MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第五回ゲストは池松壮亮 2人の宮本が語る“熱さ”とは何か、“覚悟”とは何か【前編】
-
ポスト -
シェア - 送る
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』のゲストは俳優の池松壮亮。テレビ東京で放送中のドラマ『宮本から君へ』で池松は主人公の宮本浩を演じ、MOROHAはエンディングを担当している。今まで池松が見せてこなかった過去や、現在の葛藤が垣間見える内容となった。今回の対談はドラマのことを軸に“お互いが持つ熱さ”とは何なのかへと、話は進んでいく……。当初、1回分で紹介するハズだったが、2人の話があまりにも白熱したため、急遽、前半・後半と2回に分けて掲載することになった異例の対談である。——話を聞きながら、ふとアフロが池松に見えたり、池松がアフロに見える時があった。アーティストと俳優という、互いに違うジャンルで戦う2人がなぜ共鳴し合うのか。その真意を探る。
●池松くんの言葉に救われた時があった●
アフロ:宮本(『宮本から君へ』)の撮影が終わってだいぶ経ってるでしょ?
池松:経ってますね。去年の11月〜12月でやってたので。
アフロ:そうだよね。……え! っていうことは海に入ったシーンも?
池松:11月くらいでしたね。
アフロ:役に入っちゃうと、もしかしてあの冷たさも……。
池松:いや、冷たいっすよ。
アフロ:それはそれか。
スタッフ:飲み物はどうします?
池松:じゃあビールをいただいて良いですか?
アフロ:ビール2つで!
池松:(『逢いたい、相対』は)いつも飲みながらやってるんですか?
アフロ:うん。俺がめちゃめちゃお酒弱いから、対談相手に酒を教えてもらうっていう。
池松:いやいや、僕もお酒のことは全然わからないですよ(笑)。
アフロ:飲むのは好きなの?
池松:そうですねぇ。とはいえ、家で1人でずっと飲んでる感じです。
アフロ:ハハハハ、1人で飲むのかぁ。
(2人の前にビールが届く)
アフロ:おいっす! 乾杯!
池松:お願いします。なんか、改めて、お話しするのは恥ずかしいですね。
アフロ:最初に会ったのは、3年前に池松くんが名古屋のライヴに来てくれてね。
池松:そうです。
アフロ:あの時はありがとね。俺はちょうど、その前日か前々日くらいに録画してた『ボクらの時代』を観たんだよ。
池松:誰と喋ってる回ですかね?
アフロ:高畑充希ちゃんと……。
池松:あぁ、前田(敦子)さんと、(柄本)時生と。
アフロ:そうそう。池松くんが撮影の前日に、酒を飲みすぎて顔がむくんでいたのをイジられてた(笑)。あと雑誌で読んだインタビューでもすげえカッコイイことも言ってたのよ。「誰もやらねえなら、俺がやる」って。
池松:フフフ、そういうことを言っちゃったんですよね。
アフロ:その言葉に救われた時があったの。俺らはいろんなフェスに行くんだけど、そうすると盛り上げ上手の人たちが集まるからさ、みんなのことをすげえニコニコさせて「ワッショイワッショイ」やってて。それも素敵だなと思う感性はあるんだけど、「俺らは笑顔じゃなくて真顔を引っ張り出してやるよ」っていう。その役割を誰もやらねえなら俺がやる、ってちょうど思っていた時期だったの。もちろん、それは今も。
池松:たしか、裸になる映画(『愛の渦』『海を感じる時』)が公開された時だったんですよ。それで、あるインタビュアーの方から「なんで、こういう裸になる作品を2回続けてやったんですか?」と聞かれた時に「誰もやらないなら自分がやろうと思いました」って言ったんですね。そもそも人に裸を見せたい人間ではないし、むしろ見せたくない人間だから、それに反発して言った言葉だと思うんです。
アフロ:俺はだいぶ裸を見てる方だと思うけどね。だって宮本でも裸になってるでしょ。
池松:アハハハハ、宮本は本当にありがとうございました。
