古川雄輝インタビュー 「1日3時間しか歩けなくなった」過酷すぎる『風の色』の撮影現場で国際派俳優が得たものとは

インタビュー
映画
2018.1.16
古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

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『猟奇的な彼女』『僕の彼女はサイボーグ』で知られるクァク・ジェヨン監督の最新作『風の色』が1月26日(金)から公開される。本作では、恋人・ゆりの死をきっかけにマジシャンになることを決意した主人公・涼と、涼に瓜二つのマジシャン隆との再会を望む女性・亜矢という、二組の男女の不可思議なラブストーリーが描かれる。涼と隆を一人二役で演じたのは、『ライチ☆光クラブ』やNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』、Netflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』など、多種多用な映画・ドラマに出演し続ける古川雄輝だ。高校時代から約11年間をアメリカで過ごし、ドラマ『イタズラなKiss〜Love in TOKYO』主演をきっかけにアジアでも人気を獲得するなど、国際的に活躍する古川だが、日韓合作映画に主演するのは今回が初。韓国映画クルーとのコミュニケーション、北海道の過酷な寒さの中でのロケ、そして水中脱出イリュージョンといった危険なマジックにも自ら臨んだ若き国際派俳優は、どんなスタンスで作品に携わったのか。インタビューで語ってもらった。

 「撮影が終わって2、3週間は1日3時間くらいしか歩けなかった」

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

――クランクアップから2年経ちますが、完成した本編をご覧になっていかがでしたか?

日本映画で日本のキャストが演じていますが、脚本も監督も韓国の方ですから、普通の日本人の感覚とは違う、海外映画っぽい感じがしました。僕は英語が喋れるんですが、韓国での上映会では、英語の字幕を読むのと日本語のセリフを聞くのとで、だいぶ違う印象を受けました。

――脚本を読まれた時にはどう思われたんでしょう?

韓国の監督と脚本家の方が描いているので、日本人との感覚のズレを感じてプロデューサーと監督に相談しました。例えば、この作品はモノローグが多いので、「この独り言は言わないと思います」とか。「愛してます」のセリフには「“好きです”がいいです」という風にです。英語の字幕で観たときに、「I Love You.」は不自然ではないんですが、日本人からしたら(「愛してます」は)不自然。そんなズレについてはお伝えして、あとは監督に判断していただきました。

――疑問に思われたことは積極的に解消されたんですね。監督の前作『時間離脱者』のスタッフそのままで撮影されているそうですが、日本の現場との違いを感じましたか?

助監督さん以外が韓国の方でしたが、韓国スタッフの現場というよりも「クァク・ジェヨン組がそうなんだろうな」と感じました。(撮影シーンがどうなるのか)誰もわからない。監督は「夕日が綺麗だ!これを撮ろう」と、その日その日で頭の中にある感覚で撮影をするんです。それに全スタッフ・キャストが対応していく。衣装などもすべてロケバスに入れているんです。僕も「20分後にこのマジックをやろう」と言われ、練習して撮影しました。監督を信用してやっていくしかない……そこが一番大変だった印象です。ただ、すごく良いと思ったのは、撮ったものに曲を入れて編集して、その日にすぐに見せてくれことです。撮影中に迷子になる瞬間があっても、「なるほど。こうなるんだ」と思える。だから次の日もちゃんと演じることができました。

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

――ライブ感がある現場ですね。ほかに印象的だった撮影はありますか?

