幸四郎×染五郎×金太郎の最後の一日『吉例顔見世大歌舞伎』「鯉つかみ」「大石最後の一日」千穐楽レポート

2017.11.27
レポート
舞台

画像提供:松竹株式会社


11月25日(土)、歌舞伎座にて『吉例顔見世大歌舞伎』が25日間の興行を無事に終えた。松本幸四郎市川染五郎松本金太郎の高麗屋三代が、それぞれの名で歌舞伎座に立つ最後の一日となった千穐楽より、昼の部『鯉つかみ』と、夜の部「元禄忠臣蔵」の最終章『大石最後の一日』をレポートする。

昼の部『鯉つかみ』

志賀之助(染五郎)と、志賀之助の姿に化けた鯉の精霊(染五郎。早替りで二役)が、釣家の息女 小桜姫(中村児太郎)を巡り争う物語。小桜姫と志賀之助は思いあう仲だ。しかし紛失してしまった釣家の宝刀「龍神丸」の行方を追うために、志賀之助は小桜姫を残し旅に出ている。

染五郎は過去に、四国こんぴら歌舞伎とラスベガスのホテルベラージオの噴水を使った特別興行で『鯉つかみ』を演じてきたが、歌舞伎座での『鯉つかみ』は今回が初めて。

幕が開くと、暗闇の中で蛍にも星にもみえる光が瞬いている。幻想的な夜の琵琶湖畔で、志賀之助の不在を淋しがる小桜姫を慰めるための蛍狩りをしている場面であるが、そこに小桜姫の姿はない。お供の浮き平(廣太郎)の知らせによれば、桜姫は小舟に乗ったまま一人沖へ流されていってしまったという。

そして花道から小桜姫が小舟にのって登場する。失意のあまり、志賀之助とは来世で夫婦に…と願い、琵琶湖に身を投げようとする。そこで登場するのが志賀之助(の姿に化けた鯉の精)だ。小桜姫は志賀之助が偽者と気づかないまま夫婦になる。それと入れ替わるように、見事「龍神丸」を取り返した志賀之助が無事の帰宅を果たし、志賀之助の偽者がいることが明らかとなる。

前半は、桜姫と偽の志賀之助による美しい舞踊が印象的だった。染五郎と児太郎、唄、義太夫、青みがかった闇を作り出す照明の効果も相まって、水面のような揺らめきと神秘性を感じさせた。

児太郎が演じる小桜姫は、おっとりと愛らしいキャラクター。偽の志賀之助を本物と信じ祝言を挙げたり、2人の志賀之助を並べてみても判別できなかったり、そもそも皆で出かけた蛍狩りで一人漂流しかけてしまうような天然ぶりにはヤキモキさせられつつも、つい応援したくなる魅力があった。

染五郎は志賀之助の本物と鯉の精を、声色や言葉つき、表情で巧みに演じ分けた。美しい舞踊をみせたかと思えば、ふとした台詞の間合いだけで笑いをとる等、観るものを飽きさせない。後半は、早替わり、立ち廻り、宙乗り、本物の水やスモークを浴びながらのクライマックスまで大活躍の一幕だった。

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夜の部『大石最後の一日』

エンタテイメント性に富んだ『鯉つかみ』に対し、夜の部最後は、重厚な物語で締めくくられる。『元禄忠臣蔵』の最終章『大石最後の一日』は、元禄15年12月14に吉良邸への討ち入り後、細川家でお預けの身になっていた大石内蔵助(幸四郎)を含む赤穂浪士17名の最後の日(元禄16年2月4日)を描く新歌舞伎の名作だ。

討ち入り後の赤穂浪士たちは、幕府の裁きを待つ立場でありながら、細川家では手厚くもてなされ、世間からも称賛を浴びていた。それでも彼らが助命される望みが薄いことは会話の端々からうかがえる。

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「切腹」で名誉ある死を迎えられるのか、あるいは罪人として「打ち首」に処せられるのか。そして、その日がいつくるのか。赤穂浪士たちはこの日が最後とはまだ知らない。一方で観る側は「最後の一日」と知っているだけに、幕開きから聞こえるウグイスの声、障子の外で日を浴びて咲く梅の花にさえ、やるせない思いが掻き立てられる。

浪士たちがゆったりと過ごす部屋で、品よく花を生ける磯貝十郎左衛門(染五郎)。そこに内蔵助が加わり、金太郎が演じる細川内記が目通しにくる。この日の見どころのひとつ、高麗屋三代が今の名で出揃う最後の場面だ。

細川内記は、自分と同じ15歳の息子をもつ内蔵助を気遣い、赤穂浪士たちとの別れを惜しみ、最後は内蔵助に「またと申してもその時はあるまい。身が一生の宝となるような、言葉のはなむけはないか」と求める。これに答えて言うのが、「人はただ初一念を忘れるな」という台詞だ。

新年より金太郎は八代目染五郎として、当代染五郎は十代目幸四郎として歌舞伎役者人生の新たな一歩を踏み出す。当代幸四郎自身も、37年間つとめてきた名を譲り、二代目白鸚としての役者人生が始まる。まるで息子と孫と自分自身に語って聞かせているようだった。

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磯貝の気持ちを確かめるため細川家に潜り込んだ磯貝の許嫁おみのを児太郎が、その手引きをした堀内伝衛門を坂東彌十郎が演じ、高潔な精神を説くだけではない、人の心を軸とした人間ドラマとしての魅力をたたみかけるような台詞で支えていた。さらに幕府からの切腹の沙汰を伝える荒木十左衛門役を片岡仁左衛門が務め、高麗屋にとって節目となる本作をより格式高く引き上げていた。

白一色の装束で身を整えた赤穂義士たちは、太鼓の音とともに1名ずつ名前を呼ばれ、順に命を断つ。全員を見送り、最後に呼び出された内蔵助は堀内とおみのに別れを告げ、晴れやかであり同時に覚悟をにじませる面持ちで客席を見、そして花道のずっと先を見据えるように自らも切腹の場へ歩みを進める。

大きな拍手で後ろ姿を見送り物語は終わるのだが、拍手や掛け声は終演後も鳴りやまなかった。しばらくの後、花道から幸四郎が再登場。幕間まで家族に支えられて離着席されていた方さえ杖を置いて立ち上がった。約2000人のスタンディングオベーションが歌舞伎座を揺らした。

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花道で幸四郎は「二人がくるまで私が場をつなぎます」とユーモアをまじえながら、感謝の意を述べた。まもなく染五郎は十郎左衛門の衣装、金太郎は衣装をかえて花道から登場。三人そろってふたたび舞台へ。下手に控える染五郎、金太郎が「もっと前へ」と幸四郎が促され笑いが起きる一幕もみられた。最後は「襲名披露が盛況でありますように、新年がよい年でありますように。皆さま、お手を拝借!」と一本締めでくくられた。

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高麗屋の襲名披露興行『壽初春大歌舞伎』は、1月2日に歌舞伎座で開幕。また12月は三部構成で楽しめる『十二月大歌舞伎』が上演される。

取材・文=塚田史香

公演情報
歌舞伎座百三十年
松本幸四郎改め 二代目 松本白 鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎 襲名披露
松本金太郎改め 八代目 市川染五郎
壽 初春大歌舞伎
 
■日程:平成30年1月2日(火)~26日(金)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
【貸切】5日(金)昼の部 ※幕見席は営業
■会場:東京・歌舞伎座
発売予定:12月12日(火)
■料金(税込):
1等席 20,000円
2等席 15,000円
3階A席 6,000円
3階B席 4,000円
1階桟敷席 22,000円
 
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