演出家・神谷尚吾のユニット〈神谷商会〉が、団鬼六作品『不貞の季節』で始動

インタビュー
舞台
2018.8.29
 前列左から・二宮信也、いちじくじゅん、鹿目由紀 後列・演出の神谷尚吾

前列左から・二宮信也、いちじくじゅん、鹿目由紀 後列・演出の神谷尚吾

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団鬼六の文体に漂う、生々しく、哀しくも滑稽な人間性をリーディングで浮き彫りに

名古屋の〈劇団B級遊撃隊〉に所属し、演出家や俳優として外部でも活躍する神谷尚吾がこの夏、自身のプロデュースで作品創りを行うユニット〈神谷商会〉を立ち上げた。その第1弾『不貞の季節』のリーディング公演が、名古屋の「円頓寺Les Piliers」にて8月29日(水)から5日間に渡って上演される。

神谷がユニット公演初の演出作品として選んだ『不貞の季節』は、官能小説家・団鬼六の自伝的短編小説で、2000年には監督・廣木隆一、主演・大杉漣により映画化もされている。鬼六と思われる“私”の一人称形式で綴られていくのだが、中学校教師で官能小説家でもある主人公は妻の不貞を疑い、やがてその相手が自分の信頼していた弟子のような男・川田であることを知り、嫉妬や怒り、自省の念にかられながらも、妻と川田の情交に興奮し欲情していく様が自虐的に描かれている。

稽古風景より

稽古風景より

団鬼六といえばSM小説の大家として知られ、エログロな部分に焦点が当たりがちだが、「生々しい表現に抵抗を感じる方もいるかもしれませんけど、セックスとかSMとかそういうものを通じて、人間の悲哀がよく描かれている。そこに魅力を感じました。団鬼六さんの作品はSMだけではなくて、どの役も主役になれるような豊かな人間性が描かれているので、その面白さを多くの人に知ってもらいたいですね」と、神谷。中でも一番好きな作品だという本作については、「奥さんのことがものすごく好きだったことが伝わってくる。いくら言葉で「好きだ、好きだ」と言っても、愛情の深さを測る方法はわかりませんよね。でも、その愛の深さや、妻こそが自分の求めていた女だった、ということに別れてから気づく。それをみじめな形で表すラストシーンがなんともいえません。全部がそうだとは言わないけど、男にはそういう面がある。哀しいというか、滑稽というか…」と。

この濃密な人間関係を演じるキャスティングについては、妻役に「彼女が受けなければ、この企画自体をやめていた」という鹿目由紀(劇団あおきりみかん)、主人公はいちじくじゅん(てんぷくプロ)、そして川田役は二宮信也(スクイジーズ、星の女子さん)と、神谷が信頼を置く名古屋の実力派俳優3名に声を掛けた。これをストレートプレイではなく、リーディングで上演しようと思った理由を尋ねると、「この作品は普通に上演しても面白くないんじゃないか、と思って。カギカッコで書かれているセリフ言葉も良いですけど、地の文章がすごく面白いので、そこをお客さんにちゃんと聞いてもらいたい、と思ったんです。エッチなシーンも文学的な表現で書かれているから、字面で読んだ時と音で聞いた時と、また感覚が違いますし」という返答が。

とはいえ稽古を拝見すると、3者ともじっと椅子に座って読み上げるだけでなく、動きをつけながら喋る箇所も多い。それについては、「作者が頭の中で回想しているのではなく、小説の形にして読者に読ませているわけだから、その読み手をどこに置くかといったら、やっぱり観客になる。だから観客に向かって語りかける形にして、主人公が妻に浮気された男として悲劇性を訴えるにしろ、自分の正当性を訴えるにしろ、最初は観客に預けようとして始まるんだけど、最終的には自分の過去の傷…内面にグーっと入っていって終わる、という流れで創ろうと思っています」と。

舞台美術についても最初はいろいろ考えたそうだが、キャスト3人が稽古している音を聞き、余計なセットや飛び道具のようなものは使わずにストーリーときちんと向き合った方がいい、と考え、椅子3脚のみというシンプルさで、衣装も無機質なものにするという。「何を削って何を立たせるか、という作業をやっているので、あとはそこにお客さんが色をつけてくれれば。このメンバーなので、人としての面白さが出ればいいんじゃないかな、という思いで創っています」

官能小説だけにダイレクトな猥褻表現も多い作品ではあるものの、かつては純文学を志していたという経歴が伺え、時に耽美的な表現も垣間見られる団鬼六の作品世界。この舞台を通して、そんな鬼六文体の魅力の一端に触れてみては?

稽古風景より。「今回は俳優としてチャレンジすることがいっぱいあります。でもそのチャレンジが面白いですね」と、いちじくじゅん

稽古風景より。「今回は俳優としてチャレンジすることがいっぱいあります。でもそのチャレンジが面白いですね」と、いちじくじゅん

稽古風景より。「以前、いちじくさんと一緒に神谷さんの演出を受けて良かったですし、立場的に俳優で誘ってもらうこともあまりないので、オファーをいただいてすぐ「やります」と言いました」と、鹿目由紀

稽古風景より。「以前、いちじくさんと一緒に神谷さんの演出を受けて良かったですし、立場的に俳優で誘ってもらうこともあまりないので、オファーをいただいてすぐ「やります」と言いました」と、鹿目由紀

稽古風景より。「僕は最初、ビビリました。B級遊撃隊の『戦場のピクニック〜挟み込み幣録「祈り」〜』に客演した時、神谷さんに相当鍛えられたので(笑)。笑ってますけど、今でも緊張しています」と、二宮信也(左)

稽古風景より。「僕は最初、ビビリました。B級遊撃隊の『戦場のピクニック〜挟み込み幣録「祈り」〜』に客演した時、神谷さんに相当鍛えられたので(笑)。笑ってますけど、今でも緊張しています」と、二宮信也(左)

取材・文=望月勝美

公演情報

神谷商会『不貞の季節』

■原作:団鬼六
■演出:神谷尚吾(劇団B級遊撃隊)
■出演:いちじくじゅん(てんぷくプロ)、二宮信也(スクイジーズ、星の女子さん)、鹿目由紀(劇団あおきりみかん)

■日時:2018年8月29日(水)19:00、30日(木)19:00 、31日(金)19:00、9月1日(土)14:00・18:00、2日(日)14:00
■会場:円頓寺Les Piliers(名古屋市西区那古野1-18-2)
■料金:2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下街ユニモールを抜け、「国際センター」駅2番出口へ。地下鉄桜通線「国際センター」駅2番出口から北東へ徒歩5分
■問い合わせ:090-3581-1670(神谷)
■公式サイト:神谷尚吾Twitter https://twitter.com/936kami

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