スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』~人気作6年目はフレッシュな顔ぶれで上演
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スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』 撮影:平井晋之介
12月9日(土)、10日(日)に上演されるスターダンサーズ・バレエ団(SDB)『くるみ割り人形』。SDBの常任振付家、鈴木稔氏によるバレエ団オリジナルの作品で、2012年の初演以来、家族の愛情をテーマとした温かな物語と、工夫に富んだ演出・振り付け、美術など好評を博している人気作だ。
6年目となる2017年の上演は、クララ役にSDBでは幾度も主演を踊っている渡辺恭子のほか、SDBジュニアスクールからの生え抜きダンサーである西原友衣菜が初主演。さらに王子をSDBに2017年夏に入団した林田翔平と池田武志が踊る。渡辺以外の3人が初役という、フレッシュな顔ぶれだ。
新たなパワーを得て勢いも感じるSDBの『くるみ割り人形』のリハーサル現場にお邪魔し、主演ダンサー達に話を聞いた。
(文章中敬称略)
左から池田武志、西原友衣菜、渡辺恭子、林田翔平 撮影:西原朋未
■ともに初挑戦。西原&池田のフレッシュペア
この日行われていたリハーサルは渡辺&林田、西原&池田それぞれのペアによるグラン・パ・ド・ドゥだ。
まずに西原&池田の、フレッシュなペアによるリハーサルが行われる。
踊るのは1幕、くるみ割り人形が王子に変身し、クララとともに踊る、音楽共々美しい、1幕屈指の名場面のひとつだ。ともに今回初めてペアを組むとあって手探りの様子で、振付の鈴木と小山恵美バレエ・ミストレスが時々動きを止めては手の添える位置、身体の向きなどを指導。時には鈴木・小山両氏が組んでの動きを見せながら、細かい動きを修正していく。
しかし西原は5月に『ドラゴン・クエスト』で女戦士を踊ったことを彷彿させるキレのある動き。今度は大人と子供の境目にいる少女ということで、踊りにどのようなテイストを加味してくるか、期待が膨らむ。また池田はフィジカルが抜群で、リフトもひょいと軽々とこなす。今後の練り込みが楽しみだ。
西原友衣菜、池田武志 撮影:西原朋未
■互いに考え、話し合いながらすすめるパ・ド・ドゥ
続いて渡辺&林田ペアが踊るのは2幕の金平糖のグラン・パ・ド・ドゥ。渡辺は今回が3度目の主演となるが、林田は初役。しかし夏から秋の地方公演などで何度もペアを組んだだけあって、波長が合い始めているようだ。
アダージョのクライマックスで王子と金平糖がゆっくりと離れながら歩き、また近づくところでは鈴木から「宮廷舞踊のように!」との指示が飛び、なるほど、と思う。指示のあとの動きは一層優雅になり、衣装を着けたらどう見えるのか、楽しみになる。
西原&池田、渡辺&林田がそれぞれリハーサルをしている間、もう一組のペアは自分たちの動きの確認中。それぞれに話し合いながら2人で考え、問題点を確認している様子が見て取れた。
渡辺恭子、林田翔平 撮影:西原朋未
■経験者として「今度は自分が引っ張る立場に」
リハーサル終了後、4人の主演ダンサー達に話を聞いた。
――お疲れ様でした。SDBの「くるみ割り人形」は今年6年目を迎えますが、主演経験があるのは渡辺さんだけですね。
渡辺 はい、私は3回目になります。毎回鈴木先生が少しずつバージョンアップをしていて、いつもフレッシュな気持ちで挑みますが、今回はパートナーが変わったこともあって、特に新鮮な気持ちで踊っています。
今までは経験者が多かったので私が引っ張っていってもらっていましたが、今回は3人が初役ということもあり、いよいよ私がしっかりしないと、と気を引き締めています。
――パートナーの林田さんとは、先ほどリハーサルを見ている限りでは結構息が合っているのでは?と思いましたが。
渡辺 そう言ってもらえるのはうれしいです(笑) 地方公演や別の作品でも一緒に踊っているので、お互い信頼が少しずつできてきているのでは。(林田さんは)合わせて動きを修正してくれるなど、気を使ってくれています。
林田 いえ、結構引っ張っていただいていますし、経験豊富なので頼りにしています(笑) でも最近はだんだん打ち解けて、話し合いながら互いのツボを押さえてきたような感じはあるかな。
渡辺恭子、林田翔平 撮影:西原朋未
――西原さん、池田さんはいかがでしょう。お2人の距離感などは。
池田 西原さんとは同い年なので、話しやすくて楽です。どうやってそこに持って行こうかという話し合いながらやっています。こうしたい、ああしたいでぶつかることはあまりないですね。
西原 間の取り方や呼吸など、「こうしたい」というのが合うんです。池田君はリフトなどパワーとエネルギーがあるので頼りにしています。
■「少女クララ」を演じる難しさ
――少女クララを踊るにあたり考えていることなどを聞かせてください。
