現代の風を運びこんだ、大石将紀のサクソフォンの多彩な音色

2018.8.22
レポート
クラシック

大石将紀

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「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.6.17ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。6月17日に登場したのは、クラシック音楽だけでなく現代の作曲家によるサクソフォンのための作品の初演を積極的に展開しているサクソフォ二ストの大石将紀だ。

東京藝術大学、同大学院修了後渡仏し、パリ国立高等音楽院に入学した大石将紀は、フランスの伝統芸能ともいえるサクソフォンのテクニック、クラシック音楽はもちろんのこと、クラシック音楽の現在形「現代音楽」という前衛を学び、「伝統を現代化しなおす」作業を経験。より時代に密着した表現方法としての音楽、サクソフォンの奏法、また音楽以外での様々な芸術とのコラボレーションなどを経験しながら、サクソフォンカルテット「OSMOSE」のメンバーとしてフランスを始めとするヨーロッパ各地で演奏活動を行った。
08年に日本に帰国し、東京オペラシティーでのリサイタルシリーズ「B→C」に出演してからは主に現代音楽の世界で活躍。国内外の著名な作曲家達と親密な関係を築き、数々のサクソフォンのための作品を初演。後進の指導にもあたりながら「音楽は旅と出会いそのものである」という信条の元、フランス、イギリス、イタリアなどのヨーロッパ諸国を始め、アジア、アフリカでも演奏活動を続けている。

そんな大石が東京藝術大学時代の同級生という旧知の仲であり、「ラヴェルリサイタルシリーズ」や、「透明な風~ラヴェル名曲集」のCDアルバムリリースなど、近現代の作品を得意のレパートリーとし、室内楽奏者としても高い評価を得ている新居由佳梨と共にサンデー・ブランチ・クラシックに2回目の登場を果たし、クラシックから現代音楽のレパートリーを披露してくれた。

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

ピアノと、またサウンドトラックと共に奏でられた楽曲が示すサクソフォンの可能性

コンサートのはじめは現代音楽の作曲家カーゲルのRrrrr…5つのジャズ的小品より「リード」。大学では文学と哲学を学び、前衛音楽に関心を持ち独学で作曲を学んだカーゲルは、ユーモアにあふれた音楽劇を推し進めた作曲家として知られ、演奏中に指揮者が倒れることを指示した「フィナーレ」など、ユニークな発想の楽曲が有名。その中でもアルトサックスの為に書かれたこの曲は、ジャズアドリブのような激しさがやがて切なさに変換されていくソロが印象的だった。

大石将紀

続いてインターバルをほとんど挟まずに大石が楽器を持ち替えて、スペインの作曲家ファリャの「7つのスペイン民謡より」アストゥリアス地方の歌、ムーア人の織物、ナナ(子守歌)、ポロ(フラメンコの踊り)が演奏される。
「アストゥリアス地方の歌」では新居のピアノがミステリアスに入ると、大石のサクソフォンがエキゾチックなもの悲しいメロディーを切々と奏でる。「ムーア人の織物」ではピアノがリズムを刻みはじめると、音楽と共にベールが舞うような自由さで、サクソフォンとピアノが共に掛け合いながら特段の盛り上がりを示す。一転、「ナナ」では静かにセンチメンタルなメロディーでサクソフォンの高音の響きが澄みきって、柔らかな低音との対比が実に印象的。サクソフォンが吹奏楽団における木管楽器と金管楽器の橋渡しを目的に開発された楽器である出自を思い起こさせる。そこから連打の続くダイナミックな新居のピアノ前奏から入る「ポロ」では、大石のサクソフォンの迫力のメロディーがより引き立ち、まさに目の前でフラメンコがクライマックスに向かって踊られているような、互いに駆け上っていきながらのフィニッシュに大きな拍手が湧き起こった。

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

ここで改めて大石が挨拶。「まだ眠っていたい方もいるだろう日曜の午後にサンデー・ブランチ・クラシックにおいでくださりありがとうございます。どうぞ食べながら飲みながら演奏をお楽しみください」という言葉に一層和やかな雰囲気が広がる中、1度新居が退場し、続いたのはサウンドトラックとの共演によるヤコブTVの「ガーデン・オブ・ラブ」。現在ヨーロッパで最も活躍している作曲家の1人ヤコブTVは、楽曲に人の声や電子音楽をコラージュさせる等、宗教、政治、アルコール中毒、ドラッグなど現代社会の様々なものを作品のテーマにしている。このガーデン・オブ・ラブも冒頭で、鳥の声と共に18世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの「愛の園」が朗読され、人々を神の手から遠ざけているのは他ならぬ教会であるとの批判がこもった詩の世界観から構築されている。

