香川・高松ライブサーキット『SANUKI ROCK COLOSSEUM』を徹底レポート ー音楽、グルメを巡る旅

2018.3.19
レポート
音楽

SANUKI ROCK COLOSSEUM

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3月17、18日に香川·高松にて『SANUKI ROCK COLOSSEUM~BUSTA CUP 9th round~』(以下、サヌキロック)が開催された。本イベントは四国のコンサートプロモーターDUKEとFM香川、徳島出身のアーティスト四星球、そして開催地である高松市や地元商店街が地元活性化を図るためにスタートしたもの。9回目となる今年は、高松·瓦町周辺にある5か所のライブハウスと無料観覧も可能な広場を中心に、2日間で約120組のアーティストが出演。地元商店街や飲食店なども巻き込んだ地域密着型イベントとして例年注目を集めている。

まず、高松駅から“ことでん”こと高松琴平電気鉄道に乗り換え、瓦町駅へ。電車好きで有名な、くるり·岸田繁氏がお気に入りの私鉄としても有名なのはツウな音楽ファンなら知っているだろう(3月21日より、瓦町駅の発車メロディにくるりが楽曲提供した『コトコト琴電』が使用される)。駅に到着して目の前の商店街を歩けば、もうそこから“サヌキロック”が広がっている。商店街の至るところにバンドのグッズ販売やコラボメニューを展開する飲食店の屋台が出店。

会場となる商店街

そして、会場となるライブハウスのほとんどが駅周辺や商店街の中に集約されているのもサヌキロックの特徴でもある。高松festhalle、高松オリーブホール、高松DIME、高松MONSTER、瓦町駅地下広場、高松SUMUS cafe、そしてFM香川の番組公開収録を行う786FM香川ステージ。最も距離のある会場でも徒歩で5分ほどと、都心のライブサーキットと比べて段違いにアクセスが便利なところにも驚かされる。キャパの違う大小様々なライブハウスが1km範囲内に集約されている、もしや高松は音楽ファンにとって最高の立地なのでないだろうか。

さあ、いよいよイベントの始まりだ。タイムテーブルの組み合わせは無限大。どのアーティストを選ぼうか大いに悩む、それもサーキット型イベントの楽しみのひとつだ。今回は2日間に渡って繰り広げられたステージの中から、厳選したいくつかを紹介したい。

≪高松オリーブホール≫

四星球

まずは初日のトップバッター、本イベントの首謀者のひとりでもある四星球の存在は外せないだろう。「午前中でテンション低いだろうと思って、(岡山)鷲羽山ハイランドのサンバチームに来てもらいました~」(四国·山陰の観客なら抱腹もののネタ)と、サンバの衣装に身を包んだメンバーが登場すると、「クラーク博士」から「朝から沸点を超えたい‼」と熱いステージを展開。彼ら“ならでは”のステージで観客を盛り上げていく。

あいみょん

4年連続出演となったあいみょんは開演前から入場規制がかかる。「生きていたんだよな」、彼女が歌い放つ詞世界は重く心にのしかかり、聴く者の心の芯を確実にえぐり、その痕跡をしかと残していく。かと思えば、「春を飛びぬけて夏の曲を」と披露した「君はロックを聴かない」では軽やかなロックナンバーで観客の視線を一気に惹きつけていく。「愛を伝えたいだとか」では感嘆の声が漏れ聞こえそうなほど、じわりと心に染み入る音世界を届け、短い時間の中でも自身の世界観をしっかりと観客の心に焼き付けていった。

Saucy Dog

初日のトリはSaucy Dog。「煙」から一気に会場のテンションをスイッチオンし、聴く者の感情を引き込んでいく。「いつか」では水彩画で描いたような色鮮やかでふわりと景色を音で描いていく。徐々に色濃くなるその世界はふと気づくと、強く厚みを増した層を作り上げ、彼らが打ち出す音に直に触れるのではないかと思うほど、臨場感溢れる音で魅せてくれた。

真心ブラザーズ

2日目もココロオークションやバックドロップシンデレラ、Official髭男dismなど、シーンを賑わすアーティストが次々に登場。サーキット型イベントは若手アーティストが数多く出演する、いわゆる“青田買い”的要素も含んでいる。が、そんな中で真心ブラザーズは“さすがベテラン”と言わんばかりに新旧織り交ぜた楽曲陣で観客を圧倒していく。「流れ星」では桜井秀俊(Gt)の秀逸うるメロディが感情を解していく。良質なメロが体に染み込んでいくことのなんと気持ちいいことか。YO-KING(Vo&Gt)の味のある歌声に酔いしれるなか、ラストには名曲「ENDLESS SUMMER NUDE」を投下し、一足早く高松に夏の匂いを届けてくれた。

