金子鈴太郎(チェロ)と高木美里が届けた、新しいデュオの可能性

2018.11.21
レポート
クラシック

金子鈴太郎(Vc)、高木美里(Fl)

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「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.11.4ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のブランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。11月4日に登場したのは、チェリストの金子鈴太郎とフルーティストの高木美里だ。

桐朋学園ソリスト・ディプロマコースを経て、ハンガリー国立リスト音楽院に学んだチェリストの金子鈴太郎は、国内外のコンクールで優勝、入賞を果たし、大阪交響楽団の首席チェロ奏者を歴任。現在は各オーケストラにゲスト首席として招聘されるほか、バロックから現代曲までの幅広いレパートリーを演奏し、数々の楽曲の世界初演にも精力的に取り組んでいる。
一方、国立音楽大学演奏学科卒業後、ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミーで研鑽を積んだフルーティストの高木美里は、第9回ウラジオストク国際音楽コンクール第2位をはじめとした入賞歴に加え、オーケストラ、室内楽のコンサートに出演するほか、新国立劇場にて日本初演されたオペラや、アニメ「ポプテピピック」などの劇伴のレコーディング、コブクロ等のアーティストのサポート演奏など、多岐に渡る活躍を続けている。

そんな二人の新鮮な組み合わせで行われたサンデー・ブランチ・クラシックは、まず金子のソロによるバッハ無伴奏チェロ組曲 第1番からの演奏でスタート。チェロ独奏用の楽曲として取り分け親しまれている名曲を、金子が深い低音から美しく響き渡る高音で、豊かに届けてくれる。

拍手の中サンデー・ブランチ・クラシックではお馴染みの顔の金子が「こういう距離感での演奏会が大好きです」と挨拶し、改めて高木をステージに呼び込む。初登場の高木はLIVING ROOM CAFE&DININGが大好きで、渋谷に来るたびに食事やティータイムに訪れていたので「ここで演奏できることが嬉しいです」と語り、早くも和やかな空気が会場を包み込む。

金子鈴太郎

そこから二人での演奏は「リベルタンゴ」で知られるピアソラによる「タンゴの歴史より Cafe1930」。タイトル通りカフェの為にあるタンゴで、ピアソラのアグレッシブなイメージとは趣を異にしたしっとりとした曲の雰囲気が、高木の柔らかなフルートの音色で表現されていく。「タンゴは失恋を描いた曲が多いけれど、僕と違ってこんなに美しい彼女は失恋経験がないんじゃないかな? それが音色に現れると思いますから、よく聴いてみてください」と金子がウィットに富んだ解説をしたことが、フルートの優しい音色を更にロマンチックなものに。チェロがピッチカートで奏でるリズムにも温かさがあり、後半になるに連れて高まる音楽も味わい深かった。

続いて「3拍子ですが2拍目にアクセントがあり、カッコいい踊りの曲です」という非常にわかりやすい解説で演奏されたのは、コレッリの「フォリア」。テーマが奏でられたあとに、様々な変奏が展開されていくが、楽曲が盛り上がるにつれて、フルートとチェロの掛け合いの楽しさが増してゆく。時にフルートが、また時にチェロが互いをリードする様が魅力的で、ぴったりと息のあった演奏が共に高みに向かってフィナーレを迎える盛り上がりに、大きな拍手が湧き起こった。

「30分のコンサートなので、もう次が最後の曲です」と、名残惜しい言葉に続いて演奏されたのはバッハの「G線上のアリア」。バッハ「管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068」の第2曲「アリア(エール)」を、ヴァイオリニストのウィルヘルミがヴァイオリン独奏のために編曲し、ヴァイオリンの4本ある弦のうち最低音の弦、G線のみで演奏できることから、この名で広く親しまれているクラシック界のポピュラーとも言える1曲。フルートとチェロの為の曲というのはあまり書かれていない為、弦楽合奏の楽譜からフルートとチェロでの演奏用にアレンジしたとのことだったが、弦の音で奏でられることに馴染んだメロディーが、フルートのロングトーンで演奏されることによって新鮮な美しさが際立つ。寄り添うチェロの音色が深みをもって呼応し、心に染み入る演奏になった。

喝采に応えてアンコールを……ということで、金子が「では最初に演奏したバッハの無伴奏チェロをお送りします」と言い出し、高木が「サン=サーンスの『白鳥』って言ったじゃないですか!」と遮る一幕も。「白鳥がいいですか?バッハがいいですか?」と金子が客席に問いかけ「ではどちらをやるか楽しみにしていてください!」と宣言したあとで、あくまでもバッハを弾き始めたので会場から笑いが起こった刹那、高木がチェロの代名詞ともいえる「白鳥」をフルートで吹き、2曲が重なるというなんとも粋なアンコールが。互いの楽器の音色の美しさが引き立て合う、馥郁たる演奏がLIVING ROOM CAFE&DININGに響き渡る長い余韻の残る素晴らしい演奏に惜しみない拍手が贈られた。チェロとフルートという組み合わせの新鮮な感動を、存分に届けてくれる時間だった。

演奏を終えたお二人にお話しを伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました。金子さんはサンデー・ブランチ・クラシックには嬉しいことに何度もいらしてくたさっていますが、初登場の高木さんは今日演奏されてみていかがでしたか?

高木:いつもは椅子に座ってご飯を食べる側なので、ステージから見る景色が新鮮でしたが、やはり普通のコンサートホールよりも椅子が低くゆったりしているので、お客様もリラックスして聴いていらっしゃる様子が伝わり、笑顔も多く見えたので嬉しかったです。

ーー金子さんはここのステージが大好きだとおっしゃってくださっていましたが。

金子:堅苦しくないクラシックというのはやっぱり良いですね。もちろん格式を重んじたクラシックも必要だとは思うのですが、まずはクラシックを好きになっていただきたいので、そのきっかけとしてこの場は本当に貴重だと思っています。

ーー今日の選曲で工夫された点は?

