“ひとりでも多くの人に、音楽をもっと好きになってほしい” FM802主催イベント『REQUESTAGE』の魅力とライブをレポート
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FM802 REQUESTAGE 2018
FM802 SPECIAL LIVE 紀陽銀行 presents REQUESTAGE 2018 2018.04.28(sat)大阪城ホール
FM802 REQUESTAGE 2018
●802編成部長・山本剛志氏が語る『REQUESTAGE』への想い●
関西のラジオ局FM802 が主催する『FM802 SPECIAL LIVE 紀陽銀行 presents REQUESTAGE 2018』が、4月28日に大阪城ホールにて開催された。今回、このイベントの発起人である、802編成部長・山本剛志氏に事前にインタビューを行い、山本氏のイベントに込めた想いを織り交ぜながら、出演したASIAN KUNG-FU GENERATION、[ALEXANDROS]、Aimer、クリープハイプ、THE ORAL CIGARETTESのライブ模様をレポートしようと思う。
新旧洋邦問わずリスナーからのリクエスト曲をもとに選曲する長寿番組『ROCK KIDS 802』が、2002年にスタートさせ今年で16回目の開催となる『REQUESTAGE』。開催のキッカケについて山本氏は、「音楽が好きな人でもライブに行ったことがないという人が実は多いんです。そういう人たちが音楽をもっと好きになってもらうキッカケになってほしいという想いから始めました」と語る。実際に、このイベントで初めてライブを観たという人の反響も多く、現に初めてのライブが『REQUESTAGE』だったという番組ディレクターもいるそうで、今では今年のイベントのスタッフチームに加わっているというから驚きだ。それほど、ライブという音楽体験がもたらす影響は大きく、『REQUESTAGE』がより音楽を好きになったり、アーティストの新しい魅力を発見したり、ライブに通うきっかけにとして、長年続いてきた人気イベントだということが伺える。
FM802 REQUESTAGE 2018
今年も
他のイベントと異なる点でいえば、出演アーティストのセットリストもそうで、事前にライブで演奏してほしい楽曲のリクエストを番組で受け付け、それを参考にセットリストを組んでもらっているという。いまでこそアーティスト主催のライブで、そういった試みが取り組まれてるものの当時としては珍しく、アーティストにとってもラジオリスナーがどういった曲を好んでくれているのかという意外な発見にも繋がっているのだとか。また、目当てのアーティストだけでなく、全アーティストを観てもらいたいという想いから、事前にタイムテーブルの発表は行われていない。これができるのは、「スタートさせた時から変わらない特徴として、お客さんがどのアーティストのライブも温かく迎えてくれること。そして、誠心誠意で向き合って、楽しみながら盛り上げてくれるからこそ」(山本)だという。
FM802 REQUESTAGE 2018
●全出演者が歴代 ヘビーローテーションアーティスト●
さて、前置きが長くなったが肝心のライブについてレポートしていこう。今年は、ブレイク前に毎日1か月間楽曲をOAするFM802のヘビーローテーション(以下、ヘビロ)に選ばれたことのあるアーティストばかりが集結。5年連続10回目の出演となるASIAN KUNG-FU GENERATIONのほか、[ALEXANDROS]、Aimer、クリープハイプ、THE ORAL CIGARETTESとロック色が強いラインナップが実現した。
[ALEXANDROS]
先ずは、現在『ROCK KIDS 802』のDJを務める落合健太郎、かつて番組を担当していた大抜卓人が登場して挨拶。呼び込まれて、トップバッターで登場したのは、3年ぶりの出演となる[ALEXANDROS]。「Run Away」、メジャーデビュー曲「ワタリドリ」と畳みかけ、いきなり興奮の沸点を叩き出すような盛り上がりに。込み上げてくる衝動と怒りや憂い、純粋なる音楽への愛や喜びを、時に地鳴りのような轟音で、時に甘くポップなメロディにのせて届けていく。
[ALEXANDROS]
MCで川上洋平(Vo&Gt)は、「リクエストの1位は「ワタリドリ」かなと思ったら3位でした。大阪は分かってるなあ(笑)。802には、デビューしたての頃から応援してもらっていて、本当に愛のあるラジオステーション。安心して曲を預けられるラジオステーションです!」と感謝を伝える。
[ALEXANDROS]
さらに新曲「Mosquito Bite」を披露し、ラストは2013年1月のヘビロナンバー「starrrrrrr」を投下。いつも聴いている大好きな曲が、目の前のライブで聴けているという高揚感が、息の合ったクラップや合唱の大きさからヒシヒシと伝わってきた。