回想シーンでは、わざとセリフを逆から言いました。「こんにちは」なら「はちにんこ」という風に。それをスローモーションで撮って逆再生する。そうすると人は逆に動いていているけれど、くちびるは「こんにちは」って、普通に動いている。独特な撮り方をしているんです。

――物理的に大変な撮影はありましたか? 昨年行われた舞台挨拶では、氷水に入る場面を過酷なシーンとして挙げてらっしゃいましたが。

入りましたね(苦笑)。一応、台本にはあったんですが、大体はプラスチックの偽物の氷を使うんですよ。でも、今回はそれが本物だったんです。その時は「氷入れたのか」くらいの感覚で、どれだけ冷たいのかも分かってなかったんですが。

――氷水に入るシーンは2つありましたね。

温泉とバスタブのシーンです。温泉は温度を一番低くして氷をドバーっと入れて「氷が溶ける前に入って!」と言われました。僕も「ぬるま湯だし」と思って入ったら、冷たいんですよ。一瞬で氷水になっていました。バスタブの水も0℃以下なんです。人間が入る冷たさを超えているんですよね。しかも、バスタブのシーンは2回やりました。でも、監督に「3回目もやりたい」と言われて、僕の人生で初めて「出来ません!」って言いました。2回目の時は「やるしかねぇ!」と思ってやりましたが、3回目は「もう無理」って(笑)。

――水中から脱出するマジックも大変そうでした。

水中のシーンは温水を使う予定だったんですが、結局真水を使用したんです。スタントマンの方も「キツイ」とおっしゃるくらいで……ウェットスーツの中に熱湯に近いお湯を入れながら、やっとやれました。チェーンも巻いて、手錠をはめて水に入って、はずしてからもギリギリまで芝居して出るんです。そうしたら、低体温症と低血圧で倒れちゃって。でも、その日のうちに撮らないとダメなので、しばらく休んでから撮影しました。僕、いまでも「なんで真水を用意したんだろう?」って思うんですよね(笑)。

 (C)「風の色」製作委員会

(C)「風の色」製作委員会

――過酷なエピソードだらけですね。

ほかにも、海の中から出てくるシーンもありました。真夜中の北海道なので氷点下以下なんですが、本当に飛び込んでいます。真っ暗な海に飛び込むのは怖いんですよね。飛び込んで潜ってから、用意スタートでバーッと出てくる。そのシーンは一発OKだったので、よかったです。

――映像でも身体から湯気が出ていました。

それは身体がまだ暖かかったので、蒸発しちゃって。でも、湯気で綺麗に見えていたので良かった(笑)。僕、リアルに体調を壊して、撮影が終わって2、3週間は1日3時間くらいしか歩けなかったんです。頭痛持ちではないんですが、頭痛がして、寝っ転がらないと歩けない。今までやった作品の中で断トツで一番大変な映画でした。その代わり、面白かったこともたくさんありました。2か月間の北海道でロケの間、ご飯がとてもおいしいかったですし。そういう楽しさがある反面、大変な現場でしたね。
 

海外作品で得たのは“対応できる能力”

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

――Mr.マリックさんの監修のもと、マジックにも挑戦されていますね。

いろいろと教えてもらって、事前には1、2回の練習をしました。マジックも基本は撮影の20分前に何をやるか決まるので、すぐできるものを習得して、あとは見せ方を練習しました。監督がどのマジックをやりたいのかがわからないので、合間に“これならできる”とか事前にネタを仕入れておいて、監督に言われたら見せる。そうやって、いつでも対応できるようにしていました。現場にはアシスタントの方が帯同されていて、マリックさんは最後の大がかりなマジックにいらっしゃいました。

――マジックも現場に来るまでわからないんですね。どういったマジックを習得されたんでしょう?

紙でバラを作って、燃やすとバラが出るとか。カード系は多いです。コインはどうしても何度も練習しないとダメなので、2週間はテレビを観るときに練習していました。(タネの)隠し場所もいろいろと学んだので、テレビとか見ていると“ここに隠している”とかわかりますね(笑)。

――習得されたマジックをプライベートでお披露目されたことはありますか?

コインは準備が必要なのでやりませんが、トランプなら今でもできます。ドラマ(『重要参考人探偵』)の現場でもキャストの皆さんの前で披露したら「おぉ!」って(笑)。
 

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

――撮影以外でも役に立って本当によかった(笑)。ちなみに、今回の撮影で俳優・古川雄輝にとって一番のプラスになったことはなんでしょう?

