メジャーデビューで話題のスカート、飛躍の1stアルバム『20/20』と「シティポップ」への思い
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スカート 撮影=河上良
大きな体でギターを抱え、聴く人のこころのくすぐったい部分をうっかり呼び覚ますようなポップソングの数々を生み出してきた、澤部渡のソロプロジェクト・スカート。活動開始から約7年、これまで彼を応援してきたファンやメディアが揃って口にする通り「満を持して」、10月18日にメジャーデビューを果たした。そのメジャーデビュー1stアルバムとなる『20/20』(トゥエンティ/トゥエンティ)収録曲の「視界良好」は全国25のラジオ局などでパワープレイされ、本人は怒涛のプロモーションラッシュを迎えるなど、スカートのメジャーデビューは"世間が待ち望んでいたことだった"と言わんばかりの盛り上がりを見せている。そんな熱気のまっただ中にいるスカートの澤部渡に、今回のメジャーデビューや1stアルバムのこと、そして12月に大阪で開催されるライブを前に考えていることなど「スカートの今」について語ってもらった。
スカート 撮影=河上良
――メジャーデビューして少し時間が経ちましたが、実感はどうですか。
とにかくプロモーションの仕事が増えたっていうのが実感としては一番ですかね(笑)。それが集中してる時期なので……、まだ実感が湧いていないっていうのが正直なところです。ライブとかインストアで曲を披露する場では「あぁ、新しいアルバムが出たんだな」と思うことがあるぐらいの感じでしょうか。最近はイベントにもたくさん参加させてもらっていて、別のアーティスト目当てのお客さんにも曲を聴いてもらう機会があるんです。そこはチャンスなので、「とにかくアルバムを聞いてくれ!」っていう思いでやってますね。
――先月大阪で開催されたカクバリズムの15周年イベントで「「視界良好」をやります」っていうMCではひときわ大きな歓声が上がって、みんながこの曲をを聴きに来た! という感じを受けました。
そうでしたよね。大阪のラジオ局でもヘビロに選んでいただいて本当にいろんなところで流していただたので、そのおかげだなと思ってます。僕自身ラジオをよく聴くし、ラジオから流れてきた曲を好きになった瞬間を何度も体験してきたので、自分の曲がラジオを通して広まっているのはとても感慨深いです。
――メジャーデビューに伴ってライブやプロモーションが増えたことで自己紹介する機会もたくさんあると思うんですが、そういう時ってどう自分のことを説明されてるんですか?
それが実は難しいんですよね……。HPやメディア向けのの紙資料なんかには「不健康ポップバンド」って書いていて、それは単に僕が健康じゃないってことだけなんですけど(笑)。だから自己紹介する時は2010年にCD出してインディー暮らしが長かったんですけど……、みたいな経歴を言うぐらいで、スカートとしては「こういうバンドやってます!」ってすごく説明しづらいなと思ってるんです。それもあって、正直言うとどういう風に捉えられてもいいと思ってますね。ポップミュージックって、ある意味誤解の上に成り立っているものなので、みなさんの中でどう取っていただいてもいいなという感じもあるんです。
――誤解、というと……。
人の手に渡って、その人なりの解釈をして、そこからまた誰かに伝えていくっていうのがポップミュージックの肝だと思うんです。ロックだったら俺はこういう気持ちでやってる! っていうのがストレートに伝わればいいと思うんですけど、ポップミュージックはそうじゃないのかな……と。あくまで自分のやれることは、ポップミュージックを継承して発展させていくことかなと思っています。
スカート 撮影=河上良
――そんなポップミュージックの継承と発展を命題に、スカートが大き一歩を踏み出した『20/20』の発表の経緯を教えていただけますか。
実は前作の『CALL』っていうアルバムを作った後、しばらく曲が書けなかったんです。あれが自分の中ではすごくよく出来たアルバムだったので、あれより良い作品なんてできないかも……と思ったりして。
――なるほど。
自分の中で「理想のアルバムが出来たということなのかな」と……。そんな作品が出来たことで燃え尽きちゃって何もできない日々が続いて、ある時に「これはイカン!」と思ったんです。そこから今後どんな風に曲作りをしていこうかと考えた時、「自分の中では今までやってこなかったことをやってみよう」というところに達したんですね。それまではコード進行にかなりこだわって曲を作っていたので、一度それを捨てて曲を書いてみようと思いつきました。そんな試行錯誤の末にシングル「静かな夜がいい」が出来上がったんです。その曲ができて、次に進めそうだなっていう手応えを感じられたことで、アルバムの曲作りに着手しました。
――メジャーデビューの話ありきのアルバム制作ではなかった、と。
そうなんです。元々はカクバリズムから出そう、っていう話でした。そうしてアルバムの制作を始めたところでメジャーデビューの話をポニーキャニオンさんから頂いたんですけど、僕はなんとなく信用してなくて(笑)。アルバムの制作がどんどん進む中で、ポニーキャニオンの人に「編成会議通りました!」って言われて、「あれ?! もしかしてメジャーデビューって本当なのかな?」と……。
――(笑)! じゃあ制作の過程で「メジャーで初めての作品だ!」みたいな気負いはなかった?