≪高松DIME≫

WOMCADOLE

商店街のど真ん中に位置する高松DIME。初日のイベント中盤、WONCADOLEがリハーサルから観客を盛り上げると、閃光を刺すようなサウンドでフロアを揺らす。初サヌキロック、そして初めての高松でのライブとなった2は「DEAD HEAT」など真っすぐなロックンロールサウンドで攻め込んでいく。続くYAJICO GIRLの「黒い海」など、じわりじわりと浸透する音世界で観客を魅了するなど、終始盛り上がりが絶えないステージを連発。2日目もTHE PINBALLS、クアイフ、tetoとジャンル多彩なステージで観客を躍らせる。そんな中、大阪発の愛はズボーンのステージにひと際目を奪われた。キレのあるロックサウンドはもちろんのこと、「どれじんてえぜ」での気迫のこもったライブに思わず呆気に取られてしまった。

≪高松MONSTER≫

King Gnu

瓦町駅からすぐの場所に位置する高松MONSTERでも、ジャンルや世代を問わない音楽が鳴り続ける。1日目、イベント後半に登場したKing Gnuは「Tokyo Rendez-Vous」から歪みを効かせたオルタナティヴなサウンドと、よりディープな世界観でフロアを揺らす。リバーヴを効かせた拡声器から鳴る音はなんとも奇妙な世界観を作り出し、そのディープな音は楽曲が進むたびにより濃厚となり、気づけば高松にいるのに“東京の夜”にどっぷりと浸かっているような錯覚に陥る。

Amelie

初日最後のステージを締めるのは、3年連続出演となるAmelie。一切の曇りのない、突き抜けたロックサウンドでその力強い存在感を打ちだしていく。「今日はみんなで良い日にしよう! このまま光にたどり着きたい」と「朝は来る」から、初めて彼らの音に触れる観客をも瞬時に巻き込む、吸引力の強いサウンドでフロアを揺らす。バンドによって大きく開かれた扉は来る者を拒まず、「ゼロじゃない」では性急なメロに喰いつこうと観客は拳を突き上げ彼らの音に呼応する。「タイムライン」「月夜に君とランデヴー」と、哀愁を感じたかと思えば、ど真ん中のポップなサウンドを打ち出すなど、楽曲ごとに雰囲気が変わっていく。サーキット型イベントの良さでもある、短い時間の中でバンドの魅力をギュッと濃厚に詰め込んだステージは“おかわり”必須で、またライブハウスで彼らの音を体感したいと思わせる探求心くすぐるステージで楽しませてくれた。

Hump Back

2日目には大阪発の3人組ガールズバンド、Hump Backが「嫌になる」をはじめ、軽快かつ骨太なロックサウンドでフロアの空気をあっという間に手中に収める。「情報過多の中、ライブハウスに来て、自分たちを選んでくれてありがとう。売れる売れない、カッコイイ、カッコよくない、全て自らの体感で、目で、耳で感じてほしい。私は7年間、Hump Backを選んできた。これが一番カッコイイ、確かな自負の元で動いている。己の目を信じて、自分を信じて」と、観客にもっとライブを生で体感してほしいと訴えかけ、「星丘公園」でバンドが持つ“瞬間”の力をこれでもかとぶつけていく。

MOROHA

さらに、続くMOROHAは1曲目「革命」から鬼気迫るステージングで観客を圧倒した。マイク1本とギター1本、最小のライブスタイルから生み出される楽曲は鋼のように重く屈強でいて、時に新緑の葉のように瑞々しく、時に砂糖菓子のように優しく柔らかな空気を纏っている。そのどれもが、観客1人1人の感情によって姿形を変える。光悦の表情で魅入る者もいれば、今にもステージに向かって飛びかかりそうな、睨みを効かせながら観る者もいる。楽曲ひとつで喜怒哀楽、全ての感情を生み出すことができる彼らの音楽は観ているだけなのに、時折ひどく心が痛むこともある。それほど、彼らのライブはその瞬間々々の感情に真摯に立ち向かっているのだ。「ヘラヘラ笑うオマエラに刺さるように! 言いたいことはひとつ、オレのがヤバイ! 勝負しようぜ!」と「俺のがヤバイ」へ。UKのテクニカルなギター、アフロのキレのあるクリアなラップは「MOROHA vs観客」ではなく、“個”に対してケンカを売るようで、中指を突き立て真っ向から言葉や旋律をぶつけていく。観客は彼らの音に飲み込まれ、曲が終わっても拍手もできないままただ立ち尽くすだけ。0か100しか求めない、体当たりのステージに刺激を受け、徐々に声を上げる観客たち。彼らのステージが終わる頃には沸々とした感情が心を纏っていたに違いない。

