毒とユーモアと可愛さたっぷり! 日本が舞台の犬アニメ『犬ヶ島』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第五十二回
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(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
人形などの静止物の位置を少しずつ変えて撮影し、物体が自ら動いているかのように見せる、ストップモーション・アニメ。私は子どもの頃に『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)を観たことがきっかけで、人形たちがまるで生きているかのように動く、不思議な世界の魅力に取り憑かれた。最近ではこの手法を用い、日本を舞台にした映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(16)も公開されたので、注目する人も増えたのではないか。そしてまたひとつ、日本を舞台にしたストップモーション・アニメ『犬ヶ島』が公開中だ。
今から20年後、日本のメガ崎市では、犬たちの間で“犬インフルエンザ”が蔓延していた。事態を重く見たメガ崎市の小林市長は、人間への感染を恐れて、すべての犬たちをゴミ島である犬ヶ島に追放する。それからしばらくして、小林市長の養子・アタリ少年が愛犬のスポッツを探し、犬ヶ島に降り立った。アタリは島で出会った5匹の犬たちとともに、スポッツの捜索を開始。一方、メガ崎市では、犬インフルエンザの治療薬を開発する渡辺教授ら“親犬派”と、市長を支持する“反犬派”の対立が深まっていた。
監督の日本愛が詰まった設定
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
オープニングでは、ふんどしの男たちがズンドコと太鼓を叩き、日本語メインのクレジットが流れ、しょっぱなからめちゃくちゃTHE・日本!という感じだ。力強い太鼓の音は、「これから物語が始まるぞー!」という合図のようで、ワクワクさてくれる。「日本人でよかった」と、しみじみ思った。
その日本の描写も独特。現代から20年後の日本という設定でありながらも、アタリ少年が下駄を履いていたり、テレビ画面がモノクロだったりと、昭和を思わせるアイテムが登場する。これは、本作の監督であるウェス・アンダーソンが惹かれる、1960年代前後の日本のイメージが反映されたものなのだそう。さらには、アンダーソン監督が敬愛する黒澤明作品へのオマージュもたっぷりと盛り込まれているのだ。レトロさと近未来感が混在する、レトロフューチャーな世界が展開しているのは、本作の魅力の一つではないかと感じた。
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
また、本作に登場する人間は基本的にみんな日本人なので、日本語で喋る。一方で、そ犬たちは英語で喋る。これは人間と犬の間に言葉の壁があることを表しているそうだ。なんて面白い試み!しかも、犬たちの声を当てるキャストが豪華俳優陣であるのもみどころ。セクシーな美人犬役は、『アベンジャーズ』シリーズでブラックウィドウを演じるスカーレット・ヨハンソンだし、『レッド・ドラゴン』(02)などで知られる演技派エドワード・ノートンの声は、理知的なレックス役にぴったり!そのほかの犬たちの芝居もお楽しみに!
毒とユーモアと可愛さの融合
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そんな豪華俳優たちの声で、犬たちは賢く、ユーモラスな会話を繰り広げる。「反吐が出そうだ」と言った直後に実際に吐くシーンなんて、突然の下(?)ネタに思わず笑ってしまった。彼らの見た目は、風になびく毛がふわふわと本物の犬のようにリアルでありながら可愛さもある。そして犬同士のケンカシーンで昭和のギャグマンガのような煙(煙の中から手や足が飛び出すようなやつ)がモクモクと立ち込めるのも、デフォルメ感があって可愛い。それなのにその煙が晴れると、ケンカに負けた犬の噛みちぎられた耳が落ちていたりするところなどは、アンダーソン監督の毒っ気もしっかり効いていて私のおすすめポイントでもある。
本作は、犬たちと少年が協力し合うという夢のある冒険譚ではあるが、犬ヶ島で命の危機にさらされる犬たちの様子には切なさを覚える。日本では、年間6万匹ほどの犬猫が殺処分されているという。処分される理由は『犬ヶ島』と違うとはいえ、映画の中の話だと笑っていられない現状だ。
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
私は可愛い可愛いヨークシャーテリアと共に子ども時代を過ごした犬好きなので、他人事ではないと感じる。アンダーソン監督が皮肉を込めたわけではないと思うが、本作を楽しみつつ今一度、命の重さは等しいということを、犬派・猫派問わず再認識してほしい。そしてあなたが犬猫の家族であるなら、一瞬一瞬を大切に過ごしてほしいと、願わずにいられない作品だった。
可愛い犬たち、軽妙なテンポの会話、不意に来るブラックさ。この3つのバランスをぜひ味わってみてほしい。
『犬ヶ島』は公開中。