第27回高松宮殿下記念世界文化賞、合同記者会見が開催される
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(左から)ドミニク・ペロー、シルヴィ・ギエム、横尾忠則、ヴォルフガング・ライプ
世界へ文化の価値を示す賞として
第27回高松宮殿下記念世界文化賞の合同記者会見が20日、受賞者と選考にあたった顧問が出席してホテルオークラ東京にて開催された。受賞者スピーチは順に横尾忠則、ヴォルフガング・ライプ、ドミニク・ペロー、シルヴィ・ギエムの順に行われた。しかし残念ながら、先日当サイトでも同賞の受賞を紹介した音楽部門の内田光子はドクターストップのため来日がかなわず、映像によるコメントのみとなった。
横尾忠則(絵画部門)は「この賞は(自分には)20年早いんじゃないかと思った」と場内の笑いを誘いつつ、その真意として実際の肉体的年齢とは別の「芸術年齢」で捉えている自分はまだ50代なのだ、と明かす。特定の様式や手法にとらわれず、幅広く活動してきた横尾は「(この受賞で)これまで以上に自由になれるのではないか」と、衰えぬ旺盛な創作への意欲を示した。
ヴォルフガング・ライプ(彫刻部門)は自身の受賞ももちろんだが「この賞が示す文化的価値への称揚、それ自体が喜ばしいもの」と語る。現実という拘束はあるにせよ、文化芸術によって世代を超えて価値観を繋いでいけることに意味がある、と強調したのは自身の彫刻に有機物を用いることで時間性を取り入れた彼ならでは、だっただろうか。
ライプのスピーチを受けて話し始めたドミニク・ペロー(建築部門)は経済的事情などの現実的拘束の多い建築は「不純なもの」と見られがちだが「この受賞によって、建築がまだアートであり得ることが示されてよい」と場内の笑いを誘った。そしてまた横尾のスピーチを引いて彼もまた「この受賞でまた内面の自由を得られるように思う」とも。高度に情報化されてすべてが既知になっていく現在の特殊な世界の中で、それでも何か、未知のものを再発見していくことができる、文化の領域の価値がある。そう力強く語る姿は印象的だった。
この12月で引退を表明しているシルヴィ・ギエム(演劇・映像部門)は自身の活動すべてを「愛すること」だと言う。そして幸運にもめぐりあえた大好きなダンスで、振付師やカンパニー、そして聴衆とのいろいろな関係性の中で、15歳から今まで続けてきたと彼女は言う。受賞することには若干の戸惑いもあるが、愛してきたことをこのように評価されたことを喜ばしく思う、と受賞の喜びを語った。
内田光子(音楽部門)は映像メッセージの中で「自分がやりたいことは音楽だけ、そこで評価されたことに感謝する」と、シルヴィ・ギエムとも共通するコメントをしている。何かいただけるなら「音楽を聴いたり、音楽について考えたりする時間を」、というほどに音楽をする人なのだ。この賞を受賞した尊敬する先人たちの中でも、特に指揮者・作曲家のピエール・ブーレーズが同賞最初の受賞者であることがより喜ばしいことだ、とも語った。
なお、ヤンゴン映画学校(ミャンマー、本部=ドイツ・ベルリン)が同賞の若手芸術家奨励制度の対象に選ばれている。困難な状況にあるミャンマーの現実を世界に伝える、現地からの眼であり耳であろうとする彼らへの支援は、この賞の持つ高い見識を示すものだろう。
ラファラン元仏首相、ディーニ元伊首相、ルアーズ元米国国連協会理事長、パッテン英オックスフォード大総長、レーマン独ゲーテ・インスティトゥート総裁、中曽根康弘元首相
その後スピーチした同賞の選考役でもある国際顧問各位は、世界的な文化施設、美術館の館長や各国の元首相といった錚々たる面々が並ぶ。中でも日本の中曽根康弘元首相は同賞の創設当初からの関わりだ。彼らのスピーチでは受賞者たちへの称賛と同じくらい強く、現在の世界における「文化」の価値が語られた。これはめぐりあわせと言うしかないことだが、今年の受賞者がベルリンで発表された時、ドイツはまさに「中東からの難民にどう対応するのか」という問題のさなかにあった。その厳しい時に「難民としてドイツにたどり着いた人々の定着支援としての教育のため」、この賞を主宰する日本美術教会からゲーテ・インスティトゥートへの支援が表明されたことへ、深い感謝の意が顧問各位から示されている。
受賞者、国際顧問それぞれの立場から、文化的コミュニケーションによって現在の困難を乗り越える可能性を求める意思が示されたことは実に印象深い。文化的領域からの試みを、世界レヴェルで評価し支援する世界文化賞の価値への称揚がスピーチの中で多く聞かれたことと併せ、心に刻んでおきたいと考える次第だ。