劇場という魔法の空間。物語を楽しむための仕掛けが詰まった ロッシーニ《チェネレントラ》の上演間近!
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『チェネレントラ』リハーサル ACT1フィナーレ。コックに襲いかかる主人公達 ©Naoko Nagasawa
ロッシーニ作曲《チェネレントラ》の公演が近づいている。藤原歌劇団主催公演として4月28日(土)、29日(日)に川崎のテアトロジーリオショウワで上演された後、5月12日(土)には大阪国際フェスティバルの一環としてフェスティバルホールで上演される。ロッシーニ没後150周年の今年、大注目のオペラだ。
演出家ベッロットによるリハーサルを取材
藤原歌劇団で一昨年、ドニゼッティ作曲《ドン・パスクワーレ》を演出して好評だったイタリア人演出家フランチェスコ・ベッロットが来日して、熱の入ったリハーサルを展開している。
(リハーサルにて) ティズベの米谷朋子と演出のベッロット ©Naoko Nagasawa
「演出家とは、具体的なオブジェと人の身体を介して物語を伝える〈ストーリーテラー〉だ、という信念を持っています。演出のスタイルに“伝統的”も“現代的”もないのです。私は、作品に述べられている内容を、私なりの手立てで語りたいと心から望んでいるだけなのです」
「この演出では、《チェネレントラ(灰かぶり娘、という意味)》、つまりシンデレラの物語を最大限に楽しく表現しようと思っています。台本にはコミカルな要素がたくさんありますし、シンデレラのおとぎ話としての部分も演出に取り入れています」
「具体的には、年老いた哲学者が魔法使いに変身したり、舞台でネズミたちが走り回ったり。オペラ・ブッファに典型的なスピードの速い舞台転換もあります。藤原歌劇団の皆さんは歌も素晴らしいですが、舞台での演技や動きも一流です。楽しいオペラを観て、素敵なひとときを過ごしていただけると思います」
【動画】フランチェスコ・ベッロット氏 「チェネレントラ」演出について
ロッシーニ《チェネレントラ》の物語としての魅力
取材に行った日は初日組のリハーサルだった。美術セットはまだ無いが、演技はかなり出来上がっている印象である。ペローやディズニーの〈シンデレラ〉と比べるとロッシーニの《チェネレントラ》は、もともとおとぎ話としての要素が少ない。その分、チェネレントラ自身が強い意志の力で愛を勝ち取ろうとする女性であることが際立つし、またラミーロ王子も、王子としての自分の身分を偽って従僕に変装し、真実の愛を見つけようとする。ベッロットの演出が言及するおとぎ話の要素は、〈シンデレラ〉物語へのオマージュとして扱われているようだ。
歌も演技も楽しさいっぱいの舞台
チェネレントラはかなり気が強く、継父や義理の姉たちの言いなりにならないばかりか、彼らをからかったりするシーンもある。その魅力的なシンデレラ役を、向野由美子(メッゾソプラノ)が痛快に演じていた。
(リハーサルにて) 左からクロリンダの光岡暁恵、チェネレントラの向野由美子、ティズベの米谷朋子 ©Naoko Nagasawa
リハーサルといっても迫力のある声で歌いながらの演技。ラミーロ王子役は、今、ロッシーニを歌わせたら最高の歌手の一人である小堀勇介(テノール)で、よく通る声と端正な歌にほれぼれする。意地悪な継父ドン・マニフィコ役の谷友博(バリトン)もゆたかな響きの声と早口言葉、そして演技も役柄にぴったりだ。このオペラの狂言回しとして活躍するダンディーニ役を演じる押川浩士(バリトン)は、二枚目半といったキャラクターを巧みに演じている。
左からラミーロ王子の小堀勇介、ダンディーニの押川浩士、ドン・マニフィコの谷友博、アリドーロの伊藤貴之 ©Naoko Nagasawa
チェネレントラの義理の姉たちは、クロリンダ役が光岡暁恵(ソプラノ)、ティズベ役が米谷朋子(メッゾソプラノ)。演技の息もピッタリだ。今回は第二幕の終盤にクロリンダのアリア「みじめだわ!私は信じていたのに」が歌われるのも楽しみである。
ベッロットの演出では、王の教育係のアリドーロが魔法使いを思わせる扮装をする。伊藤貴之(バス)は、聴かせどころの超絶技巧アリア「深い神秘に支配される天の」を歌うだけでなく、舞台狭しと動き回っていた。
ピアノ伴奏の演出リハーサルでさえ、ロッシーニの音楽の牽引力には胸躍る思いがする。藤原歌劇団の合唱団が歌う王家の家来たちや、エキストラが演ずるネズミなどの動きもロッシーニのテンポに合って軽やかだ。第一幕フィナーレで聴こえて来るロッシーニ・クレッシェンドは、まさに躍動感と生きる喜びに溢れていた。
(リハーサルにて) ダンディーニを王子と思ってすがりつく姉妹 ©Naoko Nagasawa
園田マエストロのオーケストラ・リハーサル
取材日には、演出リハーサルと平行してオーケストラ練習もおこなわれていた。こちらでは園田隆一郎マエストロが、テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラを指揮していた。練習は終盤に差しかかったところだったので、ちょうどオペラの最後に歌われるチェネレントラのシェーナとロンド「苦しみと涙のうちに生まれ〜もう火のそばで寂しく」を聴く事が出来た。歌詞の意味とオーケストラの関係を簡潔に伝えつつ、マエストロが役のパートを歌いながらのリハーサルを聴いていると本番への期待がますます高まってくる。ちなみにレチタティーヴォにはフォルテピアノが使用され園田自身が演奏するという。
オーケストラ・リハーサル(指揮は園田隆一郎) ©Naoko Nagasawa
脇園彩と小堀勇介が初共演する大阪公演に注目!
