『水どう』藤村Dとキャラメルボックス大内厚雄が兄弟に! 劇団イナダ組『いつか抗い そして途惑う』インタビュー
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(左から)藤村忠寿、大内厚雄
今や最も
藤村が演じるのは、主人公である48歳の独身男。そして、2年前に事故で亡くなった実弟役には、演劇集団キャラメルボックスの大内厚雄が扮する(大内は東京公演のみ出演)。
旗揚げから四半世紀、真摯に演劇に取り組み続ける劇団イナダ組の魅力をふたりに聞いてみた。
今は演劇が面白いからやっているという感じなんです
ーーおふたりの共演は、ミスターこと鈴井貴之さん主宰のOOPARTS(『SHIP IN A BOTTLE』※2014年11月上演)以来でしょうか。
藤村:そうですね。ちょうどその公演が僕にとっては2本目の舞台で。それでいきなり大内さんでしょう。緊張しましたよ。
大内:いやいや、かなりご自由にやられていましたよね(笑)。台詞は覚えていらっしゃるんですけど、基本はアドリブ(笑)。
藤村:大内さんもかなりふざけていらっしゃったかと(笑)。
大内:役的にはふざけにくい役だったんですけど。
藤村:ちょっと暗かったですからね。でもその中で必死にふざけてた(笑)。
大内:そうですね。何とかふざけられるポイントを探そうと必死でした(笑)。まあでも藤村さんはとても2本目とは思えなかった。役者って基本的には演出家脳もあるはずだと思っているんですけど、やっぱりディレクターをやっていらっしゃるからでしょうね。藤村さんはまさしくそんな感じで。まだ2本目なんですけど、いわゆる素人さんがちょっと役者をやりはじめたというのとは全然違うなと思いました。
(左から)藤村忠寿、大内厚雄
ーー特にここ数年は演劇活動が活発ですよね。
藤村:会社であまり仕事していないんだな、きっと(笑)。僕はそのとき自分が面白いと思うものをやっていきたいという性格で、今は演劇が面白いからやっているという感じなんですよ。それに、演劇をしているときは出勤扱いですし(笑)。
ーーあ、そうなんですか。てっきり有休かと思っていました(笑)。
藤村:普段の稽古は仕事終わりにやるんですけどね、遠征のときなんかは全部出勤になってます。
ーーいい会社ですね。
藤村:そこです。最初は僕の方から「有休でいいですよ」って言ったんですけど、よくよく考えたら給料払うなら同じだと思って。これで出勤として認めたら世間的にも良い会社だって言ってもらえるし、双方win-winの関係じゃないですか。と、説得したら、出勤扱いになりました(笑)。
ーー(笑)。そんな藤村さんにとっての初舞台が、この劇団イナダ組『わりと激しくゆっくりと』(2014年6月上演)でした。
藤村:この劇団イナダ組っていうのが、かつて大泉たちがいた劇団で。当時よく大泉たちから「演劇は面白い」って聞いていたんですよ。まあ、その頃はそんなこともねえだろって聞き流してたんですけど(笑)。ちょうど50歳を迎える前くらいに「俺、芝居できるんじゃねえか」とふと思い立ってね。それで稲田(博/劇団イナダ組 主宰)に持ちかけたんですよ。大泉たちがいなくなったその20年後にね、今更俺がイナダ組で芝居をするのも何か面白いなと思って(笑)。
ーーでは、イナダ組をよく知る藤村さんから劇団の魅力を語っていただければ。
藤村:昨日札幌で稽古があったんですけど、稲田の台本は誤字脱字がひどくてですね。今回、僕と大内くんが兄弟役で、あともうひとり妹もいるんですけど。普通そしたら名前で書くじゃない? なのに、みんな「高村」って名字で書かれているからどれが誰の台詞かわからない(笑)。
ーーそれ、誤字脱字のレベルを超えてますね(笑)。
藤村:そう。もうそんなレベルじゃない。昔から台本が上がるのは遅いし、稽古場でも自分で手本を見せようとするんだけど、あの人、芝居が下手だから、周りから見たら「これは違うな……」「これはやっちゃダメだな……」っていう感じなの(笑)。言ってることもすぐ二転三転するし。
ーーあれ、全然魅力が出てこない……(苦笑)。
藤村:でもね、たまにいいこと言うんですよ。大泉も言ってたんだけど、「稲田さんはたまにいいことを言う」って。それは俺も同意で。だから、そのたまに出てくるいい言葉を待っているっていう感じですね。
ーーたまに、なんですね(笑)。
藤村:そう、たまに(笑)。それにね、稲田は役者に負荷をかけるところがあって。役者が一番やりにくいことをやらせるのが好きなんですよ。今回なんかもそうで、俺の役は引きこもりみたいなジメジメした男なんだけど、そういう要素は俺の中には一切なくて。でも、そういうのを敢えてやらせるところがある。本人も「藤村さんが困っているのを見るのが楽しい」なんて言うんだけど。いい意味で役者を育てる人なんだろうね、稲田だったり、イナダ組っていう場所は。
ーー大内さんはイナダ組は初出演ですよね。
大内:そうですね。今回が初めてで。稲田さんとはまだお会いもしていなくて。でも、藤村さんがそれだけ面白いって言うんだから、相当癖があるんだろうな、と(笑)。それはそれでお会いするのが非常に楽しみですね。
主人公の男は48歳で未だ独身。弟が居たが、弟は2年前に事故で亡くなった。弟には綺麗で妖艶な嫁がいた。弟の嫁は、弟が亡くなっても一緒に暮らしている。弟の嫁を密かに好きだった。その想いは、弟が亡くなってからどんどん強くなっていく。
ある時、弟の死に嫁が関わっている疑念を持つ。その疑念が次第に強くなっていく。弟の嫁への想いと殺人の疑念。その狭間で揺れる気持ち。男の心は次第におかしくなっていく。
愛情は誤魔化しはきかない。愛情は時には偽善になることがある。人は偽善の愛と本当の愛を見抜く。本当のものは、心と体にするどく伝わってくる。傲慢な人間は本物を見つけることはできない。いつも偽物を本物と勘違いする。本物は苦しみの中にある。
ーー劇団HPより
ーーこのあらすじを見ると、わりとドロドロとしたお話のようですが。
藤村:稲田が「今回はふざけたことをやるつもりはないですから」って言ってて。ちょっと今までと雰囲気を変えたいらしく、何かはっきりしないことをやりたいみたいですね。
大内:基本的にコメディが多いんですか?
