瀬戸内の犬島で幻想と現実が入り混じる移動演劇
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産業からアートの島へ変貌した島の今と昔に触れる
岡山市東区の瀬戸内海に浮かぶ犬島。ベネッセのアートプロジェクトの舞台などになり、また、経済産業省による「近代化産業遺産群 33」のうちの「story30」に認定されるなどで注目を集めている。海辺に立つ銅精錬所のカラミ煉瓦造りの工場跡や煙突などは、なんだかある意味、絵本に登場するファンタジックな風景のよう。近代化産業遺産の遺構に刻まれた夢の痕跡、石材業の興亡が物語る人の流転、過疎化と高齢化に見舞われてきた負の現実などなど、いわゆる“浦島太郎”状態とでも言える、ぽっかりと空いた時間の“空白域”のような場所や事象が数多く残っている。高松港から船でわたる、そのワクワク感がよりそんな雰囲気を高めてくれるのかも。維新派などを招へいした「海の劇場」シリーズなどでその“空白域”を埋める試行錯誤を続けてきたのが、アートファームが2002年から取り組んできた舞台芸術の創造発信事業。岡山県の演劇・ダンスシーンを育ててきたNPO法人だ。
その新作『URA-SHIMA』は、犬島を舞台に繰り広げる観客参加型の移動野外劇だそう。産業の島からアートの島へと変貌を果たした犬島と、浦島太郎伝説の時間と虚構のロジックを駆使した物語で、瀬戸内海に多くの小さな島が浮かんだ風景が独特の美しさを感じさせる海水浴場や、銅製錬所を美術館として保存活用した近代化産業遺産を舞台に、俳優と風景が、そして幻想と現実が解け合いながら混じり合い、交錯し、進行していく。
かつて、大阪で「芝居屋坂道ストア」を率い、現在は岡山に居を構えながら劇作を続けている角ひろみががテキストを手がけ、今や役者やダンサーとしてだけでなく演出や振り付けで引き手あまたのカンパニーデラシネラの小野寺修二が不思議世界へと観客を誘う。彼らが“案内人”を務めるのなら、いろんな世界の扉がノックできそうだ。
演出:小野寺修二
美術:松岡泉