『ROCKIN’ QUARTET Vol.2』レポート 弦楽アレンジでも冷めることのないTHE BACK HORNの激情
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『ROCKIN' QUARTET vol.2』 撮影=AZUSA TAKADA
ROCKIN’ QUARTET Vol.2 2018.6.17 Billboard Live TOKYO
『ROCKIN’ QUARTET』には他では絶対に味わえない独特の空気感がある。食事とお酒と格調高い場のムード。ロックからクラシックへのあっと驚くメタモルフォーゼ。バンドを離れたソロ・ボーカリストとしての挑戦。様々な要素が絡み合い未知の音楽体験を生み出す。今日は『ROCKIN’ QUARTET Vol.2』の東京ファイナル、その第一部。山田将司(THE BACK HORN)& NAOTO QUARTETが奏でたハーモニーは、想像を超える圧倒的なものだった。情熱、熱風、パワー。バンドとはまったく違うベクトルながら、バンドに比肩する感動がそこにあった。
『ROCKIN' QUARTET vol.2』 撮影=AZUSA TAKADA
ザ・ビートルズ「エリナー・リグビー」をBGMに、カルテットの4人が位置につく。短いオーバーチュアを奏でると、山田将司がゆっくりと客席の階段から降りてくる。おもむろにマイクを握り、立ったまま歌い始めたのは「冬のミルク」だ。足を突き出し、手を振り上げ、吠えるように歌う、バンドと変わらぬ激しい動きに度肝を抜かれる。比べるわけではないが、前回シリーズの大木伸夫(ACIDMAN)が椅子に腰かけて歌い上げた、包み込むようなパフォーマンスとは全く違う。これが山田将司の『ROCKIN’ QUARTET』の解釈か。凄い、という言葉しか頭に浮かばない。
THE BACK HORN・山田将司 撮影=AZUSA TAKADA
凄いと言えばNAOTO QUARTET。対談インタビューで語ってくれた“最初にリズム感を提示しておくと、そのあとドラムがいなくなっても聴こえてくれる”という聴覚マジックに則り、タッピングでバイオリンを叩く音を随所に入れながら、THE BACK HORNの強烈にうねるリズムを再現する。弦楽四重奏でこんなにスピードとリズムが出るのか。たった4つの楽器から目が離せない。
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
「“ROCKIN’ QUARTET”へようこそ。みなさん自由にリラックスして、最後まで楽しんでください」
曲は「ひとり言」。僕は一人じゃない、このままじゃいけない。エレクトリック楽器の音圧から抜け出し、言葉の力がスコンと突き抜けて聴こえてくる。ギリギリのシャウトが、何倍もの説得力を持って心に響く。「罠」は速いパッセージを連ねて駆け抜け、「コバルトブルー」は混沌で渦を巻くようなフレーズで幻惑する。それにしても、何という選曲だろう。インディーズ時代の「冬のミルク」「ひとり言」を始め、ほとんどが初期の名曲ばかりじゃないか。リラックスして楽しんでと言われても、申し訳ないがそれは無理な相談だ。
THE BACK HORN・山田将司 撮影=AZUSA TAKADA
「今日で終わっちゃうんですね。早い!」(NAOTO)
「淋しいですね」(山田)
こちらの緊張感をよそに、軽い会話を楽しむNAOTOと山田。ブルーノート名古屋、ビルボードライブ大阪、ビルボードライブ東京と続いたツアーは、本当に楽しく忘れがたい経験だったようだ。二人が紹介した本ツアーのオリジナルカクテル“共鳴”は、テキーラを赤ワインで割ってレモンを添えた、濃厚だが爽やかな味。飲みながらレポートを書くなんて普段は絶対やらないが、今日くらいはいいだろう。
オリジナルカクテル「共鳴」 撮影=AZUSA TAKADA
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
「空、星、海の夜」は、個人的に非常に思い入れの強い曲なので聴けて本当に嬉しかった。チェロとビオラのピチカートから始まり、メロディアスに展開してゆくドラマチックなアレンジが素晴らしい。ここで山田がステージを降り、NAOTO QUARTETがオリジナル曲「Si-So♪Dance」を聴かせてくれた。まるで四つ打ちダンスチューンのようなビート、メロディアスな曲調に名手NAOTOの速弾きが光る。