アフロ:いやいや、こちらこそ。
●『宮本から君へ』の出演を決めたキッカケ、自分の中で運命めいたものを感じた●
池松:これ言っていいのかわからないですけど、元々は新井(英樹)さんの家にいる時、に「ドラマの曲はMOROHAさんでいきましょう!」という話になったんですよ。
アフロ:それ、新井さんも言ってくれてた。
池松:そこに真利子(哲也/監督)さんも一緒にいて。真利子さんはあの時、まだMOROHAさんを全然知らなくて。音源を聴かせて、PVも帰り道に散々見せて「これ、僕のオススメです」って言ったら次の日に声をかけてましたね。
アフロ:ありがとうございます。
池松:本当にバッチリで。すごい好きなんですよ、あのエンディングが。
アフロ:ハマってたね。
池松:どハマりしましたね。
アフロ:すごいよなぁ。ユニバーサルで仕事する話が決まった直後に『宮本から君へ』のエンディングが決まったから、てっきりユニバーサルがとってきてくれた仕事だと思って。本当は新井さんと池松くんが、後押ししてくれていたおかげっていう。
池松:『宮本から君へ』ってドラマ化の話は何年も前からいただいてたんですけど、ずっと悩んでて。その時にMOROHAさんと名古屋で出会ったんですよ。僕はあんまり自分から進んで音楽を聴いてこなかったもんで、尾崎豊とエレカシ(エレファントカシマシ)しか聴いてこなかったところがあって。あの時、(竹原)ピストルさんは何曲か聴いていたから、松居(大悟/映画監督)さんに「旅行がてら名古屋のライヴ(『do or die』)行きたい」と言って。で、初めてMOROHAさんを観たら、まぁ面食らいまして。その場でままCDを3枚くらい買ったんですね。そしたらジャケットに見覚えのある画が描いてたんですよ。「あれ!?」と思って、後々聞いたら新井さんが描いた画だと知って。その時に全部が繋がって「これは“宮本をやれ”っていうことなんだろうな」と、自分の中では運命めいたものを感じたんです。
アフロ:すごいよなぁ。原作はどのタイミングで読んだ?
池松:おそらく22歳くらいの頃です。1ヶ月の間で割と信頼してる2人の大人から「池松くんにやった方が良いと思う役がある」と。僕はそういうの人から言われても全く信じないんですけど、さすがに2人から言われたので何だろうと思って。漫画はあんまり読まずに育ったから、最初は新井先生のことも知らなくて。で、手に取ってみて、その時も面くらいました。
アフロ:読むのに時間かからなかった?
池松:どこかのインタビューでそれを言われてましたよね。「ページを開くのが重かった」って。
アフロ:うん。
池松:僕はちょうど宮本と同い年の頃に出会ってるんですよ。むしろ、早くめくらなければいけない気がしてました。
アフロ:それでいうと、俺が初めて読んだのは17とかなんだよ。同じ時期に『グミ・チョコレート・パイン』っていう大槻ケンヂさんの本を読んで。あの作品も同じベクトルで刺さるものがあるんだけど、あれはめちゃくちゃ早く読んだの。その本は高校生の話だったから、そういうのが関係してるのかも。
池松:たしかに、30を超えて宮本を読みたいのかと言われると「そんなこと分かった上で、いろんなことと戦ってるんだよ」って、30の僕は言うと思うんです。とはいえ、気分も分かるし好きだけど。
アフロ:キツイよね。
池松:だからドラマがどんなふうに映っているのか、僕はあんまり人に会わないので感想を聞いてなくて。ちょっと心配ではあるんですけど。
アフロ:あっ、そう? 人の感想ってあんまり気にしないというか、耳に入れないの?
池松:いや、あえて耳に入れないわけじゃないですけど、例えばエゴサーチって良くあるじゃないですか? そういうことをしないだけで、基本的には全部受け入れますね。やっぱり目をつぶってても、耳を塞いでいても声は入ってくるんですよ、必ず。だから、ネットの情報は全然気にしないです。
アフロ:じゃあ「自然と入ってくる情報だけが本物だ」って感覚?