THE ORAL CIGARETTES
続いては、2月に大阪城ホールでのワンマンを成功させたばかりのTHE ORAL CIGARETTES。山中拓也(Vo&Gt)が「かかってこいや!」とまくしたて、あきらかにあきら(Ba)も乱舞するようにベースを弾き、「狂乱 Hey Kids!!」「カンタンナコト」とアグレッシブなナンバーをフルスロットルで仕掛けていく。「過去の曲よりも最新の曲のリクエストが多くて、常に更新できているんやなって嬉しかったです!」と山中。
THE ORAL CIGARETTES
「俺らは今を生きてるんです。どれだけ過去が辛くても、今が“最高”って言えるように……、一緒に歩んでいけるように“最高”を更新していこうと思います」と続け、山中の弾き語りから、一転して温かみのあるメロディで引き込む「ReI」へ。ポリープの摘出手術のため活動休止を余儀なくされた彼らだからこそ説得力のあるMCで、苦難を乗り越えてきたからこその強さと優しさが音にじみ出ていた。
THE ORAL CIGARETTES
さらに、「音楽に救われてるってやつ、バンドしたいって思ってるやつ、勇気を出して一歩生み出しても大丈夫やから。関西には802っていう最強の応援団がついてますから、夢を諦めないでください! きっとそばで助けてくれる人がいますから。俺達も悩んでいた時に、802がこの曲を応援してくれました!」と、14年7月のヘビロナンバー「起死回生ストーリー」を披露。「まだまだ足りない!」と最後まで焚きつけ、熱狂的なステージを後にした。
Aimer
紅一点、初の城ホールとなるAimerが登場。「今日の私の全てを懸けて、心を込めて歌います」と「Brave Shine」でライブをスタート。声帯を痛め、声を失ってしまった過去から、喉を守るようにして歌う独自の歌唱法でより表現の可能性を広げ、魅了してきた彼女。温かいアコギのサウンドでにのせて、切なくも儚い、途切れてしまいそうなエモーショナルな歌が心をざわつかせる。
Aimer
MCでは、会場に向かうタクシーに衣装の靴を忘れてきてしまったというお茶目なエピソードで笑いをさそっていたが、いざ演奏が始まると、別人かと疑ってしまうほどのパワフルかつ繊細な歌で引き込んでいく。「デビュー当時から応援してくれて、この声が出る限り歌い続けたいのでまた聴いてもらえたら嬉しいです」と誠実に語る。
Aimer
2011年9月のヘビロナンバー「六等星の夜」へ。そっと背中を押してくれるようなたくましさと、手を差し伸べてくれるような優しさを兼ね備えた歌声に、観客はじっと見つめるように聴き耽っていた。
FM802 REQUESTAGE 2018
Aimerのライブ後、楽曲や歌のすばらしさ、そして圧倒されるようなライブの感動で胸がいっぱいになっていた観客も多かったはず。そこですかさず幕間のMCで登場した、DJの鬼頭由芽は「揉みほぐされたような歌声で、勇気づけられました!」とコメント。
FM802 REQUESTAGE 2018
うまく言葉にできず、自分の中で何がすごいのか分からないけど、とにかくすごかったと感じる音楽に、DJが言葉を添えて保管することで、納得できて、よりその音楽を好きになったり、誰かと共有することができる。まさにFM802が日々、おすすめのアーティストをラジオで紹介しているようなことが、現場で何気なく行われてグッときた。この日、他にも中島ヒロトや仁井聡子、野村雅夫といったかつて番組を支えてきた歴代DJが幕間に登場し、番組さながらのMCで盛り上げ、観客と音楽とライブの楽しさを共有したのが、とても印象深い場面だった。
FM802 REQUESTAGE 2018
また、BGMで歴代ヘビロが流れ、モニターにはヘビロに抜擢された当時のアーティストの情報や番組との関りが紹介されていて、思い出に浸ったり、新しい発見に結び付く嬉しい仕掛けだったように思う。
クリープハイプ
「春のキャンペーンソングで爽やかな曲を作ってますけど、僕はほんとはこんな人間です。“セックス”の歌を歌います」と、のっけから「HE IS MINE」でしかけて行ったのはクリープハイプ。尾崎世界観(Vo&Gt)が「こちらからもリクエストしていいですか? ラジオでは流せない“あれ”をお願いします」と、いけないコール&レスポンスに誘うドキドキするスタートに。MCでは、アルバイトをしながら生計をたて、念願だった802主催のサーキットフェス「MINAMI WHEEL」への出演を果たした頃のエピソードを披露。
クリープハイプ
