Eve 自身最大規模のワンマンで示した未来への可能性
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Eve
Eveワンマンツアー『メリエンダ』追加公演
2018.11.4(Sun) 新木場STUDIO COAST
現時点でEveというアーティストのライブを目撃できたことは、かなり幸運なことだと思う。歌い手としてニコニコ動画に投稿した楽曲から人気に火がつき、昨年末にリリースされた、オリジナル曲で構成された最新アルバム『文化』では、自分自身のなかにある感情を鋭利な筆致で綴り、そのソングライターとしての才気でも大きな注目を集めることになったEve。ワンマンとしては自身最大規模のキャパとなった新木場STUDIO COASTには2,000人以上のお客さんが集まり、ネットシーンから生まれた新たなポップアイコンが、次の音楽シーンにその名を震撼させていく未来を予感させるのに十分なライブを見せてくれた。
Eve
ステージ前面に用意された紗幕に映し出されたアニメーションのオープニング映像からライブははじまった。その映像にセリフ(声)はない。だが、主人公を中心に次々にストーリーが進むと、会場からは、それに呼応して「おー!」「わー!」と歓声が湧きあがった。まだ本人はステージに現れていないにも関わらず、だ。その前のめり熱狂そのものが集まったお客さんがEveに寄せる期待の大きさを物語っていた。スクリーンのなかに雨が降り出し、雷鳴が轟くと、入場時に手渡されたザイロバンド(演出効果にあわせて様々な色が点灯するリストバンド型のペンライト)が激しく光り出す。
紗幕の向こう側でEveがステージに現れた。オープニングナンバーは「トーキョーゲットー」。重厚なバンドサウンドにのせて言葉数の多い早口のメロディが流れるように紡がれてゆく。続けて、「アウトサイダー」のイントロが流れ出すと、バサリと紗幕が落ち、Eveの姿がはっきりと目に飛び込んできた。全身を大きく使いながらハンドマイクで歌うEve。アニメーションによるミュージックビデオの映像とバンドの演奏とが一体になり、Eveにしか作ることのできないひとつのショーを完成させていく。
Eve
オープニング3曲のあと、「会心劇」や「ふりをした。」といったアルバム『文化』の楽曲たちをスクリーンに歌詞を映し出しながら届けた。歌い手からシンガーソングライターへ。表現の方法を変えてゆくなかで、特にアルバムに収録されている曲にはEveという人間の体温が滲み出てくるように思う。「すごい景色ですね。これがワンマンだとは夢にも思いませんが、すごく嬉しいです」と、MCでは真っ直ぐな言葉でそのステージに立つ歓びを伝えたEve。アップテンポなナンバーが続いた前半からは一転して、軽やかなスネアのリズムに温かいメロディをのせた新曲「迷い子」のあと、穏やかなポップソング「ホームシック」では、<大人になってしまうんだ僕ら>と歌う若さゆえの葛藤が生々しかった。
ライブが折り返し地点に差し掛かるころ、Eveが一度ステージ脇へと捌けると、バンドメンバーによるインスト曲「fanfare (instrumental)」が披露された。Eveの全曲のアレンジを手がけるギターのNuma(沼能友樹)をバンマスに、ベース、ドラムで編成されるスリーピースのバンドサウンドがその後半にかけて圧倒的な昂揚感を築き上げると、衣装チェンジをしたEveが登場。「いけるかー!?」と叫び、突入したダンサブルなロックナンバー「ナンセンス文学」(あのミュージックビデオにも登場する“ひとつめ様”もスクリーンのなかで踊っていた)から、「ドラマツルギー」「あの娘シークレット」へと楽曲を畳みかけると、ライブはクライマックスに向けて、ますます熱狂を加速させていく。
Eve
孤独で臆病だった少年が前に進むための大きな一歩を踏み出すような陽性のエネルギーに満ちたナンバー「アンビバレント」まで歌い終えたところで、最後のMC。ゆっくりと、丁寧に言葉を選びながら、Eveは、それまで歌い手だった自分が楽曲を作るにあたって不安があったこと、受け入れてもらえるか心配だったことを明かすと、「この景色を見て、自分がやろうと思ったことは間違ってなかったなあと思いました」と語りかけた。そして、「これからも自分のペースで伸び伸びとやっていくと思います。今日来てくれた人と同じ空間を共有できたことは奇跡みたいなだと思ってるので、それは、これからも大事にしたいと思ってます。よろしくお願いします」と、自分自身の「これから」についても、飾らない言葉で伝える姿はとても素朴で、真摯だった。ラストソングは「羊を数えて」。ホーンの音を交えた解放的なミディアムバラードには<自分は1人じゃなかったんだ/あなたの大切さにまた救われてしまいました>というフレーズがある。あなたに伝えたい想いをストレートに綴った、その楽曲に胸が熱くなるフィナーレだった。
Eve
アンコールでは、巨大なミラーボールがまわるなかでスペイシーな空間を作り上げた「惑星ループ」のあと、ダイナミックな新曲「ラストダンス」、カラフルな照明に包まれたポップソング「お気に召すまま」の3曲を披露した。このときに、Eveは、「僕は誰かと気持ちを共有することが好きなんだと気づきました。ひとりの表現なんてたかが知れてると思うかもしれないけど、それが大事で。誰かと気持ちがぶつかったときに生まれてくるものは予想してなかったものだったりする。そこにドキドキ、ワクワクがある。これからも、その瞬間を見つけたときに、それをみんなと共有するような曲を作っていきたいと思ってます」と語りかけた。そして、「今日ここに来てくれてるみんなには特に、ちょっと先の未来……いま僕が考えてるところまでは、ついてきてほしいなと思います」と続けた。
いまEveが考えているところ――その答えは、おそらく来年2月6日にリリースされることが発表されたニューアルバム『おとぎ』のなかに詰まっているのだろう。これまでEveの存在を語るとき、その出自から、たとえば米津玄師らといったネットシーン発の先駆者と比較されることも多かったと思う。だが、この先はそんなことよりも、Eveがシンガーソングライターとして何を歌い、何を残すかのほうが、より注目されるようになるはずだ。Eveが心を震わせながら生み出す音楽の行く末を見守りたいと思う。
文=秦理絵 撮影=山川哲矢
Eve
セットリスト
2018.11.4(Sun) 新木場STUDIO COAST
1. トーキョーゲットー
2. アウトサイダー
3. デーモンダンストーキョー
4. Dr.
5. 会心劇
6. ふりをした。
7. 迷い子(新曲)
8. ホームシック
9. sister
10. fanfare(instrumental)
11. ナンセンス文学
12. ドラマツルギー
13. あの娘シークレット
14. アンビバレント
15. 羊を数えて
[ENCORE]
16. 惑星ループ
17. ラストダンス(新曲)
18. お気に召すまま