池松:そうですね。そこは松居さんと全然違うんですけど。
アフロ:松居さんはエゴサーチの鬼でしょ。
池松:すごいですよね。しかも、それを全てだと思ってるので。
アフロ:アハハハハ!
池松:それで、たまにケンカになるんですけど。
アフロ:そっかぁ。それこそライヴハウスってさ、「今日の感想を書いてください」ってアンケート用紙を配る文化があったりするのよ。よくよく考えると、その紙にちゃんと感想を書くのは少し偏った奴だよね。
池松:そうなんですよね。ライヴが良かったら、俺の場合は書けないですもん。こっそりCDを買うぐらいしかできないです。
アフロ:そうだよね、それが普通だと思う。逆にアンケートに意見を求めたところで、ぶっ飛んだ奴の声しか入ってこない。だからTwitterとかっていうのは、一定のところまでは参考になるけど、そこにいる人たちの特性があまりにも強すぎる感じがするよね。
池松:そこに真実はあまりない気がして。
アフロ:松居さんもそれは分かってるはず。
池松:いや、そうですよね。
アフロ:きっと、その刺激にやられたいんだろうね。俺さ、役者さんと喋るときに「どの役で演じた人間性が本当なんだろう?」って思うの。どれも本当じゃないのはわかってるんだけど「どれが軸に一番近いだろう?」と。
池松:僕は全部自分だと思っていて。むしろ、自分がやりたい役は全部自分に何かしらの要素があって、それを拡大したり、引っ張り出したり。そこに何かスパイスを入れて発表しているだけで、割とどれとも言えないです。僕をよく知っている人は宮本の要素が僕に多少なりともあることを把握してて、作品に惹かれるのを何となく分かってるんですよ。だけど、世の中からしたら僕は一応、俳優として外に出るときにはああいう姿をなるべく見せないように嘘で塗り固めたりするので。クールでいようとして「全然想像できない」と言われたり、意見はいろいろですね。
●池松にとって一番怖い共演者とは●
アフロ:池松くんは俳優としての見られ方を、めっちゃ気をつけてるでしょ? 『ボクらの時代』を観た時も言ってたもん。
池松:(照れるように笑う)。
アフロ:「お前らはちゃんと振る舞い方を気にしろ」とか「俺の妨害やめろ」みたいなことを、女子2人に軽く説教してた。
池松:本当ですか(笑)。すごい嫌な奴ですね、朝まで飲んでいたくせに。
アフロ:「営業妨害やめて」みたいなのが、すごい印象的で。
池松:ミュージシャンとか、小説家とか、俳優とか、映画監督もそうだし、表現している人はみんなが表に出ざるおえないわけじゃないですか。普段の場を晒さないといけない。そういう時に僕は俳優として、こっちから池松壮亮を提示することはあんまりしたくないんです。今日のアフロさんは、白Tを着てますけどいるじゃないですか、。そういうところに人間性を垣間見るのが割と好きです。
アフロ:うんうん。そこで、こぼれ落ちる要素が良いんだ。
●バンドの世界だと体育会系の礼儀正しさっていうのは不要だった●
池松:もちろん根本に僕の価値観はありますよ。例えば下に対しても、上に対しても敬語以外で話さないし、プロとしてやろうと決めていることはありますけど。人によっては、僕がお芝居をするだけで押し付けがましいと思う人もいるわけで。そこに表現があるんだから、普段はなるべくフラットでいようと思ってます。……こんな性格じゃなかったんですけどね、昔は。
アフロ:あ、そう? もうちょっとパーティ野郎だった?
池松:小学生の時はパーティ野郎でした。
アフロ:野球をやってたんだよね。
池松:やってました。
アフロ:セカンドでしょ。
池松:センターです。
アフロ:アハハハハ! 外すっていう。(スタッフに向かって)これ太字で!
