“いつか志磨遼平の遺影が撮りたい” ドレスコーズを追い続ける森好弘が初写真集について語る 《志磨遼平からのコメントも到着》

2018.5.11
インタビュー
音楽

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

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関西を拠点に活動しているフォトグラファー森好弘が、ずっとレンズを向け続けてきたドレスコーズのライブ記録を、 好弘による第一作品集『1954』として一冊の写真集にまとめあげた。この作品は、ドレスコーズが4人編成だった2014年3月20日、心斎橋Music Club JANUSからはじまり、2016年12月24日の恵比寿 The Garden Hallまで、計20か所での写真で構成されている。森自身、「映画を観ているような感覚で作った」と語る本作。そう、これは志磨遼平の変遷を追いかけた非常に生々しいドキュメンタリーである。同時に、ドレスコーズの音楽に感情の奥深くが揺さぶられ、自分から「撮らせて欲しい」とアタックし、どんどん魅せられていった青年、森好弘の恋愛映画のようでもある。志磨の鋭い目つきを真正面から捉えたファーストカットはまるで衝撃的な出会いを印象づけ、その後、雨に激しく打たれながらのステージパフォーマンス、道路でしゃがんでいる姿、バックショットなど、実にさまざまな角度から森は志磨を見つめ、焦がれている。「自分が死ぬまで、ずっと志磨さんを撮り続けたい」とまで言い切る森。今回は、そんな彼ならではの視点がまじえられた『1954』について語ってもらった。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

●きっとそれは、僕にとって志磨さんこそがロザリオだからなんでしょうね●

——森さんはたくさんのミュージシャンを撮影していらっしゃいますが、ライブ写真って一回の公演につき、何枚くらい撮影するものなんですか。

ドレスコーズの場合は2000枚くらいなので、これは少ない方です。アーティストによってはその倍になることもあります。今回、写真集を作るにあたって掲載候補写真は4万枚くらい。ハードディスクに残している写真データを改めて漁ってみて、全部を1枚1枚チェックし、今見て「良い」と思える写真を選びました。昔と現在の自分の写真に対する目線も変わってきたので、以前は納品しなかった写真、あとハードディスクに眠りっぱなしだった写真をどんどん引っぱり出しました。

——写真集後半の対談記事にも書いてありますが、森さんの方から、ドレスコーズ側に「撮らせて欲しい」とアプローチしたそうですね。

当時、志磨さんはブログのようなものを書いていらっしゃって、そこにメッセージを送信出来る欄があったんです。当時(2014年頃)、僕自身、カメラマンの仕事をやりたかったけどうまくいっていなくて、どうすれば良いか分からなかった。そのとき、ドレスコーズの「ゴッホ」のPVを見て、泣けてきて、その勢いでメッセージを送りました。「自分はこれだけあなたの音楽が好きなんです。一回撮らせてください」と直接送信しました。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

——でも、カメラマンが自分から面識のないアーティストにアタックするって、好きとは言えなかなか出来ないこと。というか、あまりやってはいけないことですよね(笑)。通常はメディア媒体からオファーがあったり、アーティスト事務所から直接連絡があったりして、仕事を請け負うものなので。もし、そうやってアタックメールを送って、相手に気味悪がられたら、それ以降、そのアーティストとは仕事として関われなくなるかもしれないし。

そうなんですよね。あのときも、志磨さんが所属していらっしゃる事務所の社長さんからお叱りのメールがきたんです(苦笑)。「そういうことは普通、アーティスト本人ではなく、まず事務所に送るものだぞ」って。僕はその頃、カメラマンとしてのキャリアなんて全然なかったので、「どこの誰か知らないけど」というふうにスパッと斬られて。ただ、社長さんは「そこまで言うなら一度、大阪でライブがあるから撮りに来なさい」とおっしゃってくださったんです。志磨さんとは事前にお会いしていなくて、社長さんと挨拶をしてからライブを撮らせていただいたんです。

——そのときのワンカットが、写真集の最初のものですね。まさにキャリアを切り開いた一枚。

こちらからしたら意気揚々に撮って、すぐに作業をして仕上げて社長さんに送ったんです。そうすると、「全然良くない」とバッサリといかれて。「物足りない、全然良くない」と。でも、「今度、(京都の)磔磔の40周年イベントで、ドレスコーズがワンマンライブをするから、また来たいなら来なよ」って。「良くない」と言われたときは、さすがに(カメラマンを)辞めようかなと考えましたけど、もう一度行ってみようって。だけど、磔磔のときも「まだまだ、足りない。ワンマンなんだから、もっとやれたでしょ。ぎりぎりまで攻めて撮らなきゃ」と言われました。そのあと、Zepp なんば大阪でのクロマニヨンズとの対バンのとき、初めて「今回良いじゃん」と褒めていただいて、自分の中でも「こういうことか」と気付くところがありました。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

