チームラボが東京初の常設施設をお台場にオープン!デジタルアートミュージアムプレビューレポート【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.37 Sho Suzuki(ライター)
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ランプの森
美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、ライターのSho Suzukiさんが、東京・青海にオープンしたデジタルアートミュージアム「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」について語ってくださっています。
6月21日に東京・青海にオープンしたデジタルアートミュージアム「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス)」。森ビルとウルトラテクノロジスト集団・チームラボが共同運営し、「ボーダレス」をコンセプトに、10,000㎡もの巨大空間に世界初公開を含む50の作品を展示する本施設。6月11日に行われたプレス内覧会でその全貌をひと足早く鑑賞してきた。チームラボの猪子寿之代表も来場した説明会の様子を含め、本施設の概要を紹介しよう。
猪子「自らの身体で探索して、何かを発見する体験をして欲しい」
今回オープンした「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」は、いまやデジタルアートにおいて世界から注目を浴びるチームラボにとって東京初の常設スポットで、彼らのフラッグシップに位置付けられる施設となる。コンセプトは「Borderless(ボーダレス)」。この言葉の中には「作品と作品の境界」「作品と鑑賞者の境界」「自分と他者との境界」のない世界を自らの身体を使って体感するという意味が込められている。
入場口に書かれたコンセプト
この日は自由内覧に先立って説明会が開催され、森ビルの担当者である杉山 央氏とともにチームラボ代表の猪子寿之氏が登壇。杉山氏の挨拶に続いて展示説明を行った猪子氏は「ここには順路がなく、風景も変われば作品も移動したりします。ぜひ迷い込んでさまよって自らの身体で探索して、何かを発見する体験をしてもらえたらと思います」と語った。
チームラボの猪子寿之代表
境界のない世界に迷い、溶け込んでいく没入感
本施設には世界初公開を含む50の作品が展示され、館内は「Borderless World」「チームラボアスレティックス 運動の森」「学ぶ!未来の遊園地」「ランプの森」「EN TEA HOUSE」という5つのエリアに分かれている。
初めに伝えておきたいのは、この施設には猪子氏が述べたように「順路がない」ということ。よって「館内マップ」というものも置かれていない。ついでに言えば、入り口にも「チームラボボーダレスは迷います」と注意書きが書かれている。つまり、そもそもこの施設は迷うことを前提にして作られていて、初めの「Borderless World」に足を踏み入れた時点で早くもその意味を体感することになる。
「Borderless World」の展示風景
「Borderless World」は、暗闇の空間の中に光線やプロジェクションマッピングによる作品が連続し、それらが共存している幻想的な世界。極彩色で彩られた花の森、無限に続いていくようなヒマワリ畑、岩を叩きつける光の滝、深海な底を思わせる青い光線の群れなどが一面に広がっている。それらが人々の存在にも作用されて変化し、ゆっくりと混じり合う。各所には小空間や鏡の壁などがランダムに存在し、見渡す限りの視界の中を様々な光が錯乱しながら輝いている。
今回初披露となる「人々のための岩に憑依する滝、小さきは大きなうねりとなる」
きっと誰もが歩き続けているうちに自分がどこにいるのかわからなくなって「迷う」ことだろう。そして、それぞれのアートも人の動きを感じて変化する。そうして無意識のうちに自分自身が作品の中に混ざっていくことによって、自然と自分がアートの中に存在しているかのような没入感を覚える。