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
ロックバンドが奏でる重音、クラシックの弦楽器が奏でる単音、それぞれの性格の違いについてのNAOTO教授の音楽講座は、前回の対談インタビューでもたっぷり聞かせてもらったが、あらためてMCで聴いてもとてもためになる。クラシックとポップスを股にかけて活動するNAOTOの活動の面白さは、もっと広く知られるべきだ。
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
NAOTO QUARTET 撮影=AZUSA TAKADA
バイオリン柳原有弥、ビオラ松本有理、チェロ向井航を紹介し、ピアノの呉服隆一を迎え入れた5人編成で、次に歌ったのは「春よ来い」。ご存知松任谷由実の楽曲で、THE BACK HORNもカバーしたJ-POPスタンダードを、一番はピアノと歌だけで儚くもの悲しく、二番はカルテットが加わり繊細に凛々しく。続く「あなたが待ってる」は、今日のセットリストの中で最も新しい昨年の曲、宇多田ヒカルのプロデュースで話題を撒いた1曲だ。ゆっくりと会場を見渡しながら歌う、山田の表情がやけに優しい。“山田さんは同じ音程でも違う明るさで来る、そういうコントラストの付け方ができる人”というNAOTOの証言を思い出す、穏やかな歌いぶりが胸に沁み入る。
『ROCKIN' QUARTET vol.2』 撮影=AZUSA TAKADA
「THE BACK HORNは今年で20周年を迎えます。これからも、みなさんの気持ちに寄り添える歌を歌っていきます。何があろうと旅を続けていくという気持ちを込めてこの曲を」
旅を始めよう。風さえ寝静まった夜に――。静かな語りから始まるその曲は、4年前のアルバム『暁のファンファーレ』の冒頭を飾った「月光」だ。三拍子の重厚なスローチューンに、NAOTOの叩くリズム、ピアノの奏でるメロディが美しく映える。そしてラストチューンは「美しい名前」だった。一つ一つの言葉はどぎついほどにリアル、なのに心に届く感情は透き通るほどにピュア。THE BACK HORNの象徴のような1曲を、ピアノと弦楽器のアンサンブルがより純粋なものへと昇華する。曲の本質が露わになる。それが『ROCKIN’ QUARTET』のマジックだ。
THE BACK HORN・山田将司 撮影=AZUSA TAKADA
アンコール。2年前の名作バラード「With You」を歌う山田の後ろで静かにカーテンが開かれ、夕暮れが近づく六本木の風景が窓の外に大きく広がった。何処までも二人でゆこう。今夜一つになろう。誤解しようのないまっすぐな言葉と、まったく飾りのないシンプルな音、今の時代にそれを聴けるのはとても贅沢なことだとつくづく思う。歌い終わった山田が指揮者のようにメンバーに立ち上がるよう促す。あたたかい拍手に包まれて笑顔で手を振る。
『ROCKIN' QUARTET vol.2』 撮影=AZUSA TAKADA
歌を歌う人ではあるが、本質は詞を語る人。そんな山田将司の圧倒的な声の力と、THE BACK HORNのアグレッシブなバンド感を見事にクラシック・アレンジに置き換えたNAOTOとの融合は、期待以上の興奮と感動をもたらしてくれた。『ROCKIN’ QUARTET』はヤバい。大木伸夫から山田将司へと渡されたバトンが、まだ何も決まっていない「Vol.3」では誰に渡されるのか、すでに気になってしょうがない。
『ROCKIN' QUARTET vol.2』2nd Stageでは背後に六本木の夜景が 撮影=AZUSA TAKADA
このあとNAOTOは8月14・15日にMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで『NAOTO LIVE 2018“SUMMER FULL BLOOM”』を行い、THE BACK HORNは10月から結成20周年ツアー『「ALL TIME BESTワンマンツアー」~KYO-MEI祭り~』に突入し、来年2月8日の日本武道館公演を目指して走り出す。いつかどこかでの二組の再演を願い、それぞれのファンの交流が起きれば本当に素晴らしいことだと思う。
取材・文=宮本英夫 撮影=AZUSA TAKADA
『ROCKIN' QUARTET vol.2』 撮影=AZUSA TAKADA