渡辺 「子供と音大人の中間」という年齢に設定されていて、弟もいるので、少女らしさを出せるように注意しています。最後のグラン・パ・ド・ドゥはクララが少し成長している感じで大人っぽく、と思っていますが、でもいわゆる「女王様」としての金平糖の精とは違うんですよね。そこもまた少女らしさを残しつつ、というのを心掛けています。
あとは衣装が重いのが大変かな(笑) 英国製でチュチュやドレスなど、一つひとつはきれいなんですが、体力が大変です。
西原 私はこれまではドールズやフランス、スペインのディベルティスマンなどで出ていました。初演時に作品を一から創っていくのも見ており、「いつか(クララを)踊りたいな」と考える一方で、「なんてパワーが必要な役なんだろう」と思っていました。初演のクララは林ゆりえさんだったのですが、彼女くらいのパワーがないとダメなのではないかと。
またクララは自分の年齢よりずいぶん若いんですけど(笑)、とはいえ「白鳥の湖」のオデットなどに比べると入りやすさはあります。反面踊りを全部通すのにはすごいエネルギーが必要で。ましてや弟役は本当に年相応の男の子。子役君は素でテンションが高いし、喧嘩も本気でしてくるから、こちらも負けないエネルギーが必要になる。とにかく真っさらな気持ちで、エネルギーを持って挑みたいと思います。
――男性陣の手応えは。
林田 ぱっと出てきたときにすぐ「王子」とわかるような立ち居姿は目指すところの一つですが、多少は自分なりに少しずつ掴み始めているかなと。理想にはまだほど遠いのですが、近づいてはいると思います。
池田 「くるみ」と地方公演でやった「シンデレラ」共々鈴木先生の作品で、それを両方踊ることで、先生が王子に求めている身体の使い方や存在感といったものが掴めてきました。「王子」という形式的なものにとどまらず、存在をより大きく見せるために、登場した時の呼吸や動作などに気を遣うようになりました。「王子はエレガントに」というのはこれまでもありましたが、場をリードする、体温の通った自然な存在感というのかな、そうしたさらに新しいものが加わっている感じです。
池田武志、西原友衣菜 撮影:西原朋未
■お気に入りのシーンは「バトル」と「雪」
――クララのお2人にお伺いしたいのですが、鈴木版「くるみ」で一番好きなシーンはどこでしょう。
渡辺 私は1幕のバトルシーンです。見るのはもちろん、オーケストラからもいろいろな楽器の音が聞こえてきてワクワクするし、人形たちもチャーミング。ネズミは本番は被り物となるので視界が狭くて大変だと思うのですが、でもリハーサルの時は皆さんちゃんと表情まで作ってやっているんですよ。
スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』 撮影:平井晋之介
西原 私は1幕の雪のシーンが好きです。自分で踊ったこともありますし。衣装がかわいいし、雪の量がすごい。踊っていると突き刺さるくらいで、視界が見えないくらい降ってくるんですが、スリルがあって面白いです。
――雪があまりにたくさん降ってくると、きれいな反面、見ている側は「ダンサーさんが踏んだらどうしよう」とハラハラもしてしまうのですが……。
西原 そこは雪を蹴るように振り付けができているんで大丈夫です。雪がある程度溜まったところに自由に踊れる箇所があって、私はわざと人がいないところに行って、雪だまりをヒュッヒュッと蹴る(笑)
――それはまるで子供の雪遊びのような(笑)。
西原 鈴木先生も「雪ん子のように踊ってほしい」と。ですからわざと雪だまりを目がけて行くんですが、毎回毎回それが楽しくて(笑) 大量の雪を楽しみにしていてください。
――それではみなさん、お客様にメッセージを。
渡辺 SDBオリジナルのドイツのクリスマスマーケットを舞台にした「くるみ」です。一般家庭の普通の女の子が夢の世界を冒険する物語ですので、ぜひ一緒に楽しんでください。
林田 二人でお客様にしっかりお見せできるような作品に仕上げていきます。
西原 鈴木先生の「くるみ」は夢の世界ですが、リアリティがあります。クララと皆さんとともに人形の世界へ、冒険の旅へ出かけましょう。
池田 SDBオリジナルの「くるみ」ですからほかにはない、全然違う構成や装置、物語が楽しめます。バレエを見慣れている人はその違いを楽しみながら、作品全体の雰囲気を楽しんで、クリスマスシーズンの思い出にしてください。
――ありがとうございました。
『くるみ割り人形』スターダンサーズ・バレエ団 撮影:平井晋之介
取材・文=西原朋未
12月9日(土)14:00~/クララ:渡辺恭子、王子:林田翔平
12月10日(日)11:30~/クララ:西原友衣菜、王子:池田武志
12月10日(日)16:00~/クララ:渡辺恭子、王子:林田翔平
※開演20分前より小山久美総監督によるプレトークを実施
■会場:テアトロ・ジーリオ・ショウワ
■公式サイト:https://www.sdballet.com/