是枝裕和監督『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞 ケイト・ブランシェット「総合的に素晴らしかった」
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日本時間5月20日(日)(現地時間19日夜)、第71回カンヌ国際映画祭授賞式が行われ、コンペティション部門正式出品作『万引き家族』が最高賞のパルムドールを受賞した。
同作は、日本時間5月14日(月)に公式上映が行われた際には、約9分に渡るスタンディングオベーションが起きるなど高評価を受けていた。20日の授賞式では、審査員団のケイト・ブランシェットをはじめ、エイヴァ・デュヴァーネイ監督、クリステン・スチュワート、レア・セドゥ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らにより、パルムドールが選出。是枝監督は壇上で「さすがに足が震えています。この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加するといつも思いますが、映画をつくり続けていく勇気をもらいます。そして、対立している人と人を、隔てられている世界と世界を映画が繋ぐ力をもつのではないかという希望を感じます。今回みなさんにいただいた勇気と希望をまず一足早く戻ったスタッフとキャストに分かち合いたいですし、作品が選ばれたにも関わらず、ここに参加できなかったふたりの監督たちとも分かち合いたいですし、これから映画をつくり、ここを目指す若い映画の作り手たちとも分かち合いたいと思います。ありがとうございます」とスピーチした。
是枝裕和監督
カンヌ国際映画祭に最高賞にあたる同賞を日本映画が受賞するのは、1997年の第50回カンヌ国際映画祭での今村昌平監督作品『うなぎ』以来21年振り。カンヌのコンペで受賞するのは是枝監督の『そして父になる』以来5年振りとなる。
以下は審査員と、囲み取材時の是枝監督のコメント
ケイト・ブランシェット
この作品は演技、監督、撮影、など総合的に素晴らしかった。
選ぶにあたって気に入っていた作品を落とさないといけないのはつらかったし、
難しかったけど最終的に私たちは意見が合致したの。
「万引き家族」はとにかく素晴らしかったわ。
ドゥニ・ヴィルヌーブ監督
この作品は私たちに深い感動を与えてくれました。
とにかく恋に落ちてしまった。上品で素晴らしくとても深い。魂をわし掴みにされた。
是枝裕和監督
是枝裕和監督
――カンヌでの3度の受賞の後ですが、『三度目の殺人』のような他のジャンルも挑戦していくのですか?
今回の作品のカンヌでの認知と受賞によって、「家族」ドラマの作家だという風な捉え方がまたますます強くなってしまうかもしれませんけど、自分ではそうは思っていないので様々なジャンルにチャレンジできればなと思っています。自分が年齢を重ねていって変化していくと、色んな家族の形、見えてくる家族の形というのも変わってくるので、決して同じことを繰り返していくのではなくて、60代、70代になった時にまた違う「家族」のドラマが出来るのではないかなと思っています。
――『誰も知らない』から家族モノをずっと撮りつづけていますが、特に子供の撮り方や語り方(演技の導き方)が素晴らしい。それについてお話をお聞かせ願えませんか?
子どもはいつもオーディションでいつもいろんな子たちに会って、その年代の特徴を掴みながら、自分が撮りたいと思う子供を残していきます。台本はいつも渡さないので、現場に入って僕が口伝えで台詞を伝えたり、時には役者に演出の一部を担ってもらいながら子供からどういう感情、表情を引き出すかという事を手伝ってもらいながら撮影現場で全部作っていくというやり方をします。なので、彼らは予習もしてこないし、宿題もないので、毎日笑顔で撮影現場にやってくる、そういう環境を目指しています。
――家族を取り扱うテーマは普遍的です。この場合は日本ですが、家族の関わり合い方は国や文化によって違います。もちろん個々に問題を抱えていたりもします。家族の関わり合いを日本的な観点、そして個人的にどのように考えてこの作品を描いたのでしょうか?
あまり家族を描くときにどうすると日本的か日本的じゃないかということを考えては作りません。ただ、今の日本の社会の中で、隅に追いやられている、本当であれば見過ごしてしまうかもしれない家族の姿をどう可視化するかということは考えます。それは『誰も知らない』の時もそうでしたし、今回もそうでした。僕が子供の時に住んでいた家は、あの家と同じように平屋で狭くて、僕は自分の部屋がなかったので、押し入れの中に宝物と教科書を持ち込んで自分の部屋にしていた記憶があるので、その押し入れから大人の世界を見るということは自分の実体験としてあります。万引きをしていた訳ではありません(笑)
――どうして『万引き家族』の物語、この家族像を作ったのでしょうか?そして、それがなぜ監督にとって重要なのでしょうか?