「初めてのミナホは50人もいないところでライブしてました。そんな自分たちが、ヘビロにも選んでもらって、キャンペーンソングも書かせてもらって、こんなけ歓声を浴びています。それでも802はいつも、“まだまだ足りない”と思わせてくれる、先を見せてくれます!」と思いの丈を語り、2012年10月のヘビロナンバー「おやすみ泣き声、さよなら歌声」、続けて尾崎が作詞・作曲を手がけた今年のFM802のキャンペーンソング「栞」を披露。「また新しい目標を持てました。ここでワンマンをやりたいと思います。その時また会いましょう!」と宣言して、ラストには「憂、燦々」を。ライブの定番曲からヘビロテナンバー、CMソングに今年のキャンペーンソングまで。バンドが802と歩んできた歴史が分かるようなセットリストに、観客の熱気がすさまじかった。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
最後は、ASIAN KUNG-FU GENERATION。「“世界のアンセム王”みたいな紹介で呼びこまれて、ハードル上げられましたけど、“リライトおじさん”ことASIAN KUNG-FU GENERATIONです! よろしく!」と後藤 正文(Vo&Gt)がボヤきながらも、「Re:Re:」を鳴らした瞬間、圧倒的なスケール感で観客を飲み込んでしまった痛快さたるや。「リライト」では、後藤がステージを練り歩いたり、しまいには寝転びながら、ゆるくドープなコール&レスポンスを巻き起こす場面も。「リラックスして観てくださいね。二枚目のバンドはもう出てこないから、汗かきおじさんしか出てこないから(笑)」と笑いを誘う。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
「そもそもリクエストでセットリストを決めなきゃいけないなんて嫌で、突っ張ってた時期は、新曲とかリクエストにない曲を勝手にやったりしてました。だけど丸くなったので、今日は1位から5位までやります。楽しんでもらうのが1番ですからね。隣の人に合せなくていいから、自分なりの楽しみ方で、ひとそれぞれで自由に楽しんで」と投げかけ、「ソラニン」へ。イントロが流れた瞬間、「やったー!」とガッツポーズをとって、ラジオで自分のリクエストのお便りが読まれ、流れた時のように歓喜する観客たち。こんなにもキラキラとした笑顔が、日々ラジオの向こうにも広がっているのかと改めて実感して、個人的にすごくグッときた。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
アンコールでは、「どこの馬の骨ともわからないような頃に、ラジオから自分の曲を、それもいっぱいかけてくれたのが嬉しくて背中を押してもらえました」と後藤が感謝を伝え、2003年11月のヘビロナンバー「君という花」で最高潮に。さすがの堂々たる貫禄のステージ。曲の持つ強さを、体いっぱいに感じられるライブで、イベントを締めくくった。
●アーティストとFM802の関係性、リスナーとアーティストが繋がる場所●
こうして、今年の『REQUESTAGE』は幕を閉じた。この日の模様は、その日のうちにラジオでライブ音源がOAされ、感想が番組に寄せられていた。“元祖SNS”とも言われるラジオは、DJとリスナーの密なコミュニケーションで成り立っているメディアだということを再確認する機会にもなった。ラジオについて、山本氏はこうも語っていた。
「ラジオは仕事をしていたり、車を運転していたり、勉強をしながらでも楽しめるので、日常の中に入り込める唯一のメディアなんです。だからこそ、普段から聴いているDJの言葉が心に刺さって、薦められた音楽がより心に響くのだと思います。これからもラジオを通して、音楽やライブに触れてもらう機会をもっともっと作りたいですね。紹介しているアーティストはカッコいい人たちばかりですから、ライブも一度観てもらえさえすれば、次に間違いなく繋がるはずだと思っています」
きっとこの日が初めてのライブとなった人も多かったはずで、この日のライブ体験がより豊かな音楽人生のひとつのキッカケとなったに違いない。この日の出演者は、単独でアリーナワンマンを開催できるような名実共に備わったアーティストばかりだが、彼らにもかつては誰もが経験するブレイク夜明け前があった。その頃から「カッコいい!」と疑わずアーティストと向き合い、誰に頼まれたわけでもなく「良い音楽だから聴いてほしい!」と日々ラジオで流し続けてきた関係性があってこそであり、流れてくる音楽に対してのリスナーの熱い反響やたくさんのリクエストがあってこそ実現したのが、この日のステージと言っても過言ではないはず。この日を機に、音楽がより好きになったなら、まだ見ぬブレイク前のアーティストや、最新の音楽に出会えるラジオに耳を傾けてチェックしてみよう。そして、好きなアーティストの曲をどんどんリクエストしてみよう。番組へお便りを送り続けた思い出が、いつか大きなステージで爆音と共に弾ける瞬間が来るかもしれない。
取材・文=大西健斗 写真=FM802
イベント情報
OPEN=15:00 START=16:00