演技は「学ぶ」ものなのか?~銀座九劇アカデミア「アドラー・スタジオ」ロン・バラス主任講師を囲む座談会レポート
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(左から)岩上紘一郎氏、ロン・バラス氏、梶原涼晴氏
■ 銀座九劇アカデミアという新たなる“場”
歌舞伎座を裏手にまわり、その周辺を歩いてみると、大都会のど真ん中とは思えないほどに静かな空間が広がっている。活版印刷のお店や老舗と呼ばれる和食の名店。表通りの派手な雰囲気とは一線を画すノスタルジックな街並みは、有楽町線でいうと銀座一丁目から新富町までを指すエリア。地図上の表記も、銀座1丁目だ。
竣工1929年。90年近い歴史ある鈴木ビルの2階に、「銀座九劇アカデミア」はある。2017年、銀座九劇アカデミアは、“プロフェッショナルの、プロフェッショナルによる、プロフェッショナルのための「エンタテインメント研究所」”としてスタートを切った。ここでは演劇、ダンスなどのワークショップが企画されており、プロフェッショナルたちによる鍛錬の場となっている。
2017年3月、こけら落とし公演『あたらしいエクスプロージョン』(作・演出/福原充則)が上演されたのは、その新設が話題となった浅草九劇だった。芸能プロダクションのレプロエンタテインメントが企画・運営する劇場であり、その基盤となる学びの場として設けられたのが銀座九劇アカデミアだ。
これまでにカンパニーデラシネラの小野寺修二氏、ベッド&メイキングスの富岡晃一郎氏・福原充則氏といった面々が、ワークショップを敢行。演劇やダンスをプロフェッショナルが考察し、実験する場として機能している。
銀座九劇アカデミア内観
■ 演技を学ぶ意味、現場主義の是非
去る12月15日、銀座九劇で興味深い座談会がおこなわれた。少々長いタイトルだが、正確に記しておこうと思う。
ステラ・アドラー・スタジオ・オブ・アクティング主任講師ロン・バラス氏を囲んで
日本の演技教育における環境とその展望
~ぶっちゃけ演技を学ぶ意味ってあるの?現場じゃダメ?~
まさに銀座九劇アカデミアの命題である「学び」についての議論が、この座談会では繰り広げられていた。
座談会の模様を紹介する前に、少し説明が必要だろう。ステラ・アドラー・スタジオ・オブ・アクティングとは、かつてロバート・デ・ニーロやマーロン・ブランドらが門を叩いたニューヨーク屈指の演技スクールだ。そこで学んだ演出家の梶原涼晴氏が、ステラ・アドラーの演技理論を継承するロン・バラス氏を呼んで話を聞くというもの。さらには、キャスティングディレクターの岩上紘一郎氏がパネリスト(兼通訳)として登壇した。
(左から)岩上紘一郎氏、ロン・バラス氏、梶原涼晴氏
(左から)ロン・バラス氏、岩上紘一郎氏
テーマはタイトルそのもの。「演技とは学んで獲得するものなのだろうか」という、演者ならばいつも問い続けることだ。
並行してワークショップも開催。座談会も含む本企画は1年ほどの準備期間を費やしたという。座談会では梶原氏が司会進行を務める。「現場の叩き上げ」という言葉があるように、「学ぶより、慣れろ」が慣習のようになっている日本の映像や演劇の世界のあり方について、梶原氏は質問をぶつける。
梶原 いきなり本題からお聞きします。演技を学ぶ意味とは?
ロン かつて、俳優の仕事はファミリービジネスでした。家系や血筋で受け継いでいく職業だったんです。
梶原 歌舞伎も一緒ですね。世襲なんですよね。
ロン 時代は変化し、経済や生活が近代化し、俳優の仕事はごく小規模な家族が独占するものではなくなりました。2~3年前にインドで教えたことがありましたが、僕のレッスンを受けた俳優は父親も俳優で、さらにプロデューサーでした。インドの映画産業は今もファミリービジネスというわけです。(中略)そこで先ほどの質問ですが、演技を現場主義でやっても成立します。ただし、ある程度のレベルに達するまで12~13年はかかるでしょう。なんの教えもないまま膨大な時間をかけてレベルアップするのは合理的ではありません。アクティングスタジオの存在は、そのプロセスを短縮するという合理性があるのです。学ぶことは、賢い方法だと思います。
(左から)岩上紘一郎氏、ロン・バラス氏、梶原涼晴氏
ロン・バラス氏
加えて、ロン氏は「俳優には情熱が必要」と訴えた。「音楽やスポーツもそうですが、みなさんがやりたいと思っているその仕事(役をもらうこと)は、ほかの多くの人々にとっても手に入れたいものなのです。だから、情熱的であってほしい」
■ “場”が生み出す今後の相乗効果に期待
意外だったのは、ロン氏が決して現場主義的な状況に対して否定的でなかったことだ。効率的ではないが、演技を現場で体験することも認めている。スタジオで学ぶこととの方法の違いであると考えているロン氏だったが、それだけ彼が演技指導者としての地位と実力を獲得している証しでもあるような気がする。
日本の映画の撮影所や演劇の現場を見ると、大部屋システムや新劇の養成所など、現場から派生した形で演技を学ぶスクールが増えていった経緯がある。ステラ・アドラーはロシアのスタニスラフスキーから教えを受け、システムを採用している。日本でもスタニスラフスキー・システムを主なるメソッドとして俳優教育をおこなっている研究所は多い。俳優座や文学座は、現在も毎年研究生を募集。ちなみに青年座研究所でのマイムの授業では、ルコック・システムを導入している。
英語と日本語が交互に飛び交い、終始国際色豊かな座談会であった。梶原氏と親交のある脚本家の江良至氏も登場し、シナリオライターの立場から見る俳優の重要性について語る場面もあった。
(左から)梶原涼晴氏、江良至氏
江良至氏
俳優がスクールで学ぶべきか否か? その結論を出すのは早計かもしれない。ロン氏が現場主義を否定していないことからもわかるように、たとえば、イラストレーターとして活躍していたリリー・フランキーが俳優としてオファーが絶えない存在となったことはよく知られている事実だ。それでも、こうして座談会に出席して真剣にメモをとる若い俳優たちの真摯さも心を打つ。プレス記者としてそこにいた筆者に、彼らは感動を与えていたのだった。
(左から)梶原涼晴氏、江良至氏、ロン・バラス氏
(左から)ロン・バラス氏、岩上紘一郎氏
銀座九劇アカデミアは、今後どのように俳優を送り出し、育てていくのか。また、いかように若い俳優を受け入れていくのか? 劇場とのコラボレーションや、銀座九劇アカデミアがワーク・イン・プログレスの場として機能していく期待もある。
銀座九劇アカデミアでは、2018年2月に、阿佐ヶ谷スパイダース主宰・長塚圭史氏によるワークショップ『小説・詩と走る朝の960分』/『戯曲と歩く午後の960分』を予定している。
取材・文=田中大介
■日時:
2017年12月13日(水)14日(木)16日(土)18日(月)19日(火)20日(水)各18時~21時
2017年12月22日(金)13時~16時(発表会)
■参加費108,000円
■定員:15名~最大30名
■日時:
2017年12月13日(水)14日(木)15日(金)16日(土)18日(月)19日(火)20日(水)21日(木)各11時~17時
■参加費162,000円
■定員:15名~最大30名
■公式サイト:https://asakusa-kokono.com/academia/