この日、聴くことが出来なかった29日のキャストも但馬由香のチェネレントラ以下、楽しみな歌手ばかりが揃っている。そして大阪では、今回聴いた初日組に、イタリアで大活躍中の脇園彩が加わりタイトルロールを歌う。ロッシーニ・オペラの総本山ペーザロで知り合った脇園と小堀は今回が初共演。加えて、オーケストラを日本センチュリー交響楽団が担当するのも楽しみだ。東西の《チェネレントラ》、いずれも聴き逃せない公演になりそうである。
【動画】脇園彩&小堀勇介 ロッシーニ「チェネレントラ」で初共演
【動画】押川浩士、谷友博、光岡暁恵、米谷朋子、伊藤貴之、園田隆一郎 コメント
取材・文=井内美香 写真撮影:Naoko Nagasawa
公演情報
藤原歌劇団公演『チェネレントラ』 ロッシーニ没後150年記念
全2幕/原語(イタリア語)上演・日本語字幕付き
■日時:2018年4月28日(土)29日(日)各14:00
※上演時間約3時間
■会場:テアトロ・ジーリオ・ショウワ
■料金:S席12,800円、A席9,800円、B席6,800円、C席3,000円
※出演等詳細は下記公式サイト参照のこと
■公式サイト:https://www.jof.or.jp/performance/nrml/1804_cene.html
<大阪>
第56回大阪国際フェスティバル2018
大阪国際フェスティバル×藤原歌劇団×日本センチェリー交響楽団
ロッシーニ作曲 オペラ『チェネレントラ』
全2幕/原語(イタリア語)上演・日本語字幕付き
※2008年 伊ベルガモ・ドニゼッティ歌劇場"La Piccola Cenerentola"のプロダクション(フル・バージョン改訂)
■音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ
■指揮:園田隆一郎
■演出:フランチェスコ・ベッロット
■演出補:ピエーラ・ラヴァージオ
■舞台美術:アンジェロ・サーラ
■舞台美術補・衣裳:アルフレード・コルノ
■照明:クラウディオ・シュミット
■合唱:藤原歌劇団合唱部
■キャスト:
〈チェネレントラ・灰かぶり娘〉アンジェリーナ:脇園 彩
〈王子〉ラミーロ:小堀 勇介
〈従者〉ダンディーニ:押川 浩士
〈男爵〉ドン・マニフィコ:谷 友博
〈姉〉クロリンダ:光岡 暁恵
〈姉〉ティズベ:米谷 朋子
〈家庭教師〉アリドーロ:伊藤 貴之
※上演時間約3時間
■会場:フェスティバルホール(大阪府)
■
S席12,000円、A席8,000円、
バルコニーBOX席(2席セット)24,000円 学生席1,000円
母の日
※未就学児童入場不可
※全席指定・税込
※バルコニーBOX席はフェスティバルホール
※母の日
※学生席はフェスティバルホール
※やむを得ない事情により曲目、出演者等が一部変更になる場合がございます。
※公演中止の場合を除き、
■後援:イタリア文化会館-大阪、日本ロッシーニ協会
■協力:大阪芸術大学、堺市文化振興財団
■問い合わせ先:フェスティバルホール 06-6231-2236
■公式サイト:http://www.festivalhall.jp
ドン・マニフィコ男爵の城。クロリンダとティズベの姉妹は、継子のチェネレントラ(灰かぶり娘)ことアンジェリーナをこき使う毎日。城に物乞いの老人(ラミーロ王子の家庭教師アリドーロ。王子の花嫁候補を探すために変装している)が現れると、チェネレントラは食べ物を差し出すが、姉妹は冷たい。ラミーロ王子が従者に変装して登場、チェネレントラと出会い、二人は恋に落ちる。王子に変装した従者ダンディーニが現れ、王子の花嫁選びのため宮殿の舞踏会へ男爵家を招待する。アリドーロは留守番のチェネレントラを宮殿へ送り出す。宮殿に突如現れた美女。だが皆はチェネレントラだと気づかない。チェネレントラは偽王子ダンディ―ニに「従者(実は王子)を愛しています」と告げ、片方の腕輪を渡して立ち去る。物陰でそれを聞いた王子は喜び、チェネレントラを探す。そしてついに二人は……。