一同:(笑)。
アフロ:野球は上手かったの?
池松:割と上手かったですよ。とはいえ、レベルの低いところで上手い方なだけで。下の上みたいな感じです。
アフロ:俺よりは全然すごい。なんせ、俺はすっげえ弱いところで補欠だったから。なんか池松くんは、体育会系のノリっていうのがあんまり見えないよね。礼儀正しさは感じるけど、野球部っぽさはない。
池松:「サッカー部でしょ」ってよく言われますね。でも、ものすごい野球部です。
アフロ:野球部時代はにさ、結構、理不尽なことってあったでしょ?
池松:ありましたよね。
アフロ:その経験が、この世界で生きていくために役立ったことはある?
池松:あの時代に比べると、11月の海に入ることなんて大したことないんです。そういうことはあります。
アフロ:なるほどねぇ。俺は体育会系の礼儀正しさっていうのは、バンドの世界だと不要だったの。だから、それを意識的に剥ぎ落としたりしたのよ。勝負しなきゃいけないのに、上下関係のせいで「先輩!」ってなると始まらないから。
池松:僕は野球部然とはしてたんですけど、心の中で「上とか下とかねえだろ」と思ってたし、上を潰そうとしてたんですよ。
アフロ:もしかして、2年生からレギュラー?
池松:そうでしたね。
アフロ:あぁ、同じにチームにいたら絶対に嫌だった。
池松:アハハハハ、そんなこと言わないでくださいよ。
アフロ:先輩だけど補欠の人もいたでしょ?
池松:いました。
アフロ:それが俺だよ。そんな俺も一応先輩だから「おい、池松! 裏の整備しとけよ」って言うんだけど、めっちゃ勇気だしてるの。だって「先輩、そんなこと言うなら野球で勝負しましょうよ」って言われたら勝てないわけじゃん。でも、上下関係をちゃんとするために、どうにか胸を張ってた。
池松:僕の場合は野球部で常に活躍してましたけど、そういう気持ち気分を全く知らないわけじゃないですよ。勢いのある1年生や2年生が来て「これは、ひょっとしたらひっくり返されるぞ」と何回も脅かされて。それは俳優をやっても変わらないんですよね、上に対しても下に対しても。
アフロ:池松壮亮も下に恐怖を覚えたりするの?
池松:しますよ、当たり前じゃないですか。例えば、俳優をやっていて一番怖い共演者は赤ちゃんなんですよ。あまりにも無防備で「そんな目をされたら俺はどうすれば良いんだ」っていう。1シーン1分間、宮本のOPの即興を赤ちゃんがやったら絶対に勝てないと思います。
アフロ:そうか。でも宮本のOPは見事だよね。
池松:上手くいったんですよね。
アフロ:あのシーンは何本撮ったの?
池松:3本撮って、採用したのは3本目ですね。テーマは喜怒哀楽で。
アフロ:(あの池松くんは)赤ちゃんだったよ。
池松:いやいや、恥ずかしいです。
アフロ:でも、赤ちゃんは自分の技としてやってるわけじゃないじゃん。
池松:だから敵わないんです。僕には理性しかないので。
アフロ:よくさ「高校生がガムシャラに頑張ってる姿が一番カッコイイ」って言う人いるじゃない。だけど俺は1mmも思わない。むしろ、高校生バンドとか拙いバンドを観たときに「この下手くそ! そんな未熟な姿で人前に出ることに恥を知れ」って。自分がそこから始まっているから、「俺もそうだったな」と思うんだけど。子供の絵が素敵だとか、誰かが言ってたんだけど「ギターを買って、自分の部屋でジャラーンって鳴らした瞬間が一番カッコイイ。そこからカッコ悪くなるのがロックだ」って名言を残してたりするの。言わんとすることは分かるけど、めちゃくちゃ腹が立つ。
池松:例えば、一番怖いのが赤ちゃんと言いましたけど。もちろん、それを受け入れた上で、そもそもの敗北戦は全くしてないです。だとしたら俳優は辞めてますね。
●アフロが思う宮本らしさ、「熱血をやり切るにもセンスがいる」●
アフロ:なるほどね。俺ら再録のアルバム(『MOROHA BEST~十年再録~』)を出すのよ。昔、録ったものをもう一度、今の自分たちで録音し直したんだけど。
池松:どうでした?
