英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『冬物語』~新時代の幕開け!プリンシパル・平野亮一の熱演は必見
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(C)ROH,2018.ph.byTristram Kenton
2018年4月20日から公開の英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『冬物語』は、日本人プリンシパル、平野亮一が主演のリオンディーズを熱演する、必見の舞台だ。
(C)ROH,2018.ph.byTristram Kenton
クリストファー・ウィールドンの振り付け、ジョビー・タルボットの音楽に美術はボブ・クローリーという、英国ロイヤルバレエ団(ROH)が世界に旋風を起こしたバレエ「不思議の国のアリス」のスタッフによる第2作は、英国が誇る大劇作家、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲を原作としたものだ。
ROHライブビューイングではすっかりお馴染みのナビゲーター、ダーシー・バッセルが「本来難解な作品」と語るこの戯曲を、ウィールドンをはじめとするスタッフたちはシンプルに、そしてドラマチックにまとめあげた。
平野をはじめとするROHの「役者たち」がこれに応え、濃厚な、そしてバレエならではの見せ場も満載の、見逃せない作品となっている。
■世界配信のライブビューイングで日本人男性が主演!
こんな時代が来るとは……! 上映作品を見終わった時に、こんな思いがまず頭に浮かんだ。長年バレエを観てきた諸氏は多かれ少なかれ、このような感慨も抱くのではなかろうか。世界最高峰のバレエ団のひとつ、ROHが全世界に配信するライブビューイングの舞台で日本人男性がプリンシパル(最高位ダンサー)として堂々の主演を務めあげる……。しかも作品は英国が誇りとするシェイクスピアで、だ。
かつてROHのプリンシパルとして在籍した吉田都、熊川哲也らに続き、平野亮一が高田茜とともにプリンシパルに昇格したのは2016年のことだ。彼等のドキュメンタリーは去る3月にNHK『英国ロイヤルバレエ~茜と亮一 プリンシパルの輝き~』で放送されたので、ご覧になった方々も多いだろう。世界で活躍する日本人ダンサーは多いなか、数としてはやはり少ない日本人男性が、ウィールドンらROHが誇る制作スタッフが世に送り出した意欲作の主演を務めるのは、やはり「一大事」といっていい。しかも「英国でシェイクスピアを演じる」ということがどれほどの意味を持つか、こちらが思う以上に、平野にもプレッシャーがあったのは想像に難くない。
■苦悩するシチリア王リオンディーズの心の闇と狂気
(C)ROH,2018.ph.byTristram Kenton
しかし平野の踊り・演技は、そうした重圧を跳ね返し、乗り越えた熱演であった。
物語はシチリア王リオンディーズの心の闇……一瞬の疑惑が狂気と化して起こる悲劇と贖罪、そして許しがテーマ。リオンディーズは妻ハーマイオニー(ローレン・カスバートソン)との間に王子をもうけ幸せな日々を送っているが、あるとき妻が親友であるボヘミア王ポリクシニーズ(マシュー・ボール)と不貞をはたらいており、彼女が身籠っている2人目の子供の父親はポリクシーズではないかという疑念を持つ。ハーマイオニーの友人ポーリーナ(ラウラ・モレーラ)とその夫は、疑念に取り憑かれたリオンディーズの命に従い生まれた娘を捨てる。ハーマイオニーは弾劾され、母を心配する幼い王子ともども命を落とし、一方捨てられた娘パーディタ(サラ・ラム)はボヘミアで成長し、青年フロリゼル(ワディム・ムンタギロフ)と恋をする。実はフロリゼルは身分を偽っていたボヘミア王ポリクシニーズの息子であり、この2人の恋の展開が物語をクライマックスへと導いていく。
(C)ROH,2018.ph.byTristram Kenton
一瞬の隙をついたかのような疑念がリオンディーズの心を浸食し、狂気に追いやっていく。まるで白い布地の上にうっかり落ちてしまった染みがいつのまにか広がってしまっていたかのように、じわじわとリオンディーズの心を蝕んでいく。平野は欧米人に負けない体躯による大きな踊りと繊細な表現力・演技力で、自らが生んだ疑惑に心が屈してしまうその瞬間や、狂気、苦悩を演じる。身体からほとばしり出る「思い」がリアリティたっぷりで、観るものの心を捉える。
むろん平野をはじめ、カスバートソン、ラム、ムンタギロフ、モレーラら、ROHの誇るお馴染のダンサーらのパフォーマンスも見応えたっぷりだ。さらにポリクシニーズを演じるマシュー・ボールは、去る3月のROH公演『ジゼル』でアルブレヒトを初主演した期待の新星。今回も堂々とした存在感を発揮しているので、こちらも注目である。
(C)ROH,2018.ph.byTristram Kenton
黒を基調とした重苦しい「冬」の舞台に映える、衣装の鮮やか色彩は登場人物の心理を一層、際立たせて見事。中欧ヨーロッパの民族楽器も取り入れた軽快な音楽もボヘミアのエキゾチック感をさらに醸し、シチリアとボヘミアの対比を描き出す。ほぼ舞踊シーンとなる2幕はクラシックバレエと現代舞踊が融合した、また「ウィールドン節」といってもいいパドドゥも繰り出され圧巻だ。
この舞台を日本にいながらにして目にすることができるのは、まさに幸運というよりほかない。あらすじの大まかな流れをざっと頭に入れてから見るのがおすすめだ。このチャンス、逃すなかれ。
取材・文=西原朋未
上映情報
■上映時間:3時間8分
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/