THE BACK HORN・山田将司 × NAOTO 第2回『ROCKIN’ QUARTET』直前、大いに語る

インタビュー
音楽
2018.6.10
THE BACK HORN・山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

THE BACK HORN・山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

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あの感動が還ってくる。ロックアーティストと弦楽四重奏のまったく新しいマリアージュで話題をさらったイベント『JAL CARD presents「ROCKIN’ QUARTET vol.2」』の開催がいよいよ迫ってきた。第一回は大木伸夫(ACIDMAN)をボーカリストに迎え、アレンジと演奏を手掛けるヴァイオリニスト・NAOTOの斬新かつ精巧なアレンジと、エモーションみなぎる大木の歌声との見事なコンビネーションを聴かせてくれたが、今回ボーカリストに指名されたのは山田将司(THE BACK HORN)だ。心の底にロック魂を秘めたヴァイオリニストと、荒ぶる魂を歌に乗せて吠える男の邂逅が、一体どんな音楽を生み出すのか。考えるな、感じよう。

――今回、『ROCKIN’QUARTET vol.2』のボーカリストとして、山田さんに白羽の矢が立ちました。

NAOTO:きっかけはプロデューサーの推薦なんですが、小耳にはさんだところだと、山田さんは自分から「やりたい」と言ってくれたらしいんですよ。

山田:お話をもらった時に、すぐに「やってみたい」と思いました。しかもその時聞いたんですけど、ACIDMANの大木くんが「次がバックホーンの将司が面白いと思うよ」って言ってくれたらしくて、それはすごくうれしいなと。

――即答でしたか。

山田:そうです。「いいんですか俺で?」みたいな感じでしたけど、「ぜひお願いします」と。

――山田さん、前回の『ROCKIN’QUARTET』を観に行かれたとか。どんな印象でした?

山田:素晴らしかったです。自分がやることはもう決まってたんで、どういう気持ちで臨めばいいのか、ずっと考えてました。もちろん楽曲もACIDMANとは違うし、大木くんとは声も感情の乗せ方も違うけど、ストリングスの生々しさは、強さも弱さも儚さも全部出せるような感じがして、そこに自分の歌が乗った時に生(せい)を感じられる、それが楽しみです。

THE BACK HORN・山田将司 撮影=西槇太一

THE BACK HORN山田将司 撮影=西槇太一

――NAOTOさん。Vol.2をやるにあたってどんな思いがありましたか。

NAOTO:一回経験させていただいたこともあって、実はもっと軽く考えてたんですよ。でも当たり前なんですけど、バンドが違って曲が違うとアレンジの方式も全然違うということに、2曲目ぐらいで気づきまして。これはヤバいと。

山田:(笑)。

NAOTO:自分の中でイメージがあって書いたつもりが、「あれ? ダメじゃん!」って。アレンジとして成立していないわけではないけど、「バックホーンっぽくねえな」と思っちゃったんですよね。それで前回よりも書き直しが多かった。

山田:そうなんですか。

NAOTO:ある程度、自分の中で方向性が見えるまでに時間がかかりました。バックホーンさんは、元々の楽曲の一個一個の楽器に意味があるんですよ。それを弦カルテットに置き換えなきゃいけないんだけど、「この楽器だからこのフレーズをやっている」というものがあるから、ただ単に置き換えても「っぽく」ならない。何を足すのか何を引くのかが、本当に難しかった。たとえば、カルテットにはドラムがいないわけです。そこでリズム感を出すのは打撃音なのか、音程のあるものにするのか、そのチョイスが難しい。

山田:アレンジしたものを聴かせていただいて、それは感じてました。うちのバンドの絡み方って、個がぶつかり合うものが多いから、それをうまく生かしてくれてるなと。バックホーンらしさとおっしゃってくれましたけど、そこを意識してくれてるなと感じました。

NAOTO:来てくれるお客さんは、バックホーンの曲が好きで来てくれてるわけだから、全員とは言わないけど、ある程度の人に「楽しかったね」「こういうのも有りだね」と思ってもらえないと、僕の仕事はアウトなので。「こっちのほうがカルテットっぽい」とか、それが一番にあってはいけないんです。それが『ROCKIN’QUARTET』のルールだと決めているので。

山田:めちゃハードル高いですね。

NAOTO 撮影=西槇太一

NAOTO 撮影=西槇太一

NAOTO:そうなんですよ! 自分の曲のときは「俺がこう思ってるからいいんだ」って言えちゃうんですけど、人さまの曲を扱わせていただくのは本当に怖いです。バックホーンさんって、ベースラインがすごく動くんですよ。だからチェロの人が大変で、「こんなアレンジ書いて、怒られるんだろうな、俺」とか思ってますけど(笑)。でも何か所か、申し訳ないけど「ここはコードのほうに寄せないと、4人で鳴らした時に不協和音に聴こえるから」というところもありました。最初にエレキギターが和音を鳴らして、その小節を支配してくれていると、ベースの不協和音も成立したりするんですけど、その役割の人がいないぶん「この一音だけは変えないといけないだろう」というのが数か所あって、最後まで悩みましたけどね。「このベースの音、わざとなんだろうな。でもカルテットでこの音を出すと、間違えてるってみんな思うだろうな」とか。

