吉田鋼太郎、黒木瞳、大野拓朗、白洲迅が挑む不朽の純愛『シラノ・ド・ベルジュラック』稽古場レポート

レポート
舞台
2018.5.11
黒木瞳 撮影者 渡部孝弘

黒木瞳 撮影者 渡部孝弘

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吉田鋼太郎黒木瞳が、心に秘めた愛を描くフランスの傑作戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』に挑む。上演台本はマキノノゾミと鈴木哲也。演出は鈴木裕美。ドラマ「コウノドリ」のテーマ曲で知られるクラシックピアニストの清塚信也が音楽を担当し、劇中で生演奏することでも注目の公演だ。5月15日の開幕を前に、稽古の模様をレポートする。

鈴木裕美 撮影者 渡部孝弘

鈴木裕美 撮影者 渡部孝弘

清塚信也 撮影者 渡部孝弘

清塚信也 撮影者 渡部孝弘

2018年は日仏友好160周年、エドモン・ロスタン生誕100年。その記念公演でもある『シラノ・ド・ベルジュラック』は、吉田が演じるシラノ、黒木が演じるロクサーヌ、Wキャストで大野拓朗白洲迅が演じるクリスチャンの3人の恋愛模様を中心に進んでいく。

吉田鋼太郎&大野拓朗(左から) 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎&大野拓朗(左から) 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎&白洲迅(右から) 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎&白洲迅(右から) 撮影者 渡部孝弘

黒木瞳&白洲迅 撮影者 渡部孝弘

黒木瞳&白洲迅 撮影者 渡部孝弘

 
<あらすじ>
舞台は1640年のフランス。シラノ(吉田)は剣豪にして詩人。権力に背を向ける熱血感。けれど人並み外れて大きな鼻をもつ自身の醜さをコンプレックスに、ロクサーヌへの愛を語れない。ロクサーヌ(黒木)は詩を愛する麗しい才女。けれど愛の詩に酔いしれ、クリスチャンへの盲目的な愛に突き進む。クリスチャン(大野/白洲)は、ギリシャ神話の美少年のような顔立ち。しかし口下手で、溢れる愛を言葉にできない。シラノは、クリスチャンのかわりに(という体で)ロクサーヌへの情熱的な愛の詩を書き、戦火をくぐりぬけ手紙を届ける。ロクサーヌは、シラノが代筆したとは知らず詩の美しさに、クリスチャンへの思いを一層深めていく。


訪れたのは、都内の稽古場。第2幕2場がはじまるところだった。

激戦地に送られたル・ブレ(大石継太)率いるガスコン青年隊士たちは、スペイン軍に包囲され兵糧攻めにあう。空腹で士気が下がっているところに「皆さんごきげんよう!」と瑞々しい声。現れたのはロクサーヌだ。クリスチャンに会いたいがため、危険をかえりみずにラグノー(石川禅)とともに食料を届けにきたのだ。ロクサーヌの美しさとラグノーの陽気さが、殺伐とした空気を明るくするが、物語はここから大きく動き出す。

黒木瞳 撮影者 渡部孝弘

黒木瞳 撮影者 渡部孝弘

白洲が感情ほとばしる熱演をみせ、吉田がサーベルをふるアクションシーンになだれ込み、低く鳴らされていたティンパニと清塚のピアノがドラマチックな展開を熱く盛り上げていた。

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

吉田鋼太郎 撮影者 渡部孝弘

新たなシラノ・ド・ベルジュラックが生まれる瞬間

第2場が終わったところで鈴木が集合をかけると、キャストたちは台本とペンを手に円座を組んだ。印象的だったのは、鈴木の演出の緻密さ。

ロクサーヌの歩き方を、青年隊士たちの前とクリスチャンと2人きりの時とで僅かに変えた。その結果、彼女の感情がより明確に描き出され、可愛らしさや知的さもアップした。ラグノーが荷馬車から顔を出すタイミングを見直しテンポを良くしたことで、愛嬌が際立った。クリスチャンの言葉と動きを固めたことで、言葉に深みが生まれた。

