石井竜也がコンサートツアー2018『-陣 JIN-』を語る~「ジャンルの垣根を越えて日本の音楽を次世代に繋げたい」
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石井竜也
2018年4月から東京・明治座にて始まった、歌手・石井竜也の初座長公演「石井竜也コンサートツアー2018『-陣 JIN-』」。8月19日(金)の大阪・新歌舞伎座での千穐楽までかなり長いツアーとなる今回、石井が芝居・楽曲を通してこだわる「和」について、さらに米米CLUBが誕生する少し前の話、今後の構想など話を聞いた。
■「和」のエッセンスと自身の楽曲と合体させていきたい
――今回のコンサートツアー「-陣 JIN-」、また最新作のアルバム『龍』で「和」をテーマにされているんですが、そこにこだわりたいという石井さんの心境を聞かせてください。
僕もはっきり表現できないんですが、アジア人、日本人にしか分からない「ピキッ」と反応する「和」があるんですよね。例えばホテルの内装など、分かりやすく日本の小物を使っていなかったとしても、その佇まいで「あ、和っぽいよね」と感じさせる何かがありますよね。それは情緒というのでしょうか。ただ楽しいだけではなく、そこには憂いがあったり。音楽についても「和」を考えるときは砂漠とか北極とかそういう光景はまず出てこないと思うんです。外国人に「雪」でイメージしてもらったときに出てくるものと日本人が考えるものが違うように。それを探しながら今、創作活動をしているんです。
日本という国土はまれにみる美しさなんですよ。絵を描く人間から見ると、なんという美しいデザイン、美しい曲線を描いているんだろうと。僕は昔から日本の国土の形が好きで、これまでもタツノオトシゴに見立てたり龍に見立てたりしてきました。沖縄諸島のほうはそれこそ龍のしっぽのように見えてくるので「ああ、日本って龍の国なんだなあ」って感じて……そこからの発想で今回の舞台も生まれました。
石井竜也
――こういった「和」の楽曲をどうやって作られるんですか?
物理的にはほぼ鼻唄で作っているんです。はっ!って思い浮かんだ瞬間、レコーダーに鼻唄でメロディを入れておく。これがギターなど既存の楽器を使って作ろうとしても不思議とメロディが出てこないんです。楽器が洋のものだからかなあ?
和の音楽といっても「演歌」や「民謡」というくくりで作りたい訳じゃないんです。演歌や民謡の中にもある今の子どもたちにも通じるような和の「何か」を抽出して、僕がこれまでやってきた音楽と少しずつ合体させたいんです。「何か」って表現しづらいんですけどね。例えるなら、僕が好きなものの一つに「能」があるんですが、能のあのピーンと張りつめた空気が好きなので、その空気だけをもらうんです。民謡だって「これは民謡だ」と思わずに聴くと、思いがけない良いメロディが隠されているんです。僕が「和ポップス」を作るようになってから日本にある様々なメロディに対してそういう聴き方をするようになりましたね。
――まるで昔からある日本の音楽を今の時代に分かるよう、通訳しているようですね。
そうかもしれません。今って西洋音楽が普通になっているので、時々TVで観る演歌や民謡がまるで違う国の音楽のように聴こえてきたりするんです。日本の音楽をもう一度見直そうとしたときに演歌や民謡に目をむけると、そこにはもう自分たちの国の音楽として認識していないから、触れようとすると「音楽」が「音学」になってしまい、楽しさより無駄に難しくとらえてしまいがち。なかには一曲くらい難しいものがあってもいいとは思うんですけど、全部が「音学」になってしまうと接すること自体が辛くなり敬遠したくなる。「演歌」「民謡」とジャンル化されることは、そういう危険性も存在すると思うので、そうならずに僕はもっとハードルを下げ、ポップな方向に寄せ、皆にわかるような和の楽曲を作りたいと思っているんです。それが僕の「和ポップス」なんです。
