マニアの、マニアによる、マニアのためのライブが浮き彫りにした、ロックバンド・ストレイテナーの真髄
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ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
テナモバ presents「STRAIGHTENER MANIA」 2018.2.20 新木場STUDIO COAST
彼らがこれまで幾度となく立ってきた新木場STUDIO COASTのステージには、いつものようにシンプルなセット。いつものSEで登場するいつものメンバー。だが、そこで演奏される楽曲だけが、いつものそれとは全く違っていた。この日は「Melodic Storm」も「From Noon Till Dawn」も「シーグラス」も、定番曲や代表曲は一切やらない日だ。最低でもここ2年はライブでやっていない楽曲群の中から4人それぞれの推し曲をチョイスして構成したライブは、その名も『テナモバ presents「STRIGHTENER MANIA」』。略して『テナマニ』。要するに、マニアックな曲しか演奏されないし、それを観たくて集まった歴戦のオーディエンスたちもまたマニアックな人ばかりという、まさにストレイテナーマニアのための一夜となった。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
音楽に限った話ではないが、何かにどっぷりと浸かってしまった人間にとって、“マニア”というのは絶妙に自尊心を刺激するワードだし誇りともなりえる。それほどドップリと対象に浸っているという、ある種の愛の証明でもある。が、マニアックであるゆえに、普段の日常ではその有り余る偏愛を誰かと共有することはなかなか難しく、一般的とされる層の嗜好や視点とは、どんどん乖離してしまいがちなのもまた事実。そんな拗らせ気味の我々にとってこういう“マニアであることを謳歌できる”空間は大変貴重であり、特にテナーの場合、音楽性やメンバー自身にも拗らせ傾向がないとは言えないバンドだから、ファンクラブ限定で売り出したにもかかわらず、
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
オープニングを飾ったのは、ホリエのアルペジオが導くイントロからいきなり場内を大きなどよめきで包み、無数の拳が突き上がった「COLD SLEEP」。インディーズ時代のシングル収録曲でアルバムには入っておらず、その後再録されるもシングルのカップリングだったという、名実ともにマニアックな一曲だ。この曲も含め活動初期に生まれた曲も多く披露されたが、当時は2人編成だったこともあって比較的ストレートな構成ながら、ビートが強調されていたりブレイクなどのキメポイントが多く、音の感触と個々のステージアクションにおけるバンド感という意味では、いつも以上にアグレッシヴに映る。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
「ストレイテナーマニアのみなさん、ようこそ!」ホリエアツシ(Vo/Gt/Pf)の一言に、「うおおおおー」という歓迎と偏愛と興奮とが混じり合った雄叫びが起こる。「みんなの知らない曲もあると思うんだけど、最後まで楽しんでください」と「REBIRTH」へ。大山純(Gt)の軽快なカッティングで始まり、日向秀和(Ba)が楽しげに腰を揺らしながら繰り出すスラップやソロ、ナカヤマシンペイ(Dr)による渾身の打撃を繰り出しながらのコーラスでも魅せたのは「Stilt」。不穏なマイナーコードの調べからオルタナ魂が炸裂する「STAINED ANDROID」。序盤における一つのピークとなった「Dead Head Beat」では、ファルセットボイスが虚ろに漂う出だしからの激流のごとき展開で場内を揺るがした。大幅にイメージが変わるほどではないが、いずれの曲も細部に至るまで色々とアレンジし直しているようで、ふとした瞬間に気づく原曲との違いも楽しい。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
「みんなが緊張してると思って、ほぐすための心配をしてたのに……なんだ、その心配の要らなさは!」とナカヤマが笑ったように、この日集結したファンに対する「マニアックすぎてさすがに身構えてしまうんじゃないか?」というメンバーの不安は、完全に杞憂に終わった。普段ライブで観る曲は皆無なのに、1コーラス終わるごとに歓声が上がり、まるでイントロクイズかのように冒頭から「キター!!」的リアクションが巻き起こっていく。「歌詞を見てもメロディが思い出せないも何曲かありました」(ホリエ)、「『星の夢』って見たとき『蝶の夢』の誤植でしょ?と思った」(ナカヤマ)、「(加入前の曲が並ぶ箇所で)今からやる曲、一曲も知らねえもん」(大山)、「ちょっと落ち着こう、頭の中パニックになってるから」(日向)などなど、当のメンバーすら戸惑うほどのレア曲の数々。彼らからすれば、ほぼ全曲新曲をやっているくらいの難易度とプレッシャーであることは想像に難くないが、そんな本人たちをよそに、むしろ猛るファンたち。マニアのための宴は、驚くほど高い熱量で進んでいく。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
