劇団SET『テクニカルハイスクルーズウォーズ』歌、ダンス、笑いと熱気の稽古場レポート

レポート
舞台
2018.10.10

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三宅裕司率いる、劇団スーパー・エキセントリック・シアター(以下、SET)の第56回本公演『テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる』が、10月12日にサンシャイン劇場で初日を迎える。開幕を控えた劇団SETの稽古場を訪ね、はじめての通し稽古の模様を取材した。

劇団SET『テクニカルハイスクールウォーズ』チラシ

劇団SET『テクニカルハイスクールウォーズ』チラシ

還暦の高校1年生? 新作の舞台は夜間高校

劇団SETは、1979年の旗揚げより来年で設立40周年。節目の年を前にした本公演は、定時制の工業高校を舞台にした物語だという。

これについて三宅は、次のとおりコメントを寄せる。

「これだけ長い年月活動を続けていると、在籍する劇団員も 20歳~67歳と大変幅広い年齢層になってしまいました。この若者から年寄りまでの役者たちをキャスティングできる設定を作家の吉高寿男さんが考えてくれました。都立の定時制(夜間)工業高校・機械学科。もう一度青春をやり直したいおっさんもいる都内でも最低レベルのワル高校。これなら生徒に小倉がいても大丈夫」

学園ものといえば、若者が学生役、ベテランが学校の先生や親の役、という構図を思い描いていたが、なるほど、夜間高校の設定であれば話は別だ。

稽古場は、一歩足を踏みいれたところから、その活気に圧倒された。広いスタジオをところせましと行きかう、若い世代の声やベテラン世代の声が混じり合い、一年代だけの座組では生まれないエネルギッシュな空気をつくっていた。ウォームアップをし、声をかけあう中には、看板俳優の小倉久寛が、演出家席には、三宅裕司の姿があった。

熱血教師と荒くれ高校生

「万引きだ! つかまえて!」

物語は、成績優秀な高校の生徒と、定時制高校の生徒が、万引きの容疑をかけられたところからはじまる。トップ高校の生徒の一方的な主張をうのみにし、定時制高校の生徒の言い分をきかない警官。そこに偶然通りかかった男性が、警官に問いかける。

「どうして、彼の言い分を聞いてあげないんですか? 彼が嘘をついているようにはみえません」

この男性が、定時制高校の新任教師、日立(ヒタチ)だ。

日立は、ある思いを抱え、この"偏差値が平熱以下"の学校にやってきた。担当するクラスは、絵にかいたように荒くれている。“クスリ”をやっている生徒もいるらしい。中には、メカオタクの姿もちらほら。

警官や校長など、大人たちが見切りをつけたこのクラスの生徒たちとも、日立は根気強く向き合い、モノ作りの楽しさを伝えようとする。そして機械のコンクール、メカコンへの出場を呼びかけるのだった。

芸達者×個性派のチームプレイ

大人になると、夢を熱く語るのは少し気恥ずかしい。思春期の頃でさえ、教室のどこかから「なに熱くなってるの?」という声が聞こえてきそうなものだった。しかし『テクニカルハイスクールウォーズ』は、夢をあきらめない学生と大人の姿を、ストレートに描く。

そのストレートさを照れ隠しするように、惜しみなく盛り込まれるのが笑いの要素。「ミュージカル・アクション・コメディー」を自称するエンターテインメント集団ならば、笑える仕様なのは当然。とはいえ、年齢も性別も関係なく、役柄から離れることもなく、笑いをとりにいく姿には、プロフェッショナルを感じる。

演劇部員の一幕は、真剣勝負という言葉がぴったり。クセの強い部長と副部長が出てきたかと思えば、その上をいく濃いOGが登場。はり合うように、後輩たちもセンターへ。

小倉久寛は、「もう一度青春をしたい」「番長になって女子にモテたい」と公言する、還暦の新入生、半田(ハンダ)役で登場。今や口にするのも(懐かしさを感じることさえ)恥ずかしい死語を、堂々といってのける力技を披露。観る者は笑うしかなくなる。

「さすが!」と思わされるのは、台詞の掛け合いやちょっとした間合いや、言葉の強弱の上手さだ。小倉の台詞に、次のような一言があった。

「一回止まれ。もっと中央あたりに」

字面だけでは何も面白くない。しかし小倉は、このセリフで一同の爆笑をさらう。なんなら立っているだけでもおもしろい。

三宅と小倉の2人のシーンは、そこだけ切り抜いて、ずっとでも見ていたくなるような、ゆるくて可笑しい独特のテンポ。取材陣も見守る劇団員たちも、笑いをこらえきれず、稽古場が大いに沸いた。

歌もダンスもアクションも

直球のストーリーと、練られた笑いを、両脇から固めるのが、歌とダンスとアクションだ。

さっきまでダメ学生や親しみやすい生徒役だった面々が、本格的なアクションで空気をかえ、かと思えば、パワフルな群舞で盛り上げる。歌は雰囲気をそのまま、まっすぐな歌詞が胸をうつ。芸達者なメンバーたちが、あくまでもチームプレイで物語をおし進めていった。

メカコンを目指す生徒たちを中心に、その周辺では、親子の問題やあわい恋心など、いくつかのエピソードが散りばめられている。

取材をした日は、はじめての通し稽古だったというが、練り上げられた脚本と、日ごろからの努力を感じずにはいられない劇団員たちの歌とダンスが、すでに舞台の成功を予感させる。

劇中では、できの悪い生徒を、突き放すような態度の校長先生、東芝(トウシバ)を演じる、三宅裕司。演出家席と舞台を忙しく行き来し、真剣な面持ちを見せる。かと思えば、舞台の流れはそのままに、気ままに、そして誰よりも楽しそうにアドリブ(のように聞こえる台詞)を放ち、芝居全体に絶妙な緩急を作っていた。

小倉は、合間合間に熱心に台本を確認しつつ、笑いどころには誰よりもはやく「ふふっ」と笑っていた。大ベテランの二人が、芝居を楽しむ姿。それは劇団員たちを通して、客席から観る我々にも、元気と力を与えてくれるだろう。

“ものづくり”へのリスペクト、歌あり、ダンスあり、アクションありのエンターテインメントが、本番に向けて、いかに進化し、劇場でどのようなグルーヴが生むのか。

劇団SETの第56回本公演「ミュージカル・アクション・コメディー『テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる』」は、10月12日~28日までサンシャイン劇場での上演。

公演情報

劇団スーパー・エキセントリック・シアター第 56 回本公演
ミュージカル・アクション・コメディー
『テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる』

 
■日程 2018 年 10 月 12 日(金)~10 月 28 日(日)
■会場 サンシャイン劇場
■脚本:吉高寿男、演出:三宅裕司
■出演:三宅裕司/小倉久寛
劇団スーパー・エキセントリック・シアター
 
料金(全席指定・税込)
S席7,000円 A席6,000円
 
■お問い合わせ スペース 03-3234-9999
 
公式サイト:http://www.set1979.com/
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