ドレスコーズ志磨遼平監修レーベルから新作リリース、ギリシャラブとは何者なのか?
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ドレスコーズ・志磨遼平監修のレーベル「JESUS RECORDS(イエスレコード)」から新作E.P.『(冬の)路上』をリリースした京都在住の5人組、ギリシャラブ。近年流行りのシティポップスを匂わせたかと思えば、往年のロックバンドが醸すクラシカルなサウンドメイクが耳に残る。胸をざわつかせるその音の理由を探るべく、バンドの作詞・作曲を担当するボーカルの天川悠雅にメールインタビューを試みた。
――バンド名の由来は?
ギターの取坂とバンド名を決める話し合いをしていたとき、「ラブ」という言葉を使うことはなぜだか忘れてしまったけれど決まっていて、でもそれと組み合わせる言葉がなかなか見つからなかった。それで携帯(当時まだ「ガラケー」だった)の画面を開いて、ポータルサイトのヤフーのニュースで、二〇一四年のブラジルワールドカップのニュース、日
本代表のグループリーグの対戦相手(コートジボワール、ギリシャ、コロンビア)を見、「コートジボワールラブ」でいいんじゃないか、となげやりにいったところ、取坂に「ふざけるな」といわれてしまった。しかしそれでぼくはより一層なげやりになって、「ギリシャラブ」は、といったら、なんとそれが通ってしまった。
――志磨遼平さんからの熱烈ラブコールを受けたときの心境は? 1stコンタクトから、現在までの心模様を教えてください。
ツイッターで言及してきてくれたときのことですかね、すごくうれしかったですよ。たまたまぼくらの曲を聴いて、それで今回のリリースまで関わってくれていることをおもうと、感謝の気持ちと、あとは音楽をやってきてよかったなあ、これからもいい音楽を作るぞ、という気持ちでいっぱいです。
――ギリシャラブの楽曲を聴いていると、天川さんは読書家なのでは? と感じるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?
そうですね、音楽(鑑賞)よりもずっと多くの時間を読書に費やしてきたとおもいます。
――好きな本&影響を受けた本を3冊教えてください。
(1)フランツ・カフカ『城』
最高の読書体験というのは、読んだそばから忘れていくもののようなことをいうとおもうのですけれど、カフカの『城』というのはまさにそんな小説で、次の頁どころか次の行を読みおわる頃にはもう前の行のことを忘れてしまう。
セザンヌの有名な絵「林檎とオレンジ」は、林檎の角度が現実にはありえないとかこの積み方では現実には崩れてしまうとかなんとかいわれてますが、ぼくには結構ふつうに見える。その感覚がカフカの城にもあって、全体としてみれば、あるいは読んでいる最中に読者が我に返れば、こんなのおかしい、不思議、という気がするのだけれどぼくは読んでいるときに我に返ったりなんかしないし不思議ともおもわず、ただ文章を、もっと精確にいえば文字を目で追っている、そんな読み方をさせる本だとおもいます。
(2)ジョルジュ・バタイユ『エロティシズム』
この本がどういう本か、ぼくなんかには説明できない、というかたぶん誰にもできない。ひとついえることがあるとするなら、ぼくは、倫理的な判断を捨象して物事を考えるということについては、もっぱらバタイユに学んだという気が確かにします。
(3)フランソワーズ・サガン『逃げ道』
サガン晩年の作品。サガンの作品としては異色の作品、といわれているけれど、それは訳者が朝吹登水子でなくなったことが大きいのではないか、とおもいます。ぼくら日本人にとっては、サガンの文体=朝吹登水子の文体だといっても過言ではないのだから……。サガンの作品はぼくにとっては多かれ少なかれ笑える。なにが笑えるといって上流階級
の軽薄さが笑える。ずっと古びない傑作というものが、文学の世界にはたして存在するのかしないのか、その判断はひとまず置いておくとしてともかくサガンの作品はそれではない。けれど古びているからこそ心から笑える。時を経て、軽薄なものはますます軽薄になっていく。『逃げ道』はもしかしたらはじめてサガンが自覚的に、そして嘲笑的に、軽薄なものを描いた作品だといえるかもしれない。
――曲作りの原動力になることは何ですか?