白洲迅 撮影者 渡部孝弘

白洲迅 撮影者 渡部孝弘

見学のタイミングでクリスチャン役をつとめていたのは白洲だったが、Wキャストの大野もそのすぐそばにおり、サーベルの扱いについてお互いの意見を確かめ、ひとつの答えを出す一幕も。このような小さな調整の積み重ねが、作品全体を大きく練り上げていく。新しいシラノ・ド・ベルジュラックが花開く瞬間をみているようだった。

白洲迅&六角精児 撮影者 渡部孝弘

白洲迅&六角精児 撮影者 渡部孝弘

大野拓朗 撮影者 渡部孝弘

大野拓朗 撮影者 渡部孝弘

大野拓朗 撮影者 渡部孝弘

大野拓朗 撮影者 渡部孝弘

さらにこの日は、シラノが門をこじ開けなだれ込んでくるスペイン軍と乱戦になるシーンにも変更があった。吉田は殺陣の新しい段取りを横でみながら動きをなぞり、できあがったばかりの一連の流れをさっそく共演者たちと確認する。一太刀一太刀に説得力が宿り、静と動、雄々しくも流れるように美しいシーンとなった。日生劇場の舞台で、音楽、衣装、照明、セットが揃った時の迫力を想像すると鳥肌が立つ。

現代にも通じる愛と葛藤を不朽の名作で

もうひとつ印象的だったのは、共演者たちの一体感だ。鈴木の演出に吉田が(シラノ役のまま)冗談で返したり、黒木も飾らず気さくに声をかけたりと、緊張感を保つのにちょうどよい塩梅で笑いが起き、一定の集中力が保たれていた。

作中においてもそれは同様で、緩急をつけるコミカルなやりとりが各所に散りばめられている。クリスチャンは「それって自分に酔ってない?」等の若者言葉を使い、軽やかで洒落が効いた性格のシラノは、吉田は作品の現代的な感覚の間合いで笑いを誘う。世界観は壊さず、しかし詩をよむ時とはまた違う魅力が発揮されていた。

ド・ギッシュ伯爵(六角精児)とヴァルヴァーニ子爵(平野良)は敵役として憎々しく振舞うが、まとう空気が喜劇的で憎みきれない滑稽さがある。「(青年隊士たちからの)ド・ギッシュへの憎しみが全体的に浅い気がする」と苦笑いで鈴木がこぼすのも致し方なく思える、やみつきになる存在だ。

六角精児 撮影者 渡部孝弘

六角精児 撮影者 渡部孝弘

"17世紀フランスを舞台にした傑作戯曲"
"1897年初演の不朽の純愛物語"

このような文言は「なんだか難しそう」という印象を与えることもあるかもしれない。しかし一流のキャストによる、もどかしく切なく美しい純愛ストーリーは、性別も世代も問わず楽しむことができるはず。『シラノ・ド・ベルジュラック』は、2018年5月15日~30日まで日生劇場、6月8日~10日まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。

公演情報

舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』
 
■日程・会場:
【東京公演】2018年5月15日(火)~30日(水) 日生劇場
【兵庫公演】2018年6月8日(金)~10日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
■作:エドモン・ロスタン
■上演台本:マキノノゾミ 鈴木哲也
■演出:鈴木裕美
■音楽:清塚信也
■主催:東宝 ホリプロ
 
■キャスト
シラノ・ド・ベルジュラック:吉田鋼太郎
ロクサーヌ:黒木瞳
クリスチャン(Wキャスト):大野拓朗/白洲迅
ル・ブレ:大石継太
ラグノー:石川禅
ド・ギッシュ伯爵:六角精児
ほか
 
■公式サイト:http://www.tohostage.com/cyrano/
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