アフロ:絶対に言われたくないのが「失ったものもあったけど、得たものも大きかったですね」って、絶対に言われたくなかったの。俺は1個も失ってないと思いたい。だけど、インタヴューで「MOROHAさん、失ったものもありましたけど、手にしたものもありましたね。これはすごいですよ!」って言われたのね。それがショックで、そこから先の言葉は全然聞こえないの。失ったものがあると言ったのは、こいつの耳がおかしいのか、本当にそうなのか……俺はそれを考えたらインタビュー中はずっと鬱。なんか、過去の自分をやっつけなきゃいけないなって。全てにおいて、昔の自分に勝ってないといけないんだよ。
池松:すごいですねぇ、僕よりよっぽど宮本じゃないですか。
アフロ:俺は宮本だよ。だって、あの役は俺がやろうと思ってたんだから。
池松:僕もそう思ってました。すごい似てるし、顔もそっくりだし。今日は言おうと思ってきたんですけど、宮本をやっている時に「あの人は俺よりも、よっぽど宮本だな」と思う人が3人くらいいて。それが、実は全員ミュージシャンで、アフロさん、(エレファントカシマシの)宮本さん、(銀杏BOYZの)峯田さん。その人たちがお芝居をしてる姿を、なんか想像しちゃうんですよね。3人3様あって、全然違うんですけど。
アフロ:そっかぁ。俺は宮本の池松くんで一番印象的だったのが、海に入る前に靴下を脱ぐところでまごついたでしょ。ああいう細かいところが、俺はすごく宮本な感じがしたのよ。綺麗に熱血になりきらない感じというか、熱血をやり切るにもセンスがいるでしょ。
池松:それはすごい核心を突かれている気がしますね。僕は割と、スマートに生きていこうとしてて、実際に器用でスマートにできる方なんですよ(笑)。そういうところの宮本と僕のズレをなんとかして埋めなきゃ、と思って。「でも、ひょっとして俺がそれを拒んでいるのかもしれない」と結構考えました。恐らく、あの人もカッコつけたかったと思うんですよ。
アフロ:言ったら、自演乙みたいな人じゃん。綺麗な熱血じゃなくて、無様なままの熱血な自分っていうのをどこかで俯瞰で見てて、それをしないと保てないというかさ。だから、あそこで靴下がスマートに脱げていたら、俺は宮本じゃない気がしたの。
池松:あぁ、難しいですね。
●本当に世界を変えられるような気分でやっていて、僕はMOROHAを聴きながら現場に向かっている●
アフロ:インタビューでさ、自分をさらけ出すことについて「恥じらいがある」って言ってたじゃない。
池松:ありますね。
アフロ:「それがあるから、下品な芝居にならないと思う」という言葉が俺の中で繋がったのよ。熱血になることに対して、まっさらな気持ちで熱血になれる人ってさ……。
池松:僕はそういうのが本当に苦手で。そもそも、僕が純粋にお芝居を大好きであったり、ドラマが大好きであったり、全てを肯定できるような人間だったら宮本はできないと思うんですよ。そうじゃなくて、俳優をやってしまっていて、ドラマより映画が大好きで。そういう人間が宮本をやることに、どこか申し訳ない気持ちがずっとあったんですよ。本当に正しいのか、本当にやっていいのか、それをものすごく美化していうと“表現の十字架”というか。初めて好きになったあの子とか、結婚しようと思ったあの子とか、そもそも目の前の人を幸せにできなかった僕がそんな表現をやっていいのか、とすら思うんですよね。宮本ととして正論を言ってる時に、もう1人の自分がずっと笑っているんですよ。「何を言ってるんだ」、「てめえが言ってんじゃねえよ」、「てめえの人生を振り返れよ」と言ってくるんです。そもそも、休みの日は11時に起きて、昼から酒を飲んでいるようなクズみたいな奴が、そんなことを言える身分かと。そういう気持ちはありますね。
アフロ:自分をクズだと思うのは酒のことだけなの? それとも他にある?
