銀座九劇でワークショップを開催する蓬莱竜太にインタビュー
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劇団「モダンスイマーズ」で作・演出を手がけ、商業演劇から歌舞伎の脚本まで幅広い分野で活躍する蓬莱竜太が、銀座九劇アカデミアでワークショップを開催する。数年前から役者たちとの出会いを強く欲していたという彼にとって、本人曰く「渡りに船だった」という講師のオファー。「出会うこと、共に創る演劇、いつか劇場で」と題されたワークショップは、いったいどんな出会いの場を作り出すのだろうか――。
役者から触発され作劇に活かす
――蓬莱さんは、長らく役者との出会いの場を求めていらしたそうですね。
そういうふうに考えるようになってから、もう5年くらい経ちますね……。僕らの劇団は、演劇界にいながら演劇に疎い部分がありまして、以前モダンスイマーズでもワークショップをやったことがあるんです。そこで知り合った演劇人たちとは今も交流が続いていますね。そんななか、広島で演劇を作る機会もあり(編注:演劇引力廣島『広島ジャンゴ』『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』など)、一歩出ると、いろんなことを知るきっかけになりました。
若い役者や地方の人たちと知り合うにつれて、演劇をやりたいけどなかなかそれを叶える場所がないという現実に直面しました。たまに飲むような間柄の役者とも一緒に仕事をする機会がなくて、能動的にそういう場を作ることを仕掛けていきたいと思いつつも、忙しさにかまけて実行する機会もなく時間が過ぎていったところで、ちょうど今回のお話をいただいたんです。
――劇団に限定せず、いち作家として蓬莱さん個人が出会いを求めているということですか?
そうです。劇団に限らない形で、劇団とは違うことをやることで、そこから触発されることがいっぱいあって、それがまた自分の作劇に活きてくることがあるんです。自分だけの想像の範囲では考えてもみなかったような世界を作れることも、役者との出会いで生まれます。さらにそれを劇団に還元していくこともできる。出会いによって関わった人たちと触れ合っていると、必ず何かが動くんです。同じ環境のなかで続けていると、マンネリというわけではないんですが、発想の限界がある。やっぱり、いろんな役者と出会うことが創作の源であり、演劇のヒントでもあるわけです。人から触発されることで自分が動いていくのが、演劇を作るうえで大切なのではないかと思います。
――モダンスイマーズで開催したワークショップは、どういう内容だったのでしょう。
稽古らしいことはほとんどしませんでしたね。ディスカッションすることが多かったかな。40人ずつの4クラスで、演技するスペースもあんまりなかったんです。
あのときは、僕に聞いてみたいことを書いてもらって、そこからみんなで意見を出し合っていくというものでした。質問すること、プレゼンすること、質問に対して正解であろうがなかろうが答えを持つこと、意見を述べること、それを聞くことも含めて、とても演劇的な行為だし、役者にとっても大事なことだと思います。
若い役者と飲んでいても、みんなよくも悪くも真面目ですね。どういうふうにしたらいい役者になれるかをよく考えている。「人生をかけてがんばらないといい役者になれない」と思う彼らの感覚はわかるんですが、それだけじゃダメだと僕は思うんです。まず、どういう人間になっていくかがすごく大事で、演劇のことだけを考えていては、演劇はやれない。人生だとか暮らし方だとか、さまざまなところに視野を広げることが大切ですよね。なんてことのない質問でも、そこから何かを知り、健康的にディスカッションするのも、舞台表現で欠かせないことだと思いますね。
――今回のワークショップではどんなことをやる予定ですか?
ディスカッションの時間を割くかも含めて、現時点では何も決めていないんです。いったいどういう人がワークショップに来るのかわからないので……。それはすごく楽しみなんですけどね。どういう人が何を考えてやってくるのか、そこが僕にとってワークショップをやる肝なんです。僕が教えるというより、見せてもらうような感覚に近いかもしれません。
垣根を越えて役者たちと出会いたい
――先ほど、人から触発されることで自分が動いていくのが演劇を作るうえで大切だとおっしゃいました。実際に俳優さんの存在が、蓬莱さんの書くものを変えていくわけですか?
僕の場合は、それが特に顕著だと思います。やっぱり、演劇のなかで見せるべきものは役者なんですよね。で、その役者がどういう人間なのか、どういう骨格なのか……。
――骨格ですか!