「花の森、埋もれ失いそして生まれる」
順路のない館内は探検を楽しむような面白さもある。鳥獣戯画を彷彿とさせるコミカルな人や動物、カラフルな花々で表現された大型動物など作品から飛び出したキャラクターたちが映し出された通路を歩いていくと、ところどころに案内の書かれていない隠し通路のような場所を見つけることができる。
通路のところどころには隠し扉のようなポイントが
暗闇の道の先に何があるのか……。そんな一抹の不安も抱えながら進んでいくと、そこにも感動的なアート空間が広がっている。
「秩序がなくともピースは成り立つ」
たとえば、今回が初公開となる「地形の記憶」は、いくつも並べられた小さな円形のボードの上に、自然界の色やモチーフが映し出される空間。その中に敷かれている通路を歩き、たゆたう光に包まれていると、まるでモネの描いた睡蓮の中に入ったかのような感動に満たされた。
「地形の記憶」
Wander through the Crystal World
頭と身体、そして舌でも感じるチームラボの世界観
このフロアには2カ所の階段があり、一方は「ランプの森」に、もう一方は「チームラボアスレティックス 運動の森」「学ぶ!未来の遊園地」と「EN TEA HOUSE」に通じている。
階段の壁を彩る「グラフィティ フラワーズ ボミング」
「ランプの森」は人の存在を感じたランプが光と音を発し、その近くにある2つのランプに伝播するという空間。伝播したランプはその近くのランプへさらに伝播し、二手に分かれた光がそれぞれすべてのランプを通過して一本の光線を描いて最初のランプに戻ってくるという仕組みになっている。自分が発した光線は別の人が発した光線と必ずどこかで交わることになり、同じ空間にいる人々の存在を感じることができるという。
「ランプの森」
触れずとも近くに寄れば反応するランプ
一方の「チームラボアスレティックス 運動の森」と「学ぶ!未来の遊園地」は、身体と頭脳を動かして、子供と一緒に創造的な体験ができるアート空間だ。
「色取る鳥の群れの中のエアリアルクライミング」
今回が初めての展開となる「チームラボアスレティックス 運動の森」は「身体で世界を捉え、世界を立体的に考える」をコンセプトにした創造的運動空間。
「光の森の3Dボルダリング」
「重力にあらがう生命の森」
「マルチジャンピング宇宙」と名付けられた巨大トランポリンでは宇宙空間が広がり、「グラフィティネイチャー 山々と深い谷」には巨大なクジラやトカゲが浮遊。そんな創造的空間で自由に遊びを創造できる。そのほかにもテクノロジーを駆使した遊び場がいくつもあり、好奇心と想像力を刺激してくれる。
「マルチジャンピング宇宙」
「グラフィティネイチャー 山々と深い谷」
また、「学ぶ!未来の遊園地」は、これまで日本や世界各地で開催されてきた教育プロジェクト。ここには「すべって育てる! フルーツ畑」と名付けられたすべり台や、自分の描いた絵がプロジェクションマッピング上で浮遊する「お絵かき水族館」などが設けられている。もちろんこれらのスペースは大人が遊ぶことも可能だ。
「すべって育てる! フルーツ畑」
「お絵かき水族館」
そして「EN TEA HOUSE」は、チームラボの世界観が反映されたティーハウス。まず受付で好みの茶葉を選んだ後に案内されるのは、こちらも光の少ない真っ暗な空間。暗闇の中でお茶を愉しむなんて普通ならまずありえない体験だが、スタッフの手によって器にお茶が注がれると、そこにふわりと光の花が咲く。一口飲むたびにその花は消え、器にお茶が残っている限り、再び新しい花を咲かせる。いわばアートを“飲む”という新感覚の体験だ。
「EN TEA HOUSE」
「EN TEA HOUSE」で供されるお茶
結局のところ、かれこれ2時間近くかけて館内を回ったわけだが、果たしてすべての作品を見られたかと言えば、そんな自信はまったくない。つまり、それだけ十分に時間をかけても自分がまだ発見できていない“世界”がたくさんあるのではないかという無限感がこの空間にはあるのだ。そして、この施設で大切なことは急いで数を見ることというよりも、冒険を楽しみアートの中に身体を没入する、ひとつひとつの体験の深さにあるようにも思える。ぜひ、皆さんも訪れてボーダレスな世界へ没入してみて欲しい。