には自慢話があった。若いころU.K.のライヴを見に行って「ユーケー!」コールをしたというのだ。しかし、あまりのヤラセ具合に失望し、観客がしらけてしまい、先生が行ったライヴはライヴ盤『ナイト・アフター・ナイト』には使われなかったというのだ。
ということで、U.K.も勧められた。私は中学3年になっていた。受験期に音楽を勧めるのはどうかと思うが、受験勉強の逃避からもあり、一心不乱に聞き入った。
このころにはすでにキング・クリムゾンも通っており、菅平での移動教室ではすがすがしい目覚まし放送に「レッド」を流したりして、シャキッと起こさせようとした。もはやスターレス髙嶋(髙嶋政宏)氏の「暑苦しさ」の領域に既に達していたことになる。もちろんヒンシュク必至だった。
しかし、その流れからジョン・ウェットンの歌声には酔いしれていた。グレッグ・レイクよりも気品がある――中学生なりにそう思い始めていた。ベースはえげつないけれども声はいい。
ウェットンの声のほかにも、U.K.にはモダンな音作りとわかりやすい「難解さ」があった。そしてその流れでエイジアにも手を出した。
放送委員会の委員長となり、ジョン・ウェットン・フェアを実施した。
これが当たった。U.K.もエイジアもどのクラスでも何人かが持つぐらいにまでなった。阿佐ヶ谷~荻窪~高円寺のCDショップではU.K.・エイジア特需が生まれ、欠品続きとなった。
しかし、突如「放送をやめろ」との指令が出た。
生活指導からだった。生活指導の先生に職員室に呼ばれた。30歳にしては白髪で歳のいったように見えた男の先生だった。
「クリムゾンとかそういう音楽ばっかやめろ」
理由はわからなかった。が、「キング」を省略し、「クリムゾン」と語尾を上げるような発音から推測するに、確実にプログレを知っていて、かつ、プログレ嫌いだったのではないかと想像する。
「アンチ」まで登場させたということは、ちゃんとしたブームをつくりあげた証拠。かくして、小学校から始めたプログレの啓蒙が中学3年になってやっとのことで結実したのだった。ジョン・ウェットン、ありがとう。
キミコソ、サイコ、ダヨ。
ふと気づいたことがあった。
今まで出てきた4人の先生はすべて同世代だった。しかも、全員男性。推測するに、1963年前後生まれの男ばかり。
ということは、この人たち、金属恵比須のファン層とモロ被りではないか。
そうか、小学生から話が合う先生(もしくは全く合わない先生)というのが私たちを支えてくれているのか。どうりで皆さんとお話が合うわけだ。
この26%の中に、先生、いないだろうか。
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稲益宏美 Voice
後藤マスヒロ Drums, Voice
髙木大地 Guitars, Keyboards, Voice
多良洋祐 Bass
宮嶋健一 Keyboards
1. 宴の支度
2. ハリガネムシ
3. 光の雪
4. 阿修羅のごとく
5. みつしり
6. イタコ
■公式サイト:http://yebis-jp.com/
後藤マスヒロソロアルバム『INTENTION』
■収録曲
01. Introduction
02. UNCLE GEAR
03. THAT
04. Interlude I
05. M.Y.N.
06. BLUE COSMOS
07. Interlude II
08. 8月
09. Interlude III
10. WHITE REFRAIN