山田:うちのバンドはけっこう、そういうのが多いと思います。気になりすぎたところは指摘しますけど、直して合わせたところで「混じりはよくなるけど主張はなくなるね」とか、そういう話し合いはよくします。だから歌メロとベースラインが、ばんばん当たってるところがあるんですよ。

NAOTO:音楽的に言うと、エレキべースの音域はチェロの音域より1オクターブ下なので。遠くなればなるほど、隣の音は二度じゃなくなる。二度、七度、九度の音は隣同士ですけど、離れれば離れるほど、二度は九度になる。もう1オクターブ離れると十七度になる。そこまでいくと、気にはならないんです。

山田:テンション(・コード)で、成立してる。

NAOTO:たとえばドとド#という隣の音を同時に鳴らしたら、不協和音に聴こえるんですけど、高さがそれだけ離れてると♭9thというコードになるので、遠くに行けばいくほど大丈夫なんです。でも今回はチェロで、男性の声とチェロは同じ音域だから、ドとド#を同時に鳴らすわけにはいかないんですよ。

山田:そうか。ベースとチェロは全然違うんですね。

NAOTO:ベースとチェロは最低音が違うから、そこをうまいことごまかすというか、フレーズを守りながらなんとかしないといけない。それはもう葛藤でした。

THE BACK HORN・山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

THE BACK HORN山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

――いや~、めちゃめちゃ勉強になります。

NAOTO:カルテットのアレンジの方程式を当てはめていくのでは正解が出てこないから、そこが大変でした。でも今回すごい楽しみなことがあって、前回大木さんとやらせていただいたとき、ヴァイオリンのボディを叩いて音を出すタッピング奏法を試してみて、あれから少しずつやる回数を増やしているので、オカズやリフのパターンを、前回が10としたら今回は25ぐらいまでパターンを変えられるようになったんですよ。それが自分でも楽しみです。ただほかのメンバーは、すごく上手な人たちですけど、タッピングでリズムを出すことは今までやってきてないから、そのパートは僕がやらないといけない。そうなると、「あれ? 俺、この曲の8割でドラムやってる」っていう曲がある。

山田:(笑)。

NAOTO:さすがにそれは反省して、サビは普通に弾いていいですか?って(笑)。やれるからって、やりすぎもよくないんですよね。

――なるほど。

NAOTO:それと、人間の慣性の法則として、イントロでリズムが聴こえると、そのあとは勝手にリズムが聴こえてくれるんだなということを最近覚えたんですよ。

山田:ああ、頭の中でループしてくれる。

NAOTO:そう。リズムがないところからスタートすると、「この曲はリズムがないんだな」って聴いちゃう。でも最初にある程度のリズム感を提示しておくと、サビまで駆け上がって、そのあとドラムがいなくなっても聴こえてくれるんです。そういう手品みたいな、ないものをあるように見せるということがすごく楽しいです。逆に言うと、その方式をとらないと音が広がっていかない。それは前回ですごく勉強になったことですね。

――山田さん、歌い手としてはどんなテーマがありますか。

山田:とことん気持ちよくなりたいです。カルテットをバックに、一人で歌だけを歌うのは初めてですから、未知の世界ですね。

NAOTO:ほとんどの人が初めてですよ。

山田:だから、わくわくしてます。

NAOTO:僕は、安心してるんですよ。バックホーンさんの曲の中で、ベースとドラムと歌だけとか、ギターのアルペジオと歌だけとか、けっこうあるんですよ。それで歌えてる人は、音が薄くても歌える人だから、何も心配してない。ジャカジャーン!って鳴ってないとピッチが取れないとか、リズムを見つけられないということになると難しいですけど、そういう人じゃないことは作品を聴けばわかるから。喜んで引き算できます。

山田:ヤバい。プレッシャーが……(笑)。

THE BACK HORN・山田将司 撮影=西槇太一

THE BACK HORN山田将司 撮影=西槇太一

――NAOTOさん。ボーカル・山田将司の魅力って、ずばりどういうところだと思いますか。

NAOTO:表情の多さ、ではなくてコントラスト。明暗の差があるところが良さなんだろうなとすごく思いましたね。同じ曲の中でも、声の色の明るさや暗さをつけている。それは音域で勝手についちゃう人が多いんですけど、山田さんは同じ音程でも、違う明るさでくるんです。そういうコントラストの付け方ができる人で、それをコントロールできてるから、この楽曲のここに合うんだなということを、聴いてて思いましたね。

山田:同じ音程だけど、そこにいろんな明暗の表情があることは、自分でも今言われて気づきました。自分の細かい分析は、あんまりしたことないんで。感情のままに歌うことが基本なんですけど、言われてみて「俺、いろいろできるのかな」と思いました(笑)。

NAOTO:音量の強弱でコントラストを付けることは誰でもやるんですけど、楽器で言うと、同じ音程で音色を変えるというのはもう一つ上の段階のことだから。すごいなあと思いますね。それとね、人間的には、もっと怖い人だと思ってました。