そうですね。メジャーデビューとしての気負いはなかったんですけど、『CALL』の次のアルバムを作るっていうことに対するプレッシャーはものすごくありました。だから最初は大丈夫かな……出来んのかな……みたいな感じでしたね。でも、それこそ「視界良好」とか「さよなら! さよなら!」とか、核になりそうな曲ができて、これはアルバムとして成り立つぞという自信になったというか。そうして出来た曲を並べて、バンドのメンバーで採用曲を精査していきました。アルバムってひとつの円だと思っているので、今ある曲をどう円として見せていくかを重視した感じですね。
――「円」、ですか。
そう、終わりがあって始まりがある。そしてまた始まりに戻るというイメージです。
――リピートして聴くと始まりも終わりもどんどん溶け合って、ひとつの円になるのがアルバムの良さですもんね。
きれいな円に見せるために弾いた曲もいくつかありましたね。
スカート 撮影=河上良
――私個人としては、歌詞に「街」と「夜」という言葉が使われた曲が、アルバムに散りばめられているのが印象的で。その統一されたようなムードが円の表現のひとつかなと思うんですけど、そのふたつの言葉に担わせているものはあったんですか?
元々「夜」っていう言葉がすごく好きなんです。「夜」という言葉の意味も好きだし、もうひとつ「よ」っていう言葉は母音が「お」ですよね。母音が「お」や「あ」があたまにくると、音としてすごく飛距離が出るんです。人の耳に届きやすいというんでしょうか。ほかの「い」「う」「え」が母音だとこの3つは閉じた音でちょっと届きづらいので、そういう意味で「夜」という言葉は音のバランスが良いんですよ。正直自分でも出てきすぎだなっていう自覚はあるんですけど、どうしても他に替えが効かない言葉というムードがあるので、使っちゃいますね。
――「夜」は「夜」以外にない。
そうですね。あと、「窓」も同じですね。このふたつの言葉は一生…飽きるまで使い続けていくんでしょうね。
――「街」という言葉の方に関してはどうですか?
「街」は今回のアルバムに関して意識的に使いました。スカートの音楽はシティポップと言われることが多いんですけど、僕自身は正直言ってシティポップのつもりはなかったんです。だからこそ「シティポップとは何か」を改めて考えないといけないって思っていたんですね。そのうちに「都会にいる僕たち楽しい!」っていう感じを歌うのではなくて、もっと都市への憧れとかそういう眼差しを歌うのが、今のシティポップのあるべき形なんだろうななんて思うようになったんです。そう思えたタイミングだったからこそ、このアルバムに収録する曲には意識的に「街」っていう言葉を使いました。
スカート 撮影=河上良
――大阪も含め地方に住む者としては、スカートの音楽はとても都会的な匂いのするシティポップだ! と捉えていました。
ははは(笑)。僕自身東京の生まれですけど、東京でも山手線の外側なんです。東京の中でもやっぱりヒエラルキーがあって、一番偉いのは山手線の内側なんですよね。さらに山手線周辺の外側と、そうじゃない外側があって。うちはほぼ埼玉みたいな山手線の外側だったので、そういう意味合いもあって、僕にとっては自分の音楽は都会の音楽ではないと思っていたんですよね。
――それこそ、シティポップか否かは聴く側に委ねると。
うーん。というか、僕が今のシティポップをちゃんと聴けてるかどうか怪しいんですけど……、なんだか言葉にできないなあ。言語化が難しいところではありますね。
――もうひとつ今回のアルバムを語る上でとても印象的なのがアルバムタイトルの『20/20』だと思うんですが、これはどこから発想されたものなんでしょうか。