池松:今、僕の同級生は誰かの親になったり、誰かの旦那になったり、誰かの上司になったりしてるんですよ。毎日ネクタイを締めて、毎朝パソコンを叩いて。そっちの方がよっぽど尊敬できるというか。
アフロ:この商売をしてると思うよね。俺は1年間くらいサラリーマンをやっていたことがあるのよ。ピンポン営業をやって、塩をかけられたり、すげえ痛い目にあったりしたんだけど、本当に辛いよね。定時出社でネクタイ締めて、ときには心から良いと思ってないものも売らないといけないのよ。それが1日の半分以上を占めるわけじゃない。それを全うしている人たちに対して、畏怖だよね。だから「忙しいでしょ?」って言われると「全然忙しくないっす」って思うの。
池松:それは本当に思います。なんか、すいませんって感じですよ。この間、テレ東の新入社員を迎えて話す場(『テレビ東京新入社員特別試写会』)があったじゃないですか。あんなの誰が考えたんだ、と思って。新入社員に対して「こんなやつを見習っちゃダメですよ。あなたたちの方が人として素晴らしい」と思いました。だから、何も言えずに終わったんですよ。
アフロ:そんなことない気がするんだけど、そんなことない理由が見つからないね。
池松:もちろん、そんなことないと信じている部分も、もちろんあるから俳優をやっているんですけど。1本の映画に集中している時は、本当に世界を変えられるような気分でやっているんですよ。でも、撮影が終わったら「何を言ってるんだよ」と引いて、また次に向かっていくような感じで。
アフロ:世界を変えられる……。
池松:そんな気分で、僕はMOROHAを聴きながら現場に向かっていたりするんです。
アフロ:でもさ、世界は変わらないじゃない。俺も最初はそう思ってたけど、1stアルバムを出しても、2ndアルバム出しても、3rdアルバムを出しても全然変わらなくて。変わらないことを徐々に自分の行動で、説得されてる感じがするの。今後はその重みを感じながら、払いのけていかないといけない。
池松:今の日本映画って、すごく苦しくて。
アフロ:めっちゃ言ってるよね。多分、池松くんの口から3回くらい聞いてる。
池松:みんなが目をつぶってるけど、本当に苦しいんですよ。かなり大きいことを言ってしまうと、そんな中で“世界を変えられないとわかっていて、世界を変えようとしてる人”しか映画をやっちゃいけない気がするんです。少なくともMOROHAさんが言うように、半径だとか、世界の変え方って色々あると思うんですけど。それすらも怠り始めて「じゃあ、何のためにやってるのかな」と思う瞬間が結構あるんですよ。だから、最近はちょこちょこ言っちゃってると思うんですけど。
アフロ:でもさ、そういう人たちとも折り合いをつけてやっていかなければいけない場面があるわけでしょ。俺の場合は「少しでも、この人たちの意識と気持ちがシンクロしたら良い」と思いながらやるんだけど。
池松:人と人なので、手を組めない人間はいないと思うんです。誰かものすごくむかつく奴がいても分かり合える場面、折り合いがつく場面はあるはずだと思って僕も探ります。それで折り合いがつかなければ、それで良いってことだから、ここで出会う人じゃないと判断してますね。
アフロ:好き嫌いが分かれるよね。地方のハコに行った時にPAさんが明らかに好みじゃないのよ、俺たちのことが。だけど、その人と一緒にライヴはしなきゃいけないわけじゃん。そこで思いついた打開策がリハを全力でやるっていう。とにかく「この青年たちは、一生懸命やってるんだ」と思わせる。という、その角度から向き合ってもらう方法しかないかなと。そういう戦いを池松くんもしてるんだなと思って。
池松:アハハハハ、僕はそんな大した表現はできてないんですけどね。なんかしなきゃ、って。
アフロ:すごい謙虚だけど、調子にのったりしないの?
