新潟で好評を博した平塚作品が、劇団公演として名古屋で再演! オイスターズ『調子に乗れ!』
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前列左から・横山更紗、吉田愛、川上珠来、川本麻里那、藤島えり子 後列左から・中尾達也、芝原啓成、平塚直隆
よりシンプルに、よりストイックに、不条理な会話劇に特化した意欲作
ここしばらく、東京(2016年10月〈MITAKA “Next” Selection 17th〉『ここはカナダじゃない』)、長野(2017年8月〈まつもと演劇祭〉『無風』)、三重・東京・兵庫・長野(2017年12月・2018年2月『君のそれはなんだ』)など、他エリアでの公演活動が続いていた、名古屋の劇団・オイスターズ。本公演としては、2016年2月の第18回公演『この声』以来、実に2年9ヶ月ぶりとなる本拠地での上演が、11月15日(木)から5日間に渡り、名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」で行われる。
オイスターズ 第19回公演『ここはカナダじゃない』 2016年10月「三鷹市芸術文化センター」公演より
平塚直隆の作・演出による今作『調子に乗れ!』はもともと、新潟で活躍するフリーの俳優・佐久間喜子が立ち上げたプロデュースユニット〈サクマ企画〉のために書き下ろされた作品である。平塚は本作の演出も担当し、今年3月に「新潟古町えんとつシアター」で上演が行われた。ただ海を眺めてぼんやり過ごしていた男が、周囲の人々から誤解され続け、翻弄されていく本作は、平塚が自身の劇作として「久しぶりに思いどおりのことが書けて、手応えを感じた」という作品だ。上演も好評を博したことから、劇団公演としても実施することを決め、今回の名古屋公演に至ったという。
〈サクマ企画〉では、当初から楽器の生演奏が入ることが決まっており、キャストに当て書きして書いたというが、それを今回、劇団公演としてどう転化させたのか、またどのような想いで執筆にあたったのか、役者として出演もする平塚直隆に話を聞いた。
── 依頼を受けて、当初はどのような感じで書き進められたのですか?
これを書いていた時も、今もそうなんですけど、登場人物って、何か役割を持って出てくるものだと思っていたんです。つまり、役割がないことには何をしに出てきたのかもわからないし、何を喋っていいのかもわからなくなるじゃないですか。ずっとそう思っていたんですけど、“何をしに出てきたのかわからない人”とか、“何者なのかわからない人”を書きたいな、と思ったんですよね。“何かをしようともしていない人”が出てきたら、周りの人が、「何もやることがないのにここにいるわけがない」「あの人は何だ?」と、話をするんじゃないかなと思って書き出して、そういう話になりました。ある意味、劇中劇みたいな感じなのかもしれないですけど、「あ、なるほど。あなたはこういうことなんですね」というのを周りの人が喋っているだけで、これをいつまで続けられるかな? と思って書いた感じですね。
── 『ここはカナダじゃない』(2017年 第61回岸田國士戯曲賞 最終候補にノミネート)や、『君のそれはなんだ』など、実体や真実がよくわからないまま、中心ではなく周辺の作用によってさまざまなことが起こっていく、というシリーズが続いていますね。
そうですね。最近そういうことが書きたいんだな、と思います。
── 新潟で上演された際の観客の反応はどうでしたか。
わりと良くて。ホン自体も、僕の中では好きなタイプのものが書けたなぁと、久しぶりに手応えを感じたんですよ。最近興味のあることというか書きたかったことが、あまり余計なこともなく、わりと純度が高く書けたな、とは思っていますね。話としては、「どういうあらすじなんですか?」と聞かれても困っちゃうぐらい何もないんですけど。
稽古風景より
── 今回の再演に際して、戯曲の書き換えなどは?
新潟の役者さんに当て書きしてあるので、今回のキャスト用に細々とは書き換えました。ちょっと調整した程度ですけど。〈サクマ企画〉の時は、プロデューサーの意向で「生バンドが使いたい」と言われてたので、音楽隊がいたんですよ。それである程度、ラストは音楽の力で終わらせていたんですよね。でも今回はいないので、感触も雰囲気も違います。ただ、生演奏ではないんですけど音楽は使おうと思っているので、前回の演出をちょっと踏襲する形にはなると思います。
── 『調子に乗れ!』というタイトルは、どこから発想を?
もともと生演奏が入ることが決まっていたので、それを近所の人がやって来て楽器の練習を始める、という設定にしたんです。最初は物語とは関係ないように楽器を弾いてるんですけど、それに登場人物たちの会話のリズムがだんだん合ってきちゃう、みたいな仕掛けにしました。演出として。だから『調子に乗れ!』というタイトルにして、ロゴにも音符を付けて。ジャンジャンジャンジャン♪って音楽が流れてくると、会話のテンポがどんどん上がってきちゃう、とか。それと後付けというか書いていくうちに、音と会話だけの関係だけじゃなくて、「お前はこういう人物なんじゃないのか?」って周りが話していることに乗っていけよ、という意味合いも兼ねて。でも、男は全然乗っていかないので、「乗ればいいじゃないか」ということにも掛けているんです。
── 前作の『君のそれはなんだ』は、執筆にかなり苦戦されていましたが、今作は淀みなく書き進められた感じですか。
そうですね。ひとつの箇所をずーっと掘ることができたと思います。
稽古風景より
── ご自身の中である程度完成された感があるので、再演に際しても大幅な直しはなかったんですね。
珍しく、好きな戯曲なんですよ。最近は、「やっと書き終わった。こんな風になっちゃった、あー」とか、「どうしてこんな風になってしまったんだ……。何故だ……」っていうことが多かったんですけどね(笑)。なので、余計に新潟だけで終わるのはもったいないなと思って、プロデューサーに「うちでやってもいいですか?」と、お願いしたんです。
── 演出面で工夫されていることなどはありますか?
