宅間孝行率いるタクフェス『あいあい傘』星野真里、大薮丘の熱演のプレビュー公演レポート
タクフェス第6弾『あいあい傘』のプレビュー公演が、5日(金)に埼玉・志木市民会館パルシティにて幕を開けた。出演は、宅間孝行(脚本・演出)、星野真里、鈴木紗理奈、竹財輝之助、弓削智久、前島亜美、越村友一、柿澤仁誠(Wキャスト)、佐田照(Wキャスト)、そして、モト冬樹、川原亜矢子、永島敏行。キャストの役どころとともに、スペシャル・カーテンコールでのコメントも紹介する。
タクフェスはフェス!まるでファン感謝祭!
TAKUMA FESTIVAL JAPAN、通称「タクフェス」は、2013年に宅間孝行が立ち上げた演劇プロジェクト。開演前にはキャストとファンの「ふれあいタイム」が設けられる。グッズを購入した方へのサインと撮影に応じる他、軽快なMCで探し当てた“一番遠くから来てくれたお客さん”に、お菓子やハグのプレゼント。宅間自身が先頭に立ち、大藪とともに大いに盛り上げた。
劇中もアドリブで観客と会話し、終演後にはオールキャストで歌って踊るライブタイムも設けられ、タクフェスの「フェス」の名前にふさわしいお祭りさわぎ。観劇の際は、前後のスケジュールに余裕をもって来場し、徹底したファン目線&エンタメ精神を満喫してほしい。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
ベタだけどベタじゃない、珠玉の物語のリアリティ
舞台は、広島県のある神社、恋園神社。年に一度のお祭りを前に、的屋の清太郎、ヒデコ、力也が縁日の準備に今年もやってくる。鳥居のそばにはお茶屋さんがあり、シングルマザーで店主の玉枝が切り盛りをしている。内縁の夫である六郎は、玉枝の娘・麻衣子と関係がうまくいっていないようだ。そこにカメラマンの高島さつきが現れ、清太郎はさつきに一目惚れをする。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
さつきと清太郎、六郎と麻衣子、とり巻く人物たち。お互いが自分の事情を抱えながらも、誰かの思いに寄り添おうとする。それぞれの不器用さが、笑いと涙を誘う。
舞台の前半は、キャラクターたちが次々に登場し、まくしたてるようなハイテンポの会話で展開される。ばかばかしい掛け合いでは、とことん笑いを狙い客席を爆笑させる。だからこそ、騒がしさがふと途切れたシーンの、静けさが印象的。中でも、玉枝と六郎の出会いの場面は、ひときわ美しかった。
賑やかさと静けさの対比の美しさは、星野や大薮の感情をほとばしらせる演技と、永島や川原の感情をこらえ滲ませる演技の間にもみられる。その両端を個性的ながらもニュートラルな役どころでつなぐのが、宅間だった。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
取材をした日はプレビュー公演だったが、回を重ねていくごとに、テンポや間合いは洗練されていくのだろう。大いに笑ったあとに訪れるクライマックスで、どの人物に思いを重ねるかは、観る人によって変わるはず。この日、会場は、涙で鼻をすする人、嗚咽をこらえる人で溢れていた。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
《幻の名作》に全力で挑んだキャストたち
上演後の会見より、各キャストのコメントを紹介する。高島さつき役を演じたのは、星野真里。
『あいあい傘』は、星野の経験上、稽古時間が一番長い作品になったという。稽古期間中には、ストレスが原因で発症する帯状疱疹になったことも明かし、宅間を一瞥。会場もキャストも思わず爆笑した。
「こんなお話をすると『やっぱり宅間さんは厳しいんだ』と、噂が広まってしまうかもしれません(笑)。たしかに厳しくなかったとは言いませんが、稽古場では、つらいことと同じくらい、大爆笑もあり、本当に楽しかったです。作品を作る上でのつらさと楽しさ、両極端なものを十二分に感じさせていただきました」
