図抜けた歌唱と楽しいトーク! イタリアのテノール・トリオ「IL VOLO(イル・ヴォーロ)」来日公演ルポ
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テノール・トリオ「IL VOLO(イル・ヴォーロ)」。左から、ジャンルカ、イニャツィオ、ピエロ
3大テノールのルチアーノ・パヴァロッティ(1935~2007)が亡くなって早10年。バリトンへ転向したプラシド・ドミンゴは、ヴェルディ作品でバリトン役のレパートリーを拡大しながら、指揮者としても活躍。ホセ・カレーラスは新作オペラに出演したり、リサイタルで来日したり。もしパヴァロッティが長生きしていたら……。「ポスト3大テノール」といわれるスターは複数いるが、3人でのコンサートは成立していないのだ。
そんな状況下、イタリアのクラシカル・クロスオーバーのテノール・トリオ、IL VOLO(イル・ヴォーロ)が欧米で人気を博し、ついに日本に。「3大テノール」を彷彿させるグループにと、TVオーディションをきっかけに結成され、10代半ばにデビューして7年になる。メンバーはジャンルカ・ジノーブレ、イニャツィオ・ボスケット、ピエロ・バローネ。
来日公演は東京と川崎の2カ所で、どちらも完売。川崎での「Notte Magica~魅惑の夜~」公演に出かけたが、満員の客席を終始大いに沸かせた。
会場のカルッツかわさき(神奈川県川崎市)は、約2000人収容のホール
プログラムは、昨年イタリアのフィレンツェでドミンゴとの共演がかなった「3大テノールに捧げるコンサート」でのクラシカルな曲を軸に、カンツォーネやミュージカル曲、オリジナル曲など、計20曲余り。本家本元「3大テノールコンサート」の演目をベースにしており、オペラ『トゥーランドット』のアリア『誰も寝てはならぬ』や、カンツォーネの『帰れソレントへ』『オー・ソレ・ミオ』など、名曲揃いである。また、個々の特長を生かして、ソロあり、デュオあり、トリオありで、オーケストラをバックに歌い上げる。まさに「3大テノールコンサート」と同じようなシチュエーションなのだ。
オープニングは3人で『誰も寝てはならぬ』。ジャンルカが甘くムーディーな声で歌い始め、ピエロがハイトーン域を美しく響かせると、すでに観衆はうっとり。イニャツィオも、名シーンが目に浮かぶような歌唱で、トリオで高らかにフィニッシュすると、とても1曲目とは思えない盛り上がり。この状態が最後まで続くのである。
笑い満載のトークも全開。
「パヴァロッティ……、カレーラス……、ドミンゴ……、に捧げるコンサートにようこそ」と絶妙の間をとり、自分たちを3大テノールの面々に見せるフェイントをかませて、のっけから観客のハートをゲット。陰マイクで日本語に同時通訳され、若者らしいユーモアに富んだ会話がムードメーカーのイニャツィオを中心にテンポよく展開していく。
しかし音楽が始まると瞬時に大人のクラシカルな歌手の顔になり、それぞれの個性を発揮して歌うのだった。
ロマンチックな貴公子キャラのジャンルカ
ジャンルカは、ロマンチックでスィートな魅力を、レオンカヴァッロの『朝の歌』やロッシーニの『踊り』、ロドリーゴの『アランフェス』などで表現。歌い終えるたびにファンがステージに詰めかけ、抱えきれないほどの花束プレゼント攻撃! これには驚いた。
ムードメーカーのイニャツィオは「Mr.カンツォーネ」タイプ
イニャツィオは「ミスター・カンツォーネ」と呼びたくなるおおらかなイタリアン。パヴァロッティの十八番だったオペラ『愛の妙薬』の『人知れぬ涙』を熱唱したり、ミュージカル『ウエストサイド物語』の『トゥナイト』を天性の明るさで表現したり……。
ハイトーンで朗々と歌うピエロは、オペラ歌手の風格
ピエロはすでにオペラ歌手の風格で、カレーラスの得意な『グラナダ』では、曲中の感動的なロングトーンに拍手が! ドミンゴの真骨頂『トスカ』の『人知れぬ涙』やフランク・シナトラのヒット曲『マイ・ウェイ』もスケール感たっぷりで、ソロサバルの『ありえない』を伸びやかな高声で朗々と歌うとホールが響き、喝采が暫く鳴り止まなかった。
お互いの歌唱を讃美し合う。見ていて気持ちいいシーンだ
また、ローマ法王の前でも披露したオリジナル『アヴェ・マリア』では、ジャンルカが「カトリック信者の一人としてとても感激しました。CDに録音してフランチェスコ法王にプレゼントしました」と思い出を感慨深げに語ったりも。
「日本の女性はエレガントですね」とリップサービスもなかなかのもので、20代前半とは思えないステージ運びだった。イニャツィオが「日本で本物の寿司のおいしさにビックリしました。いろんな人に出会って、忘れられない思い出がたくさんできました。また来年帰ってきたいです!」と締めくくり、客席の手拍子とともにオペラ『椿姫』の『乾杯の歌』を歌い、盛り上がってエンディングとなった。
盛り上がったフィナーレ。左から3人目は、指揮者のマルチェッロ・ロータ
アンコールで、ヒット曲『グランデ・アモーレ』を歌い終わると、客席はスタンディングオベーションに。あちこちから「ブラボー!」が飛び交い、ステージのエプロンには握手を求める大勢のファンが!
休憩なしでたっぷり2時間。熱気に包まれ、興奮した観客のおしゃべりが終演後も暫くそこかしこから聞こえた。
「素晴らしくて! 最後に2階席から下りてきてよかった。ピエロと握手ができた」
「花を用意してくればよかった。まあ、今年は予行練習、来年の本番ではジャンルカにいっぱい渡すから(笑)」
「みんな成長の真っ只中で、応援しがいがある。イニャツィオがさらに成長して、カンツォーネをたっぷり歌うのをゆったりと聴いてみたい!」などなど。
伸び盛りのイタリアン「テノール・トリオ」の今後が楽しみだ。
文=原納暢子
■日時:2017年12月01日(金) 18:30~
■会場:カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)
■出演:IL VOLO (ジャンルカ・ジノーブレ、イニャツィオ・ボスケット、ピエロ・バローネ)
■曲目:オペラ『トゥーランドット』より『誰も寝てはならぬ』、オペラ『愛の妙薬』より『人知れぬ涙』、オペラ『トスカ』より『人知れぬ涙』、レオンカヴァッロ『朝の歌』、ロドリーゴ『アランフェス』、『帰れソレントへ』『オー・ソレ・ミオ』他
■公式サイト:http://tate.jp/concert/IL%20VOLO/concertgilvolo.html