●サヌキロックコラボメニューや、香川と言えば“うどん”

サーキット型イベントは「次はあのライブハウスへ、あのステージへ」と、とにかくよく歩く。お腹が空いたなら、やはりイベントならではの食事を楽しまなければ!  地元商店街ともコラボしたサヌキロックでは、ここでしか味わえない限定メニューを豊富にラインナップ。地元民はもちろん、高松に訪れたアーティストからのファンも多いという、フルーツを使った軽食メニューが楽しめる「3びきの子ぶた」ではサヌキロック限定で地元産の「よつぼし苺」を使った「四星シュー」やコラボサンドイッチを販売。

PAN

しかもこの「3びきの子ぶた」ではPANによるアコースティックライブも開催された。ケーキが並ぶショーケース前でのライブはなんともシュールだが、ここでしか観られないステージということもあって、多くのファンが詰めかけていた。

もちろん、香川といえばうどんも外せない。ライブの合間を縫って、うどん店のハシゴにもチャレンジした。会場から徒歩圏内にいくつもあるうどん店の中から、イベントスタッフもオススメする「さか枝」「セルフうどんの店 竹清」へ。バンドマンの来店も多いというこちらでは、1玉200円ほどで手打ちうどんが楽しめる。店それぞれで味に特徴があり、コシのあるうどんや芳醇な出汁の味わいを堪能し、“サヌキロック”を存分に楽しんだ。

≪高松SUMUS cafe≫

セックスマシーン

アコースティックスタイルでのライブを中心に展開しているのが高松SUMUS cafeだ。初日にはコレサワ、スカート、コザック前田(ガガガSP)などが出演。「アコースティックの概念を覆してやんぜ!」と、2日目のトップバッターには四星球の盟友でもあるセックスマシーンがいつもと変わらぬ、いやそれ以上に破天荒なパフォーマンスで観客の度肝を打ち抜いていく! まさかのアコースティック編成でのライブにも驚いたが、この日2度目のステージでは唯一うどん店の中でライブを行い、常に観客の注目を集めていた。

≪高松festhalle≫

yonige

サヌキロックで最も大きなキャパを持つのが高松festhalle。初日トップバッターに登場したyonigeは連続出演3年目にしてついに最大キャパの会場でライブを行うことができたと感慨深げ。ポップなメロの中にも儚さを描いた「センチメンタルシスター」ではごっきん(Ba&Cho)の軽やかなリズムが楽曲の世界観に色を加えていく。続く「しがないふたり」、突如として歪み、空を裂くような牛丸ありさ(VO&Gt)のギターに思わず目を奪われる。荒々しさの中にも憂いを孕んだ音世界は胸がぐっと締め付けられ、妙な焦燥感を掻き立てられる。その後も、シンプルながらもダイレクトに展開していく楽曲陣が続き、「夏にまたうどんを食いに来ます!」と再びの高松来訪を誓った2人に、フロアからは熱い歓声が送られた。

DADARAY

2日目のトップバッターは休日課長(ゲスの極み乙女。)率いる、DADARAYから。 REIS(Vo&Key)&えつこ(Vo&Key)の2人の歌声は楽曲毎に表情を変え、ソウルフルで妖艶でと、対照的な陰陽の美しさに目を奪われる。照明の光が美しく交差するなか、「美しい仕打ち」「僕らのマイノリティ」など上質でアダルテイなポップスで観客を魅了。

ハルカミライ

続くハルカミライは「ほんもんのロックを見せに来ました!」と、瞬発力高いロックサウンドで観客に熱い思いをぶつけていく。「カントリーロード」「ファイト」と、まるで音楽で殴られたような感覚に陥るほど、強い衝撃が次々にやってくる。ぶつけられた音楽はもちろん全身で受け取るのが流儀! 観客もメンバー以上に熱く声を張り上げ、ともにライブを作り上げる瞬間に立ち会えた気がした。

