C・ロナウド「己の野望に妥協をしない男」の仕事術【連載コラム:アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術】
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33歳にして、いまだ世界最高のフットボーラー
その男は陸上選手より速く走り、バスケットボール選手より高く跳び、なにより世界最高のフットボーラーだ。
レアル・マドリードに所属するクリスティアーノ・ロナウドは今も進化を続けている。若手時代のドリブルを武器にしたウィンガーから、試合を決める圧倒的な決定力を誇るストライカーへ。開催中のロシアワールドカップでもグループリーグ初戦のスペイン戦で、W杯史上最年長の33歳130日でハットトリックを達成した。走行トップスピードも出場全選手1位の時速33.98キロをマーク。そのハイレベルなパフォーマンスはこれまでのフットボール界の常識を変えつつある。
大多数のサッカー選手にとって30代という年齢は、トップレベルのリーグから自ら降り次のステップへと進む時期だ。例えば、ロナウドとほぼ同年代の84年生まれのアンドレス・イニエスタはバルセロナからJリーグのヴィッセル神戸への移籍がニュースになったし、ロナウドとマンチェスターユナイテッド時代に同僚だった32歳のウェイン・ルーニーは、エヴァートンからメジャーリーグ・サッカー(MLS)のDCユナイテッド移籍が噂されている。だが、ロナウドは2017-18シーズンで衰えを指摘されながらも、リーガ27試合で26得点、欧州チャンピオンズリーグでも史上初の6年連続の得点王に輝き、前人未到の三連覇の原動力となった。
いったいなぜ背番号7だけが勝ち続けることがてきるのか? 今回はそのヒントを探るために『クリスティアーノ・ロナウドの「心と体をどう磨く?」』(ルイス・ミゲル・ペレイラ&フアン・イグナシオ・ガジャルド共著/扶桑社)を紹介しよう。冒頭でよくネタっぽく語られがちな「毎日腹筋3000回している」という噂について、「役に立たないし、反対に背中や腰椎を痛める。実際は週に2回腹筋運動をしている」とあっさり否定。イチローの“毎朝カレーライスを食ってる”と同じで、突き抜けたスーパースター特有の過剰さやストイックさはこの手の都市伝説を生みやすい。
すべてをサッカーに捧げた若手時代
今のロナウドは1試合を通した運動量で勝負するタイプではない。ロシアW杯のスペイン戦でも走行距離はフィールドプレイヤー最少の8723メートル。少なっ…と思いきや、オランダの雑誌『フットヴァル・インターナショナル』によるとキャリアで最も得点を決めている時間帯は試合終了間際の後半90分だという。他選手が疲労困憊の時間帯にロナウドはギアをいれて得点を奪う。驚異的な肉体的スタミナとその使いどころを分かっているクレバーな頭の持ち主だが、自宅にはNASAが開発した重力がない状態で関節に負担をかけることなく走ることができる“NASAマシーン”や温水プールを完備。いつ何時もトレーニングを欠かさない。
イケメンで美しい筋肉を維持し、世界最高のサッカー選手で地球上のアスリートの誰よりも大金を稼ぐ。すべてに恵まれた天才に思われがちだが、幼少期はポルトガルのマデイラ島で4人兄弟の決して裕福とは言えない家庭に育ち、12歳で世界一のサッカー選手を夢見てスポルティングへ。15歳の時には心臓の異常が見つかり手術を受けている。徹底した食事管理を自らに課し、朝は誰よりも早くチーム施設にやってきて体幹トレーニングをしてから合同練習へ。それが終わると、ほとんどの選手が帰宅したあとに再びアカデミーへ戻り脚のパワー強化を図るためトレーニングに没頭する。極度の負けず嫌いで泣き虫。1番じゃなきゃ納得できない。とにかくサッカーにすべてを捧げた日々だ。
成功してからのインタビューでロナウドは自らが失ったものを「子ども時代」と答えたのは興味深い。『成り上がり』の矢沢永吉風に言うと、あらゆる夢を叶え頂点に君臨し、うなるほどの金を持ち、それでも失った時間だけは戻って来ない。時間だけは誰にでも平等だ。そのルックスと数々のゴシップから派手な遊び人のイメージもあるが、普段は口数は少なく、タバコは吸わずアルコールも口にしない。たまに夜出掛けた際も飲むのはせいぜいレッドブル。実の母親の「あの子の唯一の“ドラッグ”はフットボールよ」という台詞もあながち大げさには聞こえない。才能はもちろん、努力の天才とも言える鍛錬の日々をこの男は生きてきた。
己の野望に妥協を許さない男
…と、いつになくシリアスな文体になってしまったが、ロナウドの己の野望に一切の妥協を許さない狂気すら感じるプロ意識を読み、さらにW杯であの規格外のパフォーマンスを見せつけられると読み手も謙虚にならざるをえない。これは日本のアスリートにありがちなヌルい自伝本の類いでもなければ、野望よりも絶望を感じる薄い自己啓発本の作りでもない。ついでに存在が異質すぎて学べる箇所や参考になる箇所もほとんどない。自分もまるで歴史上の偉人の伝記を読むような感覚でページをめくった。
理解者の母親や病の少年との交流といったエピソードも数多く収録され、翻訳者・タカ大丸氏の丁寧な文章は非常に読みやすいが、冷静に振り返ると一冊を通して完全スルーしてる子どものことやあの女性関係とか多少は触れないとかえって不自然な気もする。なんて突っ込みつつも、ロナウドほどのスーパースターでも努力なしには成立しえなかったとシンプルに感動してしまったわけだ。先日、肖像権問題による脱税罰金24億円が話題になったが、意外と文中の「いくら持っているのか自分でも知らない。今の僕を動かしているのはお金じゃない。何も持っていない頃、最初は確かにお金だった。でも今やそれは叶ったから、大切なことではなくなっている」という台詞は本音ではないだろうか。数年前にも、中国リーグからの巨額オファーを代理人は「お金がすべてじゃない」と断っている。
いったいこの男の活躍はいつまで続くのか? なにせほとんど前例のないキャリアなので予測がつかないが、マンチェスターユナイテッドでフィジカルトレーナーとしてロナウドに接したヴァルター・ディサルヴォ氏は、本書の中でこんな言葉を残している。
「2022、2023年くらいまで、つまり38歳までは一流どころでいるはずだ。それから多少要求が低くなるカタールとか米国のリーグで何年間かプレーするかもしれないね」