2017年10月13日、音楽そのものによって繋がったステージの上と下──銀杏BOYZ、日本武道館に立つ
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銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
日本の銀杏好きの集まり 2017.10.13 日本武道館
GOING STEADY結成から数えて、峯田和伸が音楽活動を始めてから20周年となることを記念して、2017年10月13日金曜日に日本武道館で行われた銀杏BOYZのワンマン『日本の銀杏好きの集まり』。
当日その武道館でどのようなライブが行われたのかを具体的に報じるレポは、ナタリーなんかの各音楽ウェブ媒体などにすでにアップされているし、私もDI:GA onlineに書いたので、ここでは、自分がこの銀杏BOYZの日本武道館に関して、観ながら思ったこと、あるいは観終わってから考えたことについて、書きたいと思います。
銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
12曲目の「I DON’T WANNA DIE FOREVER」あたりだろうか、自分が「峯田、ステージから下りるなよ」と、念じながら観ていることに気がついた。とにかく今日は最後までステージから下りてほしくない、客席への乱入とかなしでアンコールの最後の曲までやりきってもらいたい──なんか俺、ずっとそう願ってるわ、と。
日本武道館、いろいろ厳格な会場なので、そんなことしたらめちゃめちゃ怒られる。本人はともかくマネージメントやイベンターも責任を問われる、というのはあるが、それを心配して「下りるなよ」と思っていたわけではない。
今の銀杏BOYZの晴れ舞台だから、銀杏が遂に新しいフェイズに入った門出のステージがこの日本武道館だから、そう思ったのだと思う。
ここ最近、いや、10年くらい前から、峯田がことあるごとに口にしてきた、「もっとどまんなかな曲を作りたい」「もっと普遍的なことをしたい」「もっといい曲をやりたい」「誰にも届くようないい歌を歌いたい」「なるべくわかりやすい言葉で、すぐ覚えられる言葉で歌いたい」という意志。
この日の選曲は、まさにその言葉どおりの基準でチョイスされたものだった。GOING STEADY時代から今年2017年の「恋とロックの三部作」シングル3枚まで、全キャリアの中からピックアップされた21曲、どれも、強く美しいメロディとシンプルで明快な言葉を持った歌ばかりだった。
無論、そういう曲だけが、銀杏BOYZの魅力ではない。たとえばメロディもコード進行も一種類しかない「あの娘は綾波レイが好き」みたいな曲も、全編雄叫びだけでできているような「犬人間」も、すごい曲だと思うし、僕も大好きだ。
が、総体的な方向としては、そういう曲よりも、「エンジェルベイビー」「骨」「恋は永遠」のような、「新訳 銀河鉄道の夜」や「光」や「BABY BABY」のような方へ向かう、ということだ。
銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
「借金を、『生きたい』で返せた感じ。やっと自分の中で抱えてた負債を返し終えた。そっから、じゃあ新しい物件を探して新しいとこに住んで、環境を変えて、ステレオのセットも古くなったから買い替えて、新しいものを生み出していこう、っていう気分なのかもしんないです」
ロックの光と影を「人間」「光」「生きたい」の三部作で完結させ、次に「恋とロック」三部作にどのような気持ちで向かったのかについて、峯田はこんなことを言っていた。
また、2017年4月から9月まで、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演、主人公の叔父さんのビートルズマニア・宗男を演じるにあたり、アナログレコードで延々とビートルズを聴き続ける生活を送ったところ、
「今まで自分が20年かけて模索して来たのが、一気に全部パーッて晴れた気がしたんです。ビートルズを聴いて、映像とかも観て、っていう生活を半年続けた時に、新しい景色みたいなのが見えたんですよね」
という心境に至ったことも話してくれた。いずれもROCKIN’ON JAPAN 2017年10月号で、僕がインタビューした時の発言です。
つまり、20年やった節目とかだけではなく、あらゆる意味で峯田がようやくやりたいことをやりたい状況でやりたいだけやれるようになった、その第一歩の記念すべき場所が、この武道館だった、ということだ。
20年前にGOING STEADYを結成し、1999年リリースの『BOYS & GIRLS』のブレイクで青春パンク・ブームのトップランナーになった(というのは僕的には「違う!」とか言いたくなるところも大いにあるんだけど現象としてはそう言えると思う)、と思ったら2003年1月に突如解散。