藤村:テーマとしては暗い方に行きがちなんですけど、中身はなるべく笑わせるようなところを入れようっていう感じかなあ。
(横にいた)制作スタッフ:何でも去年、シアターサンモールで東京公演をやったときに、横で劇団チョコレートケーキさんが『60'sエレジー』というお芝居をやっていて、それを観た稲田さんがいたく感銘を受けたようです(笑)。
ーーなるほど、そう聞くと納得のいく感じかもしれません。
藤村:昨日会ったときは、『グレイテスト・ショーマン』にすごい感動を受けたらしくて。「もっと早く観てたら今回は愛と希望の話にしたのに!」って言ってました(笑)。めちゃくちゃ影響を受けやすいんですよ、彼は。
藤村忠寿
ーー大内さんは死んだ弟の役を演じます。これは幽霊として登場するのでしょうか?
大内:どうなんでしょうね、そのあたりは僕もまだよく聞いていないんですよ。
藤村:何せまだ台本が10ページしかできてないですからね(笑)。
ーー藤村さんとの兄弟役というのは面白そうです。
大内:絡みがあるのかどうかわからないですけど、もし一緒の場面があるなら、ぜひ藤村さんが困る感じで芝居がしたいですね(笑)。
“役者の芝居が見られる”舞台になるんじゃないかと思う
ーー死んだ弟の嫁を、兄が密かに想うというシチュエーションも興味を惹かれますね。
大内:今の時代はあんまりないですけど、戦後間もない頃とかはこういう話も現実でありましたよね。夫が戦争で亡くなっちゃって、遺された夫の家族の世話をしているうちに……みたいなのは。人間のいろんな面が混ざり合う、すごく人間ドラマを描ける状況。そういう意味では、“役者の芝居が見られる”面白い設定ですよね。
藤村:男が嫁さんを好きになっている間に、徐々に嫁さんが家に入り込んできて、家業の水道工事屋を乗っ取っていく……というような話の流れにしたいらしくて。なるほどちょっとミステリーで面白そうだな、と。勝手に巣をつくっていく女と、愛を持ってるからつい許してしまう男と。それが最後にどうなるかというところが見どころになりそうです。
ーーいわゆる魔性の女というのは、非常に面白いキャラクターですね。
藤村:演じる山村(素絵)さんがこの役にまたよく合うというか。昨日、冒頭の部分だけ稽古したんですけど、それがお葬式のシーンから始まってね、旦那が死んだのに嫁さんがゲラゲラ笑ってるんですよ。「あの和尚さんの足袋破れて親指出てたわよね? あれ見たらもうダメで」なんて調子で。それが山村さんにピッタリだから、すごく面白い。それに対して、じゃあ俺はどういうふうに演じようかっていろいろ考えているところです。
大内厚雄
ーーこういう得体の知れない女に惹かれる男の心情は共感できますか?
大内:僕自身はあまり裏表がある人はちょっと……というタイプですけど。そういう女性に惹かれる気持ちはわかるし、実際に好きになってしまう男性もいますよね。
藤村:稲田が言うには、本筋に関係ない日常の会話でどんどん話を膨らませていきたいみたいで。実際のところ本当に嫁さんが弟を殺したのかどうかはよくわからない。その中で女がどんどん家を乗っ取っていこうとしてるようにも見えるさまをね、日常が進んでいく中で描きたいと言ってました。真意がわからないまま日常の会話をしていく中で、徐々に何かが見えてくるというか。
大内:面白そうですね。
藤村:ここから台本もいろいろ変わったり付け足したりしていくだろうから、どうなるかはわからないですけど、まあ楽しみですよ。
ーーでは、イナダ組のファンの方はもちろん、まだ観たことがないという読者に向けてお誘いのメッセージをいただければ。
藤村:そうですね、まずは大泉洋の名前を前面に出して興味を持ってもらおうかな、と(笑)。“あの大泉洋さんたちを育てた劇団が再び東京にやってくる!”っていうところでね、ぜひどんなものか観に来ていただきたいです。特に東京にお住まいの方たちは地方の劇団にふれることもそうないと思うので、ぜひこの機会にご来場いただければ!
大内:まずは藤村さんと久しぶりにやれることがすごく楽しみですし、藤村さんや大泉さんと長い付き合いのあるイナダ組とご一緒できるのも楽しみ。どういうものが生まれるのか、僕自身も非常に楽しみにしているので、ぜひみなさんにも見届けに来てほしいなと思います。
(左から)藤村忠寿、大内厚雄
取材・文・撮影=横川良明
公演情報
TEL:070-5604-5136
E-mail:info@inada-gumi.com
SETインフォメーション:03-6433-1669(平日11:00〜18:00)