『FUJIROCK FESTIVAL '18』を振り返る(1):長引く“フジロス”の理由、二つの軸で改めて感じたフジロックの未来
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苗場開催20回目を迎えた今年は、いつになくフジロスがひどかった。この振り返りを書くにあたって、私のフジロックでの立場を明らかにしておく。2013年から速報レポートを担当するライターとしての参加だ。なんとなく気分でいろんなステージに移動することはできないが、逆にレポートを書くため、フルにアクトを見る。フェスでフルにステージを見ると、バンドの本気度が伺えてなかなか良いものだ。平均50分、ヘッドライナーともなると1時間半とか2時間の本格的な構成で展開される。
N.E.R.D 撮影=風間大洋
さて、いつでもフジロックは日本国内では他にない規模と驚きのある環境で飽きることはないのだが、近年、ヘッドライナーの定番化というか、良くも悪しくもフジロックっぽさにもはや変化はないのか?と思っていたところへ、なんと3日のうちヘッドライナー2組がケンドリック・ラマーとN.E.R.Dというヒップホップ/R&Bアーティストの決定。加えてアンダーソン・パーク&ザ・フリーネイションズ、ポスト・マローンという、おそらく本国でも同一フェスにブッキングするのはなかなか困難な今のアメリカのミュージック・シーンの軸を成す面々が登場したことは、明らかに22回目のフジロックにおけるパラダイムシフトでもあり、日本のロックフェスのパラダイムシフトでもあった。と、いうのは、まぁライブを見る前もニュースとして想像できたことだけれど、実際にそのアクトを体験して、こりゃ今、世界でヒップホップやラップミュージックがロックのセールスを超えたのもさもありなんというか、エンタテイメントショーとしての魅せ方とメッセージが分断していないこと、ラップという発語の表現とアーティストの肉体性、そして音源では感じることのできないバンドとのその場その場で更新されていく抜き差しのフレキシブルさ(ポスト・マローンは未見な上、逆にトラックのみの勝負でそれが曲と彼のパーソナリティを最大限に引き出していたという知人の感想に納得したが)。
ケンドリック・ラマー
ポスト・マローン
たった一人で世界と対峙してるようなケンドリックも、全身音楽家のようなアンダーソン・パークの超人的な音楽的筋力も、いずれも有機的なバンドサウンドだった。特にアンダーソンのバンド、ザ・フリーネイションズには、グラスパー以降の“新世代ジャズ耳”にもフィットする、世界のイケてるミュージシャンがこぞって目指すアンサンブルとグルーヴ、そして存外ポピュラーな親しみやすさも兼ね備えていた。フジロックでは常にイケてて楽しく、未見のアクトに出会えるという、2000年代初期のあのドキドキする感じが自分自身の内側に蘇ったこと、それが大いなるフジロスにつながったとも言える。ちなみにケンドリックやN.E.R.Dの煽りにも静かなオーディエンスだとか、日本人はヒップホップのノリがわかってないという、ノリが分かってるであろうファンからの非難は半分当たっていて半分的外れな気がした。シンガロングできなくても大きく湧いていなくても、心の内側でみんな衝撃を受けていたのだから。ロックもヒップホップもエレクトロもワールドも、良い音楽なら聴く。楽しむ。そういうオーディエンスがやはりフジロックには多いという証左だったんじゃないかと思うのだ。もちろん集客できなければ彼らや彼らに続く、今を体現するアーティストが今後出演してくれるかどうかはわからない。でも、少なくともヒップホップ・プロパーじゃなかった私自身、より突っ込んでリリックを調べたり、関連するアーティスト、ミュージシャンを掘り始めたのだから、若いリスナーはさもありなんだろう。
odol 撮影=風間大洋
King Gnu 撮影=風間大洋
さらにここ2、3年のフジロックには日本のインディー・シーンを出自とするバンド/アーティストの豊穣をしっかりブッキングで表現してくれている。全ては見ていないが、cero、D.A.N.、シャムキャッツ、ミツメ、King Gnu、odol、CHAI、neco眠る、toconoma、TENDREなどなど。近年、日本のインディーシーンがアジアでも注目されていることもあり、フジロックに急増する台湾、韓国、中国からのオーディエンスが彼らの生のステージを見て、リアルな印象を拡散してくれたのではないかと想像する。ここに書いただけが全てではないけれど、海外のシーンとはもはや自然に共振していて、すでに2、3年前よりオリジナリティを深化させている彼らの音楽はマスメディアには露出しなくても、SNSで自然と広がる性質のものだ。まぁ、日本がデフレでフジロックに足を運びやすくなったインバウンド効果も大いにあるだろうけれど、現状では日本のリスナーより国内外の壁なく音楽を聴いているアジアのリスナーの影響は今後じわじわ効いてくるだろう。彼らとは少し立ち位置が違ってはきたが、新曲満載でオーディエンスを困惑させたSuchmosのフジロックに出演し続けたい熱量の表明の仕方(と、私は捉えている。ヘッドライナーに選ばれたその時はベスト選曲で臨むだろう)も忘れないだろう。
Suchmos 撮影=風間大洋
大きく二つの軸で、フジロックに改めて未来を感じた今年。台風も物ともせず(実際、被害は様々あったが、お客さんも設営もタフだった)、灼熱と雨が交互する3日目も、開催された喜びで煩わしさを超えたおおらかさが会場を包んでいた。あの会場全体のおおらかさも今年のフジロスを長引かせたのかもしれない。その場にある様々なものが自分自身の殻を破るきっかけになる、そんなフジロックが帰ってきたのだった。
文=石角友香
イベント情報
2019年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)
■FUJI ROCK FESTIVAL オフィシャルサイト http://www.fujirockfestival.com/