石井竜也
■創作活動の原点を振り返る
――石井さんは音楽の概念や定義を一度壊したり見直したりしながら新しいものを作る、そういうスタイルが米米CLUB時代から常にあるように感じます。
僕の創作活動ってさかのぼると油絵から始まったんです。芸大に行きたかったから一生懸命勉強したんです。そこでゼミの先生からの一言でガッカリしたんです。「お前、どこの大学にいきたいんだ? 芸大に行きたいならこういうデッサンに、多摩美(多摩美術大学)に行きたいならこんなタッチに……」って言うんです。そうしないと合格しないから、と言われて「え、おかしくないか?芸術ってそういうものではないよね?」……で結局、芸大は落ちてたんですけれどね。
その後、子どもの頃から粘土をいじるのが本当は大好きだったと気が付くんです。親父も絵が大好きでその影響もあって絵を描いていたんですが、「あれ、なんで俺は絵を描いているんだろう」どこかしっくりこないなって。その後芸大で助手をやっていた友達に見学においでと誘われ、彫塑科で一緒に立体物を作ったんですが、これがものすごくしっくりきたんです。今まで一生懸命絵に影をつけて立体的に描こうとしていたけれど、僕が本当にやりたかったのは、絵のなかから立体物を引きずり出したかったんだって。
通っていた学校で米米CLUBのメンバーに出会いました。彼らはほとんど建築科を専攻していたんです。彼らと音楽の話をしても「そんなことどうでもいいじゃん! ところでそこに理念とかはあるの?」とかいう話が出てくるんです。彼らには彼らのこだわりの「箱」があり、そこに入らないと曲のOKが出ませんでした。米米CLUBの曲に、何か世の中を馬鹿にしたようなメッセージがあったり、アイロニカルな感じがあったりしていたのはそういう背景から生まれたからでしょうね。そして人気が出た理由もまさにそこだったのだと思います。世間をあざ笑い、ひねくれているけど率直。80年代の若者たちにはそれが刺さったんでしょうね。
石井竜也
■次世代に伝えていきたいこと
――楽曲を通して、石井さんが伝え続けていきたいこととは何ですか?
最近の日本って、あれがダメ、これは悪い、と批判しかしなくなってきているじゃないですか。これっていいな、あれは素晴らしい、と思う機会がどんどん減っているように感じます。そんな今を生きている若者たちに「俺、日本人でよかった」ってその一言を言わせたいんです。
僕はまもなく60歳になります。60歳を前にして男がやるべきことは何なのか、と最近思うんです。次の世代にどんなボールを投げるか、彼らがそれをキャッチしてくれるのか、どのようにキャッチしてもらえるかは投げる側のセンスにかかっています。僕らが和の国をどんな風に描き、それをどう伝えていくのか。それは2020年の東京オリンピックだけでなく、その後の日本にも続いていくことなんだと思うんです。
石井竜也
取材・文・撮影=こむらさき
公演情報
■日時・会場
【東京公演】2018年4月19日(木)~22日(日) 明治座 ※終了
【石川公演】2018年5月4日(金・祝)、5日(土・祝) 本多の森ホール ※終了
【広島公演】2018年5月10日(木)、11日(金) 広島文化学園ホール ※終了
【福岡公演】2018年5月16日(水)、17日(木) 福岡市民会館 ※終了
【北海道公演】2018年5月30日(水)、31日(木) ニトリ文化ホール
【宮城公演】2018年6月14日(木)、15日(金) 仙台サンプラザホール
【岡山公演】2018年6月21日(木)、22日(金) 岡山市民会館
【愛知公演】2018年7月19日(木)~22日(日) 刈谷市総合文化センター
【大阪公演】2018年8月4日(土)~19日(金) 大阪新歌舞伎座
※8月9日(木)、8月15日(水)は休演日
Album『龍』
SRCL-9725~28
(3CD+BD)¥12,000(税込)
【通常盤】
SRCL-9729~31
(3CD)¥6,000(税込)