河原雅彦演出・矢崎広主演で再演された人気作品『黒いハンカチーフ』初日レビュー
2015.10.3
レポート
舞台
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河原雅彦演出、矢崎広主演で、マキノノゾミの傑作戯曲を再演することで話題の『黒いハンカチーフ』が10月1日、新国立劇場 中劇場で初日を迎えた。(10月4日まで)
この作品は01年にマキノが主宰する劇団M.O.P.で初演、作者が映画『スティング』をイメージしたというコン・ゲーム(だまし合い)は評判を呼び、翌年にはフジテレビのドラマ『演技者。』の第1作として取り上げられた。今回は矢崎広や浅利陽介ら若手と、初演で主役を演じた劇団M.O.P.の三上市朗、劇団ナイロン100℃の村岡希美、劇団☆新感線の吉田メタルといった小劇団のツワモノたちの共演を、ポップでパワフルな演出家・河原雅彦がまとめている。
物語の舞台は昭和30年代初期。「もはや戦後ではない」といわれながら、人々が生きるのに精一杯だった時代。この時代設定にこそマキノのこだわりがあり、河原演出もそこを大事にしていることが冒頭のシーンから伝わってくる。幕開きは公娼のいる赤線地帯のカフェで、回り舞台でカフェの外の路上から、暴力団の事務所へとつながって転換していく(美術は秋山光洋)。
佐登子ママ(いしのようこ)のカフェの常連は、ソファで昼寝するので「ひるね先生」と呼ばれる町医者の日根(矢崎)、それぞれ個性的な娼婦たち、京子(村岡)、富美子(宮菜穂子)、曜子(まりゑ)、夢子(武藤晃子)、近所の暴力団の下っ端、宮下(浅利)や村木(桑野晃輔)など。
この日も日根がふて寝していると、ひとやま当てて逃げようという宮下が、娼婦の中でも気のいい夢子に片棒を担がせようと相談している。ところが、夢子が店を出たとたんに看護婦の美都子(加藤未和)が「先生、急患です!」と飛び込んでくる。そこでオープニングタイトル。出演者が舞台前に出ると、役名・キャスト名が映像で表示され、最後に黒いハンカチーフに書かれたタイトルが上から下がる。BGMも格好よく、続きへの期待が高まる。
この作品は01年にマキノが主宰する劇団M.O.P.で初演、作者が映画『スティング』をイメージしたというコン・ゲーム(だまし合い)は評判を呼び、翌年にはフジテレビのドラマ『演技者。』の第1作として取り上げられた。今回は矢崎広や浅利陽介ら若手と、初演で主役を演じた劇団M.O.P.の三上市朗、劇団ナイロン100℃の村岡希美、劇団☆新感線の吉田メタルといった小劇団のツワモノたちの共演を、ポップでパワフルな演出家・河原雅彦がまとめている。
物語の舞台は昭和30年代初期。「もはや戦後ではない」といわれながら、人々が生きるのに精一杯だった時代。この時代設定にこそマキノのこだわりがあり、河原演出もそこを大事にしていることが冒頭のシーンから伝わってくる。幕開きは公娼のいる赤線地帯のカフェで、回り舞台でカフェの外の路上から、暴力団の事務所へとつながって転換していく(美術は秋山光洋)。
佐登子ママ(いしのようこ)のカフェの常連は、ソファで昼寝するので「ひるね先生」と呼ばれる町医者の日根(矢崎)、それぞれ個性的な娼婦たち、京子(村岡)、富美子(宮菜穂子)、曜子(まりゑ)、夢子(武藤晃子)、近所の暴力団の下っ端、宮下(浅利)や村木(桑野晃輔)など。
この日も日根がふて寝していると、ひとやま当てて逃げようという宮下が、娼婦の中でも気のいい夢子に片棒を担がせようと相談している。ところが、夢子が店を出たとたんに看護婦の美都子(加藤未和)が「先生、急患です!」と飛び込んでくる。そこでオープニングタイトル。出演者が舞台前に出ると、役名・キャスト名が映像で表示され、最後に黒いハンカチーフに書かれたタイトルが上から下がる。BGMも格好よく、続きへの期待が高まる。
宮下(中央・浅利陽介)の思いにほだされる日根(右・矢崎広)
