血まみれ復讐劇でミソジニー(女性蔑視)をぶっつぶせ!『REVENGE リベンジ』 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第五十五回
-
ポスト -
シェア - 送る
(C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)のフュリオサのように、自らの意思で戦う女性というのはカッコいいものだ。そんな主人公が活躍する作品の中でも、男に凌辱された女性が復讐する、いわゆる“レイプ・リベンジ・ムービー”が数多く作られてきた。『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』(10)や『サベージ・キラー』(13)などがそう。胸糞な展開を覆す爽快感があるので、私が好きなジャンルの一つである。そして今夏、女性復讐モノに加わったとんでもない作品が『REVENGE リベンジ』だ!
若きセレブ・リチャードと不倫中のジェニファーは、彼の豪華な別荘で二人きりの休暇を過ごしていた。しかし、そこにリチャードの狩猟仲間の男たちが現れたことから状況は一変。ジェニファーは抵抗したものの仲間の男たちの一人にレイプされた上、口封じのために、崖から突き落とされてしまう。しかし、瀕死の状態で一命を取り留めていたジェニファーは、男たちへの復讐へと打って出る。
最高の出血大サービス
(C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA
本作の色味は全体的に鮮やかで、舞台となる砂漠地帯の夏の暑さが一目で見て取れる。観ている側にまで登場人物たちの汗のにおいが届いてきそうなほどだ。ジェニファーを見つめる男が、菓子をグチャッと噛み砕く様子をアップでとらえたシーンからは、性的興奮の暗喩も見て取れる。私は人見知りで人と関わるのが億劫なくせに、こういった人間の生々しさが見える・伝わる映像や作品が大好物なのだ。
また、注目してほしいのは、なんと言っても文字通りの“出血大サービス”。クライマックスに近づくほどに量が増えてゆく、気持ちいいまでに大量の血!血!血!!! 「more blood!(もっと血を!)」と撮影現場で叫んだという、監督のぶっ飛び具合と豪快かつサービス精神旺盛なノリの良さが感じられて、こちらも俄然楽しくなってくる。
女性監督の描きたかったテーマ
(C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA
主人公のジェニファーは、スタイルがよく容姿端麗。また、出会ったばかりの状況で、不倫相手の仲間を腰振りダンスで挑発するなど、刺激的な行動に出てしまう。「美女」「不倫している」「セクシーな行動」と、いわゆる「誘っているのではないか?」「落ち度があるのではないか?」と叩かれがちな要素を過剰に備えているのである。なぜ、主人公をここまで極端に“危うい女の子”として描いたのか?
本作のコラリー・ファルジャ監督は、実は女性。ジェニファーの復讐劇を通して、女性が強さを持っていること、さらに、たくさんのキャラクターを混在させて生きているということを描きたかったという。本編前半には、“危うい女の子”に見えたジェニファーが、後半の復讐劇では“狙った獲物を逃さない狩人”に変わってゆくのは、そのためだろう。ジェニファー役のマチルダ・アンナ・イングリッド・ルッツは、その変化を見事に演じ切っていたように思う。表情だけではなく体つきにもぜひ注目してほしい。色気ムンムンだったその肢体が、バキバキの復讐者の身体に見えてくるのが素晴らしい。下着姿で銃を構える姿が「エロい!」より「かっけぇ!」と感じられたのは、モデルとして身体で魅せることにも長けたマチルダの、プロ根性のたまものだと思う。
(C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA
私自身も女性だが、今まで女性監督に対して、「アーティスティックで美しい作品を作る」というイメージを持ってしまっていた。『ワンダーウーマン』(17)のような、正統派の戦う女性ヒーロー作品の監督が女性であると聞いても不思議ではなかったが、本作のように女性がレイプされたり、暴力を振るわれる作品を女性が撮るというのは、少しびっくりしたというのが本音だった。しかし、『REVENGE リベンジ』は「女は強いんじゃーっ!」と正面から殴り掛かってくるような強さで、見事に私の偏見を打ち砕いてくれたのである。
(C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA
そして、本作の根底には、明確にミソジニー(女性蔑視)に対する監督の意識が込められている。女性に向けられる性暴力や、その後の被害者叩きなどが問題になる昨今。どんな行動をとっていたとしても、性的暴力が許される道理はない。上辺だけで判断され、性的な“モノ”として扱われてきた(そして、その価値観を一部受け入れていた)ジェニファーが、強く自立したひとりの人間に成っていく姿には、世の女性たちを鼓舞するパワーがあるのではないか。とかくエネルギッシュな作品なので、早めの夏バテを患う頭にガツンとくるはずだ。
肝を冷やして涼しくなるなり、アツくなるなり、それぞれの楽しみ方でエンジョイしてほしい!
『REVENGE リベンジ』は公開中。