堤真一インタビュー~小泉今日子、高橋克実と江戸川乱歩テイストな世界に挑む三人芝居『お蘭、登場』
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堤 真一
堤真一が、シス・カンパニーの人気シリーズ“日本文学シアター”の舞台に初めて立つことになった。シリーズ第5弾『お蘭、登場』の脚本を手がけるのは、このシリーズの過去4作品と同様に北村想。堤とは『寿歌』(2012年)以来の顔合わせとなる。美しくもダークで、そして時には猥雑でもある江戸川乱歩のさまざまな小説をモチーフにしつつ、北村脚本ならではの会話の妙もたっぷりと盛り込まれた痛快作が誕生しそうだ。
神出鬼没の謎の女“お蘭”が起こす奇妙な事件に巻き込まれる、名探偵・小五郎と目黒警部。大胆不敵な七変化を披露する“お蘭”には小泉今日子が扮し、堤演じる探偵と、高橋克実演じる警部を、軽やかに艶やかに翻弄していく。
ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(2017年)などの映像作品やそれぞれ個別では舞台でも共演経験がある、堤、小泉、高橋だが、舞台で、それも三人芝居での共演となれば今回が初めてのこと。濃密な空間で繰り広げられる大人のミステリーに、期待は高まる。
いかにも乱歩テイストな作品らしく“小五郎”という名を持つ探偵に扮する堤に、今作への想いを語ってもらった。
――江戸川乱歩作品をモチーフにした、今回の台本を読まれた感想はいかがでしたか。
全体を包んでいるのは江戸川乱歩の世界観なんですが、会話はとても軽快で、想さん独特の不思議な世界でした。といってもテーマはきっちりしていて、でもそれが前に出過ぎてはいない。3人の登場人物の関係性のバランスも、絶妙です。最後には「あれ? 今のどういうこと??」という終わり方になるので、演じる側にとってもご覧いただく皆さんにとっても、すごく楽しい作品になると思います。
――ミステリー仕立てとはいえ、やはりちょっと笑える部分もあったりするんでしょうか。
ま、克実さんが舞台に出ているだけで笑えるんで(笑)。今回は特に、真面目にやればやるほど、克実さんらしさが出てくるような役なので、かなり面白いことになりそうですよ。
――役柄としては堤さんが探偵で。
そして、克実さんが警部ですね。
――キャラクター的には、探偵はどういう人ですか。
小五郎はまさに、江戸川乱歩の小説に出てくるような探偵です。お蘭という謎の女性を追っていくわけなんですが、探偵なのに、警察側というよりもつい、意識のつながりとしてはお蘭の側に近くなってしまうような。江戸川乱歩作品でも、よくありますよね。たとえば『黒蜥蜴』であれば、探偵・明智小五郎が徐々に黒蜥蜴に心魅かれていってしまう、みたいな感じでしょうか。今回、小泉さんは何役も演じるんですが、客席側からは、もしかしたら最初は、小泉さんがお蘭以外の役も演じているのか、お蘭が変装をしているということなのか、すぐにはわからないかもしれません。実際、これがまた不思議な終わり方をするものだから、結局はお客様も「ん?どういうこと?」となるかもしれませんね。
――お客様の反応が楽しみですね。
そうですね。とはいえ、ストーリーは複雑なようでいて、飛び出してくる会話はしちめんどくさい難しいものは一切ないので、心から楽しんでいただけると思います。
――観劇後、そのラストについて誰かと話したくなりそうですね。
たぶん、友達と一緒に観に来ていたら「あれはこういうことよね?」とか、確認したくなると思います。それもきっと、人それぞれで捉え方が違ってくるだろうから、その違いがお互いにわかると一層面白さが増してくると思いますよ。
――堤さんにとって、江戸川乱歩作品はどんなイメージがありますか。
僕は『黒蜥蜴』とか、明智小五郎と少年探偵団くらいしか知らないんですけどね(笑)。複雑な謎解きがどう、というよりは、どちらかというとあの妖艶な、不思議な世界観、雰囲気が魅力的だと思います。なんとなく、赤と黒のイメージがある。あと、西洋の人形みたいなイメージも。
――洋館に置かれているような。美しいけどちょっと怖い。
そうそう。子供が持って歩いていれば単に可愛いお人形なんだけれど、夜、ちょっと古いお屋敷にポンと置いてあったら、同じものなのに怖く感じる。そんな印象もありますね。
――今回、その世界観を料理するのが北村想さんです。
そうですね、今回は想さんの思う、乱歩の世界という感じかな。
――北村さんのタッチが加わって、乱歩のイメージも変わっていく。
会話も、とても軽快ですしね。しかも想さんの場合は、美しさだけではなくそこに実質的な問題提起もしているので。つまり、ただ推理をしていって「コイツが犯人だったのか、そうかー、わからなかった!」で終わる作品ではないんです。謎解きの部分から、ちゃんとしたテーマがスッと入ってくるので、そこも面白い。そういう意味では、大人向けの作品かもしれません。
――こんなトリックがあるのかということではなく、その背景や、人間関係のほうが重要になるんですね。
そうです。この人物は、なぜこういうことをするのかということがチラッチラッと垣間見えてきたり。それがすべてではないですが、犯罪の背後にある社会問題にも触れていたり。単に「面白くて難しい推理劇を作りました、みなさんおわかりになりましたか、わからなかったでしょう?」というものではない、ということですね。
――3人の登場人物がお互いに心が近づいたり離れたりするやりとりや、駆け引きも楽しめる。
もちろん、犯人探しという部分もあるんですが。ま、3人芝居だということは、犯人を見つけることが大事ではないということが、始まったらすぐにわかってくるとは思います(笑)。
――この魅力的な顔ぶれなので、演劇ファンは当然ながら、ふだんはあまり演劇を観ないお客様も劇場に足を運びやすいかもしれませんね。
特にこの作品はそうかもしれません。でも、演劇は、どうしても女性のお客様が圧倒的に多いですね。男性、特に働いている方たちは、あまり劇場に来てくださらないんですよ。もっと現役でバリバリ働いている男性の皆さんにも、こういう舞台を観て、脳みそを休めていただきたいと思っています。もちろん好みもありますが、お芝居とか映画で、自分とは違う価値観のものを観て、体感する面白さを感じていただけたら嬉しいです。
――確かに、今回の作品だと日常では使わない部分の脳を動かせそうですし。
観劇後にはちょっと飲みに行って、どうだったか感想を話し合って。同じ空間で同じ時間を過ごせる舞台は、貴重だと思うんです。ぜひ女性のお客様も、たとえば旦那さんとか、会社のお友達とか、劇場まで連れて来てほしいです。それで「あなたはどう思った?」と聞いてみる。思いがけず楽しい会話ができるかもしれないですし、逆にもしもあまりにも盛り上がらなかったとしたら、その人とはうまくやっていけないかも、と早めに気づけるかもしれないし(笑)。
――同じ価値観や共通言語があるかどうか、こういうところでも判断ができそうです。
そのためにも、ぜひ誰かを誘って劇場にお越しください。あ、もちろんおひとりでも、それはそれでじっくりと落ち着いて楽しめます!(笑)
取材・文:田中里津子
写真撮影:岩間辰徳
スタイリング:中川原寛(CaNN)
ヘアメイク:奥山信次(barrel)
公演情報
■演出:寺十吾
■出演:小泉今日子、高橋克実、堤真一
■日程:2018年6月16日(土)~7月16日(月・祝)
■会場:シアタートラム
■日程:2018年7月19日(木)~26日(木)
■会場:サンケイホールブリーゼ