北村想自らの演出は15年ぶり! 『悪魔のいるクリスマス』を名古屋で上演
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前列左から・オオノショウヘイ、森らんぽ。、北村想 後列左から・小熊ヒデジ、尾國裕子
この時季、一度は観ておきたい名作公演が、作家自身の演出とゆかりの劇場で再び
昨年リニューアルして新体制となった名古屋・天白の小劇場「ナビロフト」。コンセプトとして掲げる《地域に根ざし、全国とつながる劇場》の一環としてスタートした年末企画【ロフトDEクリスマス】も2回目となる今年は、この企画にぴったりの北村想作『悪魔のいるクリスマス』を、12月21日(木)から4日間にわたって上演することに。
1984年に書かれた『悪魔の…』は、同年の初演以来30年以上経った今なお数多のカンパニーによって上演され続けている名作だ。2002年には北村が当時率いていたプロジェクト・ナビでもこの「ナビロフト」で公演が行われ、今回はそれ以来となる15年ぶりに北村自身が演出も手掛けるという。
ロフトDEクリスマス『悪魔のいるクリスマス』チラシ表
近年は劇作に専念していた北村が久々に演出も手掛ける本作はどんな上演になるのか、北村想と、「ナビロフト」のプロデューサーで今回出演もする小熊ヒデジに話を聞いた。
── 初演時の戯曲と今回の台本を読み比べさせていただきましたが、少しカットされた箇所があるくらいなんですね。
北村 ほとんど変えてないですね。歌を1曲抜いたくらいです。これでいいじゃん、っていう感じなんですよね。今はこういう状況というか、世情というんでしょうか。今の観客の方々にご覧になっていただくのに一番ピッタリしてるという感触を俺自身が受けて、ちょっと驚いているんですよ。
── 本作の演出は15年ぶりということですが、今回の演出については?
北村 小熊を除いての3人は、ほとんどビギナーなんです。だから演出をするというより、ワークショップをしてる感じでしたね。舞台に立つということはどういうことか、舞台に立っている身体とはどういうものなのか、ということを論理で説明していって、それから立って見せて形で説明するわけですよ。あのお三方はね、かなり勉強になったはずですよ。
── 〈伊丹想流私塾〉の実践版みたいですね。小熊さんは、想さんの演出を受けられてみていかがでしたか?
小熊 僕は初めてなんですよ。想さんのホンの公演に俳優で出て演出は別の人とか、想さんのホンの演出をさせてもらったことはあるんですけど。まだ演劇に関わるとは思っていなかった時に出会った方で初舞台も観ていただいているので、感慨深いといいましょうか。想さんが仰ったように、みんながこういう場で経験できたということはとても良かったと思うし、これから次代を担っていく演劇人になっていってほしいと思ってますね。
北村 恐らく彼らは3人とも良い風になっていくと思いますよ。初期設定としては得したと思います。
稽古風景より
── キャスティングはどのように決まったんでしょう?
小熊 僕がキャスティングしたんですが、少年の役だけは、想さんにお話した時は決まってなかったんです。最初は少年役のオオノショウヘイ君を天使のWキャストにしようと思っていて、少年は別で探そうと思っていたんですよ。その状況で想さんに写真を見せたら、「彼でいい」と仰って。それで、もともと声を掛けたメンバーでやることになったんです。
北村 写真を見たらわかるんです(笑)。
── 実際に想さんが指導されているところをご覧になって、小熊さん自身も刺激を受けた点があるのではないでしょうか。
小熊 とても大きいです。想さんの語られることが、ストンと落ちるんですよね。わかるように話していただけるから、彼らがそんなに経験がなくても納得できるんだと思うし、僕も演劇教室をやっているので刺激になっています。
北村 ストンと落ちるようには話してるんですよ、難しい言葉を使わないで(笑)。
小熊 そうですよね。すごくわかりやすい言葉で、とっても大事なところをキュッと突いた言葉を選んで提示していただいてると思いますね。「ナビロフト」でいろんなことをやるんですけど、例えば【ロフトDEクリスマス】は地域の人たちに親しんでほしいという意図ももちろんあるんだけど、この場所で人材育成もやっていきたいと考えてるんです。そういったことにもこの公演は貢献してるかなという風にも思うし、彼らに想さんと一緒に作業する機会を提供できたということは、とても意義があることだなと思ってます。
北村 インシデンタルなギフトになりましたね。彼らにとっても、私にとってもそうですよ。
小熊 逆に彼らの経験が浅いということが良い部分もあったであろうと。
北村 そうね。中途半端に経験のある人はね、それをあんまり良い意味ではなくてスタイルというかフォルムを身につけちゃってるから、それを壊さなきゃなんないんですよね。その手間は無かったね。
小熊 きっと彼らのテクニカルな部分じゃなく、とてもピュアな部分の魅力が非常に出てくるような作品になるんじゃないかなと思います。
北村 それは最初に言ったんです。テクニックを使うところは使いますけどね、テクニックでやるもんでもないんですよ、って。上手い人はものすごく上手いんだから、ちょっとしたテクニックをつけてもダメなんですよ。だから先に本当に基本的なものをね。立っている、ということも一つのエネルギーですからね。立っているものが移動するということはどういうことなのかと。ずさんに右から左へ行くっていうわけじゃダメなんです、って。だから、まず役作りをやめなさいと言ったんですよね。役作りをするとね、みんな役に逃げちゃう。逃げやすいような役を作っちゃうんですよね。いわゆる役って、キャラですよね。それに対して注文をつけたことはないんです。ちゃんと彼女の少女A、彼の少年Aというのがあるわけですからね。彼らの未熟なところを小熊が絶妙に受けてくれるんですよね。彼らは気がついてないんですけどね(笑)。とにかく、自分自身に対してと、自分から相手に対して、観客に対して、と細かく分けて演技というのはどういうものか、というのを説明していっただけで、少女A、少年Aの役作りをこうしろっていうことは一切、口にしません。