SIX LOUNGE

SIX LOUNGEは衝撃をまんま音に掻き鳴らした、焦燥感を煽るロックサウンドを繰り出していく。「ロックンロールは好きですかー!」と、「トラッシュ」では感情が爆ぜたような怒涛のドラミングを披露。「いつものライブハウスと変わらない、精一杯ライブをやっていきたい」と「メリールー」へ。シンプルなロックサウンドは聴きこむほどに心身に染み渡り、純真無垢なその音世界を体感しようと、彼らの音に同調し拳を突き上げる観客たち。平均年齢21歳にしてすでにこの完成度。これから先の彼らの動きに更なる期待が募る。

≪786FM香川ステージ≫

前田(ガガガSP)×赤飯(オメでたい頭でなにより)

“サヌキロック”では、ライブだけでなく地元ラジオ局とのコラボステージ786FM香川ステージを展開。日高央(THE STARBEMS)×松本素生(GOING UNDER GROUND)やコザック前田(ガガガSP)×赤飯(オメでたい頭でなにより)、北島康雄(四星球)×YO-KING(真心ブラザーズ)らがトークイベントに出演。互いの印象はもちろん、バンド活動における貴重なエピソードトークなどが繰り広げられた。

≪瓦町駅地下広場≫

ライブハウスだけでなく、駅地下にある広場でも数多くのステージが繰り広げられた。オメでたい頭でなによりが“オメロック”で観客を夢中にさせ、フィッシュライフはエネルギッシュなサウンドで通りすがりのおじさんさえも釘づけに。正直に言えば、このステージは本来ライブを行うような環境ではない。音響の整っていない環境を逆手に取り、観るものすべてに音を届けられるのがこの会場の醍醐味だろう。MINAMI NiNEも「想」をはじめとするまっすぐなロックサウンドでバンドに懸ける熱い思いを叫んでいく。

四星球

そして2日間に渡って繰り広げられた”サヌキロック”の大トリを務める四星球のステージがこの地下広場だ。ライブを終えたばかりのSHIMA&セックスマシーンを引き連れ、初日同様にサンバの衣装でステージに登場。「四国のバンドで良かったと思えるイベント。また来年に向けて頑張りましょう!」と「Mr.COSMO」から観客も一緒になってフロアを盛りたてていく。「潮騒ぎ」「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」と新旧織り交ぜた楽曲陣はそのどれもが最高にハッピーで心踊らせるものばかり。くしゃくしゃの笑顔でライブを楽しむ観客、その1人1人の表情を確かめるように覗き込む北島康雄(Vo)の姿も印象的だ。MCではライブハウスの魅力を存分に語り、この日をきっかけにライブハウスへ足を運んでほしいと、「四国のライブハウスシーンが生んだ名曲を」と「クラーク博士と僕」へ。楽しいのになぜか泣けてくる、コミックバンドの真骨頂とも言える楽曲に会場は一体となってシンガロングで応える。そして「ライブハウスで培った曲、歌の力が叶わなかった夢を叶えてくれました」と、番組出演の夢が叶った「『HEY!HEY!HEY!』に出たかった(NEO)」へ。ライブハウスで作り上げた音楽が次の夢へ進む、その姿を目の前で体現してくれた彼らの姿に熱い感情がぐっと込み上げる。

四星球

2日間、120組以上の出演者全てのステージが終わりを迎える頃には商店街はいつもの景色へと戻ろうとしていた。駅前にはおぼつかないながらも必死に歌う、弾き語りの学生の姿が見える。彼女がいつかサヌキロックのステージで歌う日も来るのかもしれない。連日たくさんのステージが展開されたライブハウスにも、明日からまた全国各地からアーティストが音を鳴らしにやってくる。サヌキロックに出演したアーティストたちもまた必ずライブハウスへやってくる。2日間で繰り広げられたステージ、そのどれもが短い時間ながらも本気のライブであったことは間違いない。でも、その本気のステージの先にはもっともっと素晴らしい景色が待っている。サヌキロックで出会ったアーティストがいつかまた高松へ戻ってきたなら、是非ともそのライブハウスへ足を運んでほしい。きっとこの日得た感情以上のものがライブで体感できるはずだ。

来年も『SANUKI ROCK COLOSSEUM』は開催されるだろう。新しい音楽との出会い、その繰り返しで四国の音楽シーンがさらに賑わうことを期待したい。

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