作品づくりの苦労を語る星野の、清々しい笑顔から、本作への思いの強さと手ごたえが感られた。
『あいあい傘』星野真里
子ども時代の清太郎役を演じたのが、佐田照。この役は、ダブルキャストで柿澤仁誠(Eテレ「天才テレビくんYOU」等に出演)がつとめる。佐田は、先輩キャストたちに臆することなく、何事かと思うテンションで、力いっぱいに舞台を駆け回った。
「出番は最初と最後の少しだけで、稽古時間も空き時間とかでやっていたのですが、宅間さんに言われていた『元気にやること』を初日でできて良かったです」
『あいあい傘』佐田照
宅間作品には、東京セレソンデラックス時代より出演している越村友一は、2007年4月の初演時は、としお役をつとめたという。
「年をとったり太ったりもしまして、今回の舞台、そして映画版でも、滑川秀樹役を演じさせていただきます。舞台と映画、ぜひ両方をご覧いただければと思います」
劇中では、麻衣子の元家庭教師の大学教員。衝撃的な癖の強さで、登場のたびに会場の笑いをさらった。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
巫女姿と愛らしい声が印象的な麻衣子役を演じたのは、タクフェス初参加の前島亜美。
「素晴らしい大先輩と馴染んでいけるか、引っ込み思案の私は非常にドキドキしていたんですけれども、宅間さんを筆頭にたくさんいじっていただいて。すごい根暗で引きこもりな性格なんですけれども、そこを存分に活かして皆さんの輪の中にいれていただいて。昭和初期からタイムスリップしてきた人、等とあだ名もつけていただいて、和気あいあいと楽しく過ごさせていただきました。あったかいカンパニーだからこそ、あったかい作品なんだなと思っております。一人でも多くの方に作品が届くといいなと思います」
引っ込み思案だという前島の、よどみのないコメントに、宅間は「すごいしゃべるんだな! 稽古場とは全然違う!」と驚いてみせ、笑いを誘う。稽古場での前島は、ひとりで黙って机にじっと座っており、皆が気にかけていたというエピソードも明かされると、会場は笑いに包まれた。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
『あいあい傘』前島亜美
麻衣子に思いをよせる、酒屋の青年・船田くんを演じたのが、大薮丘。劇中では瑞々しく熱い演技で、作品を盛り上げていた。
「台本を読んだ時からこの作品がめちゃくちゃ面白いなと思いました。皆さんにも、この公演のことを色々な人に伝えていただけたら。全国をまわりますので、もしよければ、二回、三回とお越しください。ありがとうございました!」
開演前のMCでは、大薮がスリムな見た目からは想像できない量のごはん(丼ぶり3杯)を食べる男、と宅間に紹介され、たじたじになる一幕も。
『あいあい傘』大薮丘
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
宅間作品への出演は5回目となる弓削智久は、神社の跡とりである敏男役を、フルスイングで熱演。共演者に恵まれていると感謝を述べた。
「素晴らしい座組です。その素晴らしい方々というのが、ここにいる方々です!(場内、笑いと拍手)。大好きな作品なので、皆さまにも一度と言わず二度、三度とみていただければ、いろいろ(新しく)見えてくるものがあると思います。ぜひまたお越しください!」
竹財輝之助は、的屋の力也役。ヒデコとともに軽いノリで、作品を賑やかに盛り上げる役どころだが、その演技には安定感があった。
「一カ月の稽古の間は、初日を迎えられるか不安もありました。稽古中、宅間さんは常に『舞台で生きろ!』と言われていました。今日は何とか生きられたのかな、と思っております。まだ自分なりに不本意なところもあるので、もっともっとブラッシュアップして、家族の温かさや面白さを伝えていければ」と、さらなる飛躍を予感させるコメント。
『あいあい傘』竹財輝之助