曲を作るのが好きなので、答えとしては、曲を作るのが好きだという気持ち、ですね。文学作品や映画や絵画や他の音楽や、そういったものにインスピレーションを受けることは多いですけれど、表現したいことが別にあって、その手段として曲を作る、というのはぼくはできないしやりたくないです。現実にはそんなこと不可能なのですけれど、可能な
ら二六時中、曲を作っていたい。
――バンドの資料の中に「ポップとは、わたしが得た跳躍力のことにちがいない」「ポップとは壁を跳び越えるだけのものではなく、壁を壊すものでもある」「意固地にポップなアルバムです」という言葉がありましたが、ポップであることにこだわる理由を教えてください。
少し補足させてください。ぼくがメディア向けの紙資料に書いた文章でいいたかったのは、まず第一に、ポップであるということは、壁、つまりある地点とまた別のある地点を隔てている、意識の上での壁を、壊す可能性を手にすることである、ということ。これは「越境性」に関わる問題です。ポップは越境のための力にもなりうると。それから第二に
いいたかったのは、もし、ポップであるということが、越境、壁を壊して進むことと相容れないという事態が、作品作りの中で生じたとき、ぼくはポップの方をとる、ということ。壁を壊す機会を見送ってでも、ポップな音楽を作るということです。それくらい意固地にならないと、中途半端な作品になるとおもいました。「越境」に関しても、「ポップ」に関しても、自覚的である、ということが、もしかしたら、アドヴァンテージになるかもしれないし、ディスアドヴァンテージになるかもしれないけれど、ともかく、そこにはこだわりたい。
――ギリシャラブにおけるポップ感について、初見のリスナーにもわかりやすく、川柳(五・七・五)で表現していただけますか?
すみません、思いつかない。
ごめんなさい……。
――天川さんは自分のことを、“小難しい人間だなぁ”、または“面倒くさい男だなぁ”と思うことはありますか?
ありません。
――『(冬の)路上』にまつわる、“悲しいor辛い思い出”と“楽しい思い出”を教えてください。
悲しかったのは、埜口が亡くなったことですね、それ以外に思い付かないです。
(※編集部注:前ベーシストの埜口敏博さんが2017年7月14日に25歳という若さで他界。)
楽しかったのは、志磨さんや、エンジニアの藤井さんと、今のぼくらにとって最高のレコーディング環境で作業ができたことですね。とにかく、感嘆することが多かったです。志磨さんのギターアンプも使わせてもらったりしましたけれど、音が良すぎて笑っちゃいました。
――新作『(冬の)路上』の聴きどころと、リスナーの皆さんへのメッセージをお願いします。
『(冬の)路上』には、それぞれに全く違った個性を持った、エッジィな曲ばかりが五曲、収録されています。ぜひ一度聴いて、自分のお気に入りの曲を探してみてください。
取材・文=望木綾子
JRSP-005 ¥1,600(本体)+税
発売元:JESUS RECORDS / sputniklab inc.
<収録曲>
01. からだだけの愛
02. モデラート・カンタービレ
03. ブラスバンド
04. ペーパームーン
05. どういうわけか
2/18(日)新宿レッドクロス
出演:ギリシャラブ、Gateballers、Gi Gi Giraffe
開場/開演: 18:00 OPEN / 18:30 START
2/25(日)京都 西院ネガポジ
出演:ギリシャラブ、カネコアヤノ、折坂悠太(合奏)
開場/開演: 18:00 OPEN / 19:00 START
京音-KYOTO-2018 SATELLITE PARTY
2/2(金)nano
出演:ギリシャラブ、バレーボウイズ、MIZ、unizzz…