——それが2014年5月のことですね。ちなみにドレスコーズのライブを撮るとき、森さんはどういうところに主眼を置いているんですか。

歌詞の内容を自分なりにしっかり把握して撮るようにしています。僕は普段、ライブ撮影のときは「この曲のとき、こういう演出がきっとあって、この人はこういう動きをするだろう」と事前に調べて、計画を立てていくタイプ。「この曲では、キメのジャンプを必ずやる」とか。でも、ドレスコーズに関しては歌詞にあわせて、撮る角度などを考えています。志磨さんのライブ中の動きは、歌詞を体現したものが多いんです。それは撮っていて途中で気付いたんです。だから、「もうすぐこのフレーズがくる」と先回りして、撮るようにします。ただ、被写体としてずっと追いかけていくと、僕自身の狙い方もマンネリになるので、これではいけないと思うようになり、志磨さんがその時々で好きな音楽とアートワークを調べて、そのイメージをミックスして撮るようになりました。

——たしかに、カットとしてかなりバラエティーに富んでいますよね。ちなみに写真集のタイトルは、初期ドレスコーズの代表曲のタイトルをそのまま引用した、『1954』ですね。

「1954」って、ドレスコーズにとって要所で鍵になってきた曲。オリジナルメンバーがみんな脱退して、志磨さんが一人になってしまった初ライブのときに弾き語っていたので、特に印象に残っています。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

——「1954」は、歌詞のなかに“ロザリオ”という存在が出てきます。その存在について志磨さんは各所のインタビューで、「忠誠を誓う唯一の存在」とおっしゃっています。つまりロザリオは、志磨さんにとって音楽の化身なのかもしれないし、他の大切なものなのかもしれないけど、いずれにせよ自分の中で絶対に裏切れない存在を、ロザリオに見立てて歌っている。写真集のタイトルに『1954』を据えたということは、森さんにとって、志磨さんこそがロザリオ的であり、何があっても肯定出来る存在なのかなって感じました。

確かにそれはかなり強くあります。ご本人にも、この写真集が出来上がって以降、お伝えしたことなのですが、2017年3月『平凡』というアルバムがリリースされ、志磨さんがトレードマークだった長髪を切り、強めのメイクも落とし、眼鏡をかけて、ビジュアルがガラっと変化した。当然、みんなざわつきました。音楽も、僕が好きになった頃のドレスコーズの作風とはちょっと違っていて。それでも聴いたとき、大好きになれたんです。志磨さんには、「なぜあんなにガラっとチェンジして、全然違うバンドのようになったのに、僕は格好良いと思えたんでしょうね」と尋ねました。きっとそれは、僕にとって志磨さんこそがロザリオだからなんでしょうね。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

●どれだけ写真の技術があっても愛情がなければロボットが撮っているのと同じ●

——掲載写真で目を引いたのは、志磨さんがご両親と一緒に写っているものでした。森さんは、写真を始めた理由がそもそもご家族なんですよね。お父様が余命半年という状態だったから、最後に撮り収めていくことにした。志磨さんの家族写真を見たとき、森さん自身が果たせなかった“写真”をそこに投影している気がしました。

志磨さんの34歳の誕生日でもあった2016年3月6日、神戸SLOPEでのライブ時なのですが、珍しくご両親が来られていると聞いたんです。ふと「自分なりに、もっとも好きなアーティストの役に立ちたい」と思ったんです。そこで、「志磨さんのご実家にも置いてもらえるような家族写真を撮れたら最高だな」って。仕事でいくら写真を撮ってもそういうことってなかなか叶わないし、あと田辺さんが示唆されたように、自分の中でも、この写真集になぜか「家族写真があったらいいな」と感じていました。

——森さん自身に、「もっと前から写真をやっていたら、お父さんのことをたくさん撮れたのに」という気持ちがあるのかなって。

それはすごくありますね。だから、志磨さんのこの家族写真には、自分の気持ちを投影している部分があるかもしれません。カメラマンとして、スキルや経験が少しずつ積み重なってきた今だからこそ、その想いがある。父親のことをもっと撮りたかったなって。

——そういった部分も、志磨さんとの対談で触れていらっしゃいますね。でもお二人の会話の記事についてなんですけど、基本的に森さんはほとんど喋ってないですよね(笑)。「はい」を三連発する対談記事なんて、初めて読みましたよ!