どうして描こうと思ったかというのを後付けで語ると、監督はだいたい嘘をつくのでそんなに本当の事を話さないと思いますけど。一つは『そして父になる』は、「家族は時間なのか血なのか」という事を問いながら作った映画だったんですけど、その先に、産まないと親になれないのだろうかという問いを立ててみようと思いました。今回の物語の中心にいるのは、自分の子供ではない子供を育てながら父親に、母親になりたいと思う、そういう人たちの話をやろうと思ったのが最初でした。彼らをどういう状況に置こうかというのを考えたときに、ここ数年日本で起きているいくつかの家族をめぐる出来事を、新聞とかニュースで目にした時、経済的にかなり追い込まれた状況で、万引きとか年金を不正に受給することでかろうじて生活を成り立たせている家族というものの中に、そういうテーマ、モチーフを持ち込んでみようかなと思ったのが今回の映画になりました。
――受賞が決まり、檀上に上がられた際の気持ちは?
あまり緊張するタイプではないが、めずらしく緊張していたので、とりあえず通訳している間にしゃべることを考えていました。
――受賞の名前が次々と呼ばれていく中で、どんな気持ちだったか?
発表される順番が毎年違うので、気が付いたらグランプリとパルムドールしか残っていなかった。残っている監督が誰かもはっきりわからなくなっていて、でも周りがザワザワしてきたので、不安な気持ちもありつつという感じでした。
――今感じていることは?
(トロフィーが)すごい重いです。ずっとトロフィーを持ち続けているので腕がガチガチなんですけど、これをいただくというのは、監督として本当に重い出来事で、この先、この賞をもらった監督として恥ずかしくない作品をまたつくらなければならないなという覚悟を新たにしています。
――映画を通して社会へ伝えるメッセージは必要かどうか?
あまり社会に対するメッセージを伝える為に映画を撮ったことはないですし、それは正しい形ではないなと思っているので、僕が描いた家族とどう向き合って、見過ごしてしまうような環境だったり、感情だったりをどう丁寧に掬い取るかということだけを考えようと思いました。でもそれはいつもやっていることなので、そこからどんなメッセージを受け取るかは僕が発するのではなく、受け取る側が決めることなんじゃないかなと、いつも思いながらつくっています。
――世界共通でこの作品のもつ普遍的な想いが通じたと感じるか?
公式上映のときのリアクションも本当に温かったんですけど、その後の取材にくる記者の方たちも言葉の中に、「TOUCH」と「LOVE」という言葉がすごい溢れていて、ちゃんと届きたいところに届いたのかなという想いではいました。表面上の犯罪を犯している家族の話であるとか、今の日本の社会状況がどうとかということの奥に、やはり父になろうとすること、母になろうとすることという、普遍性みたいなものを受け止めてくれたから、そういう言葉が出たのかなとは思っていたので、そのことはとても嬉しく思っていました。
――ケイト・ブランシェットが閉会式で「invisible people(見えない人々)」というのが今回大きなテーマだと言っていた。『万引き家族』が最もそのテーマに当てはまるといえるが、それについてはどう思うか。
『誰も知らない』のときにも、社会から見えなくなっている子供たちをどう可視化するかということを考えながら撮った映画だったんですが、今回もスタンスとしては同じなので、やはりそれを見過ごしてしまう、もしくは目をそむけてしまいがちの人々をどう可視化するかということが、全てとはいいませんが、僕自身は映画をつくる上では常に自分の中心においているスタンスだったりもするので、今回はかなりストレートに反映された映画だったというのは間違いなく思っています。ブランシェットさんの言葉はすごく嬉しく聞きました。
――日本にいるキャストとは話したか?
今この状況でLINEのやり取りをしていて、合間にちょっとずつ写真を送ったり、まだちょっとバタバタしていて「おめでとう」「素晴らしい」ぐらいの会話しか交わせていないです。
――是枝監督にとってパルムドールとは?
悲願ってよく新聞に書かれていたんですけど、言ったことは一度もなくて…。賞というのは目標にするものではないといつも思っています。この場所に来て、クロージングセレモニーに立てるということはとても光栄なことですし、ましてや最高賞をいただくというのは、僕自身のキャリアにとっても大きなステップアップとなるでしょうし、これであと20年くらいはつくりたいなという勇気をもらった気がします。
――自分はベネチアに認められたと、ようやくカンヌにおかえりと言ってもらえるようになったと仰っていたが、これで名実ともに「カンヌの是枝」になったと思うが、そのことについてどう思うか?
