金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第4回「アトランティック40周年コンサート~レッド・ツェッペリンもEL&Pも一度に味わえたライヴ~」
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1994年 前身バンドでの筆者
我がプログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」は、1991年に前身バンドを結成し、1996年に現バンド名に改名、今日に至るまで、70年代のプログレやハード・ロックのオイシイところをオマージュし続けて21年活動している。最近おかげさまで知名度が上昇、それに併せて、なにかとバンド名の由来を尋ねられることが多くなってきた。そこで今回は、「金属恵比須」の命名に至るまでのバンド名の変遷を見ていきたい。
1991年の小学校5年の時にバンドを組んだ。ベンチャーズとモンキーズを合わせ、「ザ・ベンキーズ」という名前にした。下ネタ大好き幼少の「肛門期」(フロイトの精神分析用語による)の終焉だったのかもしれない。3か月後には「ゴールド・ツェッペリン」に改名。もちろんレッド・ツェッペリンからの影響である(フロイト的にはゴールド=糞とも分析できるのだが)。
アトランティック40周年コンサートの「カシミール」をヴィデオで見て、世の中にこんな格好良い曲があるのかと度肝を抜かれた。
1998年に公開されたハリウッド版『ゴジラ』では「カシミール」がリメイクされ、ラップが乗る「カム・ウィズ・ミー」という曲として蘇ったり(パフ・ダディー featジミー・ペイジ)、
最近では、NHK-BSプレミアムの教養番組『英雄たちの選択』のオープニングにオーケストラ・アレンジのものが使われるほどの名曲で、私がこの曲を見てギターを始めようと思ったのも納得いただけることだと思う。
ちなみに、近頃の金属恵比須の新曲「新府城」にも面影を感じる方もいらっしゃるかもしれないが、これはまったく別個の曲である、あしからず。
アトランティック40周年コンサートのヴィデオをもう少し先まで見ていくと、「キース・エマーソン&カール・パーマー」というバンドに出会った。
その番組の司会者だった中井美穂が、音楽評論家の故・福田一郎氏にどんなバンドなのかと問うたところ、
「キーボードでうわぁうわぁうわぁってやるんです」
と、腕を振り回しながら答えた。
中井美穂はキョトンとしていたが、いわれてみれば確かに「キーボードでうわぁうわぁうわぁってやる」バンドのエマーソン・レイク&パーマー(EL&P)のことだった。ギターなしでロックをやってしまう魂にノックダウン、影響を受け、すぐさまバンド名を改名したくなった。
しかし、「EL&P」とはバンドメンバーの苗字をつらつらと並べるだけのバンド名。当時メンバーは2人で、「浅沼&高木」としようかと思ったのだが、どう見ても漫才コンビ名。ということで、EL&Pの前身バンド「The Nice」から取ろうと思い始める。
最初は”N”を抜き”Ice(氷)”にしようとしたが、何とも味気ない(ちなみに、ほぼ同時期、宮内和之・国岡真由美の“ICE”も出てきつつあった)。ということで、英和辞典を引き、”ice”がつけられる子音を探した。
・Dice(サイコロ)
・Lice(しらみ)
・Mice(ねずみたち)
・Rice(米)
・Vice(堕落行為)
が候補に挙がり、結果、「The Lice」となった。しらみ、である。後の『ハリガネムシ』に至る「虫」への偏愛は、小学校6年の時に始まったのかもしれない。
かくして、小学校を卒業することとなる。
中学に入学し、バンドメンバーを増やそうと思っていたところ、同級生にギターが以上にうまい奴がいると聞く。もしジミー・ペイジを完コピしていたりするレベルであったら私はキーボードに専念できる。
山上君(仮名)の家に遊びに行ってみると、そこにあったのはフォーク・ギターだった。加えてブルース・ハープをキーごとに各種取り揃えている。吉田拓郎一辺倒のフォーク・マニアだった。エレキ・ギターは触ったことがないという。理由は、鉄の弦でチョーキングをすると指が切れるからだと言っていた。そしたらエリック・クラプトン、指、なくなるだろ。