“対応できる能力”ですね。僕ら日本人は「海外の人を大雑把」だと見ているけれど、海外の人からしたら「日本人はきっちりしすぎていて、おかしい」って思っている。なので海外の雰囲気はよい経験だったと思います。

――今後も日本のみならず、海外の作品も視野に入れてらっしゃるんでしょうか?

日本の作品に出演するのは当たり前ですが、海外作品に携わっている役者さんは少ないと思うんですね。今後も機会をいただければ、国を問わずにいろいろな作品に携われればいいなと思っていますし、まだまだいろいろな役柄を経験することはプラスだと思っているので、今後もチャレンジしていければと思っています。

――昨年はどんな年でしたか?また今年はどんな年にしたいですか?

毎年目標にしているのは「ステップアップすること」なんですね。去年よりも下がらずに、一段でもいいのでステップアップすることが重要だと思っています。役者としても人としても、去年より成長したと感じることができれば“目標達成”なんです。30歳になったので、大人の男性になっていたいし、目標にしたいと思っています。

――どんな大人の男性になりたいのでしょう?

たまに、値段が書いていない店があるじゃないですか、そういうお店に入りたいです(笑)。スッっと入って、お酒を一杯頼んで、チャージを気にせず……僕、気になっちゃうんですよね。「いくらなんだろう」とか。それができるようになったら大人。でも、出来ないんですよね。まだ牛丼屋さんとかに行ってますから(笑)。

――最後に、これから『風の色』をご覧になる方へ注目してほしいところを教えてください。

マジックのシーン、特に脱出マジック。あとは流氷とか、北海道の景色ですね。僕はカナダに住んでいましたが、それでも「すごい!」と思いました。景色がすごく綺麗です。そして、インタビューでいかに大変だったか伝われば見方も違うかと思います。

――ご覧になった皆さんには、実感してほしいですね。

「これ、本物だぞ!リアルだぞ」って観てほしいですね(笑)。​

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

古川雄輝 撮影=鈴木久美子

取材・文=Hirayama Masako、撮影=鈴木久美子、ヘア&メイク:赤塚修二、スタイリング:五十嵐堂寿

映画『風の色』は1月26日(金)TOHO シネマズ 日本橋他、全国ロードショー。

プレゼント情報

古川雄輝サイン入り『風の色』プレス 1名様に

撮影=鈴木久美子

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作品情報
映画『風の色』
(2017/日韓合作/日本語/カラー/5.1ch/シネスコ/約 119 分)
監督・脚本:クァク・ジェヨン
出演:古川雄輝、藤井武美、石井智也、袴田吉彦、小市慢太郎、中田喜子、竹中直人ほか
英題:Colors of Wind
主題歌:華原朋美「風の色」(UNIVERSAL J)
挿入歌:Professor Green /Read All About It (Feat Emeli Sande) (USM JAPAN)
原作小説:「風の色」著:鬼塚忠、原案:クァク・ジェヨン(講談社文庫刊)
配給:エレファントハウス/アジアピクチャーズエンタテインメント/カルチャヴィル
 
【ストーリー】
突然目の前から消えた恋人・ゆり(藤井武美)の死から 100 日、彼女との想い出の品々を胸に、失意のどん底からマジシャンになることを決意した青
年・涼(古川雄輝)。その後、“自分と生き写しの人間”の存在に気付き始めた彼は、生前「私たちはまた会える」、「流氷が見たい」と言っていた彼女
の言葉に導かれるように、北海道へと向かう。そして、旅の途中で偶然出会った、亜矢と名乗る、ゆりと瓜二つの女性(藤井/二役)。彼女もまた、2
年前の事故により行方不明になっていた、涼と瓜二つの天才マジシャン・隆(古川/二役)との再会を待ち望んでいた。
(C)「風の色」製作委員会
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