直後に最初は峯田のソロ・ユニットとして始め、のちにバンドになった銀杏BOYZの活動を軌道に乗せ、2005年1月には1stアルバム2枚をリリース。どちらも大ヒットし、今度はライブハウス・シーンを超えるレベルでトップに駆け上がるも、その後いろいろありすぎるくらいあった末に、2ndアルバムまでに9年というありえないインターバルが空く。
で、やっとセカンドが出ると思ったら、その前後に相次いでメンバー3人が脱退、峯田ひとりになってしまい、リリースしたはいいが、ツアーもできない状態になる。
以降、峯田ひとりで弾き語りで、イベントとかにちらほら出るくらいのライブ活動から、徐々に態勢を作り、2015年8月の大阪のフェス『RUSH BALL』のステージで、3人のサポート・メンバーとともにバンド編成でのライブを開始。2016年になるとシングル「生きたい」を録って4月にリリースし、バンド編成で全国ツアーを回り、二度のメンバーチェンジとメンバー加入を経て今の5人編成になり、「恋とロック」三部作、そしてこの日本武道館──。
銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
ほかのバンドは42.195キロの走り方だけど、自分はそうしたくなかった。最初から100メートル走ダッシュだった、だから何度も倒れて空を仰いでいる間にほかのバンドに追い抜かされた、それでまた立ち上がって走るけどまたぶっ倒れて……でも、このまま全力疾走で、42.195キロまで行くつもりだ──というMCを、峯田はこの武道館でしていた。
まさにそのとおりの、転んでばかりのバンドライフだが、ただ、そうやって転んで止まって、ハタからはバンドがなんにも動いていないように見えていた時期も、棄権も休憩もしなかった、峯田は。つまり「活動休止」と謳ったことはなかった。GOING STEADYが解散した時も、同時に「これからは銀杏BOYZで活動します」と宣言したし。
「なんも動いてねえじゃん」というふうにしか見えない時期でも、バンドの中が本当に止まっていたわけではなかったからだろう。曲を作ったり、スタジオに入ってそのアレンジを詰めたり、「ダメ!」ってボツにしたりしていたのだと思う。あと、本を作ったり、映像作品を編集したり、バンドとして演劇の音楽を作ったりしていた時期もあった。
だからしょうがないよね、がんばってるよね、これでいいよね、と思っていたわけではない、僕も。「何やってんだろうなあ」と思った時期もあったし、ひとりになってしまった時は「もう前みたいに普通にツアーやるのは無理かもなあ」と思った。「こうやってだんだん役者になっていっちゃうかもなあ」と思った時すらあった。
が、時間かかったけど、いろいろ大変だったけど、チンくん、アビちゃん、村井くんは去っちゃったけど、今こういう曲を作れていて、こういうライブをやって、こういう場に立てているんだったら、まあ、いいか。よかったな。と、この日の武道館のステージを観ながら、つくづく思ったのだった。
自分が今まで観てきたどの銀杏BOYZのライブよりも、歌そのものがまんなかにあるライブだった。音楽そのものによって、ステージの上と下の間に、熱いコミュニケーションが通っているライブだった。
銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
そして峯田は、最後まで一度もステージを下りることなく、ライブを終えた。
前述のインタビューの時に峯田、「来年はアルバム作りたい」と言っていた。期待していいと思う。
「BABY BABY」を超える曲を作ってほしい。『ひよっこ』の宗男叔父さんしか知らない人たちも口ずさむような。で、それ、今の峯田なら、今の銀杏BOYZなら、できると思う。
もっと言うと、今ようやく訪れた、このとてもコンディションがいい状態のうちにぜひ! というのもあります。
取材・文=兵庫慎司 撮影=AZUSA TAKADA
銀杏BOYZ 撮影=AZUSA TAKADA
1. エンジェルベイビー
2. まだ見ぬ明日に
3. 若者たち
4. 駆け抜けて性春
5. べろちゅー
6. 骨
7. 円光
8. 二十九、三十(クリープハイプのカバー)
9. 夢で逢えたら
10. ナイトライダー
11. トラッシュ
12. I DON'T WANNA DIE FOREVER
13. 恋は永遠
14. BABY BABY
15. 新訳 銀河鉄道の夜
16. 光
17. NO FUTURE NO CRY
18. 僕たちは世界を変えることができない
[ENCORE]
19. 人間
20. ぽあだむ
21. もしも君が泣くならば
銀杏BOYZ
峯田和伸(Vo.& Gt.)
山本幹宗(Gt.)
加藤綾太(Gt./2)
藤原寛(Ba./AL)
岡山健二(Dr./classicus)