きのこ帝国 名曲ぞろいの最新アルバムリリースパーティーにみた、進化を続けるバンドの姿

2018.10.1
レポート
音楽

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

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きのこ帝国 New Album 『タイム・ラプス』Release Party 2018.9.23 新木場STUDIO COAST

9月23日、新木場STUDIO COASTできのこ帝国を観た。この前ここで彼らを観たのが4月1日の結成10周年ツアーファイナルだから、およそ半年。その間にバンドは自他共に認める傑作アルバム『タイム・ラプス』を完成させ、大きな飛躍を遂げた。だからこそこの日を楽しみにしていたのだが、果たせるかな、4人は半年前よりもさらに前進していた。強く、激しく、ストイックで、開放的で、自信に満ちて観客を導くきのこ帝国がそこにいた。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

アルバムと同じく1曲目「WHY」のイントロ、西村“コン”のスネアをぶん殴るようなドラミングにいきなり鳥肌が立つ。佐藤千亜妃とあーちゃんが交互に弾く、歪みきったツインギターの音圧がすごい。谷口滋昭はなぜあんなに柔和な表情で鬼のようにマッチョな重低音をはじきだせるのか。明るい浮遊感のある「&」も、タイトなリズムのおかげでゆるさはゼロ。静寂と轟音の間を激しく行き来する「ラプス」も、音こそサイケデリックに歪んでいるが佐藤千亜妃の歌は怖い程クールに覚醒している。イントロとサビで猛然と疾走する「Thanatos」もしかり。きのこ帝国の轟音は酩酊を誘わない。浸れば浸るほど胸の内が澄んでくる気がする。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

個人的にライブで一番聴きたかった曲の一つ「傘」は、想像を超えて素晴らしかった。どこか歌謡曲的な湿り気を帯びたメロディを歌う、佐藤千亜妃のアンニュイな歌いぶりと、猛然とノイズを叩き出すあーちゃんのギターソロとの対比がいい。この日あーちゃんは絶好調で、髪振り乱し壮絶なソロを決めたかと思えば、「ヒーローにはなれないけれど」では突然にこやかに観客に手拍子を求めたり。きのこ帝国のライブにはセットも演出もないが、その代わりあーちゃんの自由奔放な動きがある。トランシーなその動きを見ているだけでこっちもアガッてくる。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

「アルバム、聴いてくれましたか? めっちゃいいアルバムじゃないですか? それぞれの楽しみ方で、きのこ帝国の音楽を楽しんでいってください」

ここからは趣を変えて。「猫とアレルギー」「怪獣の腕のなか」「桜が咲く前に」と、優しさと切なさがないまぜになった、ミドルテンポ三連発でゆったりと。いつかの別れ、なくした恋、思い出を呼び覚ます匂い、かすかに記憶に触れる音階。こんなこと、いつか、あなたにもあったでしょう? きのこ帝国の歌は、忘れかけた個人的な感傷を思い出させるものが多い。だから聴いていると、満員のフロアの中でもぽつんと一人になれる。それがとても心地よい。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

「中央線」は、あーちゃんが“これまでで一番好き”と言った曲だ。軽快に刻まれるシンプルなギターロックだが、歌詞に描かれる遠い青春の感傷のせいで胸がきゅっとする。「タイトロープ」は佐藤千亜妃が“アルバムの中で一番好き”と言った曲で、グランジ・ロックのスローバラードといった趣の、濃密に沈み込む感覚がいい。「LIKE OUR LIFE」は佐藤千亜妃のアコースティック・ギターをフィーチャーした、はかなさと浮遊感覚が際立つ1曲で、「愛のゆくえ」は強力なバックライトに照らされた轟音シューゲイズ、「夜が明けたら」は鬱屈と激情のメランコリック・チューン。夜の闇を思わせるスローナンバーを連ねても、ただ暗くヘヴィなだけでなく、それぞれに闇色の濃淡があって飽きさせない。「夜が明けたら」の、佐藤千亜妃の狂気を孕んだシャウトには、この日何度目かの鳥肌が立った。サウンド的には明るい開放感を強く感じる『タイム・ラプス』だが、「夜が明けたら」で描かれる絶望と救済のストーリーは、今もその根底にある。この歌がリアルに歌われる限り、きのこ帝国の核心は揺るがないと思う。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

東京ではこの曲をやらないと締まらないでしょう――。そう言っただけでこの日一番の拍手と歓声が沸き上がる、「東京」はやはり特別な曲だ。そして突然饒舌になった佐藤千亜妃が「みんな歌ってください!」と、「カノン」へのコーラス参加をおねだりする。誰と分かちあっても、きみに届かないのなら、歌う理由など無いに等しいの――。目の前にいるリスナーへの贈り物以外の何物でもない曲を、ほかの曲とは明らかに違う、すっぴんの声で歌い上げる。おそらくバンド史上初、フロアいっぱいの大合唱という光景を表すのに、“幸せ”という単純な言葉以外に見当たらない。本編ラスト「夢見る頃を過ぎても」も、青春の喪失を歌う切ない曲ながら、後味は決して苦くない。10年間の歴史を振り返り、また前を向いて歩きだそうとする今、彼らが掲げるテーマとしてこれほどふさわしい曲はないと、ステージからあふれ出す強烈な音と光を浴びながらそう思う。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

アンコール。“慣れないことをやります”と、佐藤がアコギ、あーちゃんがハーモニカ、谷口がシェイカー、西村がタンバリンというスタイルで歌われた「フェイクワールドワンダーランド」の、なんと瑞々しいことか。聴きなれた「クロノスタシス」もいつになく透明な明るさを帯び、「海と花束」のディストーション・ギターのうねりもどこか柔らかい。「国道スロープ」ではフロントの3人がステージ前方に駆け出して煽り、間奏ではコンが椅子に立ち上がって拳を突き上げる。ライブの熱は前よりも上がっているが、痛みやトゲよりも、優しさや包容力を音の中に強く感じるのは、音楽的というよりも、4人の人間的成長だろう。バンドは着実に進化している。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

ラストは5年前のファースト・フルアルバム『eureka』から、「明日にはすべてが終わるとして」。明るい照明の下で聴く轟音は、“未来なんていらないや”と歌っているにも関わらず、前向きな未来を感じさせるものだった。一つの区切りが終わり、新しい幕が上がる。次に会う時はきっと、もっと大きなスケールのバンドになっているだろう。きのこの成長期はまだ続く。


取材・文=宮本英夫 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

ライブ情報

佐藤千亜妃「Special Cover Live VOICE3 ~Luxury Banquet~」
2018年11月28日(水)東京都 Billboard Live TOKYO
[1st]OPEN 17:30 / START 18:30
[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
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