山田:(笑)。

NAOTO:詞の内容もそうだし、荒々しく歌う曲もあって、怖い人かなと。だから初対面のときに「同じ人かな?」と思ってびっくりしちゃった(笑)。その、変わる瞬間を一番近くで見れるのがすごく楽しみです。何かが憑依する瞬間を見たいです。

山田:憑依…するかもしれない(笑)。コードやメロディや歌詞の内容が変わるから、気持ちが変わるというか、それだけなんですけどね。カルテットで自分の感情がどう昂っていくのか、自分でも予想はつかないです。

NAOTO:バイオリンは女性ボーカルと同じ音域で、一番声に近い楽器と言われてるんです。うしろにアカペラグループがいて、歌うのにちょっと近いかもしれない。

山田:ああ、なるほど。みんな近くにいてくれる。

NAOTO:包まれる感は、絶対にあります。音のプールみたいになって、包まれるんですよ。耳だけじゃなくて、実は体でも音は感じていて、それが360度から立体で来るから。それはギターやベースをモニターで調整するのとは違って、「本当にチェロの音がそこにある」とか、点じゃなくて面で感じられると思います。

山田:体調、良くなりそうですね。細胞が修復されてきそう。

NAOTO:そうですね(笑)。そういう意味では、お客さんよりも、山田さんが一番いい環境にいる。

NAOTO 撮影=西槇太一

NAOTO 撮影=西槇太一

――そして、具体的なセットリストですが。もう決まってますか。

NAOTO:ほぼ決まってます。アレンジも90%終わりました。

山田:僕がやりたい曲をリストアップして、投げた感じです。

――バラード系、アップ系、いろいろありますか。

山田:ありますね。大丈夫かな?というぐらいの幅を出しちゃいました。スローな曲もありますけど、アッパーな曲も入れさせてもらって、このフレーズをバイオリンが弾くの?みたいなものもあります。やってみたかったんですね。カルテットと俺と、5人が肉弾戦をしてる感じをやったらかっこいいんじゃないかな?と。

NAOTO:筋肉痛を心配しないといけないアレンジです。乳酸が出る(笑)。でも、時代は変わったなと思いますね。もちろんみんなプロだから、弾くことはできるんですよ。でも通常そんなことをやらないから、「こんなの嫌だ」とか、昔の人はすぐ言ったんですけど、今の若い人はそういう音楽をちゃんと聴いて育ってるし、そこに対して頑張ろうとしてくれるのがいいなあと思います。みんなでいい汗かきたいですね。動きは少ないけど、めっちゃ細かいことをやってるから、そういうところも注目してもらえたらいいなと思います。それと、カバーも2曲やるんですが、これがちょっと面白いんですよ。どこかで歌われたこと、あるんですか?

山田:弾き語りでやったことはあります。好きな曲なんですよ。

NAOTO:その2曲だけは、通常アレンジに戻るという(笑)。いわゆるカルテットのアレンジで行けるので、ほかの曲とのコントラストがあってすごく楽しいです。

――最後に、ライブを楽しみに待っている、ファンの方へ呼びかけを。

山田:バンドとは違うアプローチだけど、曲の持つ良さは崩れていないし、熱量も絶対に負けないと思うので。たぶんバックホーンでは出し切れない繊細なタッチというか、力強さとしなやかさがある。力強さも、バックホーンと同じ熱量で歌うかもしれないし……正直自分でもまだわかってないんですけど、リハーサルで合わせて、徐々に作っていきたいと思ってます。ファンのみなさんは何も心配しないで、ただ楽しみに来てください。

NAOTO:素材を生かして調理させていただいたつもりなので、あとはみんなで一緒に作っていただきたいです。お洒落にはなっていると思いますけど、高いフランス料理ではなく、素材は変わってないので。いつものTシャツとジーンズに一つだけ髪飾りがついてるぐらいのお洒落感だと思っていただければ。僕らも心の中にロック魂を持ちながら演奏するので、そういう気構えで来ていただけるとうれしいなと思います。

――楽しみにしてます。ちなみに『ROCKIN’QUARTET』恒例のオリジナル・カクテルは、今回どんなものを?

山田:KYO-MEIという名前で、カクテルを作ってもらいました。テキーラベースですね。種類は何でも良かったんですけど、テキーラな気分だったんで(笑)。

NAOTO:いつもと違うのは、お酒が飲める場所だということですね。なかなかロックバンドで、お酒を飲みながら聴くというのはないですから。食事もおいしいし、ガンガン飲んで食べていただければ。

山田:音酔いしてほしいです。


取材・文=宮本英夫  撮影=西槇太一

THE BACK HORN・山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

THE BACK HORN山田将司 / NAOTO 撮影=西槇太一

ライブ情報

ROCKIN' QUARTET vol.2
2018.6.14.(木)Blue Note Nagoya
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:15

2018.6.15.(金)Billboard Live OSAKA
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30

2018.6.17.(日)Billboard Live TOKYO
1stステージ開場16:00 開演17:00
2ndステージ開場19:00 開演20:00
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