もちろん肉体的な骨格もそうですし、比喩的な意味でどういう骨格をした人なのかということも含めて気になります。作品を手がけるとき、役者の存在と出会うことからイメージが膨らみますから、それぞれの役者がどういう人なのかは、すごく見ていると思います。
――役者との出会いということで言えば、2007年に脚本提供された舞台『東京タワー』で主演した萩原聖人さんとは、のちに劇団公演『夜光ホテル』でご一緒されますね。そういう意味では、外部のプロデュース公演のお仕事も蓬莱さんにとって重要な出会いのきっかけになるのではと思いました。
もちろんそうですね。なんか、個人的に最近は外部と劇団の差異がなくなってきている感じがするんです。お客さんのモダンスイマーズを見る目線が、昔は身内を見るような感じだったのが、ひとつの演劇作品を観に来るイメージに変わってきていて、プロデュース公演のお客さんとあまり違いがなくなってきたように感じます。外部で仕事することでウチの劇団を知ってもらえることもあればその逆もあって、相互関係が生まれてきますし、僕の仕事としては、分けていくよりはミックスしていくようにとらえています。そういう考えから、垣根のない自分の個人的な表現の場所を得て、役者たちと出会いたいと思うようになったわけです。
――ワークショップに限らず、稽古場や日頃の付き合いで役者さんと接するときも、「どういう人なんだろう?」と思いながら見つめていることは多いですか?
演劇を作る作業はすごく密接なので、その場に集まるときの役者たちがどう振る舞っているのか、そこがとても気になりますね。役者が集結してひとつの作品を立ち上げるとき、一定期間でも強制的興味を発動しないといけないんですよ。
――強制的興味の発動とは?
普段、別に興味のない人には関わらなくていいじゃないですか。でも、演劇をやるからにはそうはいかない。役者は共演者と関わることが仕事なので、好き嫌いも、自分の好みも関係ない。相手にどう興味を持つのかが大切なのであって、だとすれば強制的にでも興味を持つ訓練をすべきだと思うんです。本来、共同作業でモノを作る現場はそうあるべきですね。他者を知ることは自分を知ることですから、その興味を発動させて作っていけば、演劇が楽しくなると思います。
そして、演劇が楽しいということを僕はなるべく多くの人に味わってほしい。演劇って、やればやるほど辞めていく理由が増えるんですよ。お金にもならないし、社会の目も優しくはないですし。演劇をやっても、あんまりいいことがないんですよ(笑)。経済的な理由や結婚などで演劇から遠ざかる人も多いですけど、演劇そのものの楽しさをどれだけ実感することができたのか、そこはすごく味わっておいてほしいと思っているんです。
「模倣」しない演技の力
――ところで、蓬莱さんがお好きなイプの役者さんとは?
演技が「模倣」になっていない人ですね。演技は、観た演技の記憶から始まるんです。普段の生活ではすごく個性的なのに、舞台上でどうしてその個性や魅力が見えづらくなるのか。それは演技に対してなんらかの統一したイメージに支配されているからだと思うんですよ。そこをなぞっていくと、演技が均一化されてきて、個性や魅力が見えてこない。要は形で演技をしないということでもあるんですけどね。
舞台上で自分が役者であることを忘れられることが大切というか……。自分がいつも役者であることを意識してやっている人はあまり魅力的に見えませんね。「オレは役者だぞ」と言いながら演じている気がする(笑)。
芝居を観て、それを知って、ある演技に憧れる気持ちも大切ですけど、それに支配されないでいられることは結構大切なことだと思います。やっぱりすごく大変なことなんですが、役者をやることを楽しめる瞬間は、模倣せず演技できたところにあるはずです。
――最後に、今度のワークショップで期待していることはなんでしょうか。
僕にとっても出会いは人生を豊かにしてくれるものです。創作意欲が役者からもたらされることは、作家にとってものすごく幸せなんですね。なるべく多くの人たちと出会って触発されたい。今度のワークショップでは、本当に演劇が好きな人に来てほしいですね。
撮影・取材・文/田中大介
ワークショップ開催情報
「出会うこと、共に創る演劇、いつか劇場で」
■講師:蓬莱竜太(モダンスイマーズ)
■期間:2018年11月03日(土)~11月25日(日)
詳細は以下URL参照
https://asakusa-kokono.com/academia/2018/09/id-5749
「異世界へと通じる演劇の扉」(全4回)
■講師:松村武(カムカムミニキーナ主宰)
10月8日(月)、9日(火)、15日(月)、16日(火)
https://asakusa-kokono.com/academia/2018/08/id-5699
<銀座九劇アカデミア>
https://asakusa-kokono.com/academia/
所在地:東京都中央区銀座1-28-15鈴木ビル2階&中3階
問い合わせ先:03-5759-8009