夢子の死で姿をくらますものの町に戻ってきた宮下は親分の牛島(伊藤正之)と子分キヨシ(吉田)に追われるが、殺された女のかたき討ちをしたいのだと言う。相手が大物過ぎて、警察は相手にしてくれないから、自分で…というと、仲間の娼婦たちも「虫けらにだって五分の魂があるっていうじゃないか」と賛同。男気のある日根は、一度だけ節を曲げて彼らに協力することにして、新聞に「黒いハンカチーフ拾った。落とし主の連絡を乞う」という三行広告を打たせる。実は彼は、伝説の詐欺師フジケンの息子だったのだ。
日根役の矢崎は、父の稼業を嫌って医者になったが、ドスの利いた声でどなったりもするという、これまでにない役柄を渾身の力で演じている。浅利は、そんな彼の相方ともいえる愛すべきおバカなお調子者を、これまた体を張った演技で見せる。
詐欺仲間の松平(おかやまはじめ)は和ませ役で、神谷(橋本淳)は尖がったキャラ。フジケンを追い続けた定年間近の銭田警部補(三上)と、まじめな若手の鬼塚(松田凌)のチームともども、ベテランと若手の関係が楽しい。初演で日根を演じた三上は、今回の役のため老け作りをしながら、いかにも楽しそうだ。
娼婦トリオは、思いやり深かったり、投げやりだったり、クールだったりのキャラをみせながら、チームをあおる。いしのの佐登子ママはおっとり全体を包み込む役で、ホルンを吹く傷痍軍人(高木稟)にお金をあげたりしているが、そのホルンの男にも意外な見せ場が!?
牛島親分の伊藤は、すごんだかと思えばママにデレデレしたり、事務所でも虎の剥製をかわいがったりと、キャラの振れ幅がすごくて笑わせる。キヨシの吉田はしゃべりでも動きでも笑いをとるが、2幕でまったく別のエリートキャラで新境地開拓!と思わせる。実に情けないチンピラ村木役の桑野も、2幕ではちょっと天然なホテルのボーイがかわいい。 このように役者の多彩なパレットのような舞台だが、2幕の圧巻は巨悪・海老沢(鳥肌実)と、その秘書・小田桐(神農直隆)。TV版では海老沢の息子を演じたという鳥肌は、この作品の「飛び道具」で、ものすごく悪い奴なのに、どれだけ笑わされるか。男前な小田桐との関係も気になる。そして衝撃を受けた小田切のその後は?
音楽好きな河原の選曲は舞台をクールに盛り上げて、上演時間があっという間。「クールだけどホットな舞台が見たい」という方にお勧めのエンターテイメントに仕上がっている。
【文/笠松綾 撮影/阿部章仁】
■作:マキノノゾミ
日根役の矢崎は、父の稼業を嫌って医者になったが、ドスの利いた声でどなったりもするという、これまでにない役柄を渾身の力で演じている。浅利は、そんな彼の相方ともいえる愛すべきおバカなお調子者を、これまた体を張った演技で見せる。
詐欺仲間の松平(おかやまはじめ)は和ませ役で、神谷(橋本淳)は尖がったキャラ。フジケンを追い続けた定年間近の銭田警部補(三上)と、まじめな若手の鬼塚(松田凌)のチームともども、ベテランと若手の関係が楽しい。初演で日根を演じた三上は、今回の役のため老け作りをしながら、いかにも楽しそうだ。
伝説の詐欺師フジケンを追っていた銭田警部補(左・三上市朗)が日根(右・矢崎広)に迫る。
牛島親分の伊藤は、すごんだかと思えばママにデレデレしたり、事務所でも虎の剥製をかわいがったりと、キャラの振れ幅がすごくて笑わせる。キヨシの吉田はしゃべりでも動きでも笑いをとるが、2幕でまったく別のエリートキャラで新境地開拓!と思わせる。実に情けないチンピラ村木役の桑野も、2幕ではちょっと天然なホテルのボーイがかわいい。
組長の牛島(右・伊藤正之)とキヨシ(中央・吉田メタル)の脅しにも屈しない日根(左・矢崎広)
海老沢(左・鳥肌実)の反応に驚く、変装した日根(矢崎広)
【文/笠松綾 撮影/阿部章仁】
公演情報
『黒いハンカチーフ』
■作:マキノノゾミ
■演出:河原雅彦
■出演:矢崎広、いしのようこ、浅利陽介、村岡希美、吉田メタル、鳥肌実、三上市朗、伊藤正之 ほか
■期間:10/1~4
■会場:新国立劇場 中劇場
■料金:SS席8,800円 S席7,800円 A席5,500円(税込)
※SS席は、先行販売のみ取り扱い
〈お問合わせ〉る・ひまわり 03-6277-6622
http://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00350