彼もバンドをやる意欲が強いが、いかんせん吉田拓郎をやりたいという。こちらはEL&Pなどのプログレをやりたい。しかし、中学1年生にとって、楽器が弾けるということはイコール同じバンドをすることだった。趣味以前にスキルの問題である。私としても、大好きなEL&Pのベーシストであるグレッグ・レイクはもともとギタリストでフォーク・ギターがうまい。そうだ、彼をグレッグ・レイクにすればいいんだと開き直り、バンドを組むことにした。
かくして、フォーク・マニアとプログレ・マニアが一緒にバンドをすることとなる。しかし、自己主張の強い山上君は、バンド名を変えることを提案する。フォークっぽい名前にしたいと。
「ザ・フォーク・ライス(The Folk Lice)」となった。「ザ・フォーク・クルセダーズ」から採ったというのだが(去る12/2、はしだのりひこさんが亡くなられた。ご冥福をお祈りします)、なんだかしっくりこない名前だった。
ちょうどそのころYMOが再結成、NHKで放映されたりして話題に。私も好きになった。かなりハマッてしまい、写真集を買うまでのノメり込みよう。
海外遠征したときの写真を見ると、「黄色魔術樂團」というバンド名が書かれていた。「イエロー・マジック・オーケストラ」を直訳したものだ。これはいいアイデアだということで、「ザ・フォーク・ライス」を直訳するということでフォーク色一掃の反撃作戦に出る。“フォーク”は「民謡」と訳す。しかし、“Lice”のほうは「虱(しらみ)」と書くと、「黄色魔術樂團」から1文字減って不恰好。当時大好きだったピンク・フロイド『ザ・ウォール』に「蛆虫閣下」というのが登場してきていたので、意訳して「蛆虫」にしてみた。「虱」「蛆虫」のどちらもきれいとはいえない字面だったが、中学生なりの美学があったのだろう。
「民謡蛆蟲樂團(みんよううじむしがくだん)」
と提案した。
もはや全く意味もわからず、しかも旧漢字を使っているので誰も読めず、これも反発された。そこで折衝案として、
「The Folk Lice(民謡蛆蟲樂團)」
となった。映画「駅 STATION」のような、ただの並列だが、エゴの塊の中学生、仕方がない。
ライヴは酸鼻を極めた。EL&P「庶民のファンファーレ」で幕を開け、吉田拓郎「春だったね’73」が始まり、ピンク・フロイド「狂人は心に」を挟み、吉田拓郎「斜葉」、EL&P「悪の経典第一印象(パートII)」で、泉谷しげる「激しい季節」、最後にドアーズ「ハートに火をつけて」。
ライヴのセット・リストにおいてバチバチとエゴがぶつかり合い、観客(同級生の友達)は何を見せられていたのか全く理解できなかったことだろう。
中学2年の秋、山上君は引っ越すこととなり、バンドを脱退する。
そこでエゴのぶつかり合いがなくなったところで、また改名を提案する。「民謡蛆蟲樂團」という日本語、そして漢字のバンド名にシンパシーを覚えた矢先、日本のプログレッシヴ・ロック・バンド「四人囃子」を知る。これはすごくいい名前だということで、メンバーが3人だったことから「三人官女」とする。しかし、「囃子」みたいな音楽の意味もないし、女でもないしということで1度ライヴをやっただけで立ち消え、再び「The Folk Lice(民謡蛆蟲樂團)」と戻し、1995年、NHK教育『天才てれびくん』に出演する。
当時、司会者がハーフのクリスちゃんという方で、バンド名をネイティヴに発音していた。しかしうちだけは、日本語の平坦な発音で「ざ、ふぉーく、らいす」と紹介された。地上波で堂々と「シラミ」(Lice)とは言うのに憚られたのだろう。
中学卒業を機に、本格的に「The Folk Lice(民謡蛆蟲樂團)」を解散させ、新たなバンドを組もうとするのだが……。
前身バンドでの筆者
(以下次号)
金属恵比須ライヴ盤『Official Bootleg Vol.1 灼熱のライヴ 2015』
ディスクユニオン限定発売中
稲益宏美 Voice
後藤マスヒロ Drums, Voice
髙木大地 Guitars, Keyboards, Voice
多良洋祐 Bass
宮嶋健一 Keyboards
1. 宴の支度
2. ハリガネムシ
3. 光の雪
4. 阿修羅のごとく
5. みつしり
6. イタコ
■公式サイト:http://yebis-jp.com/
■収録曲
01. Introduction
02. UNCLE GEAR
03. THAT
04. Interlude I
05. M.Y.N.
06. BLUE COSMOS
07. Interlude II
08. 8月
09. Interlude III
10. WHITE REFRAIN