大石将紀

 
ウィリアム・ブレイク「愛の園」

  心はずませ 愛の園に出かけてみたら
  見たことのない光景に出会った
  いつも遊んでた広場の上には
  教会の建物が建っていたんだ
  教会の門は閉じられていて
  立ち入り禁止と書いてあるんだ
  仕方なく花壇のほうへ引き返し
  すずしい木陰を探そうとしたら
  そこは墓地に変わっていたんだ
  花のかわりに墓石が並び
  牧師たちが見張りをしている
  僕は茨で縛られたように 
  悲しい気持になったんだ


サウンドトラックの斬新な音源に大石のサクソフォンが自在に切り込んでいく様が独特の興趣を生んでいく。時に空を飛ぶように伸びやかな音が響くかと思うと、リズミックに刻まれるメロディーが奏でられ、次々に場面が切り替わっていく様が面白い。今度は何が出てくるのだろう? と意識が音楽世界に引き込まれていく、得も言われぬ感覚に包まれていった。

大石将紀

再び新居がステージに戻り、イギリスのやはり現代の作曲家フィトキンの手になるピアノとサクソフォンのための楽曲「ゲート」が演奏される。ピアノが流れる水のような、また風のような趣の連打を奏でると、サクソフォンが遠くからその風に乗るがごとくメロディーを吹き始め、それが次第に近づいて荒々しさを増してゆく。その音楽のダイナミズムは、ピアニストが譜面を持っていることからもそうでないのは明白でありながら、どこかでサクソフォ二スト奏者のアドリブにすら感じられる。やがてサクソフォンとピアノのリズムが同調し迫力を増していき、その激しさから一呼吸あって、サクソフォンの自由度が更に高まっていく。カフェいっぱいにサウンドが響き渡る、迫真のパフォーマンスとなった。

大石将紀

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

大きな拍手に迎えられた大石と新居は、アンコールにファリャの「7つのスペイン民謡」のうち、演奏されていなかった「ムルシア地方のセギディーリャ」「ホタ(アラゴン地方の踊り)」「歌」を披露。現代音楽が中心だった今日のプログラムの中にあって、美しく平易なメロディーが迫力と共に優しい空気も醸し出し、アンコールに相応しい演奏となった。サクソフォンの様々な音色の美しさ、可能性、奥深さが感じられる40分間だった。

様々なコラボレーションからサクソフォンの世界を広げていきたい

演奏を終えたお2人にお話しを伺った。

ーーお2人共サンデー・ブランチ・クラシックには2回目の登場でしたが、改めて今日感じられた会場の雰囲気や、演奏していての手応えを教えてください。

大石:すごくスペースが広いですし、お客様が色々なところにいらっしゃるところがコンサートホールとは違うので、開放的な感じがして、お客様も伸び伸びと聞いてくださるのが、ここのカフェの特徴的だなと思っています。今日も楽しく演奏させていただきました。

大石将紀

新居:お客様との距離が近いですし、照明も綺麗に仕上げてくださっていて、コンサートホールとはまた違ってライブ感が高い楽しさの中でさせていただきました。

ーー今日の選曲についてはどのような工夫を?

大石:僕は普段クラシック音楽と新しく創っていただく現代の音楽をよく演奏していて、その自分のレパートリーの中から新しい音楽で、且つこの場に相応しいと思える音楽を選んで演奏しました。ですから普段やっている現代音楽のコンサートでは、静かに集中してどんな小さな音も聞き逃さないような感じで聴くようなものが多いので、今日に関しては自由に楽しんで聴ける雰囲気に合った、リラックスして聴いていただける現代のものと、サンデー・ブランチ・クラシックですので、クラシック音楽のファリャも演奏しました。

ーーリビングルームカフェに合わせた選曲をしてくださったのですね。その中でご一緒された新居さんはいかがでしたか?