池松:10代の時は、とことん調子にのってました。僕、12歳でこの仕事を始めて、自分のことを圧倒的に天才だと思ってたんですよ。怖いものがなかったんです。それが18になり、野球を捨てて、故郷も捨てて、映画と真正面に向き合った瞬間に自分は何も獲得してないと気づいて。……だから20代は他人からどんな評価をもらっても、賞をいただいても、誰かから「あの作品が良かった」と言われても、全く調子に乗れないんですよね。
アフロ:「何も自分が獲得してない」と思ったきっかけはあるの?
池松:僕は割と完璧主義者で、全てにおいて勝ってないと許せないんですよ。で、お芝居に片足を突っ込んで天才だと思っていた自分が、両足を突っ込んだら、こんなにも映画の世界は広くて、こんなにも日本映画に太い軸があって。「昔の先人たちに何か顔向けできることをやっているか」と言ったら、一個もないんですよ。「何が天才だよ」と思って、そこから自分を否定する毎日ですね。
アフロ:そっかぁ……それは徐々に気づいたの?
池松:徐々にです。その時は野球も失って、結構キツかったですね。人にも会えたなかったし、大学生でしたけど、ほぼ学校には行かず。当時、姉ちゃんと1年間ぐらい暮らしてて、姉ちゃんが作ってくれた朝飯を食べて「今日も学校へ行ってくる」と言って、映画館に入り浸って。「自分はなんて無力なんだ」と感じつつも、時々、傑作に心を癒されたりして……そんな感じでやってきました。
アフロ:そこで決意の日が来るわけでしょ?
池松:そうですね。僕は福岡の出身なんですけど、故郷も捨てて、友達も捨てて、その時点で帰れないことは自分の中で決定してるんですね。もしも福岡に帰って「あいつ、俳優でダメだったらしいよ」なんて言われた日には、切腹ぐらいのことを考えてしまう。だから覚悟は決まっていて「これからどうするか」ばっかり考えてました。
アフロ:それはいくつぐらいの頃?
池松:18、19くらいですね。
アフロ:それで走り始めるんだ。早いね。
●藁にすがる気持ちで掴んだのがラップだった●
池松:純粋に聞きたいんですけど、なぜミュージシャンを選んだんですか?
アフロ:俺は多分なんでも良かったんだけど「何者かになるべくして生まれたはずだ」っていう勘違いを、ずっと引きずり続けてた。専門学校を出て、サラリーマンをやって、脱サラした後はコンビニでバイトをして。で、21、22くらいの時に自分の真っ暗だった未来が半透明くらいになってきて、なんとなく「あれ? ずっと、こういう人生を歩むのか?」みたいな恐怖が見えてきたの。その時「ヤバイ、このまま俺は何者にもなれず終わる」って、藁にすがる気持ちで掴んだのがラップだった。
池松:ラップが身近にあったんですか?
アフロ:本当に趣味程度でやってた。だからラップじゃなくても、自分を表現できる何かがあったら……。
池松:俳優だったかもしれないですよね。
アフロ:うんうん。
池松:僕、アフロさんと絶対に共演したくないです。
アフロ:なんで? やろうよ(笑)。
池松:本当に怖いです、恐怖ですね。
アフロ:でも、俺は俺の役しかやったことないんだよ。
池松:僕も同じような感じですよ。結局、役といえども池松壮亮のフィルターを通しているので。ただ、そこが俳優の面白いところで(机を見ながら)例えば醤油の役があって、醤油の役を僕がやるのと、誰かがやるのじゃ2人とも醤油になろうとしても全然違うんですよ。そこが面白くて。生きてきた醤油という概念が出るんです。
アフロ:どう使ってきたのか、っていうことか。
池松:そうです。醤油に対して、どう思っているのかとか。
アフロ:目玉焼きに醤油だったのか、ソースだったのかみたいな。
池松:それだけで全然違います。なんかそれが面白いんですよね。そこしか、俳優の個性なんてない気がしていて。技術なんて、ある程度まで行けばすぐに身につくんですよ。醤油を醤油と見せることなんて、プロの俳優なら誰でもやれるので。
アフロ:そうなんだ……そうなのかなぁ。
池松:そんなところだと思いますけどね。もう一杯飲んでも良いですか?
