マリー・アントワネットにも愛された、フランス宮廷の磁器 『セーヴル、創造の300年』展をレポート

2017.11.27
レポート
アート

「雄山羊のついた楕円壺」と「雄山羊の頭部のついた壺」 伝エティエンヌ=モーリス・ファルコネ 1766-1767年

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『六本木開館10周年記念フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年』が2017年11月22日(水)〜2018年1月28日(日)までの期間、サントリー美術館で開催されている。

マリー・アントワネットをはじめポンパドゥール夫人、ナポレオンといった時の権力者たちに愛され、およそ300年の歴史を誇るフランス宮廷の磁器・セーヴル。ドイツのマイセンやウィーン磁器などと並び、ヨーロッパの名窯の一つとして世界の頂点に君臨し続けている。本展はそんなセーヴル磁器の至宝の名品の数々を、華やかな歴史とともに辿ることができる展覧会である。

宮廷好みを忠実に再現した、セーヴルの幕開け

セーヴル磁器製作所の前身であるヴァンセンヌ製作所は1740年に、パリ東端に位置する城で軟質磁器のアトリエとしてスタートした。そして設立後まもなく時の権力者・ルイ15世の庇護の下、1756年に規模を拡大してパリ西端のセーヴルに移転し、王立の磁器製作所へと発展。上流階級の要望に応えるため、国王お抱えの一流の芸術家や職人たちが技と美を結集させ、次々と新しい意匠やかたちを誕生させていった。

第1章では、ルイ15世をはじめ18世紀の宮廷人の心を虜にした食器セットやカップ&ソーサー、美しい壺などが中心に紹介されている。

エントランスで出迎えるのは本展の目玉の一つ、マリー・アントワネットに捧げられた「乳房のボウル」である。若き王妃が酪農場に滞在する時のためにつくれたというこの豊穣なオブジェは、大理石のようななめらかな質感と優しい乳白色の美しさが一段と際立っている。

乳房のボウル(「ランブイエの酪農場のセルヴィス」より) ルイ=シモン・ボワゾ、ジャン=ジャック・ラグルネ 1787-1788年

金銀細工師のジャン・クロード・デュプレシがルイ15世のために特別にデザインした食器セット「ブルー・セレストのセルヴィス」も、18世紀のセーヴルを彩る重要作品として、ぜひ注目したい。1749点もの多くのピースで構成されるシリーズは、目の覚めるような鮮やかなブルーや写実的な花の装飾、金彩など、精緻な美が随所に冴えわたる名品である。

右:大皿(ルイ15世の「ブルー・セレストのセルヴィス」より) 器形:ジャン=クロード・デュプレシ 1754-1755年 左:ソース入れの盆(「アラベスクのセルヴィス」より) ルイ・ル・マッソン 1786年

「リボンのディシュネ」、別称「パーヴェル・ペトロヴィケのキャバレ」 1772-1773年

ポプリ壺「エベール」 器形:ジャン=クロード・デュプレシ 装飾:ジャン=ジャック・バシュリエに基づく 1757年

「雄山羊のついた楕円壺」と「雄山羊の頭部のついた壺」 伝エティエンヌ=モーリス・ファルコネ 1766-1767年

展覧会の序幕では、セーヴルの創成期を支えた芸術家・科学者たちの美意識と飽くなき探究心が、一連の作品群から十二分に感じ取れるであろう。

ナポレオンの奨励、優秀な研究者の参加で
セーヴルの黄金期が到来

その後フランス革命(1789〜99)による政治的混乱によって一時は存続の危機に陥ったものの、ナポレオンの奨励によって難を逃れ、国有の製作所として存続したセーヴル。1800年になると鉱物学、地質学、動物学といったあらゆる分野に通じていた研究者、アレクサンドル・ブロンニャールが製作所の所長に迎えられたことによって、19世紀セーヴルは一大黄金期を迎えることになる。

左:壺「アデライド」一対 器形:ジャン=シャルル=フランソワ・ルロワ 装飾:ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ 1846年 右:壺「テリクレアン」 器形:ジャン=シャルル=フランソワ・ルロワ 装飾:ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ 1842年