ハハハ(笑)。やっぱり照れがあるんです、志磨さんを前にすると。写真を撮るときはバシッといけるけど、それ以外の場で対面するとまともに喋れない。ふわふわしちゃいます。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

——いや、でも馴れ合いな関係性を作っていないからこそ、本当に緊迫感のある写真ができあがるんだと思うんです。僕も、インタビュー相手とはあまり親しくしたくないから。そんなヒリヒリした空気が伝わってくるのが、P.20の写真。志磨さんが「ぞっとした」とコメントしているように、その後のドレスコーズを暗示するような構図になっている。

まさに、この写真集をあらわす代表的な一枚ですよね。偶然、撮れたんです。

——どういう態度での臨めば、こんなに良いライブ写真を撮れるんですか。

絶対的なのは、被写体となるバンドのことがどれだけ好きなのか。その愛情の深さ。それ以外ないはず。どれだけ写真の技術があっても、愛情がなければロボットが撮っているのと同じですから。あと、とても良いものが撮れたとしても、カメラマンに愛がなければ、その写真の良さに気付かない。だから、セレクトから省く可能性が高い。アーティストへの愛情があれば、どれが良い写真か分かるんですよね。

——なるほど、確かにそうですよね。それにしても森さんは、写真家としてドレスコーズからはもう離れられないですよね。

自分が死ぬまで、ずっと志磨さんを撮っていたいんです。『平凡』のアートワークを見たとき、以前とは変わっていたし、おそらく今後もたくさんの変化が起こる。この写真集の意味として、そうやってどんどん変わっていく前に、一度これまでのドレスコーズを記録しておきたかった。これからどうなるか、きっと志磨さんですら分からないはずだから。

——芸術をやっている人の「この先」って、本当にどうなるか分からないですよね。最後に聞きたいのですが、もし、志磨さんがミュージシャンではなくなったとしても、被写体として追いかけたいですか。

はい。僕は、志磨さんの遺影を撮りたいんです。たとえ音楽家ではなくなったとしても、何をしているか分からない人になっても、志磨遼平に魅せられたから、撮りたい。遺影は、その人のパーソナリティをあらわしていて、「この人の生き方はこうでした」というもの。昔の画家や小説家の写真って、「この写真と言えば、この人」とパッと画が浮かぶじゃないですか。志磨さんを最後まで追いかけて、そういう一枚をいつか撮りたいです。

森好弘 撮影=日吉“JP”純平

ぼくの音楽家人生においてほぼ唯一の自慢に「フォトグラファーに恵まれ続けていること」があります。荒木経惟、有賀幹夫、デニス・モリス、ミック・ロックといった名だたる大家のフィルムに収められた経験は、なににも代えがたい名誉に違いありません。

それでも、やはり森くんの写真は特別だ、と断言できるのです。

フォトグラファーと被写体の関係は性愛とよく似ています。ふたりのあいだから一切の雑音が消え、行為に没頭していく “はざま” に、うーん、愛されてるな。と実感してしまうような。森くんに備わっている才能も、きっとそんな「被写体を愛する熱」であるようにぼくは思います。

おそらく、森くんは誰の助力を必要ともせず、一級のフォトグラファーとして名をはせることでしょう。彼の輝かしい経歴がこの『1954』という作品集から出発することがぼくはとても誇らしい。また名誉が増えてしまいました。

ドレスコーズ 志磨遼平
 
取材・文=田辺ユウキ 撮影=日吉“JP”純平
 

ツアー情報

“dresscodes plays the dresscodes”
■開催日
5月19日(土) 宮城SENDAI CLUB JUNK BOX
開場 17:30 / 開演 18:00
(問) GIP 022-222-9999
5月26日(土) 札幌cube garden
開場 17:30 / 開演 18:00
(問) マウントアライブ 011-623-5555
6月2日(土) 福岡BEAT STATION
開場 17:30 / 開演 18:00
(問) BEA 092-712-4221
6月3日(日) 岡山YEBISU YA PRO
開場 17:30 / 開演 18:00
(問) 夢番地(岡山) 086-231-3531
6月9日(土) 大阪BIG CAT
開場 17:15 / 開演 18:00
(問) 清水音泉 06-6357-3666
6月10日(日) 名古屋CLUB QUATTRO
開場 17:15 / 開演 18:00
(問) JAILHOUSE 052-936-6041
6月16日(土) 新木場studio COAST
開場 16:15 / 開演 17:00
(問) HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

料金
前売り¥4000/当日¥4500(共にドリンク代別)
(新木場studio COASTのみ2階指定あり 前売り¥4700/当日¥5200)
*小学生以上は必要。
*小学生未満は保護者同伴に限り入場可。

書籍情報

『1954』
(読み:いちきゅーごーよん)

価格:3,200円(本体+税)
購入方法:URL https://1954.official.ec
*通信販売とライブ会場のみの販売となります。

 
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