僕、初めてオイスターズで話の中心の人(海を眺めて佇む男)を演じるんですよ。今までは中尾(達也、劇団代表で役者)や芝原(啓成)君にああいう役をやらせて、外から見ている感じだったんです。でも、新潟で当て書きした役者をうちの役者にあてはめようとしてもいなくて。最初は中尾をその役にして書き直そうかなと思ったんですけど、ちょっと違うんじゃないかと。じゃあ、僕がやるか、ということにしました。
それでちょっと、あまり見ないような視点にしてみようと思ってやっています。舞台のど真ん中の前の方に僕が立つんですけど、客席からは邪魔になりそうな位置だから、それがストレスになるか、面白いと思ってもらえるか。立ち位置だけじゃなく、セットの向きとかいろいろ試してみて、本当はもうちょっと見やすいアングルがある気はするんですけど、こういう攻めた感じの方が面白いんじゃないかなと思って、やってみたいなと。
── 今回は3人の女優さんが客演されますね。
藤島(えり子)さんも(徐)梨恵ちゃんも、オイスターズのプロデュース公演には出てもらっていたんですけど、本公演は初めてです。(川本)麻里那ちゃんも前々からお声掛けはしていたんですけどスケージュールが合わなくて、今回合ったので出てもらいましたね。
稽古風景より
── 徐さんは、ご結婚を機に名古屋を離れられていたそうですが。
そうなんですよね。僕の中で、新潟で上演したものが良かったんでしょうね。全体的にその時のキャストのイメージにあてはめていると思います。梨恵ちゃんの役も、新潟ではスラッとして髪の長い女性が演じたんですけど、そういう役者、名古屋に誰かいるかな? と思った時に梨恵ちゃんしか思いつかなくて。今は東京にいるんですけど、呼び寄せて出てもらうことにしました。
── 一部、Wキャストで設定されていますが、4名とも雰囲気が異なるので、その違いを見比べるのも楽しそうですね。
吉田愛&横山更紗のオイスターズメンバーと、川本麻里那&藤島えり子の客演ペアでは全く印象が違うので、演出のアイデアも違うものが湧いてくるから面白いなと思いましたね。片一方で、これがベストというか、こうやったらいいんじゃないか? ということが、もう一方で同じようにやっても面白くないので、こっちはこっちでと考えていくと、また別の「あ、こういうこともあるな」ということが出てきたりして。それも良かったなと思います。
── 今作の手応えを踏まえ、今後もしばらくこの方向性で創作されていくご予定ですか?
そうですね。突き詰めたいな、という感じはありますね。今の路線はやっぱり、『ここはカナダじゃない』からだと思うんですけど、ああ、こういうことでいんだな、みたいな感覚は掴めた気はします。とりあえず次回作は、『ここはカナダじゃない』の再演を予定しています。まだ名古屋で上演していないので。
特に何も謳ってはいないんですけど、オイスターズは今年で10年目なんですよ(前身の「ジ・オイスターズ」は2005年結成。2008年「オイスターズ」に改名)。だから転換期というか、そんな感じはしていますけどね。役者もずいぶん変わってきましたし。そうすると僕も、オイスターズに書くときは何かちょっと変わっていくような気はするんですよね、これから。
オイスターズ『調子に乗れ!』チラシ表
取材・文・撮影=望月勝美
公演情報
■出演:中尾達也、平塚直隆、♭吉田愛、♭横山更紗、川上珠来、芝原啓成(以上、オイスターズ)、♯川本麻里那(劇団あおきりみかん)、♯藤島えり子(room16)、徐梨恵(フリー) ※♭と♯はWキャスト
■日時:2018年11月15日(木)19:30♯、16日(金)♭●、17日(土)15:00♯◆・19:00♭☆、18日(日)11:00♯・15:00♭◇、19日(月)19:30♯★ ※16日(金)19:30の公演終了後(●)及び17日(土)15:00の公演終了後(◆)に、逆バージョンのキャストを招いて両バージョンの違いについて語るアフターイベントを開催。17日(土)19:00の公演終了後(☆)はゲストに佐久間喜子(サクマ企画)を迎え、トークイベントを開催。18日(日)15:00の公演終了後(◇)は、ゲストに西藤将人(劇団ハタチ族)を迎え、トークイベントを開催。さらに17:00から西藤将人による一人芝居『10万年トランク』を上演。19日(月)19:30の公演終演後(★)は、平塚直隆が今作について解説(聞き手:中尾達也)
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売2,800円、当日3,300円 U-22前売2,000円、当日2,300円 高校生以下1,500円(前売・当日とも) ※U-22、高校生以下は当日受付にて学生証または身分証明書を提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:オイスターズ 090-1860-2149 theatrical_unit_oysters@yahoo.co.jp
■公式サイト:https://oysters.official.jp