アフロ:じゃあ、ビール2つで!
——後半へ続く——(6月22日(金)公開予定)
文=真貝聡 撮影=横井明彦
取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5 ティグリス中目黒Ⅱ 3F)
ツアー情報
全公演 前売¥3,300 各プレイガイドにて販売中
7/15(日)神奈川・F.A.D YOKOHAMA 開場18:00/開演19:00
7/17(火)名古屋・CLUB ROCK'N'ROLL 18:30/19:30
7/19(木)大阪・アメリカ村 CLAPPER 18:30/19:30
7/21(土)広島・ヲルガン座 18:00/19:00
7/26(木)高松・TOONICE 18:30/19:30
8/2(木)いわき・Music bar burrows 18:30/19:30
8/4(土)仙台・enn 2nd 18:00/19:00
8/5(日)八戸・ROXX 18:00/19:00
8/9(木)札幌・KLUB COUNTER ACTION 18:30/19:30
8/11(土)福岡・Queblick 18:00/19:00
8/14(火)長野・the Venue 18:30/19:30
8/16(木)熊谷・モルタルレコード2階 18:30/19:30
8/24(金)盛岡・the five morioka 18:30/19:30
8/26(日)新潟・CLUB RIVERST 18:00/19:00
8/30(木)京都・Live House nano 18:30/19:30
9/5(水)沖縄・G-shelter 18:30/19:30
MOROHA Zepp Tokyo 単独ライブ
2018年12月16日(日)Zepp Tokyo 16:00/17:00
リリース情報
放送情報
大学を卒業して都内の文具メーカー・マルキタの営業マンになった宮本浩(池松壮亮)は、未熟で営業スマイルひとつできず、自分が社会で生きていく意味を思い悩んでいた。
そんな宮本は通勤途中、代々木駅のホームで一目ぼれしたトヨサン自動車の受付嬢・甲田美沙子(華村あすか)に声をかけるタイミングを伺っていた。
何度かチャンスはありながらもなかなか声をかけられずにいる宮本。同期の田島薫(柄本時生)にヤイヤイ言われながらも決死の思いで声をかけるが・・・。
そこから始まる甲田との恋模様、仕事での数々の人間模様の中で、宮本は自分の生き方を必死に見つけていく。
さらに物語は徐々に、社会の厳しさにもまれながら先輩の神保和夫(松山ケンイチ)や友人の中野靖子(蒼井優)らに助けられながら宮本がひとりの営業マンとして成長する様子を描くヒューマンストーリーとしても展開。
新米サラリーマンのほろ苦く厳しい日常を描いた青春グラフィティー!
〈主演〉:池松壮亮
〈出演〉:柄本時生 星田英利 華村あすか 新名基浩 古舘寛治
高橋和也 浅香航大 酒井敏也/蒼井優/松山ケンイチ
〈監督・脚本〉:真利子哲也
〈主題歌〉:「Easy Go」エレファントカシマシ(ユニバーサル シグマ)
〈エンディングテーマ〉:「革命」MOROHA(YAVAY YAYVA RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
〈チーフプロデューサー〉:大和健太郎(テレビ東京)
〈プロデューサー〉:藤野慎也(テレビ東京)、清水啓太郎(松竹撮影所)、加藤賢治(松竹撮影所)
〈制作〉:テレビ東京 / 松竹撮影所
〈製作著作〉:「宮本から君へ」製作委員会