発見していただいたのはベネチアですし、ずっと育てていただいたのはカンヌなのかなと思います。良い映画祭というのは、作り手を育てる場所だなと思うので、僕は七回呼んでいただいて、評価をいただいた回もあれば、そうでない回も勿論ありますけど、どの回もとても貴重な経験をさせてもらってます。今回は残念ながら授賞会場にはいらっしゃいませんでしたが、韓国のイ・チャンドン(『Burning』でコンペ出品)と中国のジャ・ジャンクー(『Ash Is Purest White』でコンペ出品)という同時代にすごく強い作家がいて、彼らと同じ時代に映画をつくれて、お互いにお互いの作品を認め合いながら、刺激し合いながら、この場に来られているというのはとても恵まれているなと思いますし、彼らがいるから僕も頑張ってつくれているし、彼らの映画との向き合い方がすごく僕に刺激を与えてくれているというのはすごく感じています。そういう監督たちとここで出会って再会して、肩を叩き合ってまた自分の映画つくりの現場に戻るというのは、ひとつ大きなイベントとして思っています。
――受賞スピーチの際に「ここを目指す若い映画の作り手たちとも分かち合いたい」と仰っていたが、改めてそういう方たちへのメッセージがあれば。
華やかな場所だからここが素晴らしいわけではなくて、自分がやっている映画というものが世界と繋がっていて、映画の奥深さや歴史というものに触れられるとても良い経験ができると思います。どんどん若い人たちも目指すべきだというのはおこがましいかもしれませんが、それは監督も役者も同じく、経験すると恐らく何か捉え方が変わるので、そういう意味でも自分も周りにいる若手の監督の卵の子たちをできるだけここに来られるようにしているし、これからもそうしたいと思っています。
――今後どういう映画に挑戦したいか?
口にするとなかなか実現しないものですから、あまり喋らないようにしているんですけど、色々一緒に映画をつくらないかといってくれる方たちが日本の外にいらっしゃるので、海外の役者たちと一緒に映画をつくるというチャレンジに向かってみようかなとここ数年思っています。
――一緒にやりたい役者、スタッフはいるか?
こういう映画祭でお会いして、いつか一緒にやりましょうねって言っていただけるのはだいたい役者さんが多いので、そういった交流の中で次の企画の種を撒いているところですけど、実現するといいなと思っています。
――帰国してやってみたいことは?
リリーさんとかサクラさんと子供たちも含め、トロフィーを持って会えるといいなと思っています。
――樹木さんはなんと仰ると思うか?
天狗にならないように(笑)
――受賞したことで燃え尽き症候群になってしまうなどの心配はあるか?
全然そんな心配はしていないですね。目指していないというとかっこよすぎるかもしれませんけど、これで映画の企画が通りやすくなるなと(笑)むしろこの先、どういう風に自分で撮りたいものを実現していくか、この賞はそういうところでのエネルギーにはなるなと思っています。
各キャストからのコメントは以下のとおり。
リリー・フランキー
監督、本当に本当におめでとうございます!
獲ると信じていましたが、現実になると驚きと感動でじんましんが出ました(実話)。
監督、めちゃくちゃカッコいいです!
安藤サクラ
やったー!本当におめでとうございます!!
こんな特別な瞬間を共有できること、こころから嬉しく思います!
万歳!
松岡茉優
あの家族はいたのだと肯定してもらったようで嬉しいです。
思い出をいつまでも愛しています。
樹木希林
往きの飛行機の避雷針が雷を受けました。
異様な響きと共に私の座席の天井が破け、酸素マスクや破片やゴミや、バラバラッと落ちて来ました。
「是枝さんもうくす玉が割れちゃったから賞はおしまい」-----の筈がめでたいことです。
城桧吏
是枝監督、関係者のみなさま
「パルムドール」受賞、本当におめでとうございます!
「万引き家族」という作品に出演できて、改めてとても嬉しい気持ちです。
監督と家族6人でカンヌへ行けて、一生の思い出になりました。
本当にありがとうございました。
佐々木みゆ
やったーーー!!!!!!!!
かんとくおめでとうございます!
みんなでさつえいがんばったから 、とってもうれしいです。はやくかぞくのみんなにあいたいです!
『万引き家族』は、『三度目の殺人』『海街diary』の是枝裕和監督の最新作。万引きを重ねる一家がある事件をきっかけにバラバラになり、それぞれの抱える秘密や願いが明らかになっていく……というドラマ。息子とともに万引きを繰り返す父親・治をリリー・フランキー、初枝を樹木希林、信江を安藤サクラ、信江の妹・亜紀を松岡茉優が演じている。また、山田裕貴も出演している。
『万引き家族』は6月8日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。