鴨田潤さんの小説『てんてんこまちが瞬かん速』の中で、ビーチ・ボーイズの『20/20』が登場するくだりがあるんです。その流れの中で「20/20 VISION」という言葉が出てくるんですけど、「20/20 VISION」っていうのは英語で「正常な視力」とか、「洞察力がある」という意味合いだと記されているんです。なんか自分の中でそのエピソードが強烈に印象に残ってたんですね。もともとビーチ・ボーイズの『20/20』も聞いてたんですけど、そういう意味合いは知らなかったと思って。実は「視界良好」ができた時に、この曲を「20/20」にして、アルバムタイトルを『視界良好』にしようと思ってたんです。でもアルバムタイトルが『視界良好』だとなんだかゴツゴツした感じになっちゃうから、じゃあアルバムタイトルの方を『20/20』にしようと。そしたらちょうどいい感じでなんか記号っぽくて合うなあって、ストンと落ち着いたんです。
――あぁ、それでアーティスト写真に視力検査表を使ってるんですね。
そうなんです。でもそれだけじゃなくて、ビーチ・ボーイズの『20/20』のレコードを開くとブライアン・ウィルソンがこういうポーズをしてるんですよ。アメリカの視力検査表に隠れてちょっと顔を出しているっていう。それのオマージュをここでやらせてもらいました。
スカート 撮影=河上良
――こうやって『20/20』について掘り下げるプロモーションの日々を送りつつ、アルバム発売記念ツアーがすでにスタートをしていますが、手応えはどうですか?
最初は名古屋だったんですけど、お土地柄かいつもじっくり聴いてくれるお客さんが多いんですね。でもなんか今回はじっくり聞くということ以外にも、すごく「ちゃんと届いている」っていう手応えを感じましたね。12月の大阪では『20/20』を軸にして、昔の曲も今のムードでやれたらいいなと思ってます。何より個人的には、共演がトリプルファイヤーっていうのが熱くて。彼らも新譜が出たんですよ。おもしろいもの好き、新しいもの好きっていうお客さんが集まってくれたらいいなあと思ってます。
――ちなみに先日のライブのMCで「明日のインストアは根幹は変えず、枝葉を変えるイメージで曲をやりますね」という一言がとても印象に残ったんですが、それは今度のツアーにも同じように反映されることですか?
そうですね。あの言葉は『20/20』の幹を残しつつ、昔からある曲でライブのムードを変えるみたいな意図がありました。ああいう言い方をしたのは、ディスクユニオンに「MY BEST!」っていうレーベルがあって、そのレーベルに金野さんっていう宮崎駿に似た人がいるんですね。昔、金野さんに本当にマニアックなバンド……葡萄畑だったかなと思うんですけど「え、葡萄畑聞いたことないの?」って言われたうえに、「澤部くんは枝葉があるのに幹がないね」って言われたことがあったんですよ。実はそれをずっと根に持ってて(笑)。それをちゃんと根に持った上で、自分の言葉としても使わせてもらってます。だから今回のツアーも幹をしっかり持って枝葉で遊ぶというライブになっていく予定ですね。
――ツアーは最新のムードを携えたスカートが見れるんですね。では、最後になりますが今回のアルバムタイトルが数字ということになぞらえて、澤部さんが人生で大事にしている数字ってなにかありますか?
えええええええ! なんだろう、なんかあったかなあ! ……数字については、僕は算数でつまずいて以来、あんまり考えないようにしてます(苦笑)。本当にもう算数からずっと数字は苦手でしたねえ……。うーん、なんだろう……。強いて言えば12月15日が最初にCDを出した日なんで愛着はある、ぐらいの感じでしょうか。でもやっぱり今は『20/20』が1番大切な数字になったと思っていますね。
インタビュー・文=桃井麻依子 撮影=河上良
M2. 視界良好
M3. パラシュート
M4. 手の鳴る方へ急げ
M5. オータムリーヴス
M6. わたしのまち
M7. さよなら!さよなら!
M8. 私の好きな青
M9. ランプトン(テレビ東京ドラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」エンディングテーマ)
M10. 魔女
M11. 静かな夜がいい