ホリエが一番やりたかったという「BLACK DYED」は、ファンクやHIP-HOP要素を散りばめながらマッドな仕上がりで、エキゾチックなシンセ音とノイジーなギターの合わせ技も痛快。「KINGMAKER」は、事あるごとに日向が激推ししているだけあって、冒頭から目まぐるしく動き回る派手なベースラインがグルーヴの要として聴き手の身体をダイレクトに揺らしてくる。ホリエが鍵盤に向かい、すぐ後ろで大山が繰り返し紡ぐ繊細なフレーズとともに歌いあげた「LOVE RECORD」と、続く「放物線」の2曲も素晴らしかった。全体的にエモーショナルでアッパーな曲の割合が多かったこの日だが、そういう曲では轟音を貫くように鋭く、一方バラードではアンサンブル全体をふわっと包むように歌うホリエのボーカルは、以前に増して豊かな表現力を獲得している。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
終盤には「LOST WORLD」「UNICORN」、「戦士の屍のマーチ」とインディー時代のエモ、パワーポップ感を色濃く反映した音を3連投。ファンタジックでストーリー性に富んだ当時の歌詞についてホリエは、「<穴だらけになったそれはまだ それでも止まろうとはしなかった>(「戦士の屍のマーチ」)とか、ものすごく何が言いたいのかわからない歌詞」と、過去の自分に突っ込んで笑いを誘いつつ、「きっと、何があっても貫こうぜ、ってことだと思います。貫いたその結果、今があります」と誇ってみせた。その言葉通り、半ば埋もれかかっていたようなレア曲たちが陽の目を見たこの日、観ていて強く感じたのは、いずれの楽曲もその時期ごとのバンドの姿勢や嗜好を反映させつつも、決してバラバラな点として存在するのではなく現在へと向けて繋がってきた一本の線の上にあるということ。加えて、いずれもメロディの秀逸さとロックのダイナミズムをしっかりと両立していること。つまりかっこいい名曲ばかりだったこと。きっとそれはこの先に向けても繋がっていく線に違いない。
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
ファンクラブ会員からのリクエスト票数が一番多かったという「TRIBUTE」で本編を締めくくったあと、アンコールでは、ナカヤマがマレットでフロアタムを打ちならすなど、肉体的でダンスミュージックに寄ったアレンジが際立っていた「CLARITY」と、「BERSERKER TUNE」を披露した。配られたセットリストを見ながら、あれ、「BERSERKER TUNE」はわりと最近もやっていたような?と観ていたら、バージョンがオリジナルのものとなっており(ここ最近はテンポの速い、『STOUT』収録のものに近いかたちで演奏していた)、間奏ではホリエによる英語のセリフもしっかり飛び出した。こういう徹底ぶりはさすがである。薄々気づいてはいたが、本人たちがそもそもマニアックなんだ、テナーは。
終演後にはスクリーンが降りてきて、ニューシングルとニューアルバム、ツアーの情報が一気に解禁されるサプライズもあった。この日のライブは未来へ進むための過去の振り返りだ、とホリエは言っていたが、それは昨年リリースされたトリビュートアルバム『PAUSE』時にも語ってくれたことであり、20周年イヤーをあくまでも“先を見せる”年にしようとするバンドの姿勢の表れだ。そんな中ついに正式アナウンスされた“未来”の第1弾、期待が高まらないはずがない。
ついでに、このマニアご満悦企画も、いつか……そう遠くないうちにまた観れることを期待しておこう。
取材・文=風間大洋 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
ストレイテナー 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
セットリスト
1. COLD SLEEP
2. REBIRTH
3. Stilt
4. STAINED ANDROID
5. Dead Head Beat
6. Blue Sinks In Green
7. AFTER THE CALM
8. WHITE ROOM BLACK STAR
9. 星の夢
10. BLACK DYED
11. 氷の国の白夜
12. KINGMAKER
13. LOVE RECORD
14. 放物線
15. LOST WORLD
16. UNICORN
17. 戦士の屍のマーチ
18. TRIBUTE
[ENCORE]
19. CLARITY
20. BERSERKER TUNE
ツアー情報
●2018年6月12日(火)Zepp Diver City Tokyo
18:00 open / 19:00 start
●2018年6月14日(木)名古屋DIAMOND HALL
18:00 open / 19:00 start
●2018年6月15日(金)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
18:00 open / 19:00 start
●2018年6月17日(日)新潟LOTS
17:15 open / 18:00 start
●2018年6月23日(土)福岡DRUM LOGOS
17:15 open / 18:00 start
●2018年6月24日(日)なんばHatch
17:00 open / 18:00 start
●2018年7月7日(土)札幌ペニーレーン24
17:30 open / 18:00 start
●2018年7月14日(土)仙台Rensa
17:00 open / 18:00 start
18歳以下は当日、身分証提示で¥500キャッシュバック
リリース情報
2018.4.11 Release
CD TYCT-30073 ¥1,000(税抜)
※収録曲は後日発表 ※初回封入特典あり
2018.5.23 Release
・初回限定盤:CD+DVD TYCT-69128 ¥4,800-(税抜)
・通常盤:CD TYCT-60117 ¥3,000-(税抜)
※収録曲は後日発表