── 難しいところですよね。この作品における少女と少年の役は純粋でなくてはいけないし、余計な色が付いていてもいけないわけですし。
北村 これでね、彼女や彼が上手くなっちゃったら面白くもなんともなくなっちゃうんですよ。だから一回限りの芝居なんですよ、これはね。上手くなるっていうことはテクニックを身につけちゃうことですからね。スタイルでやっちゃうから、そうなると面白くなくなっちゃうんですよね。
稽古風景より
── 冒頭でかかる歌ですが、たっぷりと観客に聴かせる演出になっていますね。
北村 河島英五の「てんびんばかり」という歌で、これは廃盤になっていまして、デビュー曲「酒と泪と男と女」のB面なんです。あれはものすごい70年代の歌ですよ。「ごまかさないで」って歌詞がありますけど、あれにはっきり答えないでずーっと生きている人、というのは世情に多いわけです。「暗いのは嫌」という人が多いわけだよね。テレビドラマでも、内容はいいんだけど暗いから視聴率が取れない、というのがあるわけで。暗いのを映画とかで見てみると嘘なんだよな。“作った暗さ”というか、リアリティが何もないですよね。父親の暴力の話とか、一昔前だとどっちかが死ぬ話とかね。
『悪魔の…』を自分なりに咀嚼し直して、俺の中に何があったかというと、『フランダースの犬』とか『マッチ売りの少女』とかで。あれ、暗いですよ。だって死ぬんだもん、どっちも。だけど、いわゆるラストがハッピーではないんだけど感動するわけじゃないですか。だからこれはそういう系統なんだなと思ったんです。それなら胸を張ってクリスマスに見せていいんじゃないかと。最初は、【ロフトDEクリスマス】で親子で観に来られてどうかな? と思ったんだけど、「いや、これはいいじゃん」と思ったんです。ひとつの童話といいますか、メルヘンですよね。彼らが雪の中で凍死していく時に、“二人で見た夢”という風にも解釈できるわけですよ。そうするといいクリスマスだな、とね。
無神論者でも神様のことを考えなくても「神様っているんじゃないだろうか?」ってふとね、その日だけでも思ってもらえればそれでいいですよね。今まで映画になってる『34丁目の奇跡』でも『ホワイトクリスマス』でも、だいたいその夜だけはなんとなく神様がいる、みたいになってますよね。説得力じゃなくて納得力があるんですよね。別にそれはキリスト教徒であろうがなかろうがそういう問題じゃなくて。普段はやっぱり、死ぬのは怖いじゃないですか。でもどうしたって人間は死にますからね。「死んでも別にいいんだ」という風に、ふと思う日があればそれでいいと思うんですよね。
── 劇作家役の小熊さんが登場してからも、「てんびんばかり」の曲だけが長い間流れますが、その演出意図というのは?
北村 8分30秒ありますからね。あれはものすごい衝撃的な歌ですから、冒頭に持ってこられると後からの芝居は困るはずなんですよ。けれどもあれを冒頭に持ってきても、あとの芝居でおそらく冒頭の歌を忘れます。つまり、「ごまかさないで」という歌詞に対して本編が答えればいいわけでしょ。すごく迫ってる言葉を突きつけられると、今生きている人にとっても厳しいところがありますよね。それを本編で覆したところで最後にもう1曲持ってくるわけです。だから最初と最後の歌が「いい選曲だった」と思われたら本編が良かった、ということですよね。これはある種のギフトだったですね、2曲とも。この演出を始めてから偶然聴いて、「これでまとめられる」と思った。わりとね、そういうのが多いんですよ、芝居なんかやってると。何か降りてくるものがあるんです、不思議とね。こういうのがあるから面白い。だから演劇はまだ、捨てるべきではないと思ってますよ。
稽古風景より
ラストでかかる曲は、最近の曲ながらおそらく“知られざる”と言っていい選曲。こちらは上演を観てのお楽しみにつき、心に留まった方は終演後、演出家や劇場スタッフにお尋ねを。また、「地域の方やカップル、親子連れなど、普段あまり演劇を観ない人たちも舞台にふれる機会になればいいなと思って、昼公演を多くしたり価格も随分安価にしました」と小熊。クリスマスのひと時、まさにギフトのような公演をご堪能あれ。
■作・演出:北村想
■出演:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)、森らんぽ。(はなはな団)、オオノショウヘイ(劇団マネキン)、尾國裕子(無所属・新人)
■日時:2017年12月21日(木)19:30、22日(金)14:00・19:30、23日(土)11:00・15:00、24日(日)14:00
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:一般/前売・予約1,500円、当日1,800円 大学・専門学生/前売・予約1,000円、当日1,300円 中学・高校生/前売・当日共に800円 小学生/前売・当日共に500円 ※大学生以下の方は受付で身分証明書を提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:Loft Plan 090-9929-8459
■公式サイト:ナビロフト http://naviloft1994.wixsite.com/navi-loft