新居:私は普段クラシック音楽を弾いているのですが、今日のような現代音楽もとても好きなんです。また、同じ時期にヨーロッパに留学していたので大石さんとは旧知の仲でもありますし、お互いの信頼関係もあるので、楽しく演奏できました。

新居由佳梨

ーーその旧知の間柄ということで、お互いの魅力をどう感じていますか?

大石:新居さんはラヴェルのリサイタルシリーズや、名曲集のCDアルバムのリリースなど近代音楽が得意でいらして、サクソフォンはフランスで1840年代に生まれた楽器で、やはりサクソフォンのレパートリーはフランスの近現代のものから、現代のものなんですね。ですから彼女の得意とするレパートリーと同じ時代の音楽なこともあって、彼女の演奏にあるフランスものの色彩感が、サクソフォンと合う……と言うと偉そうなんですけど(笑)、相性の良さを感じています。また彼女とは大学時代から同級生なのですが、彼女がフランス近現代のものだけでなくて、サクソフォンの新しいレパートリーが好きだというのを学生時代から知っていて。ピアノの人から見たらちょっと変わったレパートリーを喜んでやってくれる、良い意味で変わっている方で(笑)。僕はその辺がすごく面白くて、ご自分のソロのレパートリーにもいずれ是非入れてもらいたいなと楽しみにしているのですが、今日のフィトキンの「ゲート」などにもすごく興味を持ってやりたいと言ってくれる珍しいピアニストですから、そこに魅力を感じています。更にやはり一緒に演奏していて安心感があるピアニストです。

新居:ありがとうございます。大石さんはサックスという楽器を本当に自由に操られる方で、学生時代から音と共にフレーズの作り方にすごく美しさを感じていて。現代音楽の分野は私はまだなかなか得意とは言えないのですが、クラシックのサクソフォンの演奏を聴いていると、無理強いをしないで自然体に音楽を創っているのが素晴らしいなと。今回のコンサートに関しても私の興味をそそるような曲を提案してくれたりですとか、私の世界を広げる機会をくれているのがとてもありがたいです。また同じ大学で同じ時期に学んだ人と、留学後日本に帰ってきてまた一緒にお仕事ができるというのは本当に嬉しいことです。人間としても音楽家仲間としても共に成長していけたらいいなと思って、尊敬している存在です。

大石:ありがとう。

(左から)大石将紀、新居由佳梨

ーーそのコンビネーションの良さが伝わって素敵な演奏でしたが、今後の活動に向けての夢や、ビジョンなどは?

大石:新しい音楽のジャンルで言えばサクソフォンの可能性をもっと広げたいと思っていて、ソロや、他の楽器との共演での、サクソフォンの為の新しい曲を作曲家に書いてもらう、今もやっている活動をもっと間口を広げてやっていこうと思っています。具体的には邦楽器とのプロジェクトが進んでいます。あとは毎回のことなのですが、楽器を演奏するところから一歩進んで、もっとサクソフォンを使った活動、コンサートを超えたところでの演奏ですとか、表現を模索していて。そのひとつとして今年の12月に前々から興味があった楽器同士ではない、ダンサーとのコラボレーションをします。そうした他のアートとのコラボレーション、新しいものを創っていきたいというのが目標と夢です。

新居:私はソロもアンサンブルも両方好きなので、どちらもずっと探求していきたいですし、ここ数年アウトリーチ活動と言って小学校に伺って音楽を届ける活動をしているのですが、そういう子供たちの音楽世界を広げる活動も更に進めていきたいと思っています。またクラシックだけに限らず増えているのがスタジオの仕事で、TVドラマやアニメゲーム音楽などの録音で、色々な作曲家さんに会えるんです。その方々のクラシックの作曲家とは違う視点での曲創りがすごく面白くて、それらのお仕事を通じて自分の経験を広げていって、それをまた自分に取り込んで成長していけたらなと思っています。

ーーそんな新しい世界をまた是非サンデー・ブランチ・クラシックでも聴かせてください!

大石:はい是非! 今日はありがとうございました。

(左から)大石将紀、新居由佳梨

取材・文=橘涼香 撮影=安西美樹

ライブ情報

サンデー・ブランチ・クラシック

8月26日(日)
長 哲也/ファゴット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
9月2日(日)
土岐祐奈/ヴァイオリン
&平山麻美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
9月9日(日)
石田成香/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
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