究極は生! ライヴで繰り広げる映像と音から生まれる『3D能エクストリーム』の進化形
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(左から)福地健太郎、奥秀太郎、花柳まり草
伝統的な能楽と最先端の3D映像がコラボする『3D能エクストリーム』。毎回演者の動きに合わせて進化させ、同じ演目でも違った演出になる可能性を秘めた今回の公演は千秋楽の12月2日に「葵上」でその究極形を見せる。落語家の立川志の八の語りに、かつては宝塚歌劇団で活躍した若手日本舞踊家・花柳まり草の踊り、イタリアのミュージシャンデュオ・Yami Kuraeの演奏がライヴエフェクトの映像とともに繰り広げられる。演出の奥秀太郎、映像技術の福地健太郎が語る!
何気ない動きから新しい発想が生まれる
——5日間ある『3D能エクストリーム』の公演の中でも千秋楽の2日の「葵上」はゲストを迎えたスペシャルバージョンだそうですね。
奥 これまでの3D能で使っていたエフェクトを進化させるのはもちろんですが、最終日には新しい実験を取り入れます。今まさにその実験のテストを兼ねた映像撮影を行っていたのですが、思ってもみなかった新しい発見があって面白いものができそうです。
福地 最終日限定バージョンの「葵上」に登場する花柳まり草さんの映像を撮っていたんですが、彼女の何気ない動きから胸がきゅんとくるような、思ってもみなかった発想が生まれましたね。これは生身の役者さんとやりとりしていく舞台ならではのことです。
まり草 映像を撮影する現場では、私にとっては驚くような技術ばかりでした。詳しくは見てのお楽しみにしてほしいんですが、私が「消える」演出もあって……。
福地 あれは技術的にはとても簡単なことなんですけどね。
奥 カメラっていろいろなものを映すけど、これは“映らないカメラ”をつくる感じですね。
福地 何かが突然登場したり消えたりするのって作り込んだ映像ではよくあることなんです。映画だとCGの技術を使えばできて当たり前なんです。我々もCGを使っているんだけど、それをライヴでやるというのはあまりないのでお客さんに新鮮で面白いと感じてもらえるといいですね。
まり草 スマートフォンを使った演出では、奥監督と福地先生のやりとりを聞きながら手に持って、遊び気分で自分が楽しいと思える動きをしていたら、お二人が「それだ!」ということになって(笑)。
——スマートフォンを使った演出とはどのようなものですか。
福地 スマートフォンを役者さんに手持ちでもってもらって、そこに映るライヴ映像がお客さんからも見えるしくみです。元々ライヴ感をうまく使いたいと思っていたので、手持ちの動きでライヴの強みが出るんじゃないかという手応えはありますね。今日だって、まり草さんが面白い動きを見せたので、それを採用しようと。
奥 それがライヴの醍醐味ですね。普通の商業舞台だとセオリーを壊してしまわないよう守る部分があるんですけど、数多くの実験をやってきたこのチームだから、一切守らないでやります(笑)。誰もやったことのない最初の一歩をやる時は正気を疑われることもあるんですが。
福地 最初に舞台でライヴエフェクトを使おうと奥監督から聞かされたのが2002年ですが、頭大丈夫かと思いましたからね(笑)。それまで私の映像エフェクトはライヴハウスとかクラブとかのVJのように多少映像が壊れてもそれも味だと許される空間で使っていたんですが、舞台でやってコケたら大変なことになるんだけど、どうするのって感じでした。
奥 映像やテクノロジーには万が一うまくいかないリスクを考えなくてはいけない部分はありますよね。でも芸術劇場シアターイーストみたいな場所は、実験をするための場所だと思っているんです。幸いお客さんに怒られるのも慣れているし(笑)やはり公演でチャレンジすることを求められていると思うので。偉大な巨匠たち、たとえば野田秀樹さんや小池修一郎さんだって毎回新しいこと、面白いことをやろうとチャレンジされているんです。野田さんがワークショップで、ボールを使って遊びながら新しいアイディアや動きを作っていく雰囲気に憧れを抱いていて、自分はどう遊ぶのかと考えた時に、やはりテクノロジーやエフェクトを使うことになるわけです。
モバイルの機動性こそが究極のテクノロジー
——スマートフォンの映像を使うというのは、いかにも現代的な発想ですね。
福地 舞台上でカメラを使ってライヴで何かをすることは、奥監督からずっと言われていて今までいろいろ実験していたんですけど、今回鏡にカメラを仕込んで手で持って動かしたいとリクエストがきて、だったら今時っぽくスマートフォンでも使ってみるかと。やってみるけどうまくいかないことが多いんだよね、とグチグチ言いながらやると、あれ、できた!みたいな(笑)。
奥 今回「エクストリーム」とタイトルで謳っていますが、エクストリーム・スポーツの世界では、音楽のバンドの世界もそうですが、必ずしも高い機材やプロジェクターを使う方向に行っていないんです。映像の世界では機材勝負とよく言われるんですが、それだけじゃない。携帯電話のように誰でも使えるものだって使っていいんです。大道具も大掛かりにするより、世界中ツアーで持ち運べそうなコンパクトなものにしていく。3Dのスクリーンも本来的にはかなり大きなものを今回実験してコンパクトにしようとしているんですよ。実は映像の未来はそっちの方向にある気がして。