マタニティ姿から和装まで、愛情深くも凛とした佇まいで麻衣子の母親、六郎の内縁の妻の役をとつめた川原亜矢子は、第一声で「のっぽのクソ婆あ、玉枝を演じさせていただきました」と切り出し、笑いをさらった。
「今日を迎えられてホッとしています。稽古期間中は、集中して皆さんと濃い時間を過ごすことができ、楽しかったです。これから全国、宅間さんにつづいて一緒に回りますので、ひきつづきご声援よろしくお願いいたします」
稽古場の集中した空気にトイレにも行きそびれ、膀胱炎になったと報告すると、宅間は顔を隠すようなしぐさ。星野の帯状疱疹のエピソードもからめ、宅間は「来年は稽古場にお医者さんをつけます」と苦笑い。
『あいあい傘』川原亜矢子
モト冬樹は、車海老貫一役で、何度も爆笑をさらった。隙あらば、笑いをとろうとするモト冬樹の演技は、どこまでが台詞でどこからがアドリブかわからない。登場の際は奇抜な役どころという印象だったが、物語が進むにつれ、舞台にいるだけで観る者に安心感を与える存在に。
「大好きな作品です。宅間くんの指導の下、皆ひとつになって頑張れたと思います。ぜひたくさんの方に、きていただきたいと思います」
『あいあい傘』モト冬樹
鈴木紗理奈は、今作が初舞台だという。力也とともに、的屋で全国を回るヒデコ役。
「愛のある稽古で、学びしかない1カ月でした。本番を迎え、新たなスタートを切ったのですが、稽古中もたくさんのお言葉をいただいたのにも関わらず、大事なシーンで2度ほど噛んでしまいました。その時の宅間さんの怖い顔が忘れられません(笑)。宅間さんは愛ある方なので……、あと32公演、あの顔をみないで済むように頑張りたいと思います!」
涙声の決意表明に、会場からは笑いと拍手が沸いた。
『あいあい傘』鈴木紗理奈
六郎役をつとめたのが、永島敏行。登壇者たちが、口々に語った宅間の激熱な演出スタイルについて、「人を好きでなければできないこと」だという。
「今の世の中、おせっかいって鬱陶しいものだとされがち。ですが世の中に、おせっかい、 つまり人を思うことは、大事なことだと思っています。この作品は、おせっかいな人たちばかりが出てきては、ある意味で夢のような世界。そして宅間さんも、嫌われることを恐れない、人を諦めない、超おせっかいな演出家です。人を好きでなければできません。この作品にも、物語の裏には『人のつながり』が1つのテーマになっていると考えます」
『あいあい傘』永島敏行
最後にマイクが回ってきた宅間孝行は、「散々な言われようでございますが…(一同、笑)。今回は非常にチームワークが良く、ラクな方だったと思います。(弓削や越村に)ラクだったよね? ラクだったよな? 非常に完成度も高く、これを日々手直ししていきます。舞台はお客さんと作るものでもありますから、東京公演までには、芝居もどんどん変わっていくと思います」と、気合を語り締めくくった。
『あいあい傘』宅間孝行
10月26日に公開予定の映画版『あいあい傘』(監督・脚本:宅間孝行)は、舞台が山梨に変わるという。映画版だけのキャラクターやエピソードがあるというが、その一方で、本作を大いに盛り上げた登場人物のひとり、敏男は、舞台版限定のキャラクターになるという。どちらを先にみても、発見があるにちがいない。
11月2日から11日は、東京・サンシャイン劇場で上演される他、仙台(10/8)、佐賀(10/21)、栃木(10/24)、新潟(11/15)、広島(11/18)、札幌(11/23~24)、大阪(11/30~12/4)、そして名古屋(12/6~9)を巡演。
オフィシャル提供©タクフェス製作委員会/曳野若菜
公演情報
■開催日・会場:
10/5(金) 志木市民会館パルシティ (埼玉県)
11/2(金)~11/11(日) サンシャイン劇場 (東京都)
■作・演出:宅間孝行
■出演:
星野真里 宅間孝行
鈴木紗理奈
竹財輝之助 弓削智久 大薮丘
前島亜美 越村友一 佐田照(※Wキャスト)
モト冬樹 川原亜矢子/永島敏行