森山直太朗、全国ツアー『人間の森』開幕レポート ニューアルバム『822』からツアータイトル曲を披露
撮影=岩佐篤樹
森山直太朗の全国ツアー「森山直太朗 コンサートツアー2018〜19『人間の森』」が10月26日、埼玉県・川口総合文化センター リリア メインホールで幕を開けた。
11月13日(火)より地上波で放送スタートするドラマ『記憶』の主題歌となった「人間の森」(フジテレビ〈チャンネルα〉午後3時50分)、「みんなおんなじ」(NHK Eテレ『みいつけた!』エンディングテーマ)などを含む最新アルバム『822』を引っ提げた今回のツアーは、自身初の2部構成。1部、2部でまったく異なる趣向が凝らされ、森山直太朗の豊かな音楽世界をたっぷり堪能できるステージが繰り広げられた。セットリストには、「人間の森」「糧」「群青」「出世しちゃったみたいだね」などのアルバム『822』の収録曲はもちろん、「生きとし生ける物へ」「花」といった代表曲、さらにこれまで披露されることが少なかった初期の楽曲も。15年以上のキャリアを彩る幅広い楽曲が堪能できるのも、今回のツアーの魅力だろう。
撮影=岩佐篤樹
第1部のステージは、大量の古着で作られた大木を中心にした舞台美術により、まるで鬱蒼とした森の中に迷い込んだような幻想的なムード。劇場公演『あの城』にも通じるシアトリカルな雰囲気のなかで、濃密な世界観を備えた楽曲が次々と披露された。MCでは軽妙なトークを交えながら、「始まりました、森山直太朗コンサートツアー2018〜19『人間の森』。何とも言えない高揚感と逃げ出したい気持ちでいっぱいですけども、とにかく音楽を通して、皆さまとただならぬ時間を過ごせたらいいなと。最後までゆっくり、各々で楽しんでください」と挨拶。客席からは大きな拍手が巻き起こった。
15分の休憩を挟んだ2部は、LED照明、レーザーなどを使った華やかなステージを展開。冒頭から高揚感のある楽曲を続け、心地よい一体感を生み出した。バンドマスターの河野圭がキーボード、ギター、サックスを担当するなど、7人のバンドメンバーはそれぞれ複数の楽器を演奏。原曲とは異なるアレンジが施される楽曲もあり、全体の音楽的なクオリティもさらに向上していた。
撮影=岩佐篤樹
15周年を記念した全国ツアー『絶対、大丈夫』(2017年1月〜7月)では、細部まで緻密に構築されたエンターテインメントに満ちたステージを見せていた森山だが、この日のライブでは、あえて細かい部分を決めず、その瞬間、その場所でしか生まれない表現を求めているように感じられた。楽曲のテーマ、世界観を増幅させる舞台美術、照明も素晴らしいが、中心にあるのはあくまでも音楽と人間。特に生々しい感情表現と卓越した技術を併せ持った森山の歌をダイレクトに体感できることこそが、全国ツアー『人間の森』の醍醐味なのだと思う。「自分のなかで“手放す”というキーワードがあって。毎日、毎瞬、自分と決別していきたいと」というコメント通り、ライブにおいても彼は、従来のスタイルと決別し、新たな表現の地平に向かおうとしているのだろう。
森山直太朗 コンサートツアー2018〜19『人間の森』は来年6月2日の東京・NHKホールまで、全51公演を開催。3月以降の後半分のは10月27日(土)より一般発売となったばかり。
最後に、ツアー初日を終えたばかりの森山のコメントを届けたい。
撮影=岩佐篤樹
——素晴らしいツアーの幕開けだったと思います。
そうですかね……。わかんない、わかんないんですよ(笑)。正直、放心状態ですね、終わって。自分はホントにそこにいたのかなっていう。このツアーの種類がいままでとは違うのかなと、改めて感じてます。
——いままでのしっかり構築されたライブとは、かなり雰囲気が違いますからね。
はい。ただ、だからと言って、僕にできることは限られているわけだから。月並みですけど、音楽の力と、そこに集うみなさんとの関係を高めていくしかないなと。
——ステージを重ねるにつれて、ライブの内容も変わっていく?
今日のライブをベースに変わっていくというよりは、これ(この日のライブ)は明日はないですからね。たまたま同じような感じになるかもしれないけど、段取り、形式、演出にできるだけ捉われないでいたいな、と。ライブ後のダメ出しで御徒町(演出を担当している御徒町凧)も言っていたけど、今日のことは全部忘れて、ただ目の前の人、目の前の曲に向き合おうと。その先に何があるか、そういう理想はあまり持たないで、ただただ目の前の音楽を信じてやっていきましょうっていう。それは当たり前のことだけだけど、意外とできないことなんですよね。だからこその楽しみ、チャレンジ、問いかけでもあるし、一筋縄ではいけないけど、やりがいのあるツアーになるだろうなと思います。
——毎日が初日みたいな感覚?
そうですね(笑)。やり繰りもできないし、目をつぶって飛び込むくらいの気持ちじゃないと。今日はちょっと失敗を恐れちゃった部分もあったので、そこは考え直さないとね。思い切ってやってるつもりなんだけど、もっともっと強いものがないと。
——ツアーを楽しみにしている方々にひと言お願いします。
えーと、“もし迷ってるんだったら、来て”と言いたいです。こっちも迷いながらやってるんだから(笑)。最近作った新曲のなかに“体ごと放り出して”みたいなフレーズがあるんだけど、まさにそんな感じ。あと、“会場には早めに入って”ということかな。
文=森朋之