福地 実はテクノロジーが一番活きるのってモビリティ(機動力)を高めるところにあると思うんです。昔はニュースでも撮影部隊をぞろぞろ引き連れていったんですけど、今ではスマートフォン片手に最前線にジャーナリストが単独で分け入って行けるようになっているわけです。
これまでの3D能のエフェクトでは、カメラで写した役者の動きを取り出す形でやっていましたが、今度は役者そのものがカメラを持って動いているわけですから、よりダイナミックなものが作れるんじゃないかなと思います。
奥 テクノロジーって結局、人と人、有機的でコントロールできない可能性のある現場であればあるほど進化していく気がしますね。
福地 奥監督が野田秀樹さんのエチュードを引き合いに出していましたけど、今日もまり草さんの動きで面白い進化が起こったわけです。映像に関わっていると、いろいろ予想を裏切る面白いことが起きるんですが、あっこれいいじゃんって思っても一人でいると、勘違いかもしれないと流しちゃうことも多々あります。でも隣に誰かいて同じような反応をしてくれたり、舞台の上の役者さんのしてやったりという表情が見えたりしたとき、やっててよかったなと思うんです。すごいと思ったのは自分だけじゃなかったって。その瞬間を感じたいがためにライヴの仕事やっているんです。
客席を巻き込むライヴ感
——他に新しいテクノロジーやエフェクトはありますか?
福地 今日発見した技術を使うと、客席を巻き込んだ演出が投入できるかなと。実は最初からそれを狙っていたんですよね。幸いお客さんの顔は3Dメガネの能面で隠されているから、客席が映っても問題ないわけですし。
音楽の世界でVJをやっていたときも、客席を巻き込む演出はやっていたので、ずっとやりたいと思っていました。お能の世界では、本当にはまった人は習いにいって自分で舞台に立つようになる方もいるわけじゃないですか。俳句や短歌も好きだったら自分で詠むようになる、僕はそういうのがいいなと思うんです。テクノロジーの世界でも、見てるだけ消費するだけじゃなくて、自分で作ろうと一歩踏み出して欲しい。でも俳句だったら紙と鉛筆があればできることが、映像は作る立場になるには大げさな機械を持っていないとできないイメージがどうしてもありましたよね。それが今、スマホ一つで作ることができるんです! われわれがやっているような派手な舞台映像も、高いお金を出して作っているように思われているけど、実はシンプルな技術を使っているので、すぐにでもみんなを巻き込める仕掛けは作れるんです。そういうことをやっていきたいですね。
奥 僕自身は作り込む映像は、もうさんざんやってやり尽くしたわけです。だから今度はライヴ感のある映像をやりたい。作り込むのができないからやるんじゃなくて、できる人が次に何をするかという問題で、ライヴのVJとかEDMとかのシーンを見ても、EDMだって今作ったものを流しているだけになっているけど、そうじゃないものができるだろうと。リアルタイムに流したり、その中で予想を超えたところで自動的に何か起こったり、ライヴ映像でできることを探っていきたいですね。
まり草 今回、「葵上」ではイタリアのミュージシャンが生演奏をしながら踊ることになりますよね。
福地 生音はやっぱりいいですねえ。今までの3D能では録音を使わざるをえなくて残念に思っていたけど、今回初めて、最終日に生音でできる!
奥 いずれ全部生でやったら楽しいですよ。能ってやっぱり生がすごい。
——最新のテクノロジーの中でより一層生身の人間が際立つわけですね。
福地 テクノロジーって最後は人に近づいていくもの。私が常日頃携わっている研究の分野でも、テクノロジーが人間とどんなしくみでつながっていくか、引いては人間とは何なのかということにつながっていく。おそらくすべての研究はそうなんです。そうなると生身の人間と一緒にやるのって刺激がたくさんあるし、次に進むべき方向に気づくこともできます。映像を出すための技術とだけ思っているとどん詰まりになってしまうんです。人間に肉迫するための技術という気がしますね。
奥 『3D能エクストリーム』の次は、究極の『3D能・生』になるかもしれませんね(笑)。
取材・文=神田法子(ライター)
公演情報
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト
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■出演:坂口貴信 谷本健吾 川口晃平
■ゲスト(12/2のみ):立川志の八 花柳まり草 演奏=ヤミクラエ( Yami Kurae - Jacopo Bortolussi & Matteo Polato )
■演出:奥秀太郎
■映像技術:福地健太郎
■脇(録音):大日方寛
■囃子(録音):笛=熊本俊太郎、小鼓=飯田清一、大鼓=亀井広忠、太鼓=林雄一郎
■協力:Panasonic 明治大学
■お問い合わせ Tell: 050-7128-8730/Mail: info.3dnoh@gmail.com
■公式サイト:http://www.geigeki.jp/