花瓶「花器AB」 1873年

19世紀のセーヴルは、宮廷好みの美意識をひらすらに追求した18世紀の趣向に鳥類学、植物学、地形測量学など広範な分野の知見が加わったことで、表現の幅はいっそう広がり、高い芸術性へと見事に昇華されたことが大きな特徴である。

杯《ネレイスとトリトンとイルカ》 ジャコブ・メイエル=エーヌ 1862年

さらにエジプト遠征をモティーフにしたものや博学的な視点で捉えた自然物や風景といったテーマの面白さに加え、膨大な色数を磁器の上に発色させる優れた技術が次々と生み出されたという事実も、心に留めておきたい。

パリ万博の金賞作品「スカーフダンス」も

続く第3章では、1900年のパリ万国博覧会に出品されたビスキュイ彫刻によるテーブルセンターピース、「スカーフダンス」の貴重な5作品が一堂に会する。

ダンサーNo.14(テーブルセンターピース「スカーフダンス」より) アガトン・レオナール 1899-1900年

当時パリでセンセーショナルを巻き起こしたロイ・フラーのうねるようなダンスと古代ギリシアの人形に着想を得て製作された本作は、ふわりと広がるスカーフの軽やかさや繊細な彫刻表現を磁器の上に結実させた傑作である。「スカーフダンス」はその高い芸術性が評価され、パリ万国博覧会では見事金賞を受賞した。

20世紀のセーヴルでは、1904年に外国人初の協力芸術家として日本人彫刻家の沼田一雅を受け入れたことも、特筆すべきことであろう。一雅が残した作品は、日本的題材のビスキュイ彫刻の原型として、今も大切に保管されている。

お菊さん 沼田一雅 904年(1920年版)

壺《秋》 器形:クロード・ニコラ・アレクサンドル・サンディエ 装飾:レオナール・ジェブルー 1900年頃

草間彌生や佐藤オオキなどによる
現代アートの息吹も

展覧会の最終章では、1960年代以降〜現代に至るまでの作品を一挙公開している。こちらでは、当時パリで活躍していた抽象芸術作家たちのコラボレーション作品をはじめ、草間彌生やnendoの佐藤オオキなど、日本人アーティストによる作品も目にすることができる。こちらでは時代とともに、自由な表現を獲得し柔軟に変化してゆくセーヴルの革新性がうかがえるワンシーンが待っている。

《ゴールデン・スピリット》 草間彌生 2005年

スペシャルナビゲーター、賀来千香子が登場

さらにプレス内見会の中盤では、本展の音声ガイドを担当した女優の賀来千香子がスペシャルゲストとして登場。自身も美術好きという本人はとくに印象的であった作品について、「乳房のボウル」と「貝がらを捧げ持つニンフ」とコメント。その上で、本展の魅力をこう語った。

賀来千香子

「想像していたよりもはるかに美しくて、感激しております。最初は正直、もっと古いイメージなのかなと思っていたのですが、実際に拝見してみると印象がまるで違っていました! これだけの色鮮やかさと繊細な表現があることに、とてもびっくりしています。そしてこの感動は会場にお越しいただかないと体感できないと思いますので、ぜひ多くの方にこの素晴らしい作品をご覧いただきたいと思います」。

国立セーヴル磁器美術館のコレクション展としては実に20年ぶりとなる本展では、18世紀〜19世紀を経て20世紀のアール・ヌーヴォーとアール・デコの時代、さらに現代へと至る歴史的変遷が、4つの黄金期で構成されている。フランス社交界の華やかな歴史とともに歩んだセーヴル磁器の気品あふれる魅力を、じっくりと堪能してみてはどうだろうか。

(※掲載画像の作品は、すべてセーヴル陶磁都市蔵)
 

イベント情報
六本木開館10周年記念展
フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年

日時:2017年11月22日(水)〜2018年1月28日(日)
会場:サントリー美術館
開館時間:10:00〜18:00(金・土および1月7日(日)は10:00〜20:00まで開館。但し12月29日(金)は18時まで)
※いずれも入館は閉館の30分前まで
※shop×cafeは年末年始をのぞき会期中無休
休館日:火曜日(ただし1月2日、9日、16日、23日は18:00まで開館)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_6/

 
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