金子:まず30分にまとめるのが難しいんです。普通のコンサートですと、だいたい2時間ありますし、僕たち二人で弾けるレパートリーも3時間分くらいあるんです。その中からこれはどうしてもやりたい!というものをピックアップしていきました。「フォリア」は1度聴いていただければ、耳に残るメロディーなのでまずやりたかったですし、ピアソラもね。

高木:「Cafe」とついている曲なので、LIVING ROOM CAFE&DININGでの演奏会には、絶対にやりたいと思いました。

金子:あとは「G線上のアリア」は本当にお好きな方が多い曲で、クラシックをご存知ない方でも「聴いたことがある!」と思っていただける曲ですから、これも是非やりたい。あとは最後のアンコールで「白鳥をやるかバッハをやるか」というネタをなんとしてもやりたかったので(笑)、その為に冒頭でバッハを弾いたんです!

(左から)金子鈴太郎、高木美里

ーーアンコールの仕掛けが先にあってのバッハだったんですね!チェロとフルートの為の曲は少ないというお話でしたが、だからこその楽しさはありますか?

高木:鈴太郎さんは私にとっての先生みたいな方なので、弦楽器は息を吸わなくても弾ける楽器なのですが、それでも演奏をはじめる時の息遣いなどが私にとってはとても分かりやすくて、頼りになるお兄さんです。

金子:チェロとフルートの為の曲というのは本当に少ないのですが、その本来はできないはずの曲を、自分達だったらこんな風にできるんだよ!という可能性を広げたくて。「フォリア」などはフルートで演奏するのはとても難しいのですが、その無理難題を押し付けてもやってもらえるので、デュオとしての可能性が広がっているのが嬉しいです。

ーーやはりテクニック的には難易度が高くなるのですか?

高木:ヴァイオリンで演奏する曲をフルートで吹くのは、音域も違いますし指使いも全く違ってくるので、テクニック的にはやはり難しくなっていきます。

金子:ヴァイオリンは二つの音を同時に出せるけれども、フルートはそれができない楽器ですから、二つの音が書いてあるところを単音にしても、如何に物足りなくならないように聴かせるかも、すごく研究しています。

ーーだからこそとても新鮮でした。特に「白鳥」などは誰もがチェロの曲として認知している曲なだけに。

金子:普通チェロがやると思いますよね!

高木:チェロがいるのにと(笑)。

ーーそれだけにデュオが本当に魅力的に響きました! そんなお二人が演奏していてお互いに感じる魅力はどうですか?

金子:これ先に言っていい?(笑)。この人は何を要求してもやってくれるんです。二人での直近のコンサートでは歌まで歌ってもらって!普通は嫌がりますけれど、いえ、嫌がってはいるんだけど(笑)、ちゃんとやってくれる。ですからどうやったらもっと良いコンサートになるか?が追求できるし、言ったことをやってくれるだけではなくて、それプラス更に良くする為にはどうしたらいいか?も考えてきてくれるので、こちらもどんどん刺激をもらえて、また新しいアイディアが浮かぶ素晴らしい共演者です。

高木:恥ずかしい……。

金子:恥ずかしいでしょう? だから先に言っていい? って言ったの(笑)。

高木:鈴太郎さんはひとつの演奏に対してのビジョン、構成が頭の中ではっきりしていらしてそれを明確に示してくださるんです。ですから私も次にどうしたらよいか? がどんどん浮かんできて、こうしよう、ああしようと多くを言わなくても理解できるし、理解していただけるのが素晴らしいなと。

金子:相乗効果になるよね。

ーーお互いに新たなものを引き出しあえる関係でいらっしゃるのですね。そんなお二人の演奏で、今後へのビジョンはおありですか?

金子: 誰もやっていないことをやってみたいと思っています。自分達にしかできないものを。

高木:そうですね。常に新しいことをやっていたいです。

ーー個人的にはどうですか?

金子:お金持ちになりたい! …という話じゃないよね(笑)。いやでも、ありがたいことに毎日のように全国を飛び回って演奏させていただいていますが、それだけの数をこなしていても、毎回必死なんです。今度こそダメかもしれない、ここで失敗したら終わりかもしれない、という気持ちがあって。それがひとつのコンサートを終えると今回はなんとかなった、でも明日またダメかもしれないと思っていて。その繰り返しでここまで来たので、ひとつのコンサートに必死で取り組むということは、ずっと変わらないのではないかな?と思います。

高木:私は福岡に祖父母がいるので、福岡でコンサートをしたい希望があります。九州に演奏旅行に行きたいです。

金子:あぁ、じゃあ今度は福岡でやろう!

高木:是非お願いします! あとは今日のLIVING ROOM CAFE&DININGさんでのコンサートは未就学児童の方達も入れるものでしたが、クラシックコンサートでは入れないものが多いし、入れたとしても大人と同じ料金で一席を確保する必要があるものがほとんどなので、もっと子供さんに聴いていただけるコンサートをやっていきたいです。私自身は中学生の頃まで将来の夢が保育士になることだったほど子供さんが大好きなので、子供たちが聴いても楽しめるコンサート活動をしていきたいと思っています。

ーーお二人の活動が更に広がっていくのを楽しみにしています。また是非サンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

金子:こちらこそ、また是非演奏させていただきたいと思っています!

金子鈴太郎(Vc)、高木美里(Fl)

取材・文=橘涼香 

公演情報

サンデー・ブランチ・クラシック
 
11月25日(日)
荒井里桜/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
12月2日(日)
JPCO タンゴクラシック!
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
12月9日(日)
北川千紗/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html