“歌舞伎”に苦手意識がある人必見! 現代劇として創り上げる木ノ下歌舞伎『勧進帳』がまもなく開幕

レポート
舞台
2018.2.28
『勧進帳』稽古場写真

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木ノ下歌舞伎」は、“歌舞伎”を題材に、現代劇としてあらゆる手段を駆使し、その魅力を伝えてくれる。「歌舞伎ってなんだか苦手……」という方にもわかりやすいよう、セリフも耳なじみのいい若者言葉を織り込んだり、お囃子をアカペラで奏でたり、長唄をラップに変換したりする。歌舞伎ではセリフが少ない端役にさえ、時には個性やドラマを与え、物語に奥行きを持たせていく。スピード感あふれる展開は、ウトウトする暇さえ与えない。しかし、それらは歌舞伎への絶大なリスペクトがあり、原作や歴史的背景を掘り返しているからなせるわざでもある。

そんな木ノ下歌舞伎が2010年に初演、2016年に松本・豊橋・京都・北九州の4都市でリクリエーション(再創作)再演し大反響を得た代表作『勧進帳』を、いよいよ関東で初上演する。公演会場となるKAAT神奈川芸術劇場の白井晃芸術監督が豊橋公演を観劇し、上演を熱望したことで実現に至った本公演。期待高まる開幕を目前に控えた今、熱気あふれる稽古場にお邪魔した。

『勧進帳』稽古場写真

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稽古場に入ると、中央に幅3.5mほどの細長い舞台が組まれ、その上で本番さながらの稽古が行われていた。木ノ下歌舞伎の上演ではもちろん、舞台美術も歌舞伎版のそれとはまったく異なるものになる。『勧進帳』では、劇場を貫くランウェイのような白く細長い舞台の両面を客席で挟むという空間構造だ。これは、監修・補綴を担う木ノ下裕一が主題として導き出した「境界線/ボーダーライン」というキーワードを、演出に加え、舞台美術も担当する杉原邦生が空間化したもの。シンプルな舞台が、俳優の細かな表情まで立体的に浮かび上がらせる効果がある。この日は“抜き稽古”と呼ばれる、シーンを短く区切り俳優の演技の細かな調整を行う作業が続いていた。

『勧進帳』稽古場写真

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『勧進帳』は、兄・頼朝に謀反の疑いをかけられた義経が、弁慶らとともに山伏に扮して奥州へ向かう途中、加賀国安宅の関でその行く手を阻まれ、関守の富樫左衛門と攻防を繰り広げる物語。この弁慶と富樫の攻防が、歌舞伎でも見どころとされている。吉本興業所属のアメリカ人お笑い芸人・リー5世が、存在感たっぷりの弁慶として勧進帳を朗々と読み上げる。時折挟まる関西弁が愛らしい。対する富樫役の坂口涼太郎はスタイリッシュな衣裳を翻す機敏な動きで切れ者ぶりを際立たせる。義経を演じるのは、かれんなニューハーフ女優・高山のえみ。物言わず控えている姿から高ぶる悲しみや怒りが確かに見てとれる。

『勧進帳』稽古場写真

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稽古を見ながら大笑いしていた木ノ下と杉原がすっと立ち上がった。リー5世が巻物を取り出し開くまでの動きや、腰の構え、さらには数珠の揉み方までも細くアドバイスしていく。すると、富樫と弁慶の微妙な距離に緊迫感がさらに加わった。続いて、木ノ下は高山に彼なりの視点で気になった箇所を伝え始め、かたや杉原は、他の役者たちに向かい、その場の緊張感を高めるため視線や動線の具体的な指示をする。二人のあうんの呼吸により稽古場でも自然と役割分担ができているのだ。それは、木ノ下歌舞伎の10年を共に歩んできた歴史の証しだろう。

『勧進帳』稽古場写真

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歌舞伎では主役を引き立てる存在である“四天王”と呼ばれる義経の家来と、富樫の部下である番卒たち。しかし木ノ下歌舞伎版では、彼らの存在がより重要だ。4人の俳優が時に四天王、時に番卒たちと、素早く入れ替わる演出が、それぞれの集団の関係性を際立たせ、物語にハラハラ、ドキドキの臨場感をもたらす。だからこそ、杉原はスピーディーな動きの中の微妙な視線にも細かい指示を出すのだ。4人の存在が、既存の『勧進帳』からは見えてこない新たな側面を立体的に描き出していく。

歌舞伎の奥深さが現代劇の手法により、痛快に生き生きと浮かび上がっていく。その秘密を垣間見た思いがした。さあ、開幕まであとわずか。本番の舞台では役者たちがさらに躍動するだろう。

『勧進帳』稽古場写真

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演出・美術 杉原邦生[KUNIO]コメント
2016年にリクリエーションし、4都市で上演した『勧進帳』を1年半ぶりに稽古してみて、我ながら感心しています(笑)。歌舞伎の『勧進帳』を出発点として、その元となった能の『安宅(あたか)』、さらに史実にまで遡り、丁寧にほどかれた補綴台本と補綴ノートを手に、その無数の糸を編み直していく――そんな途方もない作業をしたのだな!ということに。でも、その編み目にも、いま見るとちょっとしたほころびがあったりして、それらを改めて見つめ直し、必要あれば編み直す、そんな作業が稽古場で続いています。〈木ノ下歌舞伎と言えば『勧進帳』!〉そう記憶に残るような再演にしたいと思っています。ご来場お待ちしております!

木ノ下歌舞伎 主宰 木ノ下裕一 コメント
ただいま『勧進帳』の稽古の真っ最中です。改めて杉原さんは「"疑う力"を持った演出家だなぁ」と感嘆しております。再演といえど、とにかく演出が細かい。微妙な演技のニュアンスの違い、かすかな間のズレ、それら、ほんの小さな不自然さを見つけ出し、磨きをかけていきます。「本当に、これが最良の演出なのか。もっとクリアに、そして豊かにできないだろうか」。という疑い。その疑いはきっと、「最良の演出をほどこせば、『勧進帳』に込めたメッセージは伝わるはずだ!」という、舞台芸術への信頼に裏付けされているのでしよう。古典の奥深さと現代演劇の可能性を信じて、なにより信頼する俳優とスタッフ陣と共に作った『勧進帳』、私にとって一点の悔いもない作品に仕上がりつつあります。ぜひご覧ください。

公演情報

木ノ下歌舞伎『勧進帳』
 
■日程:2018年3月1日(木)~3月4日(日)
■会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ (神奈川県)
 
■監修・補綴:木ノ下裕一 
■演出・美術:杉原邦生[KUNIO]
■出演:リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉
 
※アフタートーク開催
3月1日(木)19:30 KAAT芸術監督白井晃・木ノ下裕一・杉原邦生[KUNIO] 
3月3日(土)18:30 木